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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第五章 千年の追尋-7

緹雅(ティア)!」

その光景こうけいたりにした瞬間しゅんかんわたし言葉ことばうしない、全身ぜんしんこおりついた。

まさか緹雅(ティア)が、あの一撃いちげきけてしまうとはおもってもいなかったのだ。

心臓しんぞうはげしく脈打みゃくうち、瞳孔どうこうひろがり、あたまなか真白まっしろになった。

世界せかいおとうしない、ときさえもまってしまったかのように感じられた。


攻撃こうげき命中めいちゅうしたのをたしかめた蚩尤シユウは、狂気きょうきじみたわらごえげた。

そのこえ戦場せんじょうひびわたり、ゆがんだ自信じしん嘲笑ちょうしょうちていた。

「ハハハハッ! これがおれあなどったむくいだ!

普段ふだんつのうでつの武器ぶきしかたぬようせかけていたのは、

まさにこの瞬間しゅんかんのためだったのだ!」

かれ狂気きょうきひかり宿やどし、その視線しせんはすべてを支配しはいするかのように傲慢ごうまんだった。

発狂はっきょうからはじまり、すきせるまで――その一連いちれんうごきは、すべてが綿密めんみつ計算けいさんされたわなだったのだ。

たしかに、魔神ましん蚩尤シユウ狡猾こうかつで、同時どうじきわめて頭脳ずのう明晰めいせきでもあった。

その行動こうどう一手いって一手いっては、すべてが事前じぜんげられた策略さくりゃくによるものだった。


――だが、それでもなお、かれ誤算ごさんしていたのだ。


緹雅(ティア)身体からだは、突如とつじょとして空気くうきなかけるようにせた。

それはまるで幻影げんえい霧散むさんするかのようで、蚩尤シユウ笑顔えがお瞬時しゅんじこおりつき、

そのわりにかんだのは、言葉ことばうしなうほどの驚愕きょうがく表情ひょうじょうだった。

「な……なにがこった……?」

かれ呆然ぼうぜんくし、まえ光景こうけいしんじられぬままふるえていた。

その瞬間しゅんかん、私はようやくむねおくから安堵あんどいきした。

緹雅(ティア)姿すがた空中くうちゅうあらわれ、

やわらかなひかりまといながら、まるで神祇しんぎのごとくしずかにかんでいた。

そのこえかるやかで、どこか楽し(たの)しげにひびいた。

「わたしの幻影げんえい相手あいてにして、ここまでやるとは……わるくないわね。」

「なっ……なに……いつのに……?」

蚩尤シユウはようやく理解りかいはじめた。

自分じぶん最初さいしょから緹雅(ティア)計略けいりゃくからられていたことを。

「いつのに? ふふっ~最初さいしょからよ。」

緹雅(ティア)余裕よゆうみをかべながら、ゆっくりと回転かいてんさせ、

そらうように蚩尤シユウ頭上ずじょう優雅ゆうが旋回せんかいした。


蚩尤シユウ眼差まなざしが一瞬いっしゅんにしてくらしずんだ。

かれまゆをひそめ、緹雅(ティア)にらみつけながらひくく問いかけた。

「……いま、なんとった?」

その声音こわねにはいかりと困惑こんわくじりい、

かれはなおも状況じょうきょう把握はあくしきれぬまま、

自分じぶんがどのようにしてあやまった判断はんだんへとみちびかれたのかを理解りかいできずにいた。

――そして、そのこたえはすでにたたかいの最初さいしょから用意よういされていたのだ。

最初さいしょ一瞬いっしゅんにして、緹雅(ティア)みずからの職業しょくぎょう技能ぎのう――「実体幻象じったいげんしょう」を発動はつどうしていたのである。


緹雅(ティア)挑発ちょうはつてき口調くちょうつづけた。

「でも――わたしの防御ぼうぎょつらぬけるなんて、その武器ぶき、まさか神器しんきじゃないの?」

「なっ……なぜそれをっている!」

