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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第六章 約束を果たす-2

聖王国せいおうこく王都城おうとじょう

本来ほんらいならしずかなよるであるはずの時刻じこくに、

聖王国せいおうこくそら異変いへんきた。

くらいはずの夜空よぞらが、突如とつじょとしてまばゆひかりつつまれたのだ。

人々(ひとびと)がそら見上みあげると、

おどろくべき光景こうけいひろがっていた――

天空てんくうには、じゅう太陽たいようならんでかんでいたのである!

それらの太陽たいようほのおのようにてんき、

通常つうじょうよりもはるかに強烈きょうれつひかりはなち、

まるで天空てんくう全体ぜんたい橙紅色とうこうしょくげていた。

言葉ことばではあらわせぬほどのちからが、

聖王国せいおうこく王都おうと上空じょうくうおおい、

人々(ひとびと)のいきうばっていく。

じゅう太陽たいようからはなたれるそのちからは、

あきらかに聖王国せいおうこくの神々(かみがみ)の予想よそうえていた。

圧倒的あっとうてき魔力まりょくすこしずつ一点いってんあつまり、

まるで聖王国せいおうこくそのものをもうとするかのようだった。

その出現しゅつげんともに、

聖王国せいおうこく全土ぜんど気温きおん急激きゅうげき上昇じょうしょうし、

街路がいろには熱気ねっきめ、

一歩いっぽすごとに、

まるでてしない煉獄れんごくあしれるようであった。


そして、この異常いじょう現象げんしょうは、

けっして一般いっぱんたみだけに影響えいきょうおよぼしているわけではなかった。

聖王国せいおうこく建国けんこく以来いらい

四方しほう守護しゅごする神獣しんじゅう――

青龍せいりゅう白虎びゃっこ朱雀すざく、そして玄武げんぶようしてきた。

かれらは聖王国せいおうこく四大しだい支柱しちゅうであり、

それぞれが王国おうこく四方位しほういまもり、

くに安定あんてい平和へいわ維持いじしてきた存在そんざいである。

だが、その聖王国せいおうこく長年ながねんまもつづけてきた守護獣しゅごじゅうたちが、

いま異様いようなほどにかず、

みずからの領域りょういき彷徨さまよつづけていた。

そのようはまるで、あらがうことのできぬ脅威きょういを感じかんじとったかのように、

あばくるい、不安ふあんちていた。


東方とうほう守護しゅごする青龍せいりゅうは、

本来ほんらいならば優雅ゆうが威厳いげんちた姿すがたほこっていた。

だがいま異常いじょうなほどに苛立いらだち、

その双眸そうぼうには焦燥しょうそうひかりひらめいている。

はげしく地面じめんたたきつけるたびに、

強烈きょうれつ衝撃波しょうげきは周囲しゅういおそい、

まわりの樹木じゅもくまでもがばされそうにれた。

北方ほっぽうまも白虎びゃっこは、

ほこたか冷厳れいげん存在そんざいとして知られていたが、

いまはその威容いようて、

みずからの領域りょういきめぐっていた。

その咆哮ほうこう夜空よぞらき、

まるでなにおそろしい存在そんざい降臨こうりんしようとしているかのようだった。

