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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第六章 約束を果たす-7

扶桑(ふそう)言葉(ことば)()いた盤古(バンコウ)は、その意味(いみ)(だれ)よりも理解(りかい)していた。

このまま全力(ぜんりょく)()さなければ、この(たたか)いが自分(じぶん)たちの最期(さいご)になることを——。

盤古(バンコウ)(ふか)(いき)()い込み、()決意(けつい)(ひかり)宿(やど)す。

(つぎ)瞬間(しゅんかん)体内(たいない)から魔力(まりょく)(あふ)()し、まるで火山(かざん)噴火(ふんか)のように周囲(しゅうい)へと(ひろ)がっていった。

強大(きょうだい)魔力(まりょく)波動(はどう)空気(くうき)圧縮(あっしゅく)し、盤古(バンコウ)周囲(しゅうい)異様(いよう)なほど(おも)くなる。

その圧迫感(あっぱくかん)(だれ)もが(かん)()れるほどで、水気(すいき)さえ(ねば)()()び、(いき)()うことさえ困難(こんなん)になっていった。

盤古(バンコウ)全身(ぜんしん)細胞(さいぼう)ひとつひとつが、その(ちから)共鳴(きょうめい)して(ふる)える。

やがて、その(ちから)(つつ)まれた(かれ)姿(すがた)は、さらに巨大(きょだい)存在(そんざい)へと変貌(へんぼう)していった。


「おや? ついに本当(ほんとう)実力(じつりょく)()せる()になったのか?」

扶桑(ふそう)はそう()って(くちびる)(はし)(ゆが)め、(つめ)たい(わら)みを()かべた。

「それだけか?」と(あざけ)るように(つづ)けると、その表情(ひょうじょう)には依然(いぜん)として余裕(よゆう)があった。

(かれ)盤古(バンコウ)攻撃(こうげき)仕掛(しか)けてくるのを、まるで(あそ)びを(たの)しむかのように()(かま)えていた。

その(とき)女媧(ジョカ)盤古(バンコウ)から(あふ)()圧倒的(あっとうてき)(ちから)()て、(かれ)決意(けつい)(さと)った。

——もう(まよ)(とき)ではない。

女媧(ジョカ)(こころ)(おく)でそう()げ、盤古(バンコウ)(しん)(ちから)解放(かいほう)する(とき)()たのだと理解(りかい)した。


女媧(ジョカ)(しず)かに()()()げ、その動作(どうさ)呼応(こおう)するように、()(まえ)魔法陣(まほうじん)瞬時(しゅんじ)展開(てんかい)された。

彼女(かのじょ)詠唱(えいしょう)(はじ)めると同時(どうじ)に、九階(きゅうかい)儀式魔法(ぎしきまほう)——「祈福念鐘(きふくねんしょう)」——が発動(はつどう)する。

女媧(ジョカ)(つえ)(さき)(そら)()すと、(ふる)びた(かね)(あらわ)れ、その表面(ひょうめん)には古代(こだい)符文(ふもん)(きざ)まれていた。

彼女(かのじょ)魔力(まりょく)(みちび)きに(こた)えるように、(かね)(ひく)くも()んだ、神秘(しんぴ)(てき)荘厳(そうごん)(おと)()(ひび)かせる。

その(おと)重厚(じゅうこう)でありながら規則正(きそくただ)しく、空気(くうき)(なか)(ただよ)魔力(まりょく)完全(かんぜん)共鳴(きょうめい)させ、戦場(せんじょう)全体(ぜんたい)(ひび)(わた)った。

鐘声(しょうせい)(ひろ)がるにつれ、周囲(しゅうい)空気(くうき)には(すが)すがしい(ちから)()まれ、その波動(はどう)(おと)(とも)()(かた)まっていく。

だが、扶桑(ふそう)にとってそれはただの(かね)(おと)()ぎなかった。

その旋律(せんりつ)(かれ)直接(ちょくせつ)影響(えいきょう)(およ)ぼすことはなかったのである。


「まさか、また(なに)小賢(こざか)しい()使(つか)っているのではないだろうな?」

扶桑(ふそう)(つめ)たく(わら)いながら()った。

(かれ)はこの(かね)()(ひそ)異変(いへん)に、まだ()づいていなかった。

この魔法(まほう)は、(かれ)にとってただの無害(むがい)(じゅつ)()ぎず、(なん)脅威(きょうい)にもならない——そう(しん)じていた。

だがその瞬間(しゅんかん)神殿(しんでん)中央(ちゅうおう)にある(かね)()(はじ)めた。

それに(つづ)いて、王城(おうじょう)十二(じゅうに)区画(くかく)からも次々(つぎつぎ)に(かね)(おと)(ひび)(わた)る。

その無数(むすう)鐘声(しょうせい)は、まるで波濤(はとう)のように王都(おうと)全体(ぜんたい)へと(ひろ)がっていき、

やがて、それらの(おと)共鳴(きょうめい)()うように、奇妙(きみょう)力場(りきば)空気(くうき)(なか)(ひろ)がり(はじ)めた。


扶桑(ふそう)依然(いぜん)として戸惑(とまど)いを(かく)せず、その(ちから)(たい)してほとんど警戒(けいかい)していなかった。

「……これは、いったい(なん)だ?」

(かれ)(からだ)の隅々(すみずみ)まで震動(しんどう)()()んでいくのを感じていた。

しかし、それに()づいた(とき)には、すでに(おそ)かった——。

その(ちから)肉体(にくたい)直接(ちょくせつ)(てき)損傷(そんしょう)(あた)えるものではなかったが、

()わりに扶桑(ふそう)感覚(かんかく)を徐々(じょじょ)に麻痺(まひ)させ、

(からだ)(うご)(ひと)(ひと)つが(しん)じられないほど(にぶ)くなっていく。

(なに)()こっているのか理解(りかい)する()もなく、

神殿(しんでん)中央(ちゅうおう)にある(かね)が、(ふたた)(おも)(しず)んだ(おと)(ひび)かせた。

その(ひび)きは、まるで空間(くうかん)そのものを()()くかのように、(はげ)しく戦場(せんじょう)全体(ぜんたい)(ふる)わせた。


この(ひと)つの(かね)(ひび)きが()()共鳴(きょうめい)(ちから)は、まるで強大(きょうだい)波動(はどう)のように扶桑(ふそう)(つつ)()んだ。

その(てん)()くほどの轟音(ごうおん)が、扶桑(ふそう)(からだ)完全(かんぜん)固定(こてい)し、言葉(ことば)では()(あらわ)せないほどの圧迫感(あっぱくかん)一気(いっき)(かれ)へと(おそ)いかかる。

