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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第六章 約束を果たす-4

わたしたちは聖王国せいおうこく居住小屋きょじゅうこやにいる)

わたし緹雅ティア小屋こやなかならんですわり、「衛星視野えいせいしや」をとおして聖王国せいおうこく戦闘せんとう様子ようすしずかに観察かんさつしていた。

そと緊張きんちょう気配けはいちていたが、わたしたちはこのしずかな小屋こやなかで、特別とくべつ道具どうぐ使つかい、遠隔えんかくから神明かみたちと扶桑ふそうとのたたかいを見守みまもっていた。

衛星視野えいせいしや」というこの道具どうぐは、遠距離えんきょり偵察ていさつ映像共有えいぞうきょうゆう可能かのうにするが、その使用範囲しようはんい無限むげんではない。

距離きょりには限界げんかいがあり、自由じゆう移動いどうすることもできず、固定こていされた視点してんでしか観察かんさつできなかった。

そのため、わたしたちは戦場せんじょうおくみ、直接ちょくせつたたかいの空気くうきかんることはできなかった。


「わあ! おもってたよりあのおとこ、けっこうつよそうじゃない!」

緹雅ティアひとみかがやき、こえには興奮こうふんちていた。

たたかいのがすでに彼女かのじょ体内たいないさわはじめているようだった。

なぜだかからないが、彼女かのじょはこうした戦闘せんとう光景こうけいとくつよ興味きょうみいだく。

はげしいたたかいを見るたびに、彼女かのじょはいつも自分じぶんもそのなかみたくなるのだった。

職業しょくぎょう特性とくせいからると、扶桑ふそう奧斯蒙オスモンているな。」

わたしは「鑑定かんてい」をとおして扶桑ふそうくわしく観察かんさつし、そのちから技能ぎのう分析ぶんせきしていた。

「だが、防御ぼうぎょめんでは奧斯蒙オスモンよりもうえかもしれない。」

わたしがそううと、ほかものたちはおもわずいきんだ。

扶桑ふそう能力のうりょく奧斯蒙オスモンている部分ぶぶんもあったが、防御力ぼうぎょりょくはそれを上回うわまわるほどにつよきょうだいだった。

衛星視野えいせいしや」による遠隔観察えんかくかんさつでさえ、そのちから一端いったんをはっきりととらえることができた。


わたし扶桑ふそう能力のうりょくたいする評価ひょうかいた妲己ダッキは、あきらかにおどろきをかくせない表情ひょうじょうせた。

「なっ……なにですって? 奧斯蒙オスモンさまよりもつよいのですか?」

彼女かのじょおおきく見開みひらき、おもわずこえげた。

妲己ダッキたちにとって、奧斯蒙オスモンじゅうにんなかでも最強さいきょうかぞえられる存在そんざいである。

もしそれとならものあらわれたとすれば、それは間違まちがいなくおおきな脅威きょういとなる。

私はかるくびり、すこしの沈黙ちんもくのあと、しずかにくちひらいた。

「いや……私はただ、おな職業しょくぎょう特性とくせいという観点かんてんから防御力ぼうぎょりょくくらべたにすぎない。

ほか能力のうりょくにおいては、やはり奧斯蒙オスモンのほうがはるかにうえだ。」


奧斯蒙オスモン防御力ぼうぎょりょくわたしたちのなかではもっとひく部類ぶるいはいるが、実際じっさいかれきずあたえることはほとんど不可能ふかのうだった。

奧斯蒙オスモンはゲームない負傷ふしょうした経験けいけんがわずかいつしかなく、わたしたちのなかでは二番目にばんめすくない。

そのうち一度いちどわたしによるもので、一度いちど姆姆魯ムムル一度いちど亞米アミ、そしてのこふたたび緹雅ティアによるものだった。

もっとすくないのは亞米アミで、かれみったびしかきずったことがない。

そのみったびは、わたし緹雅ティア、そして芙莉夏フリシャによるものだった。

ゆえに、奧斯蒙オスモンつよさは実際じっさいかれ相対あいたいしてみなければ理解りかいできない。

かれ攻撃力こうげきりょく速度そくど、そして戦略せんりゃく運用うんようはいずれも卓越たくえつしていた。

扶桑ふそうすぐれた防御能力ぼうぎょのうりょくつが、ほかめんでは奧斯蒙オスモンのような総合的そうごうてきつよさをしめしてはいなかった。


妲己ダッキわたし言葉ことばいて安心あんしんしたようだった。

しかし、その直後ちょくご彼女かのじょはわずかにまゆをひそめ、かおわたしのほうへけた。

