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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第五章 千年の追尋-5

王城おうじょうおおきくはないが、その建築けんちくきわめて精緻せいちで、独特どくとく雰囲気ふんいきはなっていた。

城門じょうもんをくぐると、まずんでくるのは壮麗そうれいなる皇宮こうきゅうだった。宮殿きゅうでん外観がいかん金碧輝煌きんぺききこうとしており、彫刻ちょうこく瑠璃瓦るりがわらひとひとつまでもが黄金おうごんひかりはなち、聖王国せいおうこく威光いこう尊厳そんげん誇示こじしているかのようであった。

宮殿きゅうでん内部ないぶにはかぞれぬほどの守衛しゅえい駐屯ちゅうとんしており、かれらは整然せいぜんとした足取あしどりで巡回じゅんかいし、みがげられた甲冑かっちゅうにまとっていた。その姿すがたしろ全体ぜんたい一層いっそう威厳いげんあたえていた。


しかし、ここは王国おうこくしん心臓部しんぞうぶではなかった。皇宮こうきゅう背後はいごには、その壮麗そうれいさとはまったくことなる気配けはいはな神殿しんでんしずかにかくされていた。

その神殿しんでん結界けっかいによってかこまれた区画くかく位置いちし、そとからかぎりでは、それほど目立めだ存在そんざいではない。皇宮こうきゅうのような華美かびさもなく、威光いこうほこるような装飾そうしょくほどこされていなかった。

わたしたちが弗瑟勒斯フセレス神殿しんでんくらべれば、ここはじつ質素しっそで、静謐せいひつ印象いんしょうすらあたえる。

石造いしづくりかべにはなが年月ねんげつ痕跡こんせききざまれ、こけ風蝕ふうしょくあとがその歴史れきし物語ものがたっていた。この神殿しんでんすくなくとも三千年さんぜんねん歳月さいげつており、六島之國ろくとうのくに建国けんこくされた当初とうしょから今日こんにちいたるまで、聖王国せいおうこく変遷へんせんとも見届みとどけてきたのだ。


神殿しんでんちかづくと、そこには俗世ぞくせからはなされたような静寂せいじゃく気配けはいちていた。周囲しゅうい空気くうき外界がいかい喧騒けんそうこばむかのようにみわたり、古木こぼくたちはてんおおうほどたかび、枝葉しようしげいながら、この神聖しんせいなるもくしてまもっているかのようであった。

木々(きぎ)のかげ地面じめんまだらひかりとし、ひかりかげ交錯こうさくするなかときながれはゆるやかになり、一秒いちびょうごとに歴史れきしふかみにしずんでいくようにかんじられた。

そのちいさなはやしけ、わたしたちはようやく神殿しんでん大広間だいこうままえ辿たどいた。

神殿しんでん正門せいもん二本にほん巨大きょだい石柱せきちゅうによってささえられ、門枠もんわくには複雑ふくざつ符文ふもん神聖しんせいしるしきざまれていた。

とびらおもく、そのひらかれるとき、ひくひび轟音ごうおん大気たいきふるわせた。そのおとたましいまでもつらぬくようで、ひとこころ言葉ことばではあらわせぬ畏敬いけいいだかせた。

亞拉斯アラースなかはいり、神明かみたちへの報告ほうこくおこなった。


神殿しんでんそとただよ空気くうきは、ほかのどんな場所ばしょともことなっていた。静寂せいじゃくで、おだやかでありながら、すべての細部さいぶ神聖しんせい光輝こうきはなっているようだった。そこへかう途上とじょうわたしは知らず知らずのうちにあゆみをゆるめていた。

建築物けんちくぶつそのものも、そしてちる空気くうき雰囲気ふんいきも、ひとふか敬意けいい畏怖いふいだかせる。まるでこの場所ばしょこそが、王国おうこく全体ぜんたい信仰しんこう希望きぼう宿やどしているかのようだった。