(かね)(ひと)()るたびに、扶桑(ふそう)自分(じぶん)(からだ)(すこ)しずつ(うご)かなくなっていくのを(かん)()った。

()がつけば、(かれ)全身(ぜんしん)強大(きょうだい)なエネルギーによって完全(かんぜん)拘束(こうそく)され、

いかに(ちから)()めても、一歩(いっぽ)身動(みうご)きが()れなかった。

()(ひび)鐘声(しょうせい)(ひと)(ひと)つが(くさり)となり、扶桑(ふそう)存在(そんざい)(しば)()げていったのだった。


「ありえぬ! これは……いったい(なん)(ちから)だ!?」

扶桑(ふそう)(こえ)には動揺(どうよう)(にじ)み、(からだ)(ちい)さく(ふる)(はじ)めた。

(かれ)必死(ひっし)にその(ちから)(あらが)おうとするが、

(すべ)ての動作(どうさ)()えない(くさり)(しば)られたかのように制限(せいげん)され、

どれほど(ちから)()めても、この強大(きょうだい)鐘声(しょうせい)震動(しんどう)から(のが)れることはできなかった。

(つぎ)は――(しん)なる(かみ)(さば)きを()ける(ばん)だ!」

盤古(バンコウ)(ひく)咆哮(ほうこう)(とも)に、

(かれ)全身(ぜんしん)から(まばゆ)(ひかり)(ふたた)爆発(ばくはつ)する。

その(ひかり)盤古(バンコウ)(こころ)奥底(おくそこ)から(あふ)()るものであり、

(かれ)体内(たいない)細胞(さいぼう)(ひと)つひと)つが共鳴(きょうめい)しながら(ちから)()(はな)っていた。

盤古(バンコウ)気配(けはい)一層(いっそう)(たか)まり、

その(ひかり)はまるで雷霆(らいてい)(からだ)(なか)(はし)るかのように(はげ)しく脈動(みゃくどう)していた。


祈福念鐘(きふくねんしょう)」の(ひび)きが戦場(せんじょう)(つつ)(なか)

青龍(せいりゅう)もまたその鐘声(しょうせい)影響(えいきょう)()けていた。

本来(ほんらい)なら(かぜ)のように俊敏(しゅんびん)だったその(うご)きが、次第(しだい)(にぶ)くなり、

まるで泥沼(どろぬま)(とら)われた巨獣(きょじゅう)のように、身動(みうご)きが()れなくなっていった。

その強大(きょうだい)(ちから)自体(じたい)依然(いぜん)として()えてはいなかったが、

行動(こうどう)(いちじる)しく制限(せいげん)され、(うご)くたびに空気(くうき)(おも)(から)みつくようだった。

青龍(せいりゅう)双眸(そうぼう)には戸惑(とまど)いの(いろ)()かび、

(みずか)らの(からだ)(しば)るこの不可思議(ふかしぎ)(ちから)正体(しょうたい)理解(りかい)できずにいた。

一方(いっぽう)聖王国(せいおうこく)騎士団(きしだん)女媧(ジョカ)祝福(しゅくふく)()けており、

その身体(からだ)鐘声(しょうせい)影響(えいきょう)()けることがなかった。

(かれ)らの(うご)きは依然(いぜん)として軽快(けいかい)で、

この貴重(きちょう)機会(きかい)(のが)すまいと、一斉(いっせい)攻勢(こうせい)仕掛(しか)けた。

魔法(まほう)結界(けっかい)(はば)まれ、(うご)きを(ふう)じられた青龍(せいりゅう)(たい)し、

聖王国(せいおうこく)騎士(きし)たちは(まよ)うことなく突撃(とつげき)開始(かいし)したのである。


騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちは、(ねら)いを(いち)(てん)青龍(せいりゅう)頭部(とうぶ)へと(さだ)めた。