凝里ギョウリさま、つおつもりはないのですか?」

彼女かのじょこえには、聖王国せいおうこく神明かみたちがこのかくてき対抗たいこうできるのかという不安ふあんがにじんでいた。

私はちいさくいきき、現状げんじょうしずかに思案しあんした。

このようなたたかいに軽々(かるがる)しく介入かいにゅうすれば、我々(われわれ)のちからさらすおそれがある。

それに、相手あいてそこれぬままうごくのは、あまりにも危険きけんだ。

いま情勢じょうせい見極みきわめるべきときだと判断はんだんした。

鑑定かんてい結果けっかを見るかぎり、あのおとこ蚩尤シユウをもしの強者つわもの──

そのかれなにかくっているか、油断ゆだんはできない。

「いや……相手あいてふだからぬうちは、無闇むやみすのは危険きけんだ。」


緹雅ティアわたし言葉ことばいてもめず、あいわらず興奮こうふんびた表情ひょうじょうかべていた。

「じゃあ、わたしのスキルを使つかってみるのはどう? この距離きょりなら、制御せいぎょ簡単かんたんだし。」

緹雅ティア幻象げんしょうスキルは非常ひじょう強力きょうりょくで、彼女かのじょしん実力じつりょくさら心配しんぱいはまったくなかった。

そのため、彼女かのじょつことになん躊躇ちゅうちょいだいていなかった。

「だが……」

私はまだまよいをぬぐえずにいた。

大丈夫だいじょうぶだって! 本気ほんきさないから。」

緹雅ティアかるり、まるでわたしかんがえすぎだとわんばかりにわらってみせた。


「いや……わたし心配しんぱいしているのは、そこではない。」

私は緹雅ティアつめながらった。

わたしにしているのは、相手あいてがどんなふだっているかからないというてんだ。

情報じょうほう不十分ふじゅうぶんなままでは、もし前回ぜんかいのようなことこれば──

たとえ幻象げんしょうであっても、わたし心臓しんぞうはもたない。

だからいま様子ようすよう。相手あいて実力じつりょくたしかめてからでもおそくはない。

それに、神明かみたちのちから観察かんさつできるしな。」

私は自分じぶん懸念けねん正直しょうじきつたえた。

それは緹雅ティアへの心配しんぱいだけでなく、戦局せんきょく全体ぜんたいへの慎重しんちょう警戒けいかいでもあった。

相手あいてそこれぬうちは、軽率けいそつ行動こうどうは、むしろ我々(われわれ)をさらなる危機ききへとむだけだった。


わたし言葉ことばいた緹雅ティアは、しずかにひるがえし、かおけた。

そのほおはこれまで以上いじょうあかまり、どうやら彼女かのじょわたしことば自分じぶんなりにべつ意味いみ解釈かいしゃくしてしまったようだった。

彼女かのじょなにわなかったが、すでにわたしむねうちにある懸念けねん理解りかいしていた。

それ以上いじょういてかえすこともなく、しずかにこしろしてすわった。

しかし、わたしづかなかったのは、妲己ダッキ三姉妹さんしまいたちが背後はいごでそっとわらっていたことだった。

彼女かのじょたちの笑声えしょうちいさく空気くうきなかひびき、あきらかにこの光景こうけいさっしてのものだった。

彼女かのじょたちはわたしたちがづいていないとおもっていたが、緹雅ティアはすでにづいていた。


緹雅ティア見開みひらき、かお真紅しんくめると、いきおいよくかえった。

つぎ瞬間しゅんかん彼女かのじょかくしのように三人さんにんかたおもたたいた。

その動作どうさいかりというより、ずかしさをまぎらわせるような、どこかいとらしいものだった。


発狂はっきょうしたたい神獸しんじゅうは、「聖光せいこう制裁せいさい」がえたのち暴走ぼうそうめることはなかった。

亞拉斯アラース神明かみたちの指示しじけ、すぐさま騎士団長きしだんちょうたちをひきいて全力ぜんりょく鎮圧ちんあつし、王都おうとへの脅威きょういふせいだ。

かつて王国おうこくまもっていたこれらの神獸しんじゅうは、いま制御せいぎょうしなった怪物かいぶつし、無情むじょう周囲しゅういすべてをおそっていた。

ひかりったあとも、聖王国せいおうこく兵士へいしたちは警戒けいかいゆるめることはなかった。

むしろかれらは一層いっそう緊張感きんちょうかんをもってのぞみ、兵士へいしとしての本分ほんぶん見事みごとしめしていた。


先程さきほど扶桑ふそうおおきな打撃だげきけたばかりの亞拉斯アラースだったが、目前もくぜん状況じょうきょうまえにしても、その眼差まなざしには確固かっこたる自信じしん宿やどっていた。

