表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/35

第一卷 第六章 約束を果たす-5

王城おうじょうがわ戦場せんじょうでは、空気くうき次第しだいめ、緊迫きんぱくした雰囲気ふんいきたかまっていった。

そのなかで、最初さいしょうごきをせたのは女媧ジョカだった。

彼女かのじょてきするど見据みすえ、なか魔力まりょくなく循環じゅんかんさせていた。

ひくひび詠唱えいしょうともに、空気くうきなか魔力まりょくふるえ、波紋はもんのようならぎが次々(つぎつぎ)とひろがっていく。

そのちからはまるで一本いっぽんえざるいとのように、戦場せんじょう全体ぜんたい束縛そくばくし、やがてえぬ領域りょういき形成けいせいした。

それは女媧ジョカ八階はちかい魔法まほう――「意念鐘声いねんしょうせい」である。

魔法まほう発動はつどうした瞬間しゅんかん領域りょういき全体ぜんたい空気くうきおもしずみ込み、あたりの世界せかいそのものが静寂せいじゃく支配しはいされたかのようだった。


ひくひび鐘声しょうせい空中くうちゅうひろがり、領域りょういきないにいるすべてのものは、言葉ことばではあらわせないほどの圧迫感あっぱくかんつつまれた。

この鐘声しょうせい直接ちょくせつてき攻撃こうげきするものではない。

だが、それは確実かくじつ相手あいて精神せいしんみだし、こころ均衡きんこうくずしていく。

てき動作どうさ次第しだいにぶくなり、まるでおもたい水流すいりゅうなかあるいているかのように、ひとつひとつの足取あしどりがしずんでいった。

攻撃こうげき一撃いちげきごとにちからうしなわれ、そのうごきは緩慢かんまんで、無力むりょくなものへとわっていく。

女媧ジョカ加護かごけぬかぎり、この領域りょういきるすべてのものは、その影響えいきょうまぬがれることはできないのだった。


女媧ジョカ神農氏しんのうしは、神明かみなかでも至関重要しかんじゅうよう輔助ほじょやくであり、彼女かのじょたちの能力のうりょくたん仲間なかま強化きょうかするだけでなく、保護ほご支援しえんをも提供ていきょうする。

女媧ジョカ權能けんのう防禦鱗片ぼうぎょりんぺん」は、彼女かのじょ自身じしん強大きょうだい防禦力ぼうぎょりょくあたえる。

この權能けんのうにより、女媧ジョカ高階こうかい魔法まほう物理攻擊ぶつりこうげき損傷そんしょう吸收きゅうしゅうし、攻擊こうげきけたさいには、その一部いちぶちから反彈はんたんさせ、攻擊者こうげきしゃ反向はんこうてき傷害しょうがいあたえることができる。

そのため、彼女かのじょ戰場せんじょうにおいて容易よういには突破とっぱできない防線ぼうせんとなり、てきがどれほど強力きょうりょく攻擊こうげきはなとうとも、彼女かのじょ實質的じっしつてき損傷そんしょうあたえることはほとんど不可能ふかのうである。


唯一ゆいいつ方法ほうほうは、女媧ジョカ防禦力ぼうぎょりょく貫通かんつうできるほどの強大きょうだいちからつか、あるいはその防禦力ぼうぎょりょく無視むしできる特別とくべつ武器ぶき使つかうことだけである。そうした攻擊こうげきだけが、彼女かのじょ真実しんじつ損傷そんしょうあたえることができる。

女媧ジョカ防禦力ぼうぎょりょく圧倒的あっとうてきであるが、彼女かのじょ自身じしんには攻擊こうげき特化とっかした技能ぎのう存在そんざいしない。その能力のうりょくは、完全かんぜん保護ほご支援しえん集中しゅうちゅうしている。