全員(ぜんいん)攻撃(こうげき)怒涛(どとう)のように集中(しゅうちゅう)し、

その一撃(いちげき)一撃(いちげき)が、まるで鉄槌(てっつい)(ごと)青龍(せいりゅう)頭部(とうぶ)()(くだ)いた。

激痛(げきつう)青龍(せいりゅう)全身(ぜんしん)()(めぐ)り、

その巨体(きょたい)一瞬(いっしゅん)のうちに制御(せいぎょ)(うしな)う。

(いか)りと苦痛(くつう)()じり()った咆哮(ほうこう)(そら)()き、

青龍(せいりゅう)攻撃(こうげき)軌跡(きせき)(てん)へと()()がった。

(つぎ)瞬間(しゅんかん)戦場(せんじょう)全体(ぜんたい)空気(くうき)(はげ)しく(ふる)え、

(みみ)をつんざくような轟音(ごうおん)大地(だいち)()るがす。

そして、青龍(せいりゅう)(はな)った最後(さいご)怒号(どごう)(とも)に、

その攻撃(こうげき)空中(くうちゅう)炸裂(さくれつ)した。

閃光(せんこう)(はじ)け、火花(ひばな)四方(しほう)()り、

()(けむり)戦場(せんじょう)(おお)()くす。

その瞬間(しゅんかん)(すべ)てが爆音(ばくおん)(ほのお)()()まれ、

戦場(せんじょう)はまさに地獄絵図(じごくえず)()した。


「なるほど……だから(かれ)らは聖王国(せいおうこく)から(はな)れられないと()っていたのか。」

(わたし)(ちい)さく(つぶや)いた。

神明かみたちが(みずか)らの()(ちから)完全(かんぜん)掌握(しょうあく)する(まえ)は、

その能力(のうりょく)神殿(しんでん)によって制限(せいげん)されており、

ゆえに聖王国(せいおうこく)(はな)れれば、神明かみとしての(ちから)十全(じゅうぜん)発揮(はっき)することはできないのだ。

「その九人(きゅうにん)は、(かれ)らに権能(けんのう)(さず)けるだけでなく、

さらに制約(せいやく)条件(じょうけん)(ともな)うもう(ひと)つの特別(とくべつ)権能(けんのう)(あた)えた。

だが、神明かみにとってもそれを完全(かんぜん)使(つか)いこなすことは容易(ようい)ではない。」

(わたしたち)鐘声(しょうせい)影響(えいきょう)範囲(はんい)(なか)にいながらも、

高位(こうい)魔法(まほう)(たい)して本来(ほんらい)一定(いってい)耐性(たいせい)()っていたため、

その影響(えいきょう)をまったく()けなかった。

さらに、妲己(ダッキ)領域(りょういき)(ない)では、

この(たぐい)魔法(まほう)はまるで意味(いみ)()さなかった。


鐘声(しょうせい)()むと同時(どうじ)に、盤古(バンコウ)体内(たいない)では魔力(まりょく)急速(きゅうそく)凝縮(ぎょうしゅく)(はじ)めた。

その()から(はな)たれる(ひかり)(きん)(くれない)()じり()い、

まるで(いのち)そのものが()()がるかのように(まばゆ)(かがや)いた。

(かれ)(かみ)は、もとの銀灰色(ぎんかいしょく)から暗紅(あんこう)へと()わり、

まるで(ほのお)()らめくように戦場(せんじょう)(ひかり)(まじ)()っていた。

盤古(バンコウ)眼差(まなざ)し)は一層(いっそう)(するど)くなり、

その(ひとみ)はあらゆるものを(つらぬ)くかのような(ひかり)宿(やど)していた。


「これこそが——(おれ)(しん)(ちから)だ!」

盤古(バンコウ)(こえ)大地(だいち)(ふる)わせるように(ひび)(わた)り、

その(はな)たれる気迫(きはく)は、()にいるすべての(もの)圧倒(あっとう)した。

(かれ)全身(ぜんしん)からは(まばゆ)いばかりの(ひかり)放射(ほうしゃ)され、

それは(かれ)が「(さい)(こう)(しん)」としての権能(けんのう)解放(かいほう)した(あかし)だった。

それは(なが)らく封印(ふういん)されていた(ちから)——『原始格闘(げんしかくとう)』。

(いま)から二十五年前(にじゅうごねんまえ)

盤古(バンコウ)神位(しんい)()いだ当初(とうしょ)

(かれ)はこの権能(けんのう)使(つか)うことができなかった。

理由(りゆう)単純(たんじゅん)で、

当時(とうじ)(かれ)にはこの(ちから)()えうる(うつわ)がなかったからだ。

原始格闘(げんしかくとう)』は、盤古(バンコウ)肉体(にくたい)(てき)耐性(たいせい)魔法(まほう)(てき)耐性(たいせい)(いちじる)しく(たか)め、

その一撃(いちげき)(ひと)つひと)つが、あらゆる防御(ぼうぎょ)容易(ようい)()(やぶ)(ちから)()っていた。


盤古(バンコウ)眼差(まなざ)し)には、わずかに苦痛(くつう)(いろ)()かんでいた。

それは、強大(きょうだい)(ちから)には(つね)(おお)きな危険(きけん)(ともな)うからだった。

盤古(バンコウ)最初(さいしょ)(はな)った膨大(ぼうだい)魔力(まりょく)は、

この(ちから)による()けつくような(いた)みに()えるためのものだった。

(さい)(こう)(しん)である(かれ)は、この二十五年(にじゅうごねん)修練(しゅうれん)(なか)で、

何度(なんど)(ため)み、何度(なんど)失敗(しっぱい)(かさ)ねてきた。

だが今回は、これまでとは(すこ)(ちが)っていた。

権能(けんのう)による灼熱感(しゃくねつかん)は、次第(しだい)馴染(なじ)んでいくようだった。

この強大(きょうだい)(ちから)(ささ)えられ、盤古(バンコウ)能力値(のうりょくち)九級(きゅうきゅう)(たっ)した。

(かれ)気勢(きせい)(たか)まり、自身(じしん)(ちから)完全(かんぜん)解放(かいほう)したことを(しめ)していた。

しかし、扶桑(ふそう)(まえ)にして、(かれ)はなおも油断(ゆだん)することはなかった。


しかし、盤古(バンコウ)全力(ぜんりょく)解放(かいほう)()()たりにしても、扶桑(ふそう)表情(ひょうじょう)には一切(いっさい)恐怖(きょうふ)()かばなかった。

むしろその(くちびる)(はし)がわずかに()()がり、(よこしま)()みを()かべる。

「いいぞ……そうでなくては。こうでなければ、()快感(かいかん)(あじ)わえない。」

扶桑(ふそう)(ひとみ)には(あや)しい(ひかり)宿(やど)り、

盤古(バンコウ)(はな)圧倒(あっとう)(てき)(ちから)にも微動(びどう)だにしなかった。

むしろ、その強大(きょうだい)(ちから)(かれ)(おく)(ふか)くに(ねむ)闘争(とうそう)本能(ほんのう)()()ましたのだ。

言葉(ことば)()ちた瞬間(しゅんかん)扶桑(ふそう)全身(ぜんしん)(くろ)(ほのお)(つつ)まれる。

その(ほのお)先程(さきほど)よりもはるかに(はげ)しく()()がり、

その魔力(まりょく)(あつ)盤古(バンコウ)互角(ごかく)

