王城側の戦場では、空気が次第に張り詰め、緊迫した雰囲気が高まっていった。
その中で、最初に動きを見せたのは女媧だった。
彼女は敵を鋭く見据え、手の中で魔力を絶え間なく循環させていた。
低く響く詠唱と共に、空気の中の魔力が震え、波紋のような揺らぎが次々(つぎつぎ)と広がっていく。
その力はまるで一本の見えざる糸のように、戦場全体を束縛し、やがて目に見えぬ領域を形成した。
それは女媧の八階魔法――「意念鐘声」である。
魔法が発動した瞬間、領域全体の空気が重く沈み込み、あたりの世界そのものが静寂に支配されたかのようだった。
低く響く鐘声が空中に広がり、領域内にいるすべての者は、言葉では言い表せないほどの圧迫感に包まれた。
この鐘声は直接敵を攻撃するものではない。
だが、それは確実に相手の精神を乱し、心の均衡を崩していく。
敵の動作は次第に鈍くなり、まるで重たい水流の中を歩いているかのように、ひとつひとつの足取りが沈んでいった。
攻撃の一撃ごとに力は失われ、その動きは緩慢で、無力なものへと変わっていく。
女媧の加護を受けぬ限り、この領域に踏み入るすべての者は、その影響を免れることはできないのだった。
女媧と神農氏は、神明の中でも至関重要な輔助役であり、彼女たちの能力は単に仲間を強化するだけでなく、保護と支援をも提供する。
女媧の權能「防禦鱗片」は、彼女自身に強大な防禦力を與える。
この權能により、女媧は高階の魔法や物理攻擊の損傷を吸收し、攻擊を受けた際には、その一部の力を反彈させ、攻擊者に反向的な傷害を與えることができる。
そのため、彼女は戰場において容易には突破できない防線となり、敵がどれほど強力な攻擊を放とうとも、彼女に實質的な損傷を與えることはほとんど不可能である。
唯一の方法は、女媧の防禦力を貫通できるほどの強大な力を持つか、あるいはその防禦力を無視できる特別な武器を使うことだけである。そうした攻擊だけが、彼女に真実の損傷を與えることができる。
女媧の防禦力は圧倒的であるが、彼女自身には攻擊に特化した技能は存在しない。その能力は、完全に保護と支援に集中している。
ゆえに、彼女は隊伍において「前台坦克」のような役割を果たしている。常に最前線に立ち、仲間の代わりに損傷を受け、敵の火力を引きつけ、他の者たちに貴重な時間と空間を稼ぐのである。
神農氏は、輔助の核心であると同時に、後方からの輸出も擔う存在である。彼の能力は強化と支援により傾いており、他の隊員たちの戰鬥效能を高めるだけでなく、遠距離から魔法攻擊を放つ力も備えている。
彼の權能「神草」は、あらゆる輔助技能の效果を二倍に引き上げる力を持つ。回復であれ、增強であれ、加速であれ、神農氏はそれらの技能を常規を超えるほどの效果へと昇華させることができるのだ。
そのため、彼は戰鬥において單なる支援者ではなく、必要とあらば强力な遠距離支援を提供できる存在として、隊伍に不可欠な存在となっている。
しかし、神農氏には明確な弱點も存在する。
彼自身の魔力量は決して高くはなく、そのため神器「朱砂權杖」に依存しなければ、能力を充分に發揮することはできない。これによって初めて、彼は事半功倍の效果を得ることができるのだ。
さらに、彼の移動能力は非常に緩慢であり、步行であれ回避であれ、その速度は他の者たちに比べて遙かに遅い。そのため、機動力の高い敵や、突如として放たれる攻擊に對して、彼はしばしば不利な位置に追い込まれることになる。
それだけでなく、神農氏の輔助魔法は隊友に强大な支援を與える一方、彼自身の物理防禦力は相對的に低く、大量の損傷に耐えることができない。