神殿しんでん大広間だいこうま入口いりぐちには、左右さゆうにそれぞれ五人ごにんずつの衛兵えいへいどまり、見張みはりをつとめていた。かれらは簡素かんそながら堅牢けんろう甲冑かっちゅうにまとい、長槍ちょうそうに、するど眼差まなざしで周囲しゅうい警戒けいかいしている。

鑑定かんてい結果けっかかられば、かれらの実力じつりょくはおおよそ五級ごきゅう程度ていどで、特別とくべつつよいわけではなかった。

この防備ぼうびあきらかに、外部がいぶからの侵入者しんにゅうしゃはばむためのものではないようだった。


わたし緹雅ティア神殿しんでん門口もんこうっていた。周囲しゅういつつ静寂せいじゃくこころかせ、まるで時間じかんまでもがここではゆっくりとながれているかのようだった。

わたしたちがしばし門前もんぜんくしていると、やがて亞拉斯アラース神殿しんでん内陣ないじんからあるてきた。

神明かみさまが、きみたちにうとおっしゃっている。」

かれおだやかなみをかべていたが、その表情ひょうじょうおくにはかすかな疲労ひろういろにじんでいた。


わたし緹雅ティア神殿しんでんなかへとあしれた。

中央ちゅうおうにはたかくそびえる祭壇さいだんがあり、そのうえには純白じゅんぱく布幕ぬのまくけられていた。ぬのには金色きんいろ神聖しんせい符紋ふもん刺繍ししゅうされており、それはまるでなにかの魔法まほう戦技せんぎ術式じゅつしきかたどっているかのようだった。

周囲しゅういかべにはふるびた絵画かいがけられ、そこには聖王国せいおうこく歴史れきし神明かみたちの事績じせきえがかれていた。色彩しきさい長年ながねん歳月さいげつともせていたが、その荘厳そうごんさはうしなわれていなかった。

神殿しんでん両側りょうがわなら石柱せきちゅうには、りゅうかたちをした神像しんぞう一列いちれつきざまれている。その彫刻ちょうこくおどろくほど精巧せいこうで、いまにもいしなかからいのちうごしそうであった。

龍像りゅうぞうたちの眼差まなざしはふかするどく、まるで神殿しんでんおとずれるすべてのもの見透みすかすかのように、しずかに、そして圧倒的あっとうてき威圧感いあつかんはなっていた。


祭壇さいだん背後はいごには、三柱みはしら神明かみすわしていた。かれらのはな気配けはい深淵しんえんのようにしずかでありながら、荘厳そうごんおもみをっていた。室内しつない質素しっそ装飾そうしょくとは対照的たいしょうてきに、神々(かみがみ)は華麗かれい神袍しんぽうにまとい、端正たんせい顔立かおだちからは言葉ことばくせぬ神聖しんせいさがただよっていた。

三柱みはしら神明かみたちの体格たいかく人間にんげんおおきなもなく、想像そうぞうしていたような巨大きょだい存在そんざいではなかった。しかし、かれらの背後はいごやると、さらに一柱ひとはしら神明かみしているのがえた。

その神明かみほか三柱みはしらよりもあきらかに大柄おおがらで、おなじく神袍しんぽうをまとうものの、そのはより堂々(どうどう)としていた。それでもなお、かれ体躯たいく人間にんげんわくをわずかにえる程度ていどであり、威圧いあつではなく、静謐せいひつそのもののような存在感そんざいかんはなっていた。

かれひとみふかく、底知そこしれぬひかり宿やどしながらも、そこにはかすかな冷淡れいたんさがあった。その眼差まなざしはあらゆる真理しんり見通みとおし、同時どうじにこののすべての栄華えいがを、ただの過客かかくまぼろしのようにているようだった。