ゆえに、彼女かのじょ隊伍たいごにおいて「前台坦克ぜんたいタンク」のような役割やくわりたしている。つね最前線さいぜんせんち、仲間なかまわりに損傷そんしょうけ、てき火力かりょくきつけ、ほかものたちに貴重きちょう時間じかん空間くうかんかせぐのである。


神農氏しんのうしは、輔助ほじょ核心かくしんであると同時どうじに、後方こうほうからの輸出しゅつりょくにな存在そんざいである。かれ能力のうりょく強化きょうか支援しえんによりかたむいており、ほか隊員たいいんたちの戰鬥せんとう效能こうのうたかめるだけでなく、遠距離えんきょりから魔法まほう攻擊こうげきはなちからそなえている。

かれ權能けんのう神草しんそう」は、あらゆる輔助技能ほじょぎのう效果こうか二倍にばいげるちからつ。回復かいふくであれ、增強ぞうきょうであれ、加速かそくであれ、神農氏しんのうしはそれらの技能ぎのう常規じょうきえるほどの效果こうかへと昇華しょうかさせることができるのだ。

そのため、かれ戰鬥せんとうにおいてたんなる支援者しえんしゃではなく、必要ひつようとあらば强力きょうりょく遠距離支援えんきょりしえん提供ていきょうできる存在そんざいとして、隊伍たいご不可欠ふかけつ存在そんざいとなっている。


しかし、神農氏しんのうしには明確めいかく弱點じゃくてん存在そんざいする。

かれ自身じしん魔力量まりょくりょうけっしてたかくはなく、そのため神器しんき朱砂權杖しゅしゃけんじょう」に依存いぞんしなければ、能力のうりょく充分じゅうぶん發揮はっきすることはできない。これによってはじめて、かれ事半功倍じはんこうばい效果こうかることができるのだ。

さらに、かれ移動能力いどうのうりょく非常ひじょう緩慢かんまんであり、步行ほこうであれ回避かいひであれ、その速度そくどほかものたちにくらべてはるかにおそい。そのため、機動力きどうりょくたかてきや、突如とつじょとしてはなたれる攻擊こうげきたいして、かれはしばしば不利ふり位置いちまれることになる。

それだけでなく、神農氏しんのうし輔助魔法ほじょまほう隊友たいやく强大きょうだい支援しえんあたえる一方いっぽうかれ自身じしん物理防禦力ぶつりぼうぎょりょく相對的そうたいてきひくく、大量たいりょう損傷そんしょうえることができない。

ゆえに、女媧ジョカによる保護ほごきわめて重要じゅうようとなる。女媧ジョカかれ掩護えんごあたえる狀況じょうきょうでのみ、神農氏しんのうしはその輔助能力ほじょのうりょく最大限さいだいげん發揮はっきし、隊友たいやくたちに必要不可欠ひつようふかけつ戰鬥支援せんとうしえん提供ていきょうすることができるのである。


伏羲フクキは、神明かみなかでも主要しゅよう攻擊手こうげきしゅであり、完全かんぜん近戰きんせん主軸しゅじくとする戰士せんしである。かれ能力のうりょくたか破壞力はかいりょく靈活れいかつ戰鬥風格せんとうふうがく特化とっかしており、短時間たんじかんのうちにてき甚大じんだい損害そんがいあたえることができる。

伏羲フクキ權能けんのう靈化れいか」は、最大さいだいじゅうたい同一どういつ分身ぶんしん創造そうぞうするちからつ。これらの分身ぶんしん一見いっけんすると單純たんじゅん幻影げんえいのようにえるが、伏羲フクキ本體ほんたい瞬時しゅんじ任意にんい分身ぶんしん位置いちへと移動いどうし、そこに實體じったいとしてあらわれることができる。

この能力のうりょくによって、かれ戰鬥せんとうにおいてきょくめてたか機動性きどうせいにし、戰場せんじょう自在じざいめぐりながら、てき突襲とつしゅう仕掛しかけたり、危險きけん察知さっちして即座そくざ撤退てったいしたりすることができるのである。