両手りょうてゆみをしっかりとにぎりしめ、たい神獸しんじゅうするど見渡みわたす。

かれっていた──

この守護獸しゅごじゅうたちをはや鎮圧ちんあつしなければ、王都おうとはすぐに壊滅かいめつしてしまうだろうと。

神明かみさまがこの戦場せんじょうを我々(われわれ)にたくされた以上いじょうけっして神明かみさまを失望しつぼうさせるわけにはいかない!」

亞拉斯アラースたからかにこえげ、その言葉ことばほのおのように兵士へいしたちのこころがらせた。

その一語いちご一語いちごが、騎士団長きしだんちょうたち一人ひとりひとりのむね強烈きょうれつ鼓舞こぶあたえる。

亞拉斯アラース背後はいごなら騎士団長きしだんちょうたちは、そのこえいて士気しきおおきくたかまった。

かれらは力強ちからづよかまなおし、にした武器ぶきらせ、するど金属音きんぞくおん戦場せんじょうひびわたった。


亞拉斯アラースはこれまで、どこか尊大そんだいで、つねかるんじたような表情ひょうじょうかべることがおおかったため、わたしたちにはすこ傲慢ごうまん印象いんしょうあたえていた。

だが、いまこの場面ばめんせたかれ指導力しどうりょく判断力はんだんりょくは、だれもがみとめざるをなかった。

なによりも、亞拉斯アラース決断けつだんまよいがなく、つねもっと重要じゅうよう瞬間しゅんかんにおいて的確てきかく指示しじくだす。

その姿勢しせいこそが、騎士団長きしだんちょうたちすべてがかれふかうやま理由りゆうひとつであった。


扶桑ふそうはなった精神魔法せいしんまほう聖光せいこう制裁せいさい」は、精神せいしん支配しはいするちからっていたが、個体こたい完全かんぜんあやつることはできなかった。

そのため、たい神獸しんじゅうたちの攻撃こうげきパターンはじつのところ単調たんちょうであった。

青龍せいりゅう東方とうほうそらなく旋回せんかいし、するどつめるいながら周囲しゅういすべてをこうとしていた。

白虎びゃっこ王城おうじょう街路がいろあばまわり、そのたけ体当たいあたりで建物たてものまでも次々(つぎつぎ)とくずしていく。

朱雀すざく玄武げんぶもまたおさがた狂気きょうきまれ、理性りせいうしなっていた。

かれらの暴走ぼうそう戦場せんじょう全体ぜんたいをさらなる混沌こんとんへとおとしいれ、聖王国せいおうこく修羅しゅらのごとき光景こうけいえていった。


それでも亞拉斯アラースすこしもあわててはいなかった。

暴走ぼうそうした守護獸しゅごじゅうたちは、かけほど対処たいしょむずかしい相手あいてではなかったからだ。

たい神獸しんじゅう攻撃こうげきたしかに強力きょうりょくだが、攻撃こうげきかたることができれば、十分じゅうぶん反撃はんげき糸口いとぐちつかむことができる。

亞拉斯アラース即座そくざ決断けつだんくだし、戦場せんじょう状況じょうきょう素早すばや分析ぶんせきして、周囲しゅうい団長だんちょうたちへ指示しじばした。

準備じゅんびととのえろ、すぐに行動こうどう開始かいしする!」

亞拉斯アラースするど号令ごうれいが、戦場せんじょう全体ぜんたいひびわたった。


亞拉斯アラースはすぐさま七階ななかい戦技せんぎ――「漩渦箭せんうせん」を発動はつどうした。

それは強力きょうりょくかぜ元素げんそびたであり、目標もくひょう移動能力いどうのうりょくふうじる特性とくせいっていた。

この戦技せんぎ特徴とくちょうは、はなたれた瞬間しゅんかん目標もくひょう周囲しゅうい強大きょうだい気流きりゅううずし、その移動速度いどうそくど徹底的てっていてきうばてんにあった。