わたし緹雅ティアは、ただかるこしり、両手りょうてむねまえんで神明かみたちに挨拶あいさつをした。

しかし、そのつつましい仕草しぐさあきらかに亞拉斯アラース不満ふまんった。かれには不快ふかいいろ宿やどり、こえには苛立いらだちがにじんでいた。

「おい!神明かみさまの御前ごぜんで、その態度たいどはあまりにも無礼ぶれいだろう!」

亞拉斯アラースいかりをかくさず、わたしたちをするどとがめた。

だが、その言葉ことばわるよりはやく、一柱ひとはしら神明かみしずかにげ、かれせいした。

にするな、亞拉斯アラース。」

そのやわらかなこえには、絶対ぜったい威厳いげんがあった。亞拉斯アラースちいさくいきき、いたげにくちひらいたが、そのまえ神明かみ視線しせんせいされ、言葉ことばんだ。

その静寂せいじゃくなか、もう一柱ひとはしら神明かみ微笑ほほえみをかべた。ひとみにはどこか愉快ゆかいそうなひかり宿やどる。

「ははは、なるほどな。もし自分じぶんなければしんじられんところだ。きみたち、亞拉斯アラースおなちからっているどころか──いや、むしろそれ以上いじょうかもしれんな。」


その言葉ことばいた瞬間しゅんかんわたしむねおくかすかなおどろきがはしった。

亞拉斯アラースもまた、その神明かみ発言はつげんつよ衝撃しょうげきけたようだった。かれはまさか、わたしたちのちから自分じぶん想定そうていえるとはおもっていなかったのだ。

亞拉斯アラース先日せんじつ試合しあい光景こうけいおもかえそうとしていた。かれはあのときもなお、みずからが優勢ゆうせいだとしんじていたにちがいない。だがいま神明かみたちの評価ひょうかみみにし、かれこころおおきくらいでいた。

「な、なんだと……? おれよりうえちから? そんなもの……おれですら見抜みぬけなかったのか?」

その言葉ことばには困惑こんわくあせりがにじんでいた。

私は一歩いっぽし、わざと緊張きんちょうしたこえたずねた。

「あなたたちは……いったいなにたんですか?」


そのとき一柱ひとはしら神明かみしていた玉座ぎょくざからかるやかにりた。かれ動作どうさ力強ちからづよく、堂々(どうどう)としていたが、どこか粗野そや印象いんしょうもあった。