いや、それ以上(いじょう)()していった。


盤古(バンコウ)扶桑(ふそう)言葉(ことば)動揺(どうよう)することなく、

瞬時(しゅんじ)(あか)(ひかり)となって(かれ)へと突進(とっしん)した。

その(こぶし)には強大(きょうだい)なエネルギーが(うず)()き、

()()ろされる一撃(いちげき)には想像(そうぞう)()する破壊力(はかいりょく)宿(やど)っていた。

それこそが、(かれ)九階(きゅうかい)戦技(せんぎ)——「裂山拳(れつざんけん)」。

その()(とお)り、この(こぶし)威力(いりょく)(やま)すら()(くだ)くほどであった。


しかし、盤古(バンコウ)攻勢(こうせい)がこれほどまでに強烈(きょうれつ)であっても、

扶桑(ふそう)一歩(いっぽ)退(しりぞ)くことはなかった。

(かれ)もまた、真正面(ましょうめん)から戦技(せんぎ)()()し、

盤古(バンコウ)との(はげ)しい()()いを展開(てんかい)する。

——九階(きゅうかい)戦技(せんぎ)・「七星連歩拳(しちせいれんぽけん)」。

それは連続(れんぞく)した(けん)(かた)から()(わざ)であり、

まずは『斗宿起勢(としゅくきせい)一星歩(いっせいほ)』。

扶桑(ふそう)左脚(ひだりあし)(かる)()()しながら()()げ、

右拳(みぎこぶし)(ちから)()める——

まるで(くも)(なか)(かく)れた(ほし)(ひかり)(はな)瞬間(しゅんかん)()つように。

盤古(バンコウ)攻撃(こうげき)正面(しょうめん)から(せま)ると、

扶桑(ふそう)即座(そくざ)に『天樞一撃(てんすういちげき)二星突(にせいとつ)』を(はな)つ。

相手(あいて)攻撃(こうげき)よりも一歩(いっぽ)(はや)()み込み、

右拳(みぎこぶし)(はじ)()して正面(しょうめん)から()()く——

その拳勢(けんせい)(しず)み、()るぎない。

(こぶし)(こぶし)がぶつかり()うたび、

空気(くうき)(ふる)え、轟音(ごうおん)大地(だいち)()らす。

その衝突(しょうとつ)余波(よは)は、常人(じょうじん)では到底(とうてい)()えられぬほどのものだった。


盤古(バンコウ)は、(みずか)らの(こぶし)()()めた扶桑(ふそう)間髪(かんはつ)()れず、

もう一方(いっぽう)()(つぎ)(おも)一撃(いちげき)(はな)った。

しかし、扶桑(ふそう)突如(とつじょ)として加速(かそく)し、

その(こぶし)紙一重(かみひとえ)でかわす。

——『連環雙拳(れんかんそうけん)三星舞(さんせいぶ)』。

扶桑(ふそう)(からだ)をわずかに回転(かいてん)させ、

右拳(みぎこぶし)連続(れんぞく)して二度(にど)()()す。

わずか二撃(にげき)にすぎないが、その(はや)さは(すさ)まじく、

(こぶし)軌跡(きせき)すら視認(しにん)できないほどだった。


しかし、盤古(バンコウ)はすぐに反応(はんのう)し、(こぶし)軌道(きどう)()えて扶桑(ふそう)攻撃(こうげき)()()めようとした。

だが、それこそが扶桑(ふそう)仕掛(しか)けた(わな)だった。

——(しん)攻撃(こうげき)は、ここから(はじ)まる。


横掃四方(おうそうしほう)四星裂(しせいれつ)』。

扶桑(ふそう)連続(れんぞく)して数度(すうど)(あし)さばきと回転(かいてん)()(かえ)し、

その(こぶし)四方八方(しほうはっぽう)から(おそ)()かるかのように()えた。

だが実際(じっさい)には、(かれ)(こぶし)(うご)きに合わせて気流(きりゅう)(あやつ)り、

盤古(バンコウ)感覚(かんかく)撹乱(かくらん)していたのだ。


盤古(バンコウ)がその拳法(けんぽう)(くせ)見抜(みぬ)(まえ)に、(つぎ)一撃(いちげき)(せま)る。

——『暗蔵虚実(あんぞうきょじつ)五星錯(ごせいさく)』。

盤古(バンコウ)前方(ぜんぽう)(こぶし)(はな)った瞬間(しゅんかん)

扶桑(ふそう)三歩(さんぽ)後退(こうたい)し、攻撃(こうげき)(から)()りさせる。

その反動(はんどう)盤古(バンコウ)体勢(たいせい)(くず)れると、

扶桑(ふそう)即座(そくざ)一歩(いっぽ)()()み、右拳(みぎこぶし)()()した。

盤古(バンコウ)防御(ぼうぎょ)(かま)えを()るよりも(はや)く、

扶桑(ふそう)左肘(ひだりひじ)正面(しょうめん)から()()いた。

その(うご)きはまさに(ひかり)のようで、

盤古(バンコウ)一撃(いちげき)(くわ)えたかと(おも)えば、

(つぎ)瞬間(しゅんかん)にはすでに視界(しかい)(そと)へと()えていた。

(かれ)周囲(しゅうい)(まと)(くろ)(ほのお)軌跡(きせき)(えが)き、

その(うご)きに(あや)しくも(うつく)しい残光(ざんこう)(のこ)していった。


(つづ)いて——『追星踏月(ついせいたくげつ)六星追(ろくせいつい)』。

扶桑(ふそう)(かる)やかに(あし)(きざ)み、(かぜ)のような(はや)さで()()む。

瞬時(しゅんじ)(みっ)つの(けん)()()し、

その攻撃(こうげき)盤古(バンコウ)(じょう)(ちゅう)()(みっ)つの軌道(きどう)正確(せいかく)(ねら)った。

その()(つづ)攻勢(こうせい)に、盤古(バンコウ)防御(ぼうぎょ)(すき)見出(みいだ)せず、

次第(しだい)()()まれていく。


盤古(バンコウ)(こぶし)(むな)しく空気(くうき)()ったその瞬間(しゅんかん)

扶桑(ふそう)姿(すがた)はすでに(かれ)背後(はいご)(まわ)()んでいた。

(かれ)(うご)きはまるで稲妻(いなずま)のように(するど)く、

その()にはいつの()にか指虎(しこ)装着(そうちゃく)され、

そこから(まばゆ)(ひかり)()(あつ)まる。

(つぎ)瞬間(しゅんかん)、その(かがや)きは流星(りゅうせい)のごとく(はし)り、

盤古(バンコウ)左腕(ひだりうで)正確(せいかく)()()いた。


——これが、扶桑(ふそう)戦技(せんぎ)最終(さいしゅう)奥義(おうぎ)

落斗終式(らくとしゅうしき)七星崩(しちせいほう)』。

その()めの一撃(いちげき)は、(こし)(しず)全身(ぜんしん)(ちから)()め、

一歩(いっぽ)()()しが雷鳴(らいめい)のように(ひび)く。

本来(ほんらい)ならばその(こぶし)盤古(バンコウ)胸部(きょうぶ)(つらぬ)くはずだったが、

盤古(バンコウ)咄嗟(とっさ)左手(ひだりて)()()し、

間一髪(かんいっぱつ)のところでそれを()()めた。


「ッ——!」

盤古(バンコウ)はその一撃(いちげき)激痛(げきつう)(おも)わず(いき)()んだ。

左腕(ひだりうで)(こぶし)命中(めいちゅう)した瞬間(しゅんかん)