そして、伏羲フクキにぎられた神器しんき――雷光牙らいこうがは、かれ戰鬥能力せんとうのうりょく極致きょくちへとげる存在そんざいである。このけんけっして普通ふつう武器ぶきではなく、元素粒子げんそりゅうしによって構成こうせいされた特別とくべつ武器ぶきであり、その構造こうぞう自體じたいきわめてたか元素抗性げんそこうせいつ。火焰かえん冰霜ひょうそう雷電らいでんなど、いかなる元素げんそちからであっても、雷光牙らいこうが容易ようい損傷そんしょうすることはできない。

伏羲フクキは、魔法まほう元素攻擊げんそこうげきたいする耐性たいせいたかくないため、かれ靈活れいかつまわりと分身ぶんしん駆使くししててき攻擊こうげき回避かいひし、さらに雷光牙らいこうがちからかすことで、おおくの魔法攻擊まほうこうげきたいしても冷靜れいせいさをたもつことができる。

しかし、戰鬥せんとう最中さいちゅう大規模だいきぼ範圍はんい魔法攻擊まほうこうげきけた場合ばあい、いかに雷光牙らいこうがであっても完全かんぜんふせることは不可能ふかのうである。そのようなときかれ神農氏しんのうし輔助技能ほじょぎのう掩護えんご依存いぞんして、魔法攻擊まほうこうげきによる致命傷ちめいしょうふせ必要ひつようがある。

もし强力きょうりょく支援しえんがなければ、伏羲フクキ弱點じゃくてんてき看破かんぱされ、防禦ぼうぎょ脆弱ぜいじゃく部分ぶぶん露呈ろていしてしまうだろう。


扶桑ふそう先陣せんじんって攻擊こうげき發動はつどうした瞬間しゅんかんじゅう太陽たいよう高空こうくうにて烈火れっかのごとくがった。扶桑ふそう命令めいれいともに、じゅう太陽たいよう同時どうじ八階魔法はっかいまほう――「烈火彗星れっかすいせい」をはなち、じゅう巨大きょだい火焰彗星かえんすいせい戰場せんじょうの隅々(すみずみ)へかって飛翔ひしょうした。

もしこの攻擊こうげき正面しょうめんからければ、その發生はっせいするエネルギー波動はどうひと瞬時しゅんじくしてしまうほどの破壞力はかいりょくゆうしていた。

だが、このような攻擊こうげきにも神明かみたちは動揺どうようすることはなかった。神農氏しんのうしはすぐさま魔法まほう行使こうしし、兩手りょうてたかかかげ、前線ぜんせん攻擊こうげきにな伏羲フクキ盤古バンコウに、異光いこうはな防護ぼうご障壁しょうへき展開てんかいした。それこそが九階魔法きゅうかいまほう――「混沌元素屏障こんとんげんそへいしょう」である。

この屏障へいしょう完全かんぜん混沌元素こんとんげんそから構成こうせいされ、特定とくてい單一たんいつ元素げんそによる攻擊こうげき遮斷しゃだんするちからつ。

混沌元素屏障こんとんげんそへいしょう」が發動はつどうすると同時どうじに、攻擊波こうげきはかれらに接觸せっしょくした瞬間しゅんかん完全かんぜん吸收きゅうしゅうされ、煙霧けむりのように消散しょうさんし、そのままそらへとんでいった。


しかし、この屏障へいしょうがすべての損傷そんしょう完全かんぜんふせげるわけではなかった。屏障へいしょう有效ゆうこう防禦ぼうぎょできる範圍はんい正面しょうめんのみであり、烏鴉からすたちは盤古バンコウ伏羲フクキ包圍ほういし、四方八方しほうはっぽうからおそいかかってきた。