蚩尤シユウかおはさらに陰鬱いんうつゆがみ、

かれいかりにちた咆哮ほうこうげた。

かれにぎられたすべての武器ぶきは、いずれも超量級ちょうりょうきゅう名品めいひんであった。

だが――そのなか唯一ゆいいつ防御ぼうぎょやぶることができるしん脅威きょういは、

あのただひとつであった。

そのこそ、伝説でんせつかたられる神弩しんど――「艾克斯エクス」。

いかなる防壁ぼうへきをもちからつとされ、

かつて蚩尤シユウひかり元素使げんそしほうむったときにももちいられた、

破滅はめつをもたらす武器ぶきであった。


「もちろん、てわかったのよ! だって、わたしの防御ぼうぎょつらぬいたんですもの!」

緹雅(ティア)相変あいかわらずかる調子ちょうしはなち、

ほそひとみをわずかにほそめて、蚩尤シユウにぎられた神弩しんど一瞥いちべつした。

「それに――以前いぜん一度いちどれたことがあるのよ。

まさか、そこまで使つかいこなせるとはおもわなかったけれど……ひかり元素使げんそしたおせたのも、その武器ぶきのおかげでしょ?」

その声音こわねやわらかくも挑発ちょうはつてきで、

蚩尤シユウ策略さくりゃくをまるで子供こどもあそびのようにながしていた。

「なっ……!」

蚩尤シユウ表情ひょうじょうゆがみ、いかりと屈辱くつじょくいろじりう。

すると緹雅(ティア)微笑ほほえみながら、

その金色こんじきひかり反射はんしゃするかみをひるがえし、かるかたをすくめた。

「でもね――ふだかくしてるのは、あなただけじゃないのよ?」


そううやいなや、緹雅(ティア)ふたた攻撃こうげき仕掛しかけた。

先程さきほど幻影げんえいとはくらべものにならぬほど、そのうごきはするどく、

まるで暴風ぼうふうけるかのように迅速じんそく精確せいかくだった。

刹那せつなのうちに、そのかぜやいば蚩尤シユウ防御線ぼうぎょせんき、

重厚じゅうこうきん防壁ぼうへきすら粉砕ふんさいした。

蚩尤シユウ反射的はんしゃてき神弩しんど艾克斯エクス」をかまえ、

ふたた反撃はんげきてんじようとした。

しかし、かれねらいをさだめた瞬間しゅんかん――

緹雅(ティア)攻撃こうげきは、まるでひかりのようにはしり、

神弩しんど艾克斯エクス」のはなった一撃いちげき正面しょうめんからした。

神弩しんどちからは、緹雅(ティア)一太刀ひとたちまえに、あまりにも無力むりょくであった。


「そ、そんなはずが……!」

蚩尤シユウ怒号どごうげたが、そのこえには驚愕きょうがく恐怖きょうふが入りじっていた。

すでにかれ思考しこうはまともにはたらかず、

緹雅(ティア)攻撃こうげきあらしのごとくかれ圧倒あっとうしていた。

無数むすう刀光とうこう彼女かのじょなか交錯こうさくし、

死神しにがみ舞踏ぶとうのような閃光せんこうえがきながら、

蚩尤シユウ身体からだに次々(つぎつぎ)とあらたな傷痕きずあときざんでいった。

「へぇ? おもったより防御ぼうぎょわるくないじゃない。」

緹雅(ティア)くちびるはしをわずかにげ、

そのこえにかすかな賞賛しょうさんにじませた。

彼女かのじょちょうのようにかるやかにひるがえし、

蚩尤シユウ反撃はんげきをことごとくけながら、

容赦ようしゃなく連撃れんげきたたんでいった。

そのころ蚩尤シユウ全身ぜんしんはすでに完全かんぜんなる黄金化おうごんか状態じょうたいへと変貌へんぼうしていた。

黄金おうごんはだしずくすらはじくほどかたく、

ひかり反射はんしゃしてまばゆかがやきをはなっていた。

さらにそのうえから、かれ超量級ちょうりょうきゅう装備そうび――「黒鱗こくりん」をにまとっていた。

それは物理攻撃ぶつりこうげきたいして五割ごわり耐性たいせい強靭きょうじん防具ぼうぐであったが、

その反面はんめん魔法攻撃まほうこうげきたいしては脆弱ぜいじゃくであった。