その風渦ふうかときあらし中心ちゅうしんへとてきめるほどのちからつ。

亞拉斯アラースは、暴走ぼうそうする玄武げんぶねらってはなたれた。

そのとき玄武げんぶ重厚じゅうこう甲羅こうら大地だいち何度なんどたたきつけ、すさまじい衝撃しょうげき周囲しゅうい建物たてものを次々(つぎつぎ)と粉砕ふんさいしていた。

玄武げんぶへとせまった瞬間しゅんかん周囲しゅうい空気くうきゆがみ、玄武げんぶ四肢しし急速きゅうそくおもくなった。

もとより鈍重どんじゅうなそのうごきは、いっそう緩慢かんまんなものとなる。

命中めいちゅうすると同時どうじに、強大きょうだいかぜ元素げんそ玄武げんぶつつみ込み、その動作どうさ大幅おおはばにぶらせた。

はげしい風渦ふうか玄武げんぶをそのしばりつけ、いかにあばれようとも、その風暴ふうぼう束縛そくばくからのがれることはできなかった。

玄武げんぶ咆哮ほうこうにはいかりがにじんでいたが、そのなげきもかぜにかきされていった。


漩渦箭せんうせん玄武げんぶうごきを見事みごとふうじたのを確認かくにんすると、亞拉斯アラースはすぐに部隊ぶたい指示しじくだした。

それにこたえて、派克パック索拉ソラ、そして艾瑞達エイレダさんめい騎士団長きしだんちょう連携れんけいして組合くみあわせ魔法まほう――「泥牢でいろう」を発動はつどうした。

無数むすう泥土でいど地面じめんからがり、玄武げんぶつつむようにしてその巨体きょたいしばげる。

あっという玄武げんぶ足元あしもとはぬかるみとし、その行動こうどう完全かんぜんふうじられた。

玄武げんぶ巨大きょだい身体からだどろまれ、いかにふるわせても、もはや一歩いっぽたりとも前進ぜんしんできなかった。

「やったぞ!」

派克パックこえにはよろこびがにじんでいた。

「まだわっていない! いそげ、支援しえんつづけろ!」

艾瑞達エイレダ即座そくざ騎士団きしだんほかものたちへ命令めいれいばし、玄武げんぶふたたさぬよう万全ばんぜん態勢たいせいらせた。


玄武げんぶ制御せいぎょ成功せいこうすると、亞拉斯アラースふたたゆみしぼり、ねらいをさだめた。

今度こんど標的ひょうてき白虎びゃっこである。

白虎びゃっこ俊敏しゅんびんうごまわっていたが、王都おうと地下ちかめぐらされた建築構造けんちくこうぞう行動こうどう自由じゆううばい、その巨大きょだい身体からだ十分じゅうぶんかせずにいた。

亞拉斯アラースはその一瞬いっしゅんすきのがさなかった。

かれはなち、ふたた七階ななかい戦技せんぎ――「漩渦箭せんうせん」を発動はつどうした。

からほうたれた風暴ふうぼう白虎びゃっこ巨体きょたい直撃ちょくげきし、その全身ぜんしんうずのようなかぜつつんだ。

白虎びゃっこはげしく咆哮ほうこうし、束縛そくばくはらおうとしたが、亞拉斯アラース攻撃こうげきによってその機動性きどうせい大幅おおはばがれていた。

亞拉斯アラース後羿弓こうげいきゅう加護かごのもと、正確せいかくにその軌道きどう見切みきり、再度さいど一撃いちげき命中めいちゅうさせた。

白虎びゃっこうごきは完全かんぜんふうじられ、反撃はんげきするちからうしなった。

ふたたい神獸しんじゅう制圧せいあつ成功せいこうしたのをけ、騎士団長きしだんちょうたちはすぐさま連携れんけいし、両者りょうしゃ確実かくじつ拘束こうそくして地上ちじょう脅威きょういおさんだ。

