第一卷 第六章 約束を果たす-3
今、使者との約束を守るために、聖王国の神明たちも全力を尽くすしかなかった。
目の前の巨大な脅威に直面して、彼らはいかなる状況でも退くことは許されず、この戦いはすでに避けられぬものとなっていた。
「しかし今は防御だけでも非常に苦しい。」
神農氏の声には焦りが滲んでいた。
彼は空を見上げ、どうすればよいのか分からぬように呟いた。
「その魔法は一体何なのだ?」
「分からない、こんな魔法は聞いたことがない。」
伏羲もまた動揺を隠せず、その未知の力に不安を感じていた。
「幸いなことに『月光帷幕』はまだあの精神魔法を防ぐことができる。それに、相手はその精神魔法を放っている間、ほかの動作ができないようだ。」
女媧は目の前の状況を分析し始めた。
「どうあっても、正面から迎え撃とう!」
盤古の声は力強く、恐れを知らぬ語気で他の神明たちを鼓舞した。
他の神明たちも、その意志の強さを感じ取ることができた。
盤古の指令が発せられると、他の三柱の神明も行動を開始した。
全員はすぐに王城の最上部へと向かい、聖王国の中央に立ち、天からの挑戦を迎える準備を整えた。
彼らが現れたとき、王都の人々(ひとびと)と軍隊は神明たちの姿を目にして、驚きと喜びが入り混じった。
神明の現身は疑いなく王国の希望であったが、同時に、それはこれから訪れる戦闘が、かつてないほど激しく危険なものとなることを意味していた。
天空には、あの異常な光線が次第に消えつつあった。
しかし、立ち込める熱気と焼けつくような感覚は依然として聖王国全体を覆っていた。
突ぜん、遠方の太陽の方角から鋭く響く声が聞こえてきた。
その声は冷酷さと自信を帯びていた。
「やっと出てきたか? 後ろに隠れてばかりの卑怯なやつめ。」
その語気は神明たちへの挑発であるだけでなく、まるですべての者を嘲笑しているかのようだった。
異常な光線はすでに消えたが、聖王国の四方を護る守護獸たちはいまだ精神の支配から逃れられなかった。
青龍、白虎、朱雀、玄武──それぞれの守護獸は極度の混乱に陥り、自我を失っていた。
彼らは時折低く唸り声を上げ、その瞳には苦痛と迷茫が宿っていた。
そのすべての背後にあったのは、あの強大な精神魔法であった。
それはまるで彼らの意識を完全に喰らい尽くし、抜け出すことのできぬ深淵へと引きずり込むかのようだった。
「ハハハ! この『聖光の制裁』は精神の支配において絶対だ。
一度でも支配されたら二度と解くことはできぬ。 ただし、もしお前たちが私を倒せるのなら別だがな。」
その声は再び響き渡り、今度はさらに誇らしげな笑いを伴っていた。
言葉が落ちると同時に、太陽の背後から、ゆっくりと一つの影が姿を現した。
その影は非常に大柄で、歩みの一歩ごとに沈重な低い唸りを伴い、まるで空気の中に何か目に見えぬ力が彼の歩みを導いているかのようであった。
「ふん! 俺たちは必ずお前を打ち倒してみせる!」
盤古の声は雷鳴のように大地を震わせ、その目は炎のように鋭く、太陽の背後から現れたその影を睨みつけた。
彼の声には揺るぎない決意が込められていた。
聖王国の未来は、いかなることがあっても、このような邪悪な力に蹂躙されることを決して許してはならなかった。
この時、太陽の背後にあった黒い影が、ついに完全に姿を現した。
その人物は、厚重な黒色の甲冑を身にまとい、甲冑の表面には複雑で古代的な符文が刻まれていた。
その符文そのものが、すでに強大な力を宿しているようであった。