それでもなお、緹雅(ティア)攻撃こうげきたしかに蚩尤シユウ肉体にくたいけずっていた。

一撃いちげきごとに刀刃とうじんするどひらめき、

その斬撃ざんげきくような激痛げきつうともないながら、

蚩尤シユウ全身ぜんしんいたみの奔流ほんりゅうへとたたんだ。

いかりのほのおえる蚩尤シユウは、咆哮ほうこうともにそのちからふたたたかめようとした。

攻撃力こうげきりょく速度そくど限界げんかいまでげ、

黄金化おうごんかした筋肉きんにく悲鳴ひめいげるほどまでちからめた。

――だが、それでもかれ緹雅(ティア)かげすらとらえることができなかった。

緹雅(ティア)うごきはかぜのようにはやく、

その姿すがたうつるかうつらぬかのまぼろしであった。

蚩尤シユウ武器ぶきるうたび、

彼女かのじょはその瞬間しゅんかんえ、

あらわれる場所ばしょは、かれ想像そうぞうもできぬ位置いちであった。


戦闘せんとうつづくにつれ、蚩尤シユウ感情かんじょう次第しだいくるい、

いかりと屈辱くつじょくこころくしていった。

理性りせいはすでに霧散むさんし、のこったのは破壊はかいへの衝動しょうどうのみ。

かれ咆哮ほうこうとも神弩しんど艾克斯エイクス」をふたたかまえ、

最後さいご反撃はんげきはなたんとした――。

だが、その瞬間しゅんかん緹雅(ティア)ひとみするどひらめいた。

彼女かのじょ一瞬いっしゅんすきのがさず、全身ぜんしん魔力まりょくかたな集中しゅうちゅうさせた。

そして、おともなくみ――閃光せんこうのごとき一太刀ひとたち蚩尤シユウむねいた。

「その武器ぶきたしかに防御ぼうぎょつらぬくにはすぐれてるけど……」

緹雅(ティア)つめたく微笑ほほえみ、刃先はさきらしながらはなった。

神器しんきってね、防御ぼうぎょりょくってるわけじゃないの。

まさか、それでわたしの攻撃こうげきふせげるなんておもってたわけじゃないでしょう?」

その声音こわねこおりのようにつめたく、

いで彼女かのじょうでにさらなるちからめた。

瞬間しゅんかん九階きゅうかい魔法まほう――「漩絲斷界せんしだんかい裂水嵐れっすいらん」が発動はつどうする。

奔流ほんりゅうのような魔力まりょく刀身とうしんけ、

みずあらし具現化ぐげんかして蚩尤シユウ四肢ししおそった。

轟音ごうおんとも黄金化おうごんかしたうでが粉々(こなごな)にくだり、

蚩尤シユウ絶叫ぜっきょうげながら地面じめんころがりまわった。

そのいたみは、かみすらもがたいほどであった。


緹雅(ティア)たお蚩尤シユウむねうえしずかにち、

冷然れいぜんとした殺気さっきはなちながら見下みおろした。

正直しょうじきえば――わたしにこの魔法まほう使つかわせたんだから、たいしたものよ。」

その声音こわねいているのに、

やいばよりもするど威圧感いあつかんびていた。


「どうやら、わたしが必要ひつようはなさそうだね!」

緹雅(ティア)かたをすくめ、うすわらいながらこたえた。

「もちろんよ! 混沌級こんとんきゅうのボスとしては、守護者しゅごしゃたちの腕試うでだめしにはちょうどいい相手あいてだったけどね。」

彼女かのじょはゆっくりとこしとし、

目線めせんひくくして蚩尤シユウつめたく見下みおろした。

ころすのはすこしいけれど――任務にんむ任務にんむだから、仕方しかたないわね。」


て……!」

蚩尤シユウ狼狽ろうばいしたこえさけた。そのこえにはあわてと焦燥しょうそうじり、かすかにふるえていた。

「おや? まだなにいたいことでもあるのか?」

わたしつめたく蚩尤シユウ注視ちゅうしした。

かつて無畏むい傲慢ごうまんちていたそのひとみは、いま恐慌きょうこうまりきっていた。

蚩尤シユウ地面じめんにへたり込み、いま姿すがたきわめて脆弱ぜいじゃくであった。

「もしわたしを――ころしたら……あの大人達おとなたちはすぐにづく。

まえたちは……絶対ぜったいびられない!