だが、青龍せいりゅう朱雀すざくはいまだ天空てんくう自由じゆうい、依然いぜんとして制御せいぎょ不能ふのう脅威きょういとしてのこっていた。


上空じょうくう旋回せんかいする青龍せいりゅう朱雀すざくは、亞拉斯アラースはな容易よういくかわしていた。

それは亞拉斯アラースにとっても予想よそう範囲内はんいないのことだった。

青龍せいりゅう朱雀すざくは、聖王国せいおうこく四方しほうまも神獸しんじゅうなかでもとく強大きょうだい存在そんざいであり、常人じょうじん想像そうぞうをはるかにえる速度そくど敏捷びんしょうさをそなえていた。

そのうごきはまるで稲妻いなずまのごとく、ひとたびえば空気くうきさえふるわせる威圧感いあつかんはなっていた。

かれらをくことは、容易よういなことではなかった。

亞拉斯アラースそらいてんだが、朱雀すざくはそれを軽々(かるがる)と回避かいひした。

全身ぜんしんほのおつつまれた朱雀すざくは、飛翔ひしょうするたびに流星りゅうせいのような光跡こうせきのこし、瞬時しゅんじ進路しんろえて亞拉斯アラース攻撃こうげきをすりけた。

をつけろ! 朱雀すざく攻撃こうげきうつる!」

亞拉斯アラースするど見開みひらかれた。

朱雀すざく突如とつじょ旋回せんかいめ、いきおいよく上空じょうくうへと飛翔ひしょうしたのだ。

たかみをり、そこから一撃いちげきすべてをくそうとしているかのようだった。

その瞬間しゅんかん朱雀すざく体躯たいくそらなかでさらに膨張ぼうちょうし、はね一本いっぽん一本いっぽんがるようにひかかがやいた。

それはまるでてんがすほのお化身けしんであり、灼熱しゃくねつ流光りゅうこうとなって天空てんくうのぼっていった。


霏亞フェイア艾洛斯洛エイロスロ! 援護えんごたのむ!」

亞拉斯アラース大声おおごえさけんだ。

かれはよくかっていた――自分じぶんひとりのちからでは、朱雀すざくのこの強力きょうりょく一撃いちげきふせれないことを。

了解りょうかい!」

霏亞フェイア艾洛斯洛エイロスロこえがほぼ同時どうじひびわたった。

ふた騎士団長きしだんちょう即座そくざ連携れんけいし、協同きょうどう魔法まほう発動はつどうした。


このとき朱雀すざく速度そくどはすでに極限きょくげんたっしていた。

一瞬いっしゅんのうちに上空じょうくう雲層うんそうけ、ぐにてんつらぬき、ついに全力ぜんりょく攻撃こうげきはなつための高度こうど到達とうたつした。

その瞬間しゅんかん亞拉斯アラースもまた、異様いよう気配けはい敏感びんかんかんった。

朱雀すざく咆哮ほうこう天際てんさいとどろき、ほのお雷鳴らいめいともなってひびわたる。

その全身ぜんしんからはなたれるエネルギーは、まるでいまにも噴火ふんかしそうな火山かざんのようであった。

そして朱雀すざくつばさおおきくふるわせ、つぎ瞬間しゅんかん――その身体からだからほのおのような光波こうは爆発的ばくはつてき放出ほうしゅつされた。

そのほのおはあらゆるものをみ込み、まるで王国おうこくそのものをくそうとしているかのようだった。


それは朱雀すざく七階ななかい魔法まほう――「炎鳥天墜えんちょうてんつい」であった。

そのほのお万鈞ばんきんいかずちのごとくそらき、上空じょうくうから地上ちじょうへとたたきつけられた。

はなたれるエネルギーの波動はどうはあまりにも巨大きょだいで、ただその気迫きはくだけでもにいるすべてのものいきうばうほどだった。

騎士団きしだんだれもが、その朱雀すざくからはなたれる圧力あつりょくはだかんじていた。

その威圧感いあつかんはまるでてんからせる災厄さいやくのようで、むねめつけるような息苦いきぐるしさをともなっていた。

はじめてこのわざもくにするものにとっては、その圧倒的あっとうてき迫力はくりょくだけでひざふるえ、恐怖きょうふこころ支配しはいされるには十分じゅうぶんだった。


しかし、この圧倒的あっとうてきちからでさえ、聖王国せいおうこく騎士団きしだんだれ一人ひとりとして恐怖きょうふおぼえることはなかった。

それは、かれらがつい先程さきほど、この攻撃こうげきをもしのぐほどの威圧いあつをすでに体験たいけんしていたからである。

かれらの脳裏のうりかんだのは、ただひとつの存在そんざい――金色こんじき死神しにがみばれる緹雅ティア姿すがたであった。

つい先日せんじつ緹雅ティアとの対決たいけつおもかえすだけで、この程度ていどちからではもはや動揺どうようすることはない。

いまこの瞬間しゅんかんかれらの胸中きょうちゅうにあるのは、ただひとつ――

自分じぶんたちのくにまもくという、るぎなき決意けついであった。


おれたちはけない!」

亞拉斯アラース力強ちからづよさけび、るぎない眼差まなざしで戦術せんじゅつ即座そくざなおした。

朱雀すざく攻撃こうげき戦場せんじょう焦土しょうどえようとも、かれ冷静れいせいさをうしなわず、ただ最適さいてき瞬間しゅんかんつづけていた。

そして、朱雀すざくほのお地上ちじょうそそごうとしたその刹那せつな亞拉斯アラースて、自身じしん八階はちかい魔法まほう――「海噬かいし」を発動はつどうした。

それは神明かみとの修行しゅぎょうによって成果せいかであり、津波つなみのごとき膨大ぼうだいみずちから召喚しょうかんし、すべてを奔流ほんりゅうつぶ魔法まほうであった。