それだけでなく、攻擊こうげき餘波よは戰場せんじょう全體ぜんたいおおい、層層そうそう氣浪きろうこした。普通ふつうものであれば、そのっていることすら不可能ふかのうであった。

そのなかで、女媧ジョカ神農氏しんのうし前方ぜんぽう毅然きぜんち、おのれ堅固けんこ身體からだもって、おそ衝撃波しょうげきは全力ぜんりょくめた。

彼女かのじょ身體からだ强烈きょうれつ衝擊しょうげきによって幾度いくどさぶられたが、それでも一歩いっぽたりとも退しりぞかず、足元あしもとたしかにみしめ、けっしてくずれることはなかった。


「おや?さすがは神明かみだな。神農氏しんのうし札爾迪克ザルディクさまている。どちらも混沌元素こんとんげんそあつかえるようだ。」

かれらの防禦ぼうぎょにして、米奧娜ミオナおもわず驚嘆きょうたんこえらした。

「ねえ、あの女媧ジョカって、ずいぶん頑丈がんじょうそうだけど、どうしてあれほどの攻擊こうげきけても無傷むきずなの?」

琪蕾雅キレア興味深きょうみぶかそうにたずねる。

「たぶん、彼女かのじょ自身じしん特性とくせいによるものじゃないかな? もしそれが技能ぎのうだったとしたら、かなりきびしい制約せいやくがあるはずよ。」

朵莉ドリとなり真剣しんけん面持おももちで分析ぶんせきくわえた。


神農氏しんのうし女媧ジョカ協力きょうりょくして大部分だいぶぶん攻擊こうげきふせいでいたものの、扶桑ふそう太陽たいようはな魔法まほう範圍はんいはあまりにも廣大こうだいであり、その莫大ばくだいなエネルギーの餘波よは周圍しゅうい甚大じんだい衝擊しょうげきあたえていた。

攻擊こうげきちからをもっとつよめろ!」

扶桑ふそうするど眼光がんこうはなちながら大聲おおごえめいじた。

その瞬間しゅんかんじゅう太陽たいようなか三足烏鴉さんそくうあなにかを感應かんのうしたように身體からだふるわせ、莫大ばくだいちから一斉いっせいかれらの內部ないぶへとながんだ。

その結果けっか攻擊頻度こうげきひんど範圍はんい威力いりょく瞬時しゅんじあらたな次元じげんへとたっし、まるで神秘しんぴてきちからそそがれたかのように、かれらの攻擊こうげきはいっそう迅速じんそくかつ致命的ちめいてきなものへと變貌へんぼうした。

そら一條いちじょう一條いちじょう火焰彗星かえんすいせいは、以前いぜんにもして强烈きょうれつ元素波動げんそはどうはなち、その軌跡きせきはあらゆるものをまたたむかのようであった。

……どうやら、扶桑ふそうはまだ本氣ほんきしていなかったらしい。


攻擊こうげきがさらに激化げきかするのをもくにした女媧ジョカは、ためらうことなく自身じしん神器しんき――貪蛇之鏡たんじゃのかがみいた。

この武器ぶき强力きょうりょく吸收能力きゅうしゅうのうりょくゆうし、接觸せっしょくしたあらゆる元素攻擊げんそこうげき吸收きゅうしゅうして魔力まりょくへと轉換てんかんし、彼女かのじょ自身じしんちからとしてむことができる。

女媧ジョカ貪蛇之鏡たんじゃのかがみをそっとるうと、おそ元素波げんそはまたた鏡面きょうめんまれ、無數むすう魔力流まりょくりゅうとなって彼女かのじょ體內たいないへとそそがれていった。

しかし、この貪蛇之鏡たんじゃのかがみにも明確めいかく制限せいげん存在そんざいする。それは、物理攻擊ぶつりこうげきには一切いっさい效果こうかがなく、さらに元素攻擊げんそこうげき吸收きゅうしゅうしたのちには十分間じゅっぷんかん冷却時間れいきゃくじかん必要ひつようとなるということだ。