ゆえに、女媧による保護が極めて重要となる。女媧が彼に掩護を與える狀況下でのみ、神農氏はその輔助能力を最大限に發揮し、隊友たちに必要不可欠な戰鬥支援を提供することができるのである。
伏羲は、神明の中でも主要な攻擊手であり、完全に近戰を主軸とする戰士である。彼の能力は高い破壞力と靈活な戰鬥風格に特化しており、短時間のうちに敵へ甚大な損害を與えることができる。
伏羲の權能「靈化」は、最大で十體の同一の分身を創造する力を持つ。これらの分身は一見すると單純な幻影のように見えるが、伏羲の本體は瞬時に任意の分身の位置へと移動し、そこに實體として現れることができる。
この能力によって、彼は戰鬥において極めて高い機動性を手にし、戰場を自在に駆け巡りながら、敵に突襲を仕掛けたり、危險を察知して即座に撤退したりすることができるのである。
そして、伏羲の手に握られた神器――雷光牙は、彼の戰鬥能力を極致へと押し上げる存在である。この劍は決して普通の武器ではなく、元素粒子によって構成された特別な武器であり、その構造自體が極めて高い元素抗性を持つ。火焰・冰霜・雷電など、いかなる元素の力であっても、雷光牙を容易に損傷することはできない。
伏羲は、魔法や元素攻擊に對する耐性が高くないため、彼は靈活な立ち回りと分身を駆使して敵の攻擊を回避し、さらに雷光牙の力を活かすことで、多くの魔法攻擊に對しても冷靜さを保つことができる。
しかし、戰鬥の最中に大規模な範圍魔法攻擊を受けた場合、いかに雷光牙であっても完全に防ぎ切ることは不可能である。そのような時、彼は神農氏の輔助技能や掩護に依存して、魔法攻擊による致命傷を防ぐ必要がある。
もし强力な支援がなければ、伏羲の弱點は敵に看破され、防禦の脆弱な部分が露呈してしまうだろう。
扶桑が先陣を切って攻擊を發動した瞬間、十個の太陽が高空にて烈火のごとく燃え上がった。扶桑の命令と共に、十の太陽は同時に八階魔法――「烈火彗星」を放ち、十個の巨大な火焰彗星が戰場の隅々(すみずみ)へ向かって飛翔した。
もしこの攻擊を正面から受ければ、その發生するエネルギー波動は人を瞬時に焼き盡くしてしまうほどの破壞力を有していた。
だが、このような攻擊にも神明たちは動揺することはなかった。神農氏はすぐさま魔法を行使し、兩手を高く掲げ、前線で攻擊を擔う伏羲と盤古に、異光を放つ防護の障壁を展開した。それこそが九階魔法――「混沌元素屏障」である。
この屏障は完全に混沌元素から構成され、特定の單一元素による攻擊を遮斷する力を持つ。
「混沌元素屏障」が發動すると同時に、攻擊波は彼らに接觸した瞬間、完全に吸收され、煙霧のように消散し、そのまま空へと溶け込んでいった。
しかし、この屏障がすべての損傷を完全に防げるわけではなかった。屏障が有效に防禦できる範圍は正面のみであり、烏鴉たちは盤古と伏羲を包圍し、四方八方から襲いかかってきた。
それだけでなく、攻擊の餘波が戰場全體を覆い、層層の氣浪を巻き起こした。普通の者であれば、その場に立っていることすら不可能であった。
その中で、女媧は神農氏の前方に毅然と立ち、己の堅固な身體を以て、襲い來る衝撃波を全力で受け止めた。
彼女の身體は强烈な衝擊によって幾度も揺さぶられたが、それでも一歩たりとも退かず、足元を確かに踏みしめ、決して崩れることはなかった。
「おや?さすがは神明だな。神農氏は札爾迪克様に似ている。どちらも混沌元素を扱えるようだ。」
彼らの防禦を目にして、米奧娜は思わず驚嘆の聲を漏らした。
「ねえ、あの女媧って、ずいぶん頑丈そうだけど、どうしてあれほどの攻擊を受けても無傷なの?」
琪蕾雅が興味深そうに尋ねる。