だがすぐにかれ姿勢しせいただし、礼儀正れいぎただしい態度たいどくちひらいた。

「まずは自己紹介じこしょうかいをしよう。我々(われわれ)は聖王国せいおうこく神明かみだ。わたしさずかった神位しんい伏羲フクキ種族しゅぞくはドワーフぞくだ。」

つぎに、一人ひとり神明かみ優雅ゆうが一歩いっぽすすた。その姿勢しせい気品きひんち、こえひくひびわたった。

わたし神位しんい神農氏しんのうし人族じんぞくとエルフぞく混血こんけつだ。」

その声音こわねには不思議ふしぎ重厚じゅうこうさと、周囲しゅういつつ神秘しんぴ気配けはい宿やどっていた。

そして最後さいごに、やわらかなこえしずかにひびいた。

「私は蛇妖族じゃようぞく人族じんぞく混血こんけつ神位しんい女媧ジョカよ。」

先程さきほどわたしたちがもちいた道具どうぐ見抜みぬいた神明かみが、おだやかに名乗なのった。

そのこえながれるみずのようにみ、いたひびきをっていた。

だが、そのへびのようなひとみするどく、しずかな洞察どうさつひかり宿やどっていた。

女媧ジョカわたしたちをつめながらった。

わたし権能けんのうは、あなたたちのうちひそちから見抜みぬくことができる。どんなに偽装ぎそうしようとしても、無駄むだよ。──私はすべてをっているの。」

その口調くちょうには感情かんじょうがなく、ただ事実じじつげるのみだった。

彼女かのじょ視線しせんわたしたちをしずかに横切よこぎる。

「あなたたちの左手ひだりてにある腕輪うでわ──それは、周囲しゅういものにあなたたちのちからさとらせないようにするものね?」


神明かみたちは、やはり我々(われわれ)が使つかっている偽装ぎそう道具どうぐ容易ようい見抜みぬちからっていた。

つまり、最初さいしょわたしたちの能力のうりょく見抜みぬいたのは亞拉斯アラースではなく、女媧ジョカ背後はいごでそのとおしてたすけていたということになる。

女媧ジョカ権能けんのうは「へび」──それは、相手あいてのあらゆる偽装ぎそう幻惑げんわく完全かんぜん見破みやぶ能力のうりょくだった。

わたしたちの偽装ぎそう見抜みぬくなんて……さすが、とうべきかな。」

私はわざと緊張きんちょうした口調くちょうでそうこたえた。

しかし、こころおくではすこしも動揺どうようしていなかった。

神明かみちからでは、わたしっている虚偽情報魔法きょぎじょうほうまほう──つまり、認識にんしきゆがめる高位こうい魔法まほうまでは看破かんぱできなかったのだ。

それは、わたし魔法まほうすくなくとも神明かみ感知かんちえる領域りょういきにあることを意味いみしていた。

この事実じじつだけで十分じゅうぶんだった──すくなくとも、我々(われわれ)の真実しんじつ情報じょうほう容易よういにはあばかれない、という確信かくしんられたのだから。