南方なんぽうつかさど朱雀すざくは、

ほのおなかきる存在そんざいであるにもかかわらず、

いまそらからそそ異常いじょう高温こうおんおびえていた。

そして西方せいほう玄武げんぶは、

巨大きょだい甲羅こうらたてにしてかくし、

その四肢ししおもらしていた。

その姿すがたは、れられぬ不吉ふきつちからいつめられたかのようだった。

本来ほんらいなら恐怖きょうふらぬはずの守護獣しゅごじゅうたちが、

いまてんよりくだ圧迫感あっぱくかんまえに、

無力むりょくふるわせていた。


さらにおそろしいことに、

この異様いようちからは、じゅう太陽たいよう灼熱しゃくねつだけに由来ゆらいするものではなかった。

まばゆ光輝こうきなかには、

通常つうじょう陽光ようこうとはことなる、

奇妙きみょうひかりじりんでいた。

そのひかりは、まるで特別とくべつ魔力まりょく宿やどしているかのようで、

地上ちじょうらすたびに、周囲しゅうい空間くうかんゆがめ、

見るもの意識いしきくるわせていった。

その光芒こうぼう強烈きょうれつ感覚かんかく混乱こんらんこす性質せいしつち、

人間にんげんであれ、なる生物せいぶつであれ、

みなその影響えいきょうのがれられず、

はげしい眩暈めまい錯覚さっかくおそわれた。

まるで深淵しんえんうずまれるように、

理性りせいきずりまれ、すこともできなかった。

その異様いようひかり影響えいきょうは、

聖王国せいおうこく強大きょうだいなる守護獣しゅごじゅうでさえもまぬがれなかった。

青龍せいりゅう双眸そうぼうからは焦点しょうてんうしなわれ、

白虎びゃっこうごきは徐々(じょじょ)ににぶくなり、

朱雀すざく玄武げんぶもまた、くびれ、

そのひかりあつくっしていった。

四方しほう守護獣しゅごじゅうあらわれた混乱こんらん暴走ぼうそうは、

すべてのはじまりにぎなかった。

じゅう太陽たいよう天空てんくうおおうと同時どうじに、

聖王国せいおうこく運命うんめいしずかに、しかし確実かくじつに、

らぎはじめたのである。

やがてそら太陽たいようたちは次第しだいひかりうしない、

まるでなに得体えたいれぬちからまれていくかのように、

そのかがやきはやみしずんでいった。

そして、空気くうきそこには、

たしかに“かげ”が――

しずかに、しかし確実かくじつせまていた。


その瞬間しゅんかん天空てんくうかぶじゅう太陽たいようが、

天地てんちふるわせるほどの轟音ごうおんはなった。

直後ちょくご巨大きょだいなエネルギーの波動はどう

四方八方しほうはっぽうへとはしし、

そのねつ聖王国せいおうこく空気くうきそのものを

ほのおのようにえ、

大気たいききながらせた。

聖王国せいおうこくたみたちは次々(つぎつぎ)に建物たてものなかみ、

なかにはがることもできず、地面じめんくずちるものもいた。

天空てんくうおお奇怪きかいひかり王都おうと全土ぜんどらすなか

その中心部ちゅうしんぶだけは、

伏羲フクキ女媧ジョカ、そして神農氏しんのうし三柱みはしら神明かみ協力きょうりょくして展開てんかいした結界魔法けっかいまほう――「月光帷幕げっこういまく」によりまもられていた。