聖王国せいおうこくも……すぐにほろぼされるのだ!」

かれ全身ぜんしんちからしぼり、断続だんぞくてきはなしたが、かたられるのは脅迫きょうはく警告けいこくばかりであった。

そのことかぎり、かれ背後はいごひかえる勢力せいりょくけっしてちいさくはないらしい。

私はその言葉ことばけて、内心ないしん思案しあんめぐらせはじめた。


「どうやらこのやつなにかをっているようだな?」

わたし低声ていせいささやき、視線しせん緹雅(ティア)けてった。

緹雅(ティア)、まずはどんな情報じょうほうがあるかさぐってみよう!」

わたしがそうげると、緹雅(ティア)両手りょうて背後はいごき、手中しゅちゅう武器ぶきかるまわしながら口笛くちぶえき、わたしに好き(すき)にしていいという合図あいずおくった。

「おまえ…おまえたちは一体いったい何者なにものなんだ?」

蚩尤シユウ眼差まなざしが私達わたしたちをじっとえた。

わたしはわずかにげ、人差指ひとさしゆびくちびるにそっとてて、かれしずかにするよう合図あいずした。

「しっ…いまからわたしきみ質問しつもんをする。きみこた次第しだいで、処置しょちわるかもしれない。」

この所作しょさによって空気くうきはたちまちしずまり、微風びふうさえもゆるやかにながれるように感じられた。

わたしこえひくつめたく、情感じょうかん欠如けつじょしたものだった。

そのつめたさは、蚩尤シユウたいしてわたしがいつでもかれいのちうばいかねない存在そんざいであると感じさせるに威圧感いあつかんともなっていた。


「おまえたちは……いったい……なにを……りたい……?」

蚩尤シユウいきえで、まともにはなすこともできなかった。

蚩尤シユウ重傷じゅうしょうのせいでうまく言葉ことばはっせないのをて、

私はすこすことにした。

ゆびばし、そっと魔法まほう発動はつどうさせる。

治癒ちゆ魔法まほうひかり指先ゆびさきあつまり、

やがてそのひかり蚩尤シユウ身体からだへとつたわっていった。

魔力まりょくながれがかれ身体からだをめぐり、

いたみがやわらぎ、こえすこしずついていった。


「もう……これで普通ふつうはなせるはずだ。さあおしえてくれ、

おまえはいったいだれなんだ? その背後はいごの“大人おとなたち”とは何者なにものだ?」

私は蚩尤シユウ簡単かんたん治療ちりょうほどこしたあと、正式せいしき尋問じんもんはじめた。

われ黒棺神こくかんしんさまのもとにつかえる十八じゅうはち精鋭せいえい直属ちょくぞく護衛ごえい一人ひとりだ。」

蚩尤シユウはようやくいきととのえ、

疲労ひろうにじこえでありながらも、はっきりとわたしの問いにこたえた。

「また黒棺神こくかんしんか……。この黒棺神こくかんしんとはいったいなんなんだ?」

私はこころしずみ、おないた瞬間しゅんかん

つよ警戒心けいかいしんともに、ふか苛立いらだちをおぼえた。

われくわしくはらぬ。われ虚無きょむよりまれ、

誕生たんじょう以来いらいたったひとつの命令めいれいだけをけてきた。

――それは、黒棺神こくかんしんさまが復活ふっかつされるまで、聖王国せいおうこくものころつづけることだ。」

蚩尤シユウにはつめたいひかり宿やどり、

そこには感情かんじょうというものがまるで存在そんざいしていなかった。

それはまるで――その使命しめいこそがかれのすべてであり、存在意義そんざいいぎそのものだとわんばかりであった。


私はまゆをひそめた。

その言葉ことばをすべてしんじることはできなかったが、どうやらうにあたいする手掛てがかりもふくまれているようだった。

しかし、この蚩尤シユウ名乗なの存在そんざい言葉ことば本当ほんとうなのか?

黒棺神こくかんしんとは何者なにものなのか?

そして、十八じゅうはち精鋭せいえいとやらもおそるべきちからめているのだろうか?

「だが――おまえのは“蚩尤シユウ”というのだな? 偶然ぐうぜんだとはおもえない。」

私はまゆげた。

その古代こだい伝説でんせつかたられる魔神ましん酷似こくじしている。

もしかして、この存在そんざいなに関係かんけいがあるのか?