「だがな、これくらいのちからではまだりぬ。あのおとこは、我々(われわれ)三柱みはしらちからわせてもたおすのはむずかしいのだ。」

神農氏しんのうししずかにはなった。

「その“あのおとこ”というのは……だれのことですか?」

緹雅ティアまゆをひそめ、うたがわしげにたずねる。

上古じょうこ魔神ましん──蚩尤シユウだ。」

神農氏しんのうしはまるで日常にちじょう一言ひとことのように淡々(たんたん)とそのくちにした。

「ほう?」

「おや? そのいてもどうじないとは……さすがはきみたちだな。」

神農氏しんのうしすこ愉快ゆかいそうにわらい、我々(われわれ)の冷静れいせいさに感嘆かんたんした。

私はこころなかでつぶやいた。──やはり蚩尤シユウか。

だが、その姿すがたは、かつてわたしがゲームでたものとはすこちがうようだ。

「そいつ、本当にそんなにつよいの?」

緹雅ティアかたをすくめ、興味きょうみなさそうにった。

「なんという無礼ぶれいな!神明かみさまが“あまる”とおっしゃるおかただぞ! 貴様きさまたちごときがなにを──!」

亞拉斯アラースいかりをばくぜさせ、こえあらげた。

しかし、伏羲フクキがすぐに右手みぎてげてせいした。

「もうよい、亞拉斯アラース。──がれ。」

「……はっ、御意ぎょい。」

亞拉斯アラースいしばりながらもこうべれ、しずかにその退しりぞいた。


「すまない、かれ無礼ぶれいゆるしてほしい。」

伏羲フクキおだやかなこえい、ふかこうべげた。その態度たいどには、神明かみでありながらも礼節れいせつおもんじる誠実せいじつさがあった。

わたしかたをすくめ、かるわらいながらこたえた。

べつかまいませんよ。──それより、その魔神ましんって、そんなにつよいんですか?」

「ふふ、案外あんがい……このものたちはおもっていた以上いじょう手強てごわいかもしれないわね。」

女媧ジョカ口元くちもと愉快ゆかいみをかべ、楽しげにった。そのひとみへびのようにほそひかり、まるでわたしたちのこころおくまで見透みすかしているかのようだった。

「ふむ……随分ずいぶん自信じしんちているな。」

伏羲フクキふたたびこちらへとなおり、しずかにいかけた。

きみたちは、本当ほんとうにそれほどの確信かくしんがあるのか?」

私は伏羲フクキをまっすぐに見返みかえし、いたこえこたえた。

神明かみさまの御前ごぜんで──かくすことなど、ありませんよ。」

その瞬間しゅんかん空気くうきはわずかにりつめ、神殿しんでんおくながれる静寂せいじゃくが、よりふかく、おもくなった。


空気くうき一瞬いっしゅんにしてしずまりかえった。

だれ言葉ことばはつせず、ただ沈黙ちんもくなかでそれぞれが思考しこうめぐらせているようだった。

その静寂せいじゃくやぶったのは、おもひび威厳いげんあるこえだった。

「いや──たとえおまえたちの内心ないしんさぐろうとしても、ちからでは見通みとおせぬ。おまえたちの魔法まほうは、あまりにも強大きょうだいだ。」

そのこえぬしは、最高神さいこうしん盤古バンコウであった。

わたしたちはそのときはじめてかれ姿すがたをはっきりとた。

かれ山脈さんみゃくのごとくたかく、堂々(どうどう)とした体格たいかくほこっていた。

筋肉きんにくはがねのように隆起りゅうきし、その存在そんざいそのものが大地だいちちから体現たいげんしているかのようだった。

かぜくたびに、銀白ぎんぱく長髪ちょうはつひげうごき、かれ双眸そうぼうにははかれぬ叡智えいち威圧的いあつてきちから宿やどっていた。

私は無意識むいしきいきみ、ふとこころなかおもう。

──もしも不破フハとこの盤古バンコウが、純粋じゅんすい肉体戦にくたいせんこぶしまじえたなら……たしてつのはどちらなのだろうか。


「すまぬな、まだ自己紹介じこしょうかいをしていなかった。」

盤古バンコウはゆっくりとした口調くちょういながら、おもみのある視線しせんわたしたちのほうへとけた。

そのることもなく、しかし確実かくじつこころおくまで射抜いぬくようだった。

われ巨人族きょじんぞく人族じんぞく混血こんけつ──神位しんい盤古バンコウ。」

そのこえしずかでいていたが、同時どうじ空気くうき全体ぜんたいするほどの威圧感いあつかんともなっていた。

ひとこころ見透みすかす能力のうりょく……それが、最高神さいこうしん権能けんのうというわけ?」

緹雅ティア一言ひとこと静寂せいじゃくやぶり、そのにいたすべての神明かみたちの視線しせん一斉いっせいわたしたちへとそそがれた。

その瞬間しゅんかん空気くうき一変いっぺんする。

神明かみたちはだれもが予想よそうしていなかったのだ──わたしたちの魔法まほう盤古バンコウ洞察どうさつをもさえぎるとは。

盤古バンコウひとみに、一瞬いっしゅんだけおどろきのいろはしった。

だが、すぐにかれ表情ひょうじょうめ、そのこえひくとす。

「……おまえたち、一体いったいどのくに神明かみからつかわされた?」


わたし微笑ほほえみをかべ、ぐにはこたえず、視線しせん緹雅ティアに、これ以上いじょう情報じょうほうらさないよう暗示あんじした。

「いいえ……私達わたしたち何処どこくににもぞくしていません。ただ、目立めだたないちいさな場所ばしょからたにぎないのです。」

 わたし故意こい身分みぶんぼかしながら、同時どうじ緹雅ティア注意ちゅういうながした。

 盤古バンコウ眼差まなざしが一層いっそうするどくなり、すこ身体からだまえかたむけた。その反応はんのうは、私達わたしたちこたえに満足まんぞくしていないことを物語ものがたっていた。

「この世界せかいで、ほか国神こくじん加護かごけぬまま、わたし権能けんのうものなど、ほとんない。お前達おまえたち一体いったい、どうやってこれほどのちからた?」

わないほうがいいとおもうよ。だって……わたし、プライバシーを大切たいせつにするタイプだからね!」

 緹雅ティアおどけたようにい、くちびる悪戯いたずらっぽいみをかべた。

「……」


「もしきみたちがはなしたくないのなら、それでもかまわない。」

 盤古バンコウ微笑ほほえみをかべ、こころなかでは無奈むなかんじながらも、完全かんぜんかいできないわけではなかった。

「だが、きみたちがすで此処ここあらわれたということは――すなわ(即)ち、あの魔神ましん打倒だとうするちからっている、ということだろう?」

 私達わたしたち自分じぶんたちの素性そせいかみあきらかにするはなかったが、それでも盤古バンコウ敵意てきいせることなく、話題わだい今回こんかい委託任務いたくにんむへとうつした。