亞拉斯アラース詠唱えいしょうともに、天空てんくう雲層うんそうはげしくうずき、滾々(こんこん)とがる大水流だいすいりゅう姿すがたあらわした。

やがて、その洪流こうりゅうてんからはしち、まっすぐに降下こうかしてくる朱雀すざくめがけて激突げきとつした。


亞拉斯アラース全神経ぜんしんけい集中しゅうちゅうさせ、にぎ弓弦ゆみづるふたたしぼった。

たかひび弦音げんおんそらき、そのおと同時どうじ海洋かいようちから爆発的ばくはつてきはなたれた。

おなころ艾洛斯洛エイロスロもまた五階ごかい魔法まほう――「岩碎連撃がんさいれんげき」を発動はつどうし、朱雀すざくたいしてない損傷そんしょうあたえた。

弓矢ゆみやはなつエネルギーにみちびかれた水流すいりゅうは、たきのように怒濤どとうとなって朱雀すざくへとおそいかかる。

その奔流ほんりゅう朱雀すざく速度そくどおさえ、さかほのおをもそうとした。

朱雀すざく瞬時しゅんじ洪流こうりゅうへとまれ、全身ぜんしんみず奔流ほんりゅうたれながらも、なおはげしくもがき、必死ひっしにその束縛そくばくからのがれようとした。


霏亞フェイア同時どうじ五階ごかい魔法まほう――「召雷しょうらい」を発動はつどうした。

雷霆らいていちからてんよりそそぎ、海水かいすい奔流ほんりゅう交錯こうさくして、みみつんざ轟音ごうおんひびかせた。

雷撃らいげき水流すいりゅうらわれた朱雀すざく直撃ちょくげきし、瞬時しゅんじにその麻痺まひさせる。

強烈きょうれつ電流でんりゅう朱雀すざく全身ぜんしんけ、つばさ制御せいぎょうしない、均衡きんこうくずした朱雀すざくそらからきゅうらくした。

いまだ、さえめ!」

亞拉斯アラース即座そくざ号令ごうれいはっした。

騎士団きしだん団員だんいんたちは一斉いっせい行動こうどう開始かいしする。

朱雀すざくはげしくもがき抵抗ていこうしたが、その体力たいりょくはすでに限界げんかいたっしており、全身ぜんしん麻痺まひによってうごきをうしなっていた。

やがて、朱雀すざく地上ちじょうへと墜落ついらくし、その巨体きょたいたたきつけられた衝撃しょうげきで、王都おうと大地だいち亀裂きれつはしった。

朱雀すざく無力むりょくたおれると同時どうじに、騎士団きしだん団員だんいんたちは素早すばや包囲ほうい完成かんせいさせ、ついにその完全かんぜん制圧せいあつした。


しかし、そのときまだひとつの脅威きょうい空中くうちゅう旋回せんかいしていた。

天空てんくうにいる青龍せいりゅうかず、くるうようにうごめいていた。

先程さきほど亞拉斯アラース攻撃こうげき同時どうじ青龍せいりゅうをもねらっていたが、青龍せいりゅうはそれを容易ようい回避かいひしていた。

「この程度ていど攻撃こうげきは、青龍せいりゅうまえでは意味いみがない。」

亞拉斯アラース冷静れいせいった。

「なぜです?」

わか騎士団長きしだんちょう一人ひとりかえす。

青龍せいりゅう四神獣しじんじゅうなかで、唯一ゆいいつ権能けんのう”を神獣しんじゅうだ。

その権能けんのうは『龍識破律りゅうしきはりつ』――あらゆるわざすき見抜みぬき、即座そくざ回避かいひできる。」

若手わかて騎士団長きしだんちょう団員だんいんたちは、青龍せいりゅう能力のうりょく実際じっさいたことがなかった。

だが、艾瑞達エイレダ康妮カンニ傑洛艾德ジェロエイドといった歴戦れきせん団長だんちょうたちは、かつて亞拉斯アラースとも青龍せいりゅうちから目撃もくげきした経験けいけんがあった。