「たぶん、彼女自身の特性によるものじゃないかな? もしそれが技能だったとしたら、かなり厳しい制約があるはずよ。」
朵莉は隣で真剣な面持ちで分析を加えた。
神農氏と女媧が協力して大部分の攻擊を防いでいたものの、扶桑の太陽が放つ魔法の範圍はあまりにも廣大であり、その莫大なエネルギーの餘波は周圍に甚大な衝擊を與えていた。
「攻擊の力をもっと强めろ!」
扶桑は鋭い眼光を放ちながら大聲で命じた。
その瞬間、十の太陽の中に棲む三足烏鴉が何かを感應したように身體を震わせ、莫大な力が一斉に彼らの內部へと流れ込んだ。
その結果、攻擊頻度、範圍、威力は瞬時に新たな次元へと達し、まるで神秘的な力を注がれたかのように、彼らの攻擊はいっそう迅速かつ致命的なものへと變貌した。
空を切り裂く一條一條の火焰彗星は、以前にも增して强烈な元素波動を放ち、その軌跡はあらゆるものを瞬く間に吞み込むかのようであった。
……どうやら、扶桑はまだ本氣を出していなかったらしい。
攻擊がさらに激化するのを目にした女媧は、ためらうことなく自身の神器――貪蛇之鏡を引き抜いた。
この武器は强力な吸收能力を有し、接觸したあらゆる元素攻擊を吸收して魔力へと轉換し、彼女自身の力として取り込むことができる。
女媧が貪蛇之鏡をそっと揮るうと、襲い來る元素波が瞬く間に鏡面へ吸い込まれ、無數の魔力流となって彼女の體內へと注がれていった。
しかし、この貪蛇之鏡にも明確な制限が存在する。それは、物理攻擊には一切效果がなく、さらに元素攻擊を吸收したのちには十分間の冷却時間が必要となるということだ。
その冷却期間のあいだ、貪蛇之鏡は再び機能することができない。ゆえに、女媧はその時間の間にできるかぎり多くの時間を稼ぎ、次の機會を待たねばならなかった。
女媧が神器を用いて烏鴉たちの攻勢を受け流しているその瞬間、伏羲は好機を逃さず、素早く空中へと跳躍した。
彼の身影は稲妻のように閃き、空を駆けるごとく疾走し、その手に握られた雷光牙は眩い光輝を放っていた。
同時に、神農氏は彼に八階輔助魔法――「幽障紋・夜蔽」を施した。
この魔法は自身の氣配と行動を完全に遮斷し、敵の感知から姿を消すことができる。
神農氏の支援を受けた伏羲は、無音のまま炎を放つ三足烏鴉へと肉薄し、一閃の劍を振り下ろした。
刃が烏鴉に觸れた瞬間、雷のような閃光が走り、烏鴉はその場で撃ち落とされた。
火焰は劍刃に斬り裂かれ、煙霧となって空に散り、烏鴉の肉體は地に墜ちて、すでに息絶えていた。
同時に、盤古もまた一瞬の躊躇も見せず、巨體を躍らせて跳び上がった。
彼の雙手は鋼鐵のごとく强靭で、空中で二つの烏鴉の首を掴み取り、そのまま力強く締め上げた。
二羽の烏鴉は盤古の掌の中で淒まじい悲鳴を上げたが、その壓倒的な腕力の前では一切抗うことができず、盤古が力を込めた一瞬で、その首骨は音を立てて砕け、命は儚く絶たれた。
二羽の烏鴉はそのまま地面に墜落し、動くことなく沈黙した。
自らの同胞たちが撃ち倒される光景を目にした他の三足烏鴉たちは、瞬時に異常なほどの動揺と怒氣に包まれた。
彼らの瞳には、より强烈な憤怒の炎が燃え上がり、空中を狂おしく旋回しながら、次の猛き反擊に備えていた。
「ほう……なかなかやるじゃないか。だが、代償は高くつくぞ!」
扶桑の聲が遠方から響き渡る。その口調には焦りも怒りもなく、まるでこの戰鬥そのものを兒戲と見做しているかのようであった。
扶桑の一聲の號令と共に、空に浮かぶ七つの太陽が突如として異變を起こした。
それはまるで再び覚醒した無數の火焰怪獸のごとく、燃え盛る身體を揺らしながら、動作をさらに加速させていったのである。