(みみ)をつんざくような(ほね)()ける(おと)(ひび)(わた)る。

その(こぶし)威力(いりょく)凄絶(せいぜつ)で、

盤古(バンコウ)左腕(ひだりうで)完全(かんぜん)骨折(こっせつ)してしまった。

もしもその一撃(いちげき)(むね)直撃(ちょくげき)していたなら、

(いのち)はなかっただろう。

全身(ぜんしん)(はし)(いた)みが制御(せいぎょ)(うば)い、

体勢(たいせい)(たも)つことができない。

(まばゆ)(ひかり)衝突(しょうとつ)(とも)に、

盤古(バンコウ)(からだ)()()ばされ、

(とお)くの地面(じめん)へと(たた)きつけられた。

地面(じめん)瞬間(しゅんかん)崩壊(ほうかい)し、

岩片(がんぺん)四方(しほう)()()る。

盤古(バンコウ)(おも)()()ち、

(いき)(あら)げながら(うご)けずにいた。

この一撃(いちげき)——

盤古(バンコウ)には反応(はんのう)する(ひま)さえなかった。


盤古(バンコウ)()(たた)きつけられたその瞬間(しゅんかん)

扶桑(ふそう)神明かみたちに一瞬(いっしゅん)猶予(ゆうよ)(あた)えなかった。

(かれ)姿(すがた)疾風(しっぷう)のように()()け、

幾筋(いくすじ)もの残光(ざんこう)(えが)きながら、

(つぎ)瞬間(しゅんかん)には伏羲(フクキ)眼前(がんぜん)(あらわ)れた。

伏羲(フクキ)はその突進(とっしん)()()たりにしながらも、

()にした雷光牙(らいこうが)(つよ)(にぎ)りしめ、

迎撃(げいげき)のために()るおうとした。

だが——扶桑(ふそう)一撃(いちげき)威力(いりょく)は、

(かれ)想像(そうぞう)(はる)かに()えていた。

雷光牙(らいこうが)扶桑(ふそう)(ちから)()れた瞬間(しゅんかん)

()んだ(おと)()てて亀裂(きれつ)(はし)る。

「な……っ!」伏羲(フクキ)驚愕(きょうがく)()見開(みひら)いた。

(つぎ)瞬間(しゅんかん)(かれ)()にある神器(じんぎ)——雷光牙(らいこうが)が、

扶桑(ふそう)拳圧(けんあつ)()えきれず粉々(こなごな)に(くだ)()ったのだ。

その衝撃(しょうげき)神器(じんぎ)()かれ、破片(はへん)夜空(よぞら)()()(ほし)のように四方(しほう)へと()()がる。

伏羲(フクキ)はその光景(こうけい)呆然(ぼうぜん)()つめ、

(みずか)らの()(まえ)()こった出来事(できごと)理解(りかい)することができなかった。


それだけでは()わらなかった。

扶桑(ふそう)(こぶし)には(ふたた)(ひかり)()(あつ)まり、

(いき)()まらせるほどの圧倒的(あっとうてき)(ちから)脈動(みゃくどう)していた。

(つぎ)瞬間(しゅんかん)(かれ)渾身(こんしん)一撃(いちげき)伏羲(フクキ)腹部(ふくぶ)めがけて(たた)()む。

その(ひかり)伏羲(フクキ)防御(ぼうぎょ)容易(ようい)(つらぬ)き、

強烈(きょうれつ)衝撃波(しょうげきは)(とも)(かれ)(からだ)()()ばした。

伏羲(フクキ)身体(からだ)(ちゅう)()い、

(とお)くの岩壁(がんぺき)へと(たた)きつけられる。

轟音(ごうおん)(ひび)(わた)り、

(かれ)(からだ)石壁(せきへき)(ふか)くめり()んだ。

そのまま意識(いしき)途切(とぎ)れ、

伏羲(フクキ)(くる)しみの(こえ)すら(はっ)することができなかった。


「まさか——もう()()きたなどと(おも)っているのではないだろうな?」

扶桑(ふそう)(つめ)たい(こえ)静寂(せいじゃく)()()くように(ひび)いた。

その眼差(まなざ)し)には嘲笑(ちょうしょう)(ひかり)宿(やど)り、

口元(くちもと)にはわずかに侮蔑(ぶべつ)()みが()かぶ。

(かれ)攻撃(こうげき)一撃(いちげき)一撃(いちげき)容赦(ようしゃ)なく、

まるで()えざる羅針盤(らしんばん)(てき)正確(せいかく)捕捉(ほそく)しているかのようだった。

その(こぶし)(はな)たれるたび、

(ねら)われた(もの)(のが)れる(すべ)もなく、確実(かくじつ)命中(めいちゅう)する。

扶桑(ふそう)()(つつ)黒炎(こくえん)は、

(かれ)気迫(きはく)(とも)(はげ)しさを()し、

()()がるその(よう)はまるで(やみ)()()ける(はな)のようであった。

(かれ)戦場(せんじょう)見渡(みわた)し、

(くず)()ちた盤古(バンコウ)伏羲(フクキ)姿(すがた)満足(まんぞく)げな()みを()かべる。

この一連(いちれん)予想(よそう)(がい)攻撃(こうげき)に、

その()にいたすべての(もの)(いき)()んだ。

盤古(バンコウ)伏羲(フクキ)という二柱(ふたはしら)(かみ)が、

まさか一瞬(いっしゅん)のうちに()(たお)されるとは(だれ)(おも)っていなかったのだ。

その光景(こうけい)()つめる女媧(ジョカ)(むね)に、

(つめ)たい戦慄(せんりつ)(はし)る。

戦局(せんきょく)一気(いっき)逆転(ぎゃくてん)し、

この予測(よそく)不能(ふのう)(ちから)(まえ)では、

(だれ)であろうともあまりに(もろ)く、無力(むりょく)だった。


「まさか……神器(じんぎ)粉砕(ふんさい)するとは!」

(わたし)でさえ、その光景(こうけい)には言葉(ことば)(うしな)った。

「まさか……あれは……」

(かたわ)らにいた妲己(ダッキ)(まゆ)をわずかにひそめ、

すでに異変(いへん)核心(かくしん)()づいたようだった。

「お(うかが)いします、大人(おとな)。あれはいったい(なん)なのでしょう?」

三姉妹(さんしまい)同時(どうじ)(こえ)()げ、

その(ひとみ)には疑念(ぎねん)好奇(こうき)(ひかり)宿(やど)っていた。

伝説(でんせつ)によれば、『DARKNESSFLOW(ダークネスフロー)』には

すべての神器(じんぎ)凌駕(りょうが)する(じゅう)神器(じんぎ)存在(そんざい)すると()われている。

そのことは()っているだろう?」

(わたし)(しず)かに彼女(かのじょ)たちへ説明(せつめい)(はじ)めた。

「はい。」

三人(さんにん)はうなずき、(こえ)(そろ)えて(こた)えた。

「だが(じつ)は、その(じゅう)神器(じんぎ)匹敵(ひってき)するとされる

もう(じゅう)神器(じんぎ)存在(そんざい)する。

それらは使(つか)(かた)次第(しだい)十大神器(じゅうだいじんぎ)にも(なら)()るとされ、

無冕神器むべんしんき』と()ばれているのだ。」


「つまり——あの(おとこ)()にある武器(ぶき)も『無冕神器むべんしんき』の(ひと)つというわけね。」

緹雅(ティア)(こた)えた。

「その(とお)りだ。」

(わたし)はうなずき、説明(せつめい)(つづ)けた。

「あれは『無冕神器むべんしんき第九位(だいきゅうい)