その冷却期間れいきゃくきかんのあいだ、貪蛇之鏡たんじゃのかがみふたた機能きのうすることができない。ゆえに、女媧ジョカはその時間じかんあいだにできるかぎりおおくの時間じかんぎ、つぎ機會きかいたねばならなかった。


女媧ジョカ神器しんきもちいて烏鴉からすたちの攻勢こうせいながしているその瞬間しゅんかん伏羲フクキ好機こうきのがさず、素早すばや空中くうちゅうへと跳躍ちょうやくした。

かれ身影みかげ稲妻いなずまのようにひらめき、そらけるごとく疾走しっそうし、そのにぎられた雷光牙らいこうがまばゆ光輝こうきはなっていた。

同時どうじに、神農氏しんのうしかれ八階輔助魔法はっかいほじょまほう――「幽障紋ゆうしょうもん夜蔽よべい」をほどこした。

この魔法まほう自身じしん氣配けはい行動こうどう完全かんぜん遮斷しゃだんし、てき感知かんちから姿すがたすことができる。


神農氏しんのうし支援しえんけた伏羲フクキは、無音むおんのままほのおはな三足烏鴉さんそくうあへと肉薄にくはくし、一閃いっせんけんろした。

やいば烏鴉からすれた瞬間しゅんかんいかずちのような閃光せんこうはしり、烏鴉からすはそのとされた。

火焰かえん劍刃けんじんかれ、煙霧けむりとなってそらり、烏鴉からす肉體にくたいちて、すでにいきえていた。

同時どうじに、盤古バンコウもまた一瞬いっしゅん躊躇ちゅうちょせず、巨體きょたいおどらせてがった。

かれ雙手そうしゅ鋼鐵こうてつのごとく强靭きょうじんで、空中くうちゅうふたつの烏鴉からすくびつかみ取り、そのままちからづよげた。

ふた烏鴉からす盤古バンコウてのひらなかすさまじい悲鳴ひめいげたが、その壓倒的あっとうてき腕力わんりょくまえでは一切いっさいあらがうことができず、盤古バンコウちからめた一瞬いっしゅんで、その首骨くびぼねおとててくだけ、いのちはかなたれた。

ふた烏鴉からすはそのまま地面じめん墜落ついらくし、うごくことなく沈黙ちんもくした。


みずからの同胞どうほうたちがたおされる光景こうけいもくにしたほか三足烏鴉さんそくうあたちは、瞬時しゅんじ異常いじょうなほどの動揺どうよう怒氣どきつつまれた。

かれらのひとみには、より强烈きょうれつ憤怒ふんぬほのおがり、空中くうちゅうくるおしく旋回せんかいしながら、つぎたけ反擊はんげきそなえていた。

「ほう……なかなかやるじゃないか。だが、代償だいしょうたかくつくぞ!」

扶桑ふそうこえ遠方えんぽうからひびわたる。その口調くちょうにはあせりもいかりもなく、まるでこの戰鬥せんとうそのものを兒戲じき見做みなしているかのようであった。

扶桑ふそう一聲いっせい號令ごうれいともに、そらかぶななつの太陽たいよう突如とつじょとして異變いへんこした。

それはまるでふたた覚醒かくせいした無數むすう火焰怪獸かえんかいじゅうのごとく、さか身體からだらしながら、動作どうさをさらに加速かそくさせていったのである。


それぞれの太陽たいよう表面ひょうめんはげしく震動しんどうはじめ、灼熱しゃくねつ光芒こうぼう不規則ふきそくまたたき、放出ほうしゅつされる能量波動のうりょくはどうはいっそうつよまっていった。

當初とうしょかれらの攻擊こうげきにはわずかな規律きりつのこっていたが、いまやそのすべてがくずり、攻擊こうげき完全かんぜん予測不能よそくふのうとなり、さらに猛烈もうれつさをしていく。