 神々(かみがみ)の態度たいどは、わたしすこおどろきをあたえた。てっきり圧力あつりょくくわえてくるものとおもっていたが、いま彼等かれらはむし(寧)ろ私達わたしたち助力じょりょくもとめているようだった。

きみう“あの魔神ましん蚩尤シユウ”のことか?――ああ、そうだ。おれたちはそいつをたおすためにここへたんだ。」


君達きみたちっているのか? あのものちからが、どれほど強大きょうだいなのかを。」

 神農氏しんのうし厳粛げんしゅく表情ひょうじょうは、ほかの神々(かみがみ)をすこおどろかせた。

どうやらかれは、我々(われわれ)がてきあまているとかんじたらしい。

滅多めったにあんたがそんなかおせることはないものね……。無理むりもないわ、あのけんいまでもこころのこっているのでしょう。」

 女媧ジョカ神農氏しんのうしをなだ(宥)めるようにった。

「そのけん……あなたたちっているのは、二十五年前にじゅうごねんまえ出来事できごとのことですか?」

「そうだ……。」

 盤古バンコウしずかにうなず(頷)き、そして二十五年前にじゅうごねんまえこった出来事できごとについて、我々(われわれ)にかたはじめた。


 二十五年前にじゅうごねんまえ前代ぜんだい神明かみたちが相次あいついでり、彼等かれらは「神明候補しんめいこうほ」として、いわゆる交接儀式こうせつぎしきおこなっていた。

 その交接儀式こうせつぎしきとは、神位しんい譲渡じょうと権能けんのう継承けいしょう意味いみし、すべて神殿しんでん祭壇さいだんにおいて、かつての九位きゅうい大人たいじんたちがもうけた儀式魔法ぎしきまほうによっておこなわれるものだった。


不運ふうんにも、前代ぜんだい神明かみたちがったそのとき聖王国せいおうこく西方せいほう辺境へんきょう突如とつじょとして強大きょうだい魔物まもの――「猰貐やつゆ」が出現しゅつげんした。

 それは長年ながねんにわたって生存せいぞんしてきたふる魔物まもので、つね気配けはいしながら聖王国せいおうこく国境こっきょうあららしては、人々(ひとびと)に恐怖きょうふをもたらしていた。

 当時とうじ、その「猰貐やつゆ」は金光級きんこうきゅう冒険者ぼうけんしゃさえいれば容易ようい退しりぞけられる程度ていど存在そんざいおもわれていた。

だが、黒鑽級こくさんきゅう冒険者ぼうけんしゃでさえ重傷じゅうしょうったといた瞬間しゅんかん、人々(ひとびと)はようや(漸)く事態じたい深刻しんこくさに気付きづいたのだ。

 惨禍さんかけるため、聖王国せいおうこく大規模だいきぼ騎士団きしだん派遣はけん討伐とうばつかわせ、王都おうとには炎虎騎士団えんこきしだんだけをのこしてまもらせた。

 ――しかし、そのときだれらなかった。すべては、緻密ちみつ仕組しくまれた陰謀いんぼうであったことを。



炎虎騎士団えんこきしだんは、十二大騎士団じゅうにだいきしだんなかでも実力じつりょく第二位だいにい位置いちする精鋭せいえい部隊ぶたいであった。

 それだけでなく、王国おうこく混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃ一組ひとくみ特別とくべつ委託いたくし、彼等かれら王都おうと守護しゅごにつか(就)かせていた。ゆえに、だれもが「王都おうと安泰あんたいだ」としんじてうたがわなかったのである。


 交接儀式こうせつぎしき三日間みっかかんにわたっておこなわれ、そのあいだ炎虎騎士団えんこきしだん配下はいか各階級兵団かくかいきゅうへいだんひきい、防衛ぼうえい任務にんむにあたっていた。