甲冑の一つ一つの部位は灼熱に輝き、まるで今にも燃え上がりそうで、その隙間からは息を詰まらせるほどの圧倒的なエネルギーが滲み出ていた。
背後では、二つの烏の翼が大きく広がり、まるで黒焰の使者が降臨したかのようだった。
その翼は墨のように黒く、羽根は金属のような光沢を放ち、わずかに動くたびに烈風を巻き起こした。
空気の熱気と焦燥は瞬間に高まり、翼の一振ごとに、周囲の世界が震えた。
彼の両手と両足は鳥の爪のような形状をしており、力強く鋭利な指爪は刃物のように光っていた。
まるで一本一本の指先だけで、あらゆるものを容易に切り裂くことができるかのようであった。
彼の周囲は業火に包まれ、その存在そのものが世界を燃やし尽くしているように見えた。
その炎はただの高温ではなく、原始的な破壊の力を内包し、周囲のすべてを焼き尽くしていた。
この人物こそ、「三足烏の祖——扶桑」と呼ばれる存在であった。
扶桑の体躯は巨大で、その身形は盤古にも匹敵するほどであった。
彼の周囲では灼熱の気流が絶え間なく上昇し、強大な熱波の気場を形づくっていた。
聖王国の神明たちでさえ、この瞬間、その気場の前ではあまりにも小さく見えた。
ましてや普通の騎士団員たちは、その圧し迫るような熱気と息詰まる重圧に耐えきれず、呼吸すら困難に感じていた。
扶桑の瞳には、凍えるほど冷酷な光が宿っていた。
それは肉体から発せられる威圧ではなく、魂の奥底から放たれる圧迫であった。
その眼差しは人を貫き、あらゆる抵抗を焼き尽くしてしまうかのようであった。
扶桑はすぐには攻撃を仕掛けなかった。
彼はその場に立ち、両手を高く掲げ、まるで天地すべての力を自らの身に吸収しようとしているかのようであった。
「さあ来い! 聖王国の神明たちよ。お前たちがどれほど強いのか、見せてみろ。」
扶桑の声は高く響き渡り、まるで地獄からの反響のようであった。
その声音には、聖王国の神明たちをまったく眼中に置かぬ傲慢さが滲んでいた。
この露骨な挑発に対しても、神明たちは軽々(かるがる)しく動くことはなかった。
彼らが沈黙を守っているのを見て、扶桑はさらに言葉を続けた。
「私は急いではいない。だが、お前たちが挑んでこないのなら、すべては私の支配のもとに置かれることになるだろう。
さあ見せてみろ、聖王国の神明たち──お前たちにはどれほどの勇気が残っている?」
その言葉は宣告のように響き、誰もこの状況を抗うことも逃れることもできぬと知らしめた。
その瞬間、天地全体が静止したかのように思われた。
ただ、扶桑の嘲笑する笑声だけが、虚空に木霊していた。
扶桑が絶え間なく神明たちを挑発し続ける中、亞拉斯の胸中はすでに怒りで満ちていた。
彼は堪えきれず、そのまま勢いよく天へと跳び上がり、その気迫は虹のごとく天を貫いた。
「この忌々(いまいま)しいやつめ! 神明さまを侮辱するとは!」
亞拉斯は歯を食いしばりながら叫び、少しも退くことはなかった。
その瞬間、亞拉斯は元素の力を集め、手にした弓矢へと集中させ、強力な一撃を放った。
だが、扶桑はその攻撃を受けても、依然として軽蔑した態度を崩さなかった。
「無駄だ。無意味な足掻きはやめろ。
私はこの世界に選ばれた存在なのだ。
お前ごときに倒せるはずがない……ハハハハハ!」
その神明たちを嘲るような余裕と自信は、聖王国の神明たちが少し前に感じたものと同じであった。
それは、二りの新しく混沌級の冒険者となった者たちが、神明たちを前にしても少しも怯えることなく、むしろ平然とした自信を漂わせていた、あの時の感覚に似ていた。
私との戦闘を経て、亞拉斯はもはや自らの停滞を許せないことを悟っていた。