攻擊こうげき頻度ひんど急激きゅうげき上昇じょうしょうし、かつて存在そんざいした制限せいげんはもはや意味いみをなさなかった。太陽たいようからはなたれる光束こうそく空中くうちゅう交錯こうさくし、分裂ぶんれつしながら、無限むげん火焰暴風かえんぼうふうとなって戰場せんじょうの隅々(すみずみ)を蹂躙じゅうりんした。

このとき太陽たいようはまるで暴走ぼうそうするほのおのごとく、燃燒ねんしょうめることができず、大氣たいきそのものが過熱かねつによってゆがはじめ、天地てんち全體ぜんたい灰燼かいじんへとそうとしているかのようであった。

その太陽たいようたちは、まるではかれぬちからさずけられたかのように、はな一撃いちげき一撃いちげきが、先程さきほどはるかに凌駕りょうがする脅威きょういびていた。


てき攻勢こうせいがますます激化げきかするのをて、女媧ジョカ神農氏しんのうし即座そくざ方針ほうしん變更へんこうし、防禦ぼうぎょ支援しえん全力ぜんりょくそそいだ。

女媧ジョカ兩手りょうて交差こうささせ、その身體からだからまばゆ光輝こうきほとばした。いで、彼女かのじょはだ堅固けんこ鱗片りんぺんかびがり、そのはたちまち防禦ぼうぎょ象徴しょうちょうへとわった。火焰かえん强度きょうどたかまったいまでも、女媧ジョカはその攻擊こうげき正面しょうめんからめることができた。

一方いっぽう神農氏しんのうし瞬時しゅんじ輔助魔法ほじょまほう出力しゅつりょくげた。かれ雙眼そうがん閃光せんこうはなち、八階輔助魔法はっかいほじょまほう――「金繩結界きんじょうけっかい」を展開てんかいする。伏羲フクキ盤古バンコウ周圍しゅういには金色こんじき光環こうかん形成けいせいされ、太陽たいようからはなたれる攻擊こうげき威力いりょく大幅おおはば減衰げんすいさせた。

かれらの連携れんけいはまさに完璧かんぺきであり、この圧倒的あっとうてき攻勢こうせいさらされながらも、かれらはうごじることなく安定あんていたもつづけていた。


しかし、太陽たいよう攻擊こうげきたんなる威力いりょく上昇じょうしょうとどまらず、次第しだい異樣いよう變化へんかはじめた。

その攻擊こうげきはもはや單一たんいつせんえがくものではなく、無數むすう方向ほうこうへと擴散かくさんし、まるで海嘯かいしょうのような巨大きょだい能量波のうりょくは戰場せんじょう全體ぜんたいんでいった。

防禦力ぼうぎょりょくにおいて屈指くっしつよさをほこ女媧ジョカでさえ、その壓倒的あっとうてき攻勢こうせいけそうになりはじめていた。

一擊いちげきごとに爆發ばくはつする衝擊波しょうげきはすさまじく、そのたびに地面じめんるがし、周圍しゅうい大地だいち構造物こうぞうぶつ崩壊ほうかいはじめ、地表ちひょうには無數むすう裂縫れっぽうはしっていった。


「すごいな……まさか素手すでてきたおすなんて。あのちから相當そうとうつよいんじゃないか?」

私は盤古バンコウつめながらおもわず驚嘆きょうたんし、こころなか賞賛しょうさんせずにはいられなかった。

武器ぶき使つかわずに、あれほどの威力いりょくせるなんて……本當ほんとうしんじられないわ。」

琪蕾雅キレアもまた感嘆かんたんらし、そのこえには盤古バンコウちからたいする敬意けいいにじんでいた。

武器ぶき使つかってるよ!」

緹雅ティアとなりから元氣げんきよくくちはさんだ。その言葉ことばに、みっにん姉妹しまいおもわずおどろきの表情ひょうじょうかべた。どうやら盤古バンコウ純粹じゅんすい肉體にくたいちからだけでたたかっていたわけではなく、なにべつ武器ぶきもちいているらしい。