守望者(しゅぼうしゃ)艾拉卡(エラカ)”。

この神器(じんぎ)は、武器(ぶき)使用者(しようしゃ)(たい)して攻撃力(こうげきりょく)低下(ていか)させる効果(こうか)()っている。

もし武器(ぶき)本人(ほんにん)一定(いってい)物理耐性(ぶつりたいせい)()っていれば、

攻撃(こうげき)威力(いりょく)だけが減少(げんしょう)する。

しかし、使用者(しようしゃ)十分(じゅうぶん)物理耐性(ぶつりたいせい)()たない場合(ばあい)には、即座(そくざ)防御(ぼうぎょ)(くず)れ、武器(ぶき)は粉々(こなごな)に(くだ)けてしまう。

……まさか、神器(じんぎ)までもが(くだ)けるとは(おも)ってもみなかった。」


「それなら()ってるわ。」

緹雅(ティア)()にした『不破(フハ)武器大全(ぶきたいぜん)』をめくりながら()った。

伏羲(フクキ)()にあった雷光牙(らいこうが)は、(かみなり)属性(ぞくせい)戦技(せんぎ)魔法(まほう)発動(はつどう)する(さい)非常(ひじょう)(たか)威力(いりょく)発揮(はっき)するの。

ただし、元素(げんそ)耐性(たいせい)(たか)いけれど、物理(ぶつり)耐性(たいせい)(ひく)いから、

最上級(さいじょうきゅう)物理攻撃(ぶつりこうげき)()けると(くだ)けやすいのよ。」

彼女(かのじょ)はさらにページをめくりながら(つづ)けた。

「この大全(たいぜん)にも()かれているわ。

雷光牙(らいこうが)(もっと)()(やぶ)るのが、エラカ(艾拉卡)だって。」

緹雅(ティア)補足(ほそく)するように()(ことば)(かさ)ねた。

艾拉卡エラカ(ちから)はまさにそういうもの。

相手(あいて)攻撃威力(こうげきいりょく)効果的(こうかてき)低下(ていか)させることができるの。

(とく)物理耐性(ぶつりたいせい)(ひく)武器(ぶき)(たい)しては、その効果(こうか)顕著(けんちょ)(あらわ)れる。」

「なるほどな……さすが武器(ぶき)専門家(せんもんか)だな。

そんな(こま)かいところまで記録(きろく)しているとは。」

(わたし)緹雅(ティア)分析(ぶんせき)()きながら、(おも)わず感嘆(かんたん)(いき)()らした。


「それでは、どうすればいいの?」と、米奧娜(ミオナ) が最初に問いかけた。

艾拉卡(エイラカ) の威力低下効果は永久的なものではない。それに、物理(ぶつり)耐性(たいせい)相手(あいて)物理(ぶつり)攻撃(こうげき)(りょく)より(たか)ければ、あまり心配(しんぱい)する必要(ひつよう)はない。これがこの武器(ぶき)使(つか)(さい)唯一(ゆいいつ)注意(ちゅうい)すべき(てん)だ。」

(すこ)(かんが)()んだ(あと)、私は(つづ)けて分析(ぶんせき)した。

「もし自分(じぶん)物理(ぶつり)攻撃(こうげき)(りょく)十分(じゅうぶん)でない場合(ばあい)や、相手(あいて)(こう)物理(ぶつり)耐性(たいせい)()っている(とき)には、この武器(ぶき)効果(こうか)(おお)きく減少(げんしょう)し、場合(ばあい)によっては無用(むよう)になってしまう。だが、神々(かみがみ)の物理(ぶつり)耐性(たいせい)は、どうやらそれほど(つよ)くはないようだな。」


神農氏しんのうしは、依然(いぜん)として酸性(さんせい)元素(げんそ)(どく)元素(げんそ)による侵蝕(しんしょく)(ふか)()けていた。

(かれ)はあらゆる方法(ほうほう)()くして自分(じぶん)身体(からだ)(なお)そうとしたが、治癒(ちゆ)魔法(まほう)はまったく()かなかった。

傷口(きずぐち)にかかる負担(ふたん)は、(かれ)想像(そうぞう)していた以上(いじょう)(おお)きかった。

体内(たいない)(のこ)毒素(どくそ)(かれ)精力(せいりょく)をあまりにも消耗(しょうもう)させ、(いま)(かれ)には(なに)ひとつ()すことができなかった。


伏羲フクキ状況(じょうきょう)もまた非常(ひじょう)惨烈(さんれつ)だった。

先程(さきほど)扶桑(ふそう)強烈(きょうれつ)一撃(いちげき)によって、(かれ)身体(からだ)はすでに崩壊(ほうかい)寸前(すんぜん)にまで()()まれていた。

(かれ)()にはまだ(くだ)けた雷光牙(らいこうが)(にぎ)られていたが、(ちから)(うしな)った(かれ)にはもはや(たたか)(すべ)がなかった。

全身(ぜんしん)傷口(きずぐち)からは()()なく()(したた)()ち、激痛(げきつう)のあまり(かれ)意識(いしき)(うしな)って(たお)れてしまった。


この(とき)女媧ジョカには、その責任(せきにん)がいっそう(おも)くのしかかっていた。

このような状況(じょうきょう)(なか)で、彼女(かのじょ)自分(じぶん)(まも)るだけでなく、負傷(ふしょう)した仲間(なかま)たちをも(まも)り、さらに盤古バンコウ(たす)けながら扶桑(ふそう)連続(れんぞく)攻撃(こうげき)()めなければならなかった。