 ――だが、事件じけんはあまりにも突然とつぜんこった。


 神明しんめいたちが交接こうせつ最終日さいしゅうびよる儀式ぎしき準備じゅんびえようとしていたそのとき魔神ましん蚩尤シユウ突如とつじょ王城おうじょう姿すがたあらわしたのだ。

 やつは、神明しんめいたちがもうけた防御結界ぼうぎょけっかいをいか(如何)にしてか突破とっぱし、まるで時機じきはかったかのように、たった一人ひとり王都おうとへとおそいかかった。

 王城おうじょうまたた地獄絵図じごくえずし、炎虎騎士団えんこきしだん混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃたちは、その静寂せいじゃくよるなか惨烈さんれつ虐殺ぎゃくさつたおれた。

 もし神明かみたちが儀式ぎしきえた直後ちょくごけつけていなかったならば、聖王国せいおうこく間違まちがいなく滅亡めつぼうしていたであろう。

 神明かみ蚩尤シユウとのたたかいは夜明よあけまでつづき、ついに魔神ましん蚩尤シユウ撃退げきたいすることに成功せいこうした。

 ――だが、その代償だいしょうとして、神明かみたちはみな深手ふかでうこととなったのである。


ここまでいて、わたしもようや(漸)く理解りかいした。

 聖王国せいおうこくいま、いか(如何)なる危機きき直面ちょくめんしているのか――狡猾こうかつてきやみなかひそみ、機会きかいうかがっているのだ。

今回こんかい任務にんむだが、当初とうしょわれわれは黒鑽級こくさんきゅう以上いじょう冒険者ぼうけんしゃあつめ、小隊しょうたい編成へんせいし、魔神ましん蚩尤シユウ聖王国せいおうこく王城おうじょう近辺きんぺんまでおびせ、そののちわれわれがつ――そのような計画けいかくてていた。」

 伏羲フクキいた口調こうちょうで、当初とうしょ計画けいかく私達わたしたちかした。

「だが、冒険者ぼうけんしゃギルドのほうではながらく人手ひとでりず、おもうようにたい編成へんせいできなかった。そこで、我々(われわれ)は協力きょうりょくしゃつのかたち人員じんいんおぎなおうとかんがえたのだ。」


このしゅ委託任務いたくにんむは、かならずしもけなければならないというものではなかった。

 だが、くに安全あんぜんかかわる重要じゅうよう依頼いらいである以上いじょう普通ふつうものにとっては簡単かんたん決断けつだんできることではない。

 ――しかし、我々(われわれ)はそんなことなどすこしもめてはいなかった。


「その蚩尤シユウって、あなたたちでもたおせないの?」

 緹雅ティア素朴そぼく疑問ぎもんくちにした。

 もし蚩尤シユウ神明かみさえおびやかすほどの存在そんざいであるならば、すぐにでも攻撃こうげき仕掛しかけるはず――そうかんがえるのが当然とうぜんだった。

 伏羲フクキはしばらく沈黙ちんもくし、それからしずかにくちひらいた。

やつはもともと、各地かくちあばまわるだけの魔物まものぎなかった。そのちからけっしてつよいものではなかった。――だが、二十五年前にじゅうごねんまえになって、やつちから突如とつじょとして飛躍的ひやくてき増大ぞうだいしたのだ。」

「我々(われわれ)は協力きょうりょくしてやつ重傷じゅうしょうわせることに成功せいこうしたが、その代償だいしょうちいさくなかった。いまいたるまで、我々(われわれ)は完全かんぜんには回復かいふくしていない。」

 伏羲フクキこえにはわず(僅)かにおもみが宿やどり、その言葉ことばおくには、二十五年前にじゅうごねんまえたたかいにきざまれたいたみと記憶きおくいまなおえずにのこっていることが感じ(かん)られた。