「では、どうすれば……?」

もっと動揺どうようしていたのは、新任しんにん騎士団長きしだんちょうである迪亞ディアだった。

初陣ういじんゆえに、この状況じょうきょうには不安ふあんかくせなかった。

心配しんぱいするな。対策たいさくはすでにかんがえてある。

桃花晏矢とうかあんし逍遙しょうようは、おれ援護えんごしてくれ。」

了解りょうかい!」


亞拉斯アラース依然いぜんとしてはらった態度たいどくずさなかった。

かれ青龍せいりゅうがいかに強大きょうだい存在そんざいであるかを理解りかいしていた。

神獣しんじゅうちからは、どれほどの人間にんげんであっても容易よういあらがえるものではない。

だが――かれは“ただの人間にんげん”ではなかった。

亞拉斯アラースは、聖王国せいおうこくにおいて最強さいきょうおとこであった。

かれ記憶きおくには、かつて青龍せいりゅう一度いちどだけ暴走ぼうそうしたとき光景こうけい鮮明せんめいのこっている。

そのときかれらはやみ元素げんそちからもちい、一時的いちじてき青龍せいりゅう視界しかいうばい、行動こうどうふうじることに成功せいこうしたのだ。

だから今回こんかいも、亞拉斯アラース計画けいかくおな手順てじゅんすすむはずだった。

この程度ていどのことなら、亞拉斯アラースにとってはさほど困難こんなんではない。


しかし、亞拉斯アラース突如とつじょ空気くうき微妙びみょう違和感いわかんおぼえた。

それはまるで、一本いっぽんほそげん極限きょくげんまでめられ、いまにもれそうな緊張感きんちょうかんであった。

かれはすぐに異変いへんづく。

青龍せいりゅううごきがあきらかにわり、くちをわずかにひらいてひかり元素げんそ凝縮ぎょうしゅくはじめていた。

亞拉斯アラースまゆするどる――かれはその魔力まりょく性質せいしつ尋常じんじょうではないことを即座そくざさとったのだ。

ちがう! 今回こんかいはまったく状況じょうきょうちがう!」

亞拉斯アラース心中しんちゅう警鐘けいしょうらし、同時どうじ大声おおごえ命令めいれいくだした。

全員ぜんいん! 遮蔽物しゃへいぶつさがせ! すぐに掩護えんご態勢たいせいれ!」


――九階きゅうかい魔法まほう・「光之流星こうのりゅうせい」。

青龍せいりゅう空中くうちゅうかって光球こうきゅう発射はっしゃした。

その光球こうきゅう瞬間しゅんかん爆裂ばくれつし、無数むすうちいさな光流こうりゅうへと分裂ぶんれつしていく。

それらは夜空よぞらほしのようにかがやきながら、地上ちじょうにいるすべての目標もくひょうへと一斉いっせいそそいだ。


亞拉斯アラース見開みひらき、ひかり流星りゅうせいそそ光景こうけい凝視ぎょうしした。

そのむね鼓動こどうかすかにふるえている。

「なぜだ……? なぜあいつが、この魔法まほう使つかえる……?」

亞拉斯アラースこころ衝撃しょうげきちていた。

かれ自分じぶんうたがいたくなるほどにしんじられなかった。

かれ記憶きおくなかで、青龍せいりゅうはこのような能力のうりょくってはいなかった。

この魔法まほうは、あきらかに青龍せいりゅう常規じょうきはるかにえたちからであった。


混乱こんらん最中さなか亞拉斯アラース視線しせんは、おもいがけない発見はっけんせられた。

青龍せいりゅうくびもとに、かすかにかがや一本いっぽん首飾くびかざりがえたのだ。

その首飾くびかざりには紫色むらさきいろ水晶すいしょうげられており、あやしくひかりながら、不穏ふおんかがやきをはなっていた。

それはただの魔法まほうエネルギーではなかった。