その結界けっかい王都おうと中心ちゅうしん完全かんぜんつつみ、

外界がいかいからの異常いじょうひかり遮断しゃだんし、

たみたちを混乱こんらん灼熱しゃくねつからまもっていた。

まるでえぬかべのように、

そと狂気きょうきへだて、

このちいさな空間くうかんだけが静寂せいじゃくたもっていた。

だが、その保護範囲ほごはんいけっしてひろくはない。

一歩いっぽでもこの結界けっかいそとれば、

だれであろうとすぐにあの異様いよう光芒こうぼう影響えいきょうけ、

精神せいしん支配しはいされ、

意識いしき行動こうどううばわれてしまう。


さいわいなことに、

そのしき光芒こうぼうながつづかなかった。

一定時間いっていじかん経過けいかすると、

そらおおっていた異様いようひかり

ゆっくりと姿すがたしていった。

しかし――

精神せいしん支配しはいされたものたちの状態じょうたい

依然いぜんとしてわらず、

その支配しはい解除かいじょされることなくつづいていた。

そして、その強大きょうだい魔力まりょく影響えいきょうもと四方しほう神獣しんじゅうたちは完全かんぜん狂暴化きょうぼうかした。

理性りせいうしなったらのちからはもはや制御せいぎょ不能ふのうで、

咆哮ほうこうとも聖王国せいおうこく防衛線ぼうえいせんへと突進とっしんはじめた。

そのころ王都おうと防衛ぼうえいまかされていた亞拉斯アラースは、

騎士団きしだん指揮しきしながら、

四方しほうからせま守護獣しゅごじゅうたちの猛攻もうこう

必死ひっしそなえていた。


遊俠ゆうきょう職業しょくぎょう亞拉斯アラースなら、

守護獣しゅごじゅうおさえること自体じたい問題もんだいないだろう。

だが……問題もんだい上空じょうくうにあるあれだ。」

神農氏しんのうしふか沈思ちんしにじませるこえでそうい、

そのにはかたちにできぬうれいのひかり宿やどっていた。

かれ神殿しんでん高台こうだいち、

遠方えんぽう渦巻うずま雲層うんそうと、

異常いじょう太陽たいようたちを見据みすえながら、

けわしい表情ひょうじょうかべていた。

伏羲フクキもその言葉ことばうなずき、

おなじく重苦おもくるしい面持おももちでこたえる。

たしかに、守護獣しゅごじゅうたちはまだ制御せいぎょ可能かのう範囲はんいにある。

だが、いま問題もんだい核心かくしんは――

天空てんくうかぶじゅう太陽たいようだ。

あのちから背後はいごにあるものは、

我々(われわれ)の予想よそうはるかにえている。」

女媧ジョカみじか沈黙ちんもくののち、

ひくこえった。

「まさか、これほどはやあらわれるとは……

しかも、そのちからさき魔神ましん蚩尤シユウをもしのぐとは。」

彼女かのじょ分析ぶんせきするように言葉ことばつづけた。

やつ再生能力さいせいのうりょく尋常じんじょうではない。

はや対処たいしょしなければ、何度なんどでもよみがえるだろう。

これこそが……古代こだいちからというものか。」

伏羲フクキはその言葉ことばきながらほそめ、

しずかに探査たんさおこなう。

たしかに……感じかんじとれる。

じゅう太陽たいよう宿やどるのは、尋常じんじょうならざるちから――

想像そうぞうぜっするほどの、強大きょうだいなエネルギーだ。」


神農氏しんのうしかおいろはますますおもしずみ、ことはしにはあせりがにじんでいた。

「もしこのちからはやることができなければ、聖王国せいおうこく全体ぜんたいほろびのわざわいにまれてしまうだろう。」

そのとき伏羲フクキもまたこまったようにかたとした。

「どうしよう~いま、あの二人ふたり一緒いっしょにいてくれたらよかったのに。」

盤古バンコウきびしい面持おももちでこたえた。

「いや、いまは我々(われわれ)だけがあのもの対抗たいこうできる。あの使者ししゃ言葉ことばわすれるな!