それぞれの太陽の表面が激しく震動を始め、灼熱の光芒が不規則に瞬き、放出される能量波動はいっそう强まっていった。
當初、彼らの攻擊にはわずかな規律が残っていたが、今やその全てが崩れ去り、攻擊は完全に予測不能となり、さらに猛烈さを増していく。
攻擊の頻度は急激に上昇し、かつて存在した制限はもはや意味をなさなかった。太陽から放たれる光束は空中で交錯し、分裂しながら、無限の火焰暴風となって戰場の隅々(すみずみ)を蹂躙した。
この時の太陽はまるで暴走する炎のごとく、燃燒を止めることができず、大氣そのものが過熱によって歪み始め、天地全體が灰燼へと化そうとしているかのようであった。
その太陽たちは、まるで計り知れぬ力を授けられたかのように、放つ一撃一撃が、先程を遥かに凌駕する脅威を帯びていた。
敵の攻勢がますます激化するのを見て、女媧と神農氏は即座に方針を變更し、防禦と支援に全力を注いだ。
女媧は兩手を交差させ、その身體から眩い光輝が奔り出た。次いで、彼女の肌に堅固な鱗片が浮かび上がり、その身はたちまち防禦の象徴へと變わった。火焰の强度が高まった今でも、女媧はその攻擊を正面から受け止めることができた。
一方、神農氏は瞬時に輔助魔法の出力を引き上げた。彼の雙眼が閃光を放ち、八階輔助魔法――「金繩結界」を展開する。伏羲と盤古の周圍には金色の光環が形成され、太陽から放たれる攻擊の威力を大幅に減衰させた。
彼らの連携はまさに完璧であり、この圧倒的な攻勢に曝されながらも、彼らは動じることなく安定を保ち続けていた。
しかし、太陽の攻擊は單なる威力の上昇に留まらず、次第に異樣な變化を見せ始めた。
その攻擊はもはや單一の線を描くものではなく、無數の方向へと擴散し、まるで海嘯のような巨大な能量波が戰場全體を吞み込んでいった。
防禦力において屈指の强さを誇る女媧でさえ、その壓倒的な攻勢に押し負けそうになり始めていた。
一擊ごとに爆發する衝擊波は凄まじく、そのたびに地面を揺るがし、周圍の大地や構造物は崩壊を始め、地表には無數の裂縫が走っていった。
「すごいな……まさか素手で敵を倒すなんて。あの力、相當强いんじゃないか?」
私は盤古を見つめながら思わず驚嘆し、心の中で賞賛せずにはいられなかった。
「武器を使わずに、あれほどの威力を出せるなんて……本當に信じられないわ。」
琪蕾雅もまた感嘆を漏らし、その聲には盤古の力に對する敬意が滲んでいた。
「武器、使ってるよ!」
緹雅が隣から元氣よく口を挟んだ。その言葉に、三人の姉妹は思わず驚きの表情を浮かべた。どうやら盤古は純粹に肉體の力だけで戰っていたわけではなく、何か別の武器を用いているらしい。
「えっ! どんな武器なの?」
緹雅はふっと微笑み、穩やかな口調で說明を始めた。
「盤古が使っている技能は、八階戰士化魔法――『格鬥者』よ。この技能を發動すると、彼は一種の格鬥モードに入るの。
この狀態では、彼の攻擊は敵の防禦力の五十パーセントを無視できるわ。」
緹雅は一度言葉を切り、少し間を置いてから續けた。
「それにね、彼の手にはめている拳套は普通の裝備じゃないの。攻防を兼ね備えた神器――修格瑞斯よ。
この神器は盤古の體內に眠る力を引き出すと同時に、極めて高い物理防禦力を與えるの。」
「つまり、彼は格鬥モードに入った狀態で、常人を遥かに超える戰鬥力を發揮し、さらに强力な攻擊を受けても自らを守ることができるというわけね。」
「なるほど……自身の物理防禦力と、神農氏の魔法防禦を組み合わせることで、近距離戰ではほとんど無敵というわけか。」
「そう。でも、もちろん弱點もあるわ。」
緹雅は補足するように續けた。