むしろなに禁忌きんきちからのようであり、周囲しゅうい空気くうき共鳴きょうめいしながら、青龍せいりゅう魔力まりょくからうようにひかりをしていく。

亞拉斯アラース心臓しんぞうはげしく鼓動こどうし、直感ちょっかんさとった。

――この紫色むらさきいろ水晶すいしょうこそがかぎだ。

青龍せいりゅうちから異変いへんこした原因げんいんであり、さらにえば、これはだれかが意図的いとてき仕掛しかけたわななのだ。

かれ思考しこうめぐらせるあいだにも、ふたた強大きょうだい魔力まりょく波動はどうおそた。

空間くうかんそのものが圧縮あっしゅくされるかのような重圧じゅうあつはしり、亞拉斯アラース一瞬いっしゅんにしていきまらせた。



水晶すいしょうからはなたれるひかりはさらにつよさをし、その光波こうはひろがるにつれて、青龍せいりゅう身体からだ驚異的きょういてき変化へんかこりはじめた。

もともと純白じゅんぱくであった龍鱗りゅうりんは、水晶すいしょう魔力まりょくによって徐々(じょじょ)にくろまり、やがて深淵しんえんやみのようにひかりんでいった。

それだけではない。

青龍せいりゅう鬣毛たてがみもまた変貌へんぼうした。

金色こんじきかがやき、おだやかでやわらかだったなが鬃毛たてがみは、一瞬いっしゅんにして淡紫色たんししょくへとわり、まるで暮光ぼこうなか紫羅蘭しららんのように、神秘的しんぴてき光彩こうさいはなった。

そのいろ変化へんかは、たんなる外見がいけん変化へんかとどまらず、青龍せいりゅううち宿やどちからそのものへと影響えいきょうおよぼしていた。

言葉ことばではあらわせない気配けはいのぼり、まるで青龍せいりゅう体内たいないからべつ強大きょうだい存在そんざい目覚めざめつつあるかのようだった。

そして、水晶すいしょうちから爆発的ばくはつてき解放かいほうされるとともに、青龍せいりゅう気配けはい一層いっそうくなり、まるで滔天とうてん大波おおなみのごとく、周囲しゅうい空間くうかんすべてをいた。

そのちからは、もはやかつての純粋じゅんすいな「りゅう威厳いげん」ではなかった。

それは――神秘しんぴでありながら、同時どうじ恐怖きょうふそのものをはら存在そんざいへと変貌へんぼうしていた。


最初さいしょ鑑定かんてい結果けっかでは、四神獣しじんじゅうたちは九階きゅうかい魔法まほう使つか能力のうりょくっていなかったはずでは?」

妲己ダッキくびかしげながら疑問ぎもんげかけた。

三姉妹さんしまいたちも同様どうようかお合わせ、困惑こんわくいろかべる。

「もう一度いちど、よくてみて。」


「……あれは、あの首飾くびかざりのせい、なの?」

「そのとおり。」

緹雅ティア言葉ことばに、わたし説明せつめいくわえた。

「おそらく、あれは神器しんき越位水晶えついすいしょう』だ。

この神器しんきは、本来ほんらい能力のうりょく範囲はんいえた上位じょうい階級かいきゅう魔法まほう使用しようできるようにする効果こうかっている。

ただし、最大さいだいふたうえ階位かいいまでしか使つかえず、そのぶん魔力まりょく消耗しょうもう通常つうじょう二倍にばいになる。」

効果こうかそのものだければ、神器しんきなかでもかなり強力きょうりょく部類ぶるいだとおもう。

十級じゅうきゅうわたしたちには無用むようだけど、ひく階級かいきゅうのプレイヤーにとっては、まさに勝敗しょうはいける切札きりふだになりる。」

「……ふふ、ってかえらないのは、ちょっともったいないかもね。」

緹雅ティアはそうって、意味深いみしんみをかべた。




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