わたしたちはつことも、だれかにたよぎることもゆるされない。

このたたかいは、みずからのちからえねばならぬ――それこそが、かみとしての意志いしなのだ。」


数日すうじつまえ聖王国せいおうこく城門じょうもんには、くろ外套がいとうにまとう仮面かめんおんな使者ししゃ姿すがたあらわした。

その使者ししゃおとずれには、なにひとつ前兆ぜんちょうがなかった。

聖王国せいおうこく皇宮こうきゅうにも、神殿しんでんにも、ほかいつつの大国たいこくからの正式せいしき通達つうたつとどいていなかったのだ。

当初とうしょ亞拉斯アラースはこのおんな重要じゅうよう人物じんぶつとはなさず、むしろ城門じょうもんからかえそうとさえかんがえていた。

しかし、彼女かのじょくちひらき、神明かみたちしか秘事ひじかたった瞬間しゅんかん亞拉斯アラースかおいろ一変いっぺんし、あわてたように表情ひょうじょうくずした。

かれはほとんど反射的はんしゃてきに、そのほうせを神明かみたちへとつたえたのである。

使者ししゃ言葉ことばはまるで重爆弾じゅうばくだんのように亞拉斯アラース冷静れいせいくだいた。

その秘事ひじは、ほかいつこく神明かみですららぬ聖王国せいおうこく最高さいこう機密きみつであった。

それなのに、なぜこの使者ししゃがそれをっているのか――そのなぞ亞拉斯アラースこころはげしくみだし、かれはもはや平静へいせいたもつことができなかった。


幾人すうにん神明かみたちは、亞拉斯アラース報告ほうこくくやいなや、いそいで指示しじくだし、くろ外套がいとうまと神秘しんぴてき使者ししゃ対面たいめんした。

そのおんなかおには黒猫くろねこ仮面かめんけられており、素顔すがお完全かんぜんかくされていた。

ただ、黒衣こくい隙間すきまからは、わずかに光沢こうたくにじているのがえるのみであった。

彼女かのじょはなはくにいるもの全員ぜんいんいきませた。

神明かみたちがいかに強大きょうだいちからとうとも、まえ存在そんざいには、言葉ことばではあらわせぬあつ迫感はくかんがあった。

伏羲フクキ神殿しんでん中央ちゅうおうち、そのふかんだ眼差まなざしで来訪者らいほうしゃ見据みすえていた。

まるで、彼女かのじょ身体からだ宿やど秘密ひみつを読みよみとろうとしているかのように。

やがて、伏羲フクキ礼儀正れいぎただしくくちひらいた。

「おたずねいたします。そなたは、どなたの使者ししゃであらせられるのか……」

だが、その言葉ことばわるまえに、黒衣こくい使者ししゃしずかに右腕みぎうでげた。

その瞬間しゅんかん全員ぜんいん彼女かのじょちいさなすずにぎられていることにづく。

彼女かのじょはただ、そっとそのすずらした。


んだおと神殿しんでんひびわたる。

その鈴音れいおんきよらかでありながらふか余韻よいんのこし、神明かみたちのこころ直接ちょくせつれるようであった。

神殿しんでんそのものさえも、鈴音れいおん共鳴きょうめいしてふるえた。

その瞬間しゅんかん神明かみたちはさとった――この使者ししゃ何者なにものであるのかを。

使者ししゃ閣下かっか、いかなる指示しじたまわれますでしょうか。」

神農氏しんのうし最初さいしょくちひらいた。

そのこえには、敬意けいい同時どうじに、かすかな緊張きんちょういろにじんでいた。


使者ししゃっていたすずしずかにろし、ひくこえった。

聖王国せいおうこくは、まもなく巨大きょだい試練しれん直面ちょくめんする――そうつたいております。」

すでにその兆候ちょうこうさっしていたとはいえ、使者ししゃくちからはっせられた言葉ことばは、一振ひとふりのするどやいばのように神明かみたちのむねつらぬき、重苦おもくるしい沈黙ちんもくへとつつんだ。

使者ししゃ閣下かっかは、すでにそのことをごぞんじなのですか?」

女媧ジョカおどろきをかくせず、おもわずこえげた。

この情報じょうほうは、まだだれにもつたえていないはずだったからだ。

彼女かのじょさとった――この使者ししゃ事柄ことがらは、聖王国せいおうこくのいかなるものからもられるものではない。

このおんなは、あきらかにかれらのとどかぬ領域りょういきつうじている。

魔神ましん蚩尤シユウはすでにした。」

使者ししゃはなおも冷静れいせいことばつむぐ。

その声音こわねには、感情かんじょうらぎなど微塵みじんもなかった。

「だが、あるじっている。それがあなたがたによるものではなく、異界いかいものによってされたことを。」

その瞬間しゅんかん神殿しんでん神明かみたちの顔色かおいろ一斉いっせいわった。

魔神ましん蚩尤シユウかれらすべてが事実じじつだった。

だがそれは、神明かみたちのによるものではない。

そのは――布雷克ブレイク狄蓮娜ディリエナ二人ふたり混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃともたおした結果けっかであった。