「どういう意味いみだ? われは、われ誕生たんじょうした瞬間しゅんかんめられたものだ。」

蚩尤シユウ返答へんとうには、どこか困惑こんわくいろがにじんでいた。

「……」


私はしばし沈黙ちんもくし、こころなかでこれらの言葉ことばうらにある意味いみ何度なんどかんがえた。

かれこと完全かんぜんしんじることはできないが、すくなくとも価値かちのある情報じょうほうではある。

「では、その“十八じゅうはち精鋭せいえい”とやらには、ほかにどんなものたちがいる?」

私はさらにくわしくそうとした。

もしかすれば、そこからあたらしい手掛てがかりがられるかもしれない。

われらぬ。」

蚩尤シユウこたえはみじかく、わたしすこ落胆らくたんさせた。

「ちっ……このやつなにらないじゃない。」

緹雅(ティア)ちいさくつぶやき、あきらかに不満ふまんげな表情ひょうじょうかべた。

「あるいは、うそをついているのかもしれない。――ひと魔法まほうためしてみようか。」

緹雅(ティア)言葉ことばいて、私はこの機会きかいすこためしてみることにした。

「な、なにをするだ!」

蚩尤シユウこえには動揺どうようにじみ、

わたしつぎ行動こうどうたいする恐怖きょうふがはっきりと感じれた。



蚩尤シユウ言葉ことばえるまえに、

わたしはすでにかるり、十階じゅっかい魔法まほう――「記憶章魚きおくたこ」を発動はつどうさせていた。

魔法まほう発動はつどうすると同時どうじに、

虚空こくうから巨大きょだいあお章魚たこ姿すがたあらわした。

その身体からだ奇妙きみょうひかりはなちながら脈動みゃくどうし、

触手しょくしゅゆみのようにしなやかにび、空気くうきなかをうねるようにうごいた。

その章魚たこ体長たいちょうはおよそメートルにもたっし、

かびがるたびにあわひかり波紋はもん周囲しゅういつつんでいった。

やがて章魚たこ素早すばや蚩尤シユウ頭上ずじょうへとがり、

数本すうほん触手しょくしゅがゆっくりとかれひたいびていく。

吸盤きゅうばんはだにぴたりとり付き、奇妙きみょう刺激しげきはじまった。

触手しょくしゅ蚩尤シユウれた瞬間しゅんかん

かれひとみはぼんやりとにごり、意識いしきすこしずつくもっていくようにえた。

その様子ようすは、まるで自我じが支配しはいうしないつつあるかのようだった。


便利べんり魔法まほうなのはわかるけど……てるとなんだかかないわね。」

緹雅(ティア)すこかおをしかめて、ひくこえでぼそりとつぶやいた。

どうやらこの魔法まほうらないらしい。

私はかたをすくめてこたえた。

仕方しかたないだろう、これしか方法ほうほうがないんだから。」

ゲームのなかでは、この魔法まほう魔力まりょく消耗しょうもうすくなく、

通常つうじょうのモンスターに使つかえば行動こうどう単調たんちょうにできた。

移動いどうしないBOSSボス相手あいてなら、攻撃こうげきパターンを事前じぜん把握はあくすることもできたが、

一般いっぱんのプレイヤーにはまったく効果こうかがなかった。

だが、この世界せかいてからは、情報じょうほう収集しゅうしゅうにおいて非常ひじょう有用ゆうよう魔法まほうとなった。

とはいえ、その効果こうかためれがたく、

緹雅(ティア)芙莉夏フリシャからは「ギルドの仲間なかま使つかうのは禁止きんし」と明言めいげんされている。

それも当然とうぜんだった。

この魔法まほうがもたらす心理的しんりてき圧迫感あっぱくかん不快感ふかいかんは、常人じょうじんには到底とうていえられるものではないのだ。

章魚たこ触手しょくしゅ蚩尤シユウ脳内のうないへとさらにふかく入りはいりこむにつれ、

かれ記憶きおくすこしずつ読みよみとられていった。


だがそのとき蚩尤シユウ身体からだ突如とつじょはげしくふるし、

くろ気流きりゅう洪水こうずいのように体内たいないから爆発ばくはつし、

またた全身ぜんしんつつんだ。

空間くうかん一瞬いっしゅんえ込み、おもしずんだ気配けはいちる。

そのくろ蚩尤シユウ自身じしんからはっせられたものではなく、

まるでそとからなにかにあやつられているかのようだった。

このちからみなもとは――どうても尋常じんじょうではない。

「なっ……なにきている!?」

私はまえ変化へんかおどろき、むねおく不安ふあんおぼえた。