「えっ! どんな武器ぶきなの?」


緹雅ティアはふっと微笑ほほえみ、おだやかな口調くちょう說明せつめいはじめた。

盤古バンコウ使つかっている技能ぎのうは、八階戰士化魔法はっかいせんしかまほう――『格鬥者かくとうしゃ』よ。この技能ぎのう發動はつどうすると、かれ一種いっしゅ格鬥かくとうモードにはいるの。

この狀態じょうたいでは、かれ攻擊こうげきてき防禦力ぼうぎょりょくの五十パーセントを無視むしできるわ。」

緹雅ティア一度いちど言葉ことばり、すこいてからつづけた。

「それにね、かれにはめている拳套けんとう普通ふつう裝備そうびじゃないの。攻防こうぼうそなえた神器しんき――修格瑞斯シュグレスよ。

この神器しんき盤古バンコウ體內たいないねむちからすと同時どうじに、きわめてたか物理防禦力ぶつりぼうぎょりょくあたえるの。」

「つまり、かれ格鬥かくとうモードにはいった狀態じょうたいで、常人じょうじんはるかにえる戰鬥力せんとうりょく發揮はっきし、さらにつよりょく攻擊こうげきけてもみずからをまもることができるというわけね。」

「なるほど……自身じしん物理防禦力ぶつりぼうぎょりょくと、神農氏しんのうし魔法防禦まほうぼうぎょわせることで、近距離戰きんきょりせんではほとんど無敵むてきというわけか。」


「そう。でも、もちろん弱點じゃくてんもあるわ。」

緹雅ティア補足ほそくするようにつづけた。

近距離きんきょり格鬥かくとうでは、修格瑞斯シュグレス間違まちがいなく强力きょうりょく武器ぶきだけど、魔法攻擊まほうこうげきたいしてはその優位性ゆういせい充分じゅうぶん發揮はっきできないの。

だからこそ、魔法防禦まほうぼうぎょめんでは神農氏しんのうし支援しえんかせないのよ。」


ちょうど戰況せんきょう激化げきかし、緊迫きんぱくきょくみにたっしたその瞬間しゅんかん太陽たいよう背後はいごから突如とつじょとして異樣いよう光輝こうきはなたれた。

それはつねならぬほどまばゆかがやきをはなち、まるでなに强大きょうだいちからあやつられているかのように、戰場せんじょう全體ぜんたい空氣くうき一瞬いっしゅんにして灼熱しゃくねつへとえた。

光芒こうぼう爆發ばくはつ同時どうじに、太陽たいよう背後はいごから無數むすうはなたれた。

それらの一本いっぽん一本いっぽんあやしくひかかがやき、威壓いあつとも稲妻いなずまのような速度そくど飛翔ひしょうし、人々(ひとびと)のまなこいつくいとまもないほどであった。

空氣くうきつらぬいた瞬間しゅんかん、その周圍しゅうい空氣くうき猛烈もうれつ震動しんどうし、甲高かんだか悲鳴ひめいのような風鳴かぜなりをひびかせた。


それでもなお、盤古バンコウ伏羲フクキ卓越たくえつした直感ちょっかん本能ほんのうささえられ、おどろくほどあざやかにその攻擊こうげき回避かいひしてみせた。

盤古バンコウ反應はんのうきわめて迅速じんそくであり、たった一歩いっぽみ込みでかけられたをかわし、その巨躯きょくをひらりとひるがえした。

一方いっぽう伏羲フクキ自身じしん分身ぶんしん技能ぎのう活用かつようした。

かれねらいを分身ぶんしんへと誘導ゆうどうし、がそれをつらぬいた瞬間しゅんかんには、すでに本體ほんたいべつ位置いちしずかにかまなおしていた。

二人ふたり卓越たくえつした反應速度はんのうそくど戰鬥直覺せんとうちょっかくは、かれらをこの熾烈しれつ戰場せんじょうなかでもけっして劣勢れっせいたせることはなかった。