より強き力を得るために、彼は神明たちにさらなる修練を願い出たのだった。
幾度もの攻撃が扶桑に容易くかわされた後、亞拉斯は戦法を変える決意を固めた。
彼が弓弦を引き絞ると、放たれた矢はまるで蕾の薔薇のように震え、疾風のごとく扶桑へと飛び込んでいった。
その矢には特別な力が宿っており、命中した瞬間に花のように開き、強大な爆発へと変わり、敵に致命の一撃を与える。
肝要なのは、矢が開くその瞬間までは、敵がその属性も威力も感知できないことだった。
まるでただの矢のように見えるそれを予測することは、ほとんど不可能だった。
それこそが、修練を経て得た力の証明であり──
この技の名は、八階戦技-「薔薇の矢」と呼ばれていた。
しかし、その矢が扶桑へと迫った瞬間、扶桑はただ冷たく笑みを浮かべただけであった。
亞拉斯の放った弓矢は、扶桑の身に届く前に、空中で無形の力によって容易く溶かされてしまった。
矢は空気の中で完全に消滅し、わずかの揺らぎすら残さなかった。
亞拉斯は目を見開き、まさかこれほど容易に自らの一撃が打ち消されるとは思ってもいなかった。
扶桑の笑声が再び空中に響き渡った。
「ハハハハハ! 弱すぎる、この程度の攻撃など弱すぎる。」
その声には嘲弄が満ち、まるでこの攻撃に反応する価値さえないと言わんばかりであった。
亞拉斯はすぐに二本目の矢を放とうとした。
だが、彼が再び力を込めようとしたその瞬間、天空に浮かぶ十個の太陽が再び閃き、無数の眩しい光線を放った。
その光束は一直線に亞拉斯を貫いた。
反応する間もなく、太陽からの光は彼を直撃し、亞拉斯の身体は地面へと叩きつけられた。
激しい衝撃とともに土煙が巻き上がる。
「な……なんだと!」
亞拉斯は正面から攻撃を受け、凄烈な痛みに身体を支えることすら困難になった。
太陽の光撃を受けた身体は、その膨大な衝撃力に耐えきれず、地面へと叩きつけられ、石板を幾枚も砕いた。
血液が彼の口元から流れ出たが、亞拉斯は苦しみながらも頭を上げ、その瞳に宿る不屈の炎を消そうとはしなかった。
「ハハハハハ! やはり弱すぎるな。」
扶桑の笑声は、亞拉斯の胸に深い屈辱を刻んだ。
「下がれ、亞拉斯!」
盤古は大声で叱咤し、亞拉斯の無謀な突撃を止めようとした。
「このような敵は、我々(われわれ)が対処すべきだ。」
亞拉斯は重傷を負っていたが、神農氏はすぐさま治癒魔法を施し、激しい痛みは瞬時に消え、傷口からの出血も止まった。
「ですが……神明さま、どうか私にも戦闘を支援させてください!」
亞拉斯は扶桑に敗れた悔しさを胸に抱きながら、それでも戦う意思を捨てなかった。
「いや、亞拉斯。お前は守護獸の鎮圧を続けろ。あの男は我々(われわれ)が引き受ける。」
盤古はそう言い放った。
亞拉斯は神明たちと肩を並べて戦うことを望んでいたが、実力の差はあまりにも大きく、盤古は彼を無駄に死なせるわけにはいかなかった。
「早く行け! これ以上時間を無駄にするな!」
「……はい。」
亞拉斯は不本意ながらも頷き返した。
彼は理解していた。
目の前の敵はあまりにも強大で、自分がどれほど足掻いても、この戦局を変えることはできない。
むしろ、自分は神明たちの足を引っ張るだけの存在になってしまうだろうと。
ちょうどその時、盤古は再び三柱の神明たちへと向き直った。
「住民たちは避難を終えたな?」
他の神明たちは次々(つぎつぎ)に頷いた。
「ならば、もう思う存分戦えるな!」
その瞬間、盤古の胸中からは一切の迷いや憂いが消え去り、迫り来る激戦を迎える覚悟が整っていた。
「よし──皆、行くぞ!」