「近距離の格鬥では、修格瑞斯は間違いなく强力な武器だけど、魔法攻擊に對してはその優位性を充分に發揮できないの。
だからこそ、魔法防禦の面では神農氏の支援が欠かせないのよ。」
ちょうど戰況が激化し、緊迫の極みに達したその瞬間、太陽の背後から突如として異樣な光輝が放たれた。
それは常ならぬほど眩い輝きを放ち、まるで何か强大な力に操られているかのように、戰場全體の空氣を一瞬にして灼熱へと變えた。
光芒の爆發と同時に、太陽の背後から無數の矢が放たれた。
それらの矢は一本一本が妖しく光り輝き、威壓と共に稲妻のような速度で飛翔し、人々(ひとびと)の眼が追いつく暇もないほどであった。
矢が空氣を貫いた瞬間、その周圍の空氣は猛烈に震動し、甲高い悲鳴のような風鳴りを響かせた。
それでもなお、盤古と伏羲は卓越した直感と本能に支えられ、驚くほど鮮やかにその攻擊を回避してみせた。
盤古は反應が極めて迅速であり、たった一歩の踏み込みで射かけられた矢をかわし、その巨躯をひらりと翻した。
一方、伏羲は自身の分身技能を活用した。
彼は矢の狙いを分身へと誘導し、矢がそれを貫いた瞬間には、すでに本體は別の位置で静かに構え直していた。
二人の卓越した反應速度と戰鬥直覺は、彼らをこの熾烈な戰場の中でも決して劣勢に立たせることはなかった。
しかし、女媧にとって狀況はまったく異なっていた。
彼女は神農氏の前方に立ち、本來その身を盾として、仲間を守るための防線であった。
その防禦力は極めて高く、大半の攻擊を正面から受け止めることができるほどであったが、これほどまでに速く、かつ數多い攻擊を前にすると、さすがの彼女も徐々(じょじょ)に疲労の色を見せ始めていた。
矢の鋭利な先端が彼女の身體をかすめ、幾度となく火花を散らしたが、そのどれ一つとして女媧に傷を與えることはなかった。
彼女の權能「防禦鱗片」によって形成された防護力場は、攻擊の衝撃を完全に吸收し、外部への損傷を一切許さなかったのである。
しかし、誰もが氣づき始めた――それらの弓箭の速度は、もはや人間の反應では追いつけないほどに速かったのだ。
その瞬間、女媧はようやく扶桑の真の狙いを悟った。
彼女の瞳がわずかに揺らぎ、背後に立つ神農氏へと視線を向けた――だが、それはすでに遅かった。
風霜を裂く鋭い音と共に、無數の弓箭が奔流のように襲い來る。女媧が受け止めきれなかった矢たちは、一直線に神農氏を狙って飛んだ。
神農氏はとっさに混沌元素屏障を展開し、元素によって構成された魔力箭矢を防ごうとした。
しかし、その矢に宿る不可思議な元素の力は、常ならぬ性質を持っていた。次いの瞬間、それらの矢は屏障を易々(やすやす)と貫通し、その保護の力を無に帰したのである。
神農氏の雙手は矢によって貫かれ、鮮血が瞬時に飛び散った。
神農氏は苦痛に耐えながら歯を食いしばり、雙手に力を込めて治癒の魔法を行使しようとした。
しかし、その治癒能力はうまく働かず、矢が刻みつけた傷は容易に癒えることはなかった。
神明たちの防禦陣形はこの一瞬で崩壊し、神農氏の身體は震え、明らかに深い損傷を受けていた。
その顔色は蒼白に變わり、俯いて必死に痛みを堪えようとするも、流れ出る血が止まる氣配はなかった。
やがて、神農氏は力尽きたように膝を折り、口から鮮血を吐き出すと、そのまま地面へと崩れ落ちた。
すべての者の視線が太陽の背後へと向けられた。
そこには、扶桑が高所に立ち、手には一張の弓を握っていた。弓弦にはなお、放たれたばかりの强烈な氣息が殘っている。
扶桑は冷たく笑い、その瞳には露骨な挑發と嘲弄の色が宿っていた。
彼は薄く唇を歪め、挑むように言葉を放った。
「どうした? 終わりか?」