彼女(かのじょ)防御(ぼうぎょ)能力(のうりょく)(たし)かに(つよ)(だい)であったが、艾拉卡(エラカ)(ちから)(まえ)にすると、その防御(ぼうぎょ)(あき)らかに限界(げんかい)(たっ)していた。

盤古(バンコウ)扶桑(ふそう)攻撃(こうげき)(たお)された(あと)(のこ)(ちから)()(しぼ)ってようやく()()がったが、もはや(からだ)はふらつき、()っているのがやっとだった。

権能(けんのう)加持(かじ)があったおかげで、攻撃(こうげき)()けてもかろうじて意識(いしき)(たも)つことはできたが、それでも(かれ)はすでに窮地(きゅうち)()()められていた。


扶桑ふそうは、盤古バンコウ(ふたた)()()がるのを()ると、(さい)嘲笑(あざわら)うように()った。

無駄(むだ)なあがきはやめろ。あの(ちから)完全(かんぜん)継承(けいしょう)していないお(まえ)たちが、(わたし)相手(あいて)になれるはずがない。」

だが盤古(バンコウ)は、扶桑(ふそう)言葉(ことば)(みみ)()れてはいなかった。

その(とき)(かれ)は、すでに無意識(むいしき)状態(じょうたい)に入り、(なに)(かんが)えているのかさえ()からなかった。

その瞬間(しゅんかん)盤古(バンコウ)突如(とつじょ)として扶桑(ふそう)眼前(がんぜん)(ひらめ)くように(あらわ)れた。

その(はや)さに、扶桑(ふそう)衝撃(しょうげき)()けた。

それは(あき)らかに自分(じぶん)凌駕(りょうが)する速度(そくど)であり、なぜ瀕死(ひんし)状態(じょうたい)にある盤古(バンコウ)が、なおもこのような(ちから)発揮(はっき)できるのか、(かれ)には理解(りかい)できなかった。


盤古バンコウ周囲(しゅうい)には、ほのかに(あか)(ひかり)()らめいていた。

その様子(ようす)から、(いま)攻撃(こうげき)(かれ)自身(じしん)意識(いしき)によるものではなく、権能(けんのう)そのものが(みちび)いているのだと()かった。

盤古(バンコウ)(こぶし)は、そのまま扶桑(ふそう)へと()るわれた。

――十階(じゅっかい)戦技(せんぎ)六合震罡(りくごうしんごう)

それは権能(けんのう)(みちび)きによって、盤古(バンコウ)肉体(にくたい)(とお)して(はな)たれる拳法(けんぽう)であった。

その動作(どうさ)身心(しんしん)()い、気勢(きせい)天地(てんち)(ことわり)一体(いったい)となり、まるで自然(しぜん)そのものと()()ったかのようであった。


突如(とつじょ)として(はな)たれた攻撃(こうげき)に、扶桑ふそう(おも)わず驚愕(きょうがく)した。

しかし、(かれ)はすぐに態勢(たいせい)()(なお)し、戦技(せんぎ)による反撃(はんげき)(てん)じた。

――十階(じゅっかい)戦技(せんぎ)焚燒金剛拳(ふんしょうこんごうけん)二式(にしき)烈焰碎山(れつえんさいざん)

それは、扶桑(ふそう)艾拉卡(エイラカ)使(つか)(とき)にのみ発動(はつどう)できる戦技(せんぎ)であった。

(くろ)(ほのお)扶桑(ふそう)(こぶし)(あつ)まり、灼熱(しゃくねつ)熱波(ねっぱ)のように空間(くうかん)()()んでいった。

一方(いっぽう)(いま)盤古バンコウは「六合震罡りくごうしんごう」の本来(ほんらい)(ちから)完全(かんぜん)()()すことができなかった。

権能(けんのう)(みちび)きによって全力(ぜんりょく)攻撃(こうげき)()()しても、扶桑(ふそう)致命(ちめい)(てき)損傷(そんしょう)(あた)えることはできなかった。

扶桑(ふそう)(たけ)るような攻勢(こうせい)(つづ)(なか)時間(じかん)経過(けいか)とともに盤古(バンコウ)(ちから)次第(しだい)(おとろ)(はじ)めた。

最終的(さいしゅうてき)に、艾拉卡(エイラカ)(ちから)がもたらす圧倒(あっとう)(てき)破壊(はかい)(まえ)に、(かれ)はついにその攻撃(こうげき)完全(かんぜん)には(ふせ)()れなかった。


ついに、(らん)()ちの(こぶし)()けた盤古バンコウは、もはや(ささ)えきれず、艾拉卡エイラカ(ちから)によって(ふたた)()(たお)れた。

扶桑ふそう一撃(いちげき)一撃(いちげき)は、すべて盤古(バンコウ)(はる)かに上回(うわまわ)威力(いりょく)()っていた。

重心(じゅうしん)(うしな)った盤古(バンコウ)身体(からだ)(ちゅう)(はげ)しく(ひるがえ)り、最後(さいご)には轟音(ごうおん)とともに地面(じめん)へと(たた)きつけられた。

その瞬間(しゅんかん)肉体(にくたい)()たれる(おと)筋肉(きんにく)()ける(おと)(ほね)()れる(おと)が、まるで空気(くうき)(なか)(ひび)(わた)るかのようだった。

戦場(せんじょう)空気(くうき)一瞬(いっしゅん)にして重苦(おもくる)しいものへと()わり、盤古(バンコウ)はもはや()()がることができなかった。


(いま)扶桑ふそう()()かえるのは、女媧ジョカただ一人(ひとり)となっていた。

彼女(かのじょ)即座(そくざ)(すべ)ての防御(ぼうぎょ)(ちから)集中(しゅうちゅう)させ、扶桑(ふそう)攻撃(こうげき)対抗(たいこう)しようと(こころ)みた。

彼女(かのじょ)身体(からだ)周囲(しゅうい)には、瞬時(しゅんじ)(まばゆ)(ひかり)(おお)(つつ)み、それは彼女(かのじょ)全力(ぜんりょく)防御(ぼうぎょ)魔法(まほう)発動(はつどう)している(あかし)だった。

防禦鱗片(ぼうぎょりんぺん)』の加護(かご)()け、女媧(ジョカ)九階(きゅうかい)防御(ぼうぎょ)魔法(まほう)――蛇血障壁(じゃけつしょうへき)展開(てんかい)した。