その瞬間しゅんかん蚩尤シユウはもはや無力むりょく囚人しゅうじんではなかった。

かれひとみ何者なにものかに支配しはいされたように狂気きょうきまり、

られていた四本よんほんうで瞬時しゅんじ再生さいせいした。

そして――

すさまじい咆哮ほうこうともに、蚩尤シユウわたしかって突進とっしんしてきた。

をつけて!」

緹雅(ティア)するどこえさけび、

素早すばや武器ぶきはなつと、防御ぼうぎょかまえをった。

彼女かのじょ身体からだはわずかにしずみ、

そのひとみは、突進とっしんしてくる蚩尤シユウするどとらえてはなさなかった。


て!」

私は瞬間的しゅんかんてき自分じぶん結界けっかい展開てんかいし、

蚩尤シユウ攻撃こうげき一瞬いっしゅんふせがれた。

だが、それでもかれくるったように結界けっかいたたつづけ、

何度なんどやぶろうとこころみていた。

私は結界けっかい攻撃こうげきめているわずかなすきをついて、

蚩尤シユウ魔力まりょく波動はどういそいで感知かんちした。

観察かんさつ結果けっか蚩尤シユウ魔力まりょくはすでに枯渇こかつしており、

もはや自力じりき攻撃こうげきはなつことはできないとかった。

つまり――いままえされている攻撃こうげきは、

蚩尤シユウ自身じしんちからによるものではない。

私は一歩いっぽうしろへがり、

視線しせん蚩尤シユウ首筋くびすじへとけた。

そこには、漆黒しっこく宝珠ほうじゅするどひかりはなちながらかがやいていた。

その球体きゅうたいからは不気味ぶきみなエネルギーがただよており、

あきらかに――このくろ宝珠ほうじゅこそが、

蚩尤シユウ常軌じょうきいっしたちからあたえている原因げんいんだった。


緹雅(ティア)!」

私は大声おおごえさけび、いそいで情報じょうほう彼女かのじょつたえた。

緹雅(ティア)はそれをくやいなや、

一瞬いっしゅんまよいもせず蚩尤シユウへと突進とっしんした。

刀刃とうじんつめたいひかりはなち、剣先けんさきはまっすぐ蚩尤シユウ首筋くびすじねらう。

そのうごきはあまりにもはやく、

けんろされるまでの一連いちれんながれは、ほとんど一瞬いっしゅん出来事できごとだった。

「カシャン!」というおとともに、蚩尤シユウ頭部とうぶとされ、

同時どうじくろ宝珠ほうじゅぜ、黒煙こくえんとなってくうっていった。

空気くうきはたちまち重苦おもくるしい気配けはいたされ、

ささえをうしなった蚩尤シユウ身体からだは、

にぶおとてて地面じめんくずちた。

「まずい! あいつ、ってただろ――もしんだら、もっとつよてきあらわれるって!」

私はあわててこえげた。

いまのはあまりにもきゅうだったのよ、仕方しかたないじゃない!」

緹雅(ティア)かたをすくめ、こまったようにこたえた。


すべての出来事できごとはあまりにも急速きゅうそくすすみ、

細部さいぶまで対処たいしょするひまなどなかった。

大丈夫だいじょうぶめてるわけじゃないよ、緹雅(ティア)。」

私は彼女かのじょつめ、おだやかなこえでそうなぐさめた。

これは彼女かのじょ過失かしつではない。

ただ、このたたかいがあまりにも突然とつぜんすぎただけなのだ。

「じゃあ、褒美ほうびとして――わたしのあたまでてよ!」

緹雅(ティア)はいたずらっぽい笑顔えがおかべ、

空気くうきなごませるようにった。

「はいはい……。」

私は苦笑くしょうしてくびり、

ばして彼女かのじょあたまかるでた。

この瞬間しゅんかん彼女かのじょ様子ようすはどこかかるすぎるほどいてえた。

だが、私はっていた。

この気楽きらくさこそ、彼女かのじょなりの重圧じゅうあつたいするしょしかたなのだと。

「どうせまたてきてくるんでしょ? そのときたおせばいいじゃない。」

彼女かのじょでられながら、ちいさくわらってった。

「まったく……きみ本当ほんとう緊張感きんちょうかんがないな。」

「ふんっ!」

緹雅(ティア)くちびるとがらせ、そっぽをいた。

ここまでて、十分じゅうぶん情報じょうほうられなかったのは残念ざんねんだったが、

蚩尤シユウ武器ぶき遺体いたい回収かいしゅうできたのは、すこなくとも収穫しゅうかくべるものだった。



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