「そのとおりだ……だが、我々(われわれ)とて、ほかみちはなかったのだ。」

伏羲フクキかくてすることなくこたえたが、そのこえにはしずんだひびきがあった。

かれ否定ひていできなかった――かれらはみずからのちから蚩尤シユウたおしたわけではない。

それゆえに、伏羲フクキむねには異界いかいものたちへのふか感謝かんしゃ宿やどり、同時どうじに、これからの未来みらいへの漠然ばくぜんたる不安ふあんひろがっていった。

神位しんいさずかって以来いらいかれらはおのれほこりにおもい、故郷こきょうまも責務せきむにな覚悟かくごでいた。

しかし、現実げんじつはその理想りそう容赦ようしゃなくくだいた。

まこと脅威きょういまえにしたとき、(かみ)であるはずのかれらは――

神明かみとしての責任せきにんたすことができなかったのである。


だが、使者ししゃ言葉ことばは、そこでわらなかった。

彼女かのじょしずかにこうべげ、くろ外套がいとうおくから、かすかにひかりらめくひとみをのぞかせた。

魔神ましん蚩尤シユウともに――よりつよだい魔神ましんが、この降臨こうりんしようとしている。」

そのこえ波風なみかぜひとつたぬほどに平坦へいたんであった。

あるじは、聖王国せいおうこく見捨みすてるつもりはない。

だが、この程度ていどてきたいしてすら、もし聖王国せいおうこくみずからのちからくさず、異界いかいものたよるばかりであるならば――

しん災厄さいやくおとずれるとき、その結末けつまつめることはできぬだろう。」

その言葉ことばは、まるで警鐘けいしょうのごとく、神殿しんでんひびわたり、ものむねふかった。

神明かみたちはいきみ、沈黙ちんもくつつまれた。

せま災厄さいやくへの不安ふあんは、いっそうつよかれらのこころける。

もし使者ししゃ言葉ことば真実しんじつであるなら――

聖王国せいおうこく未来みらいは、もはやかれ自身じしんではなく、異界いかいちからゆだねられることになる。

「それでは……我々(われわれ)は、どうすればよいのだ?」

神農氏しんのうしふたたくちひらいた。

そのこえまよいと決意けつい狭間はざまれていたが――

かれむねには、すでにこたえが宿やどっていた。

この状況じょうきょうを、もはやけることはできない。

かれらはこたえねばならないのだ――

あのときかれらにちからあたえた存在そんざいに。


使者ししゃはわずかにこうべれ、みじか沈黙ちんもくのちしずかにくちひらいた。

「もし、そなたたちが全力ぜんりょくあらがうのなら――

あるいは、勝利しょうり曙光しょこうにすることもできよう。」

その言葉ことばは淡々(たんたん)としていた。

だが、そのしずけさのおくには、はかれぬ圧力あつりょくふか意図いとひそんでいた。

「……」

神明かみたちはだれ言葉ことばはっせなかった。

その返答へんとうはあまりにも抽象ちゅうしょうで、同時どうじ絶望ぜつぼうはらんでいたからだ。

聖王国せいおうこく運命うんめいは――

やがておとずれるもっと過酷かこく試練しれんを、けることができぬものとしてさだめられているようだった。


最後さいごに、このかわわされた言葉ことばは、あの二人ふたり異界いかいものにはけっしてらしてはならぬ。」

使者ししゃ突如とつじょこえつよめ、おごそかなひびきをびた。

その最後さいご言葉ことば空気くうきふるわせた直後ちょくご彼女かのじょはゆるやかにじた。

つぎ瞬間しゅんかん、そのあわもやのようにらめき、輪郭りんかくけるようにえていった。

くろ外套がいとう空気くうきまれるようにして、やがて完全かんぜんやみへとんだ。

神殿しんでんなかには、ただ黒霧こくむのこだけがただよっていた。

神明かみたちはたがいにわせ、言葉ことばうしなったままくす。

――危機ききは、まだはじまったばかりだった。

そして聖王国せいおうこく未来みらいは、あの黒霧こくむのように――

無数むすう不確定ふかくていかげはらみ、ふかやみなかへとらめいていた。




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