それは(みずか)らの血液(けつえき)(そそ)()むことで強化(きょうか)される障壁(しょうへき)であり、その表面(ひょうめん)(うろこ)のような(ひかり)(はな)ち、まるで血肉(けつにく)のように(うごめ)いていた。


しかし、扶桑(ふそう)彼女(かのじょ)一瞬(いっしゅん)(すき)さえ(あた)えなかった。

(かれ)(またた)()空中(くうちゅう)へと()()がり、()(なか)(ふたた)(ゆみ)(あらわ)れる。

その(ゆみ)から(はな)たれるエネルギーは、これまで以上(いじょう)強烈(きょうれつ)で、弓弦(ゆみづる)(はな)(ひかり)天空(てんくう)()くかのように(まばゆ)(かがや)いた。

扶桑(ふそう)口元(くちもと)には、侮蔑(ぶべつ)(ふく)んだ()みが()かんでいた。

その表情(ひょうじょう)には、すでに(つぎ)(おとず)れる勝利(しょうり)確信(かくしん)しているかのような余裕(よゆう)があった。


「お(まえ)たちには、もう機会(きかい)など(のこ)されていない。」

扶桑ふそう(つめ)たい(こえ)が、空中(くうちゅう)から(ひび)(わた)った。

(かれ)(ふたた)視線(しせん)女媧ジョカ()け、まるでこの(たたか)いを一気(いっき)()わらせようとしているかのようだった。

指先(ゆびさき)がわずかに(うご)いた瞬間(しゅんかん)弓弦(ゆみづる)(はげ)しく(ふる)え、()(つよ)(れつ)酸性(さんせい)毒性(どくせい)元素(げんそ)()びて女媧(ジョカ)へと一直線(いっちょくせん)()んでいった。

「くっ……!」女媧(ジョカ)(ひく)(のろ)うように(こえ)()らした。

彼女(かのじょ)は、(みずか)らの防御(ぼうぎょ)がこの連続(れんぞく)攻撃(こうげき)()えられることを理解(りかい)していた。

だが、(いま)扶桑(ふそう)攻撃(こうげき)は、彼女(かのじょ)ひとりを(ねら)ったものではなかった。

その()軌道(きどう)には、すでに(たお)()している(ほか)の神々(かみがみ)も(ふく)まれていたのだ。

そのため、女媧(ジョカ)自分(じぶん)(まも)るだけでなく、(ほか)(もの)たちをも同時(どうじ)(まも)方法(ほうほう)()つけなければならなかった。


戦況(せんきょう)天秤(てんびん)は、(あき)らかに扶桑ふそう(がわ)へと(かたむ)いていた。

そして(なに)より絶望(ぜつぼう)(てき)なのは――このすべてが、すでに扶桑(ふそう)計算(けいさん)(うち)にあったということだった。

女媧ジョカ障壁(しょうへき)延長(えんちょう)し、仲間(なかま)たちを(まも)ろうとしたその刹那(せつな)扶桑(ふそう)はすでに(おと)もなく彼女(かのじょ)背後(はいご)へと(まわ)()んでいた。

正面(しょうめん)からの()攻撃(こうげき)(ふせ)がれたものの、背面(はいめん)には一切(いっさい)防御(ぼうぎょ)存在(そんざい)しなかった。

(じつ)のところ、扶桑(ふそう)最初(さいしょ)から女媧(ジョカ)防御(ぼうぎょ)(くせ)見抜(みぬ)いていた。

彼女(かのじょ)魔力(まりょく)消耗(しょうもう)(おさ)えるため、(つね)全方位(ぜんほうい)防御(ぼうぎょ)展開(てんかい)することはなかったのだ。

そのわずかな(すき)を、扶桑(ふそう)見逃(みのが)さなかった。

――十階(じゅっかい)戦技(せんぎ)焚燒金剛拳(ふんしょうこんごうけん)三式(さんしき)怒拳焚心(どけんふんしん)

それは(ほのお)車輪(しゃりん)のように連続(れんぞく)して()()される(みっ)つの(こぶし)――

一撃(いちげき)ごとに速度(そくど)()し、さらに「内焚灼傷(ないふんしゃくしょう)」の効果(こうか)(かさ)なっていく(おそ)るべき連撃(れんげき)であった。

その(こぶし)正確(せいかく)女媧(ジョカ)()()()き、(ごう)爆音(ばくおん)(とも)に、たとえ『防禦鱗片(ぼうぎょりんぺん)』の加護(かご)があったとしても、彼女(かのじょ)身体(からだ)(はげ)しく()()ばされた。

地面(じめん)(たた)きつけられた瞬間(しゅんかん)防御(ぼうぎょ)魔法(まほう)崩壊(ほうかい)し、無数(むすう)亀裂(きれつ)(はし)る。

彼女(かのじょ)顔色(かおいろ)蒼白(そうはく)()わり、激痛(げきつう)(いき)()め、もはやその()(ささ)えることさえ(むずか)しくなっていた。


「はははは!」

扶桑ふそう(わら)(ごえ)(ふたた)(ひび)(わた)った。

(かれ)半空(はんくう)へと()()がり、その()には満足(まんぞく)(ひかり)宿(やど)っていた。

「これが――世界(せかい)(わたし)(あた)えた(ちから)というものか。まさか、これほどまでに有用(ゆうよう)だとはな。まったく、(おどろ)くほど容易(ようい)にお(まえ)たちを(たお)せるとは。」

(たか)みから見下(みお)ろす扶桑(ふそう)言葉(ことば)には、傲慢(ごうまん)自信(じしん)()ちていた。

そして(かれ)はその勝利(しょうり)を、まるで当然(とうぜん)報酬(ほうしゅう)であるかのように、(こころ)から愉悦(ゆえつ)していた。


嘲弄(ちょうのう)()えた扶桑ふそうは、ついに最後(さいご)勝利(しょうり)果実(かじつ)()()れようと決意(けつい)した。

(かれ)はこれまでにないほど巨大(きょだい)()凝縮(ぎょうしゅく)させ、その()宿(やど)るエネルギーは、(そら)全体(ぜんたい)(いろ)をも(くら)()()げた。

(はな)たれようとするその()放出(ほうしゅつ)する(ちから)は、周囲(しゅうい)空気(くうき)さえも()()き、空間(くうかん)(ふた)つに()かつかのようだった。

扶桑(ふそう)は、この破滅(はめつ)(ちから)をもって――この()(のこ)された最後(さいご)希望(きぼう)を、完全(かんぜん)()()ろうとしていた。





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