しかし、女媧ジョカにとって狀況じょうきょうはまったくことなっていた。

彼女かのじょ神農氏しんのうし前方ぜんぽうち、本來ほんらいそのたてとして、仲間なかままもるための防線ぼうせんであった。

その防禦力ぼうぎょりょくきわめてたかく、大半たいはん攻擊こうげき正面しょうめんからめることができるほどであったが、これほどまでにはやく、かつ數多かずおお攻擊こうげきまえにすると、さすがの彼女かのじょも徐々(じょじょ)に疲労ひろういろはじめていた。

鋭利えいり先端せんたん彼女かのじょ身體からだをかすめ、幾度いくどとなく火花ひばならしたが、そのどれひとつとして女媧ジョカきずあたえることはなかった。

彼女かのじょ權能けんのう防禦鱗片ぼうぎょりんぺん」によって形成けいせいされた防護力場ぼうごりょくばは、攻擊こうげき衝撃しょうげき完全かんぜん吸收きゅうしゅうし、外部がいぶへの損傷そんしょう一切いっさいゆるさなかったのである。


しかし、だれもがづきはじめた――それらの弓箭きゅうせん速度そくどは、もはや人間にんげん反應はんのうではいつけないほどにはやかったのだ。

その瞬間しゅんかん女媧ジョカはようやく扶桑ふそうしんねらいをさとった。

彼女かのじょひとみがわずかにらぎ、背後はいご神農氏しんのうしへと視線しせんけた――だが、それはすでにおそかった。

風霜ふうそうするどおとともに、無數むすう弓箭きゅうせん奔流ほんりゅうのようにおそる。女媧ジョカめきれなかったたちは、一直線いっちょくせん神農氏しんのうしねらってんだ。

神農氏しんのうしはとっさに混沌元素屏障こんとんげんそへいしょう展開てんかいし、元素げんそによって構成こうせいされた魔力箭矢まりょくせんしふせごうとした。

しかし、その宿やど不可思議ふかしぎ元素げんそちからは、つねならぬ性質せいしつっていた。いの瞬間しゅんかん、それらの屏障へいしょうを易々(やすやす)と貫通かんつうし、その保護ほごちからしたのである。


神農氏しんのうし雙手そうしゅによってつらぬかれ、鮮血せんけつ瞬時しゅんじった。

神農氏しんのうし苦痛くつうえながらいしばり、雙手そうしゅちからめて治癒ちゆ魔法まほう行使こうししようとした。

しかし、その治癒能力ちゆのうりょくはうまくはたらかず、きざみつけたきず容易よういえることはなかった。

神明かみたちの防禦陣形ぼうぎょじんけいはこの一瞬いっしゅん崩壊ほうかいし、神農氏しんのうし身體からだふるえ、あきらかにふか損傷そんしょうけていた。

その顔色かおいろ蒼白そうはくわり、うつむいて必死ひっしいたみをこらえようとするも、ながまる氣配けはいはなかった。

やがて、神農氏しんのうしちからきたようにひざり、くちから鮮血せんけつすと、そのまま地面じめんへとくずちた。


すべてのもの視線しせん太陽たいよう背後はいごへとけられた。

そこには、扶桑ふそう高所こうしょち、には一張いっちょうゆみにぎっていた。弓弦ゆづるにはなお、はなたれたばかりの强烈きょうれつ氣息きそくのこっている。

扶桑ふそうつめたくわらい、そのひとみには露骨ろこつ挑發ちょうはつ嘲弄ちょうろういろ宿やどっていた。

かれうすくちびるゆがめ、いどむように言葉ことばはなった。

「どうした? わりか?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