女媧ジョカつづけて補充ほじゅうし、った。「しかし、あのやついま奇跡的きせきてき回復かいふくしており、しかも利波リポ草原そうげん聖王国せいおうこく兵士へいしころしているのです。見る(み)からに、やつちから以前いぜんよりも一層いっそうしており、我々(われわれ)の予期よきはるかにえているように感じ(かん)られます。」

「では、なぜやつ聖王国せいおうこく攻撃こうげきつづけないのですか?」わたしつづけてたずねた。

 神農氏しんのうしこたえた。「それはいまやつ負傷ふしょうしているからだ。おそらく利波リポ草原そうげんでの戦闘せんとうおおきな被害ひがいけたのだろう。どのようにしてそうなったのかは我々(われわれ)にも明確めいかくにはからないが、すこなくとも我々(われわれ)に時間じかん機会きかいあたえてくれたのはたしかだ。」

 神農氏しんのうし説明せつめいえた緹雅ティアは、かんがんだようにうなずいた。「なるほど。つまり、あなたたちは我々(われわれ)にやつ聖王せいおうちかくまでさそしてから討伐とうばつしてほしい、ということですか?」

 盤古バンコウわずかにうなずき、「そのとおりだ。正直しょうじきえば、このようなねがいをするのは恐縮きょうしゅくだが、それでも君達きみたち助力じょりょく必要ひつようなのだ。これ(こ)れは我々(われわれ)にとって決定的けっていてき重要じゅうようことなのだ。」とべた。


「いいえ。」

 わたし断固だんことして彼等かれら要請ようせい拒否きょひした。

 わたし拒否きょひいた神明かみたちの表情ひょうじょうは、幾分いくぶんさびしげになった。

 このとき、私はった。「我々(われわれ)はやつ此処ここさそしたりはしない。わたしたちはただちにやつ打倒だとうする。」

 わたし宣言せんげんいて、神明かみたちはしんがた表情ひょうじょうあらわにした。

きみは我々(われわれ)が先刻せんこくもうしたことをいていないのか? 混沌級こんとんきゅう冒険者ぼうけんしゃでさえやつ相手あいてにはならない。『かみ権能けんのう』をゆうするものだけがかれ一戦いっせんまじわせるのだ。自信じしんつのはいことだが、君達きみたちはまだわかいのだ、そんなにいそがしくいのちすことはない。」



「我々(われわれ)はあのやつ打倒だとうする。きみたちはただ打倒だとうしたに我々(われわれ)に支払しはら報酬ほうしゅうがどのようなものかをおしえてくれればいいのだ?」

 わたしがそのような決断けつだんくだしたしゅ理由りゆうは、なによりもまず、我々(われわれ)と蚩尤シユウとの戦闘せんとう過程かていだれにもられたくなかったからである。たとえ多少たしょうは我々(われわれ)の実力じつりょく露見ろけんすることになったとしても、それをけたいというおもいが優先ゆうせんしたのだ。

 わたしのそのゆるがぬ態度たいどて、神明しんめいたちはなにこたえるべきか戸惑とまどっているようであった。盤古バンコウもまた阻止そしすることをあきらめた様子ようすで、やが(徐)にくちひらいた。

「それならば、それにこたえて、報酬ほうしゅうとしてのぞむことはなんでもおしえよう。どうだ、これでいか?」


わたしすこかんがえたすえ盤古バンコウ要請ようせいれることにめた。「それなら、けます!」

 結局けっきょく、私は元来もともからあの不快ふかいやつさきかたづけるつもりであった。ゆえに、これは非常ひじょうとく取引とりひきである。たん聖王國せいおうこく眼前がんぜん危機きき解決かいけつするたすけになるだけでなく、ついでにすこ人情にんじょうっておくこともできる。さらにさらにじゅうようなのは、我々(われわれ)がそこから大量たいりょう情報じょうほう可能性かのうせいがあるというてんである。



「では、君達きみたちはあのやついまどこにるかという消息しょうそくっているのか?」

 緹雅ティアふたたい、すで期待きたいちていた。

 盤古バンコウ顔色かおいろわずかにくもらせてった。「我々(われわれ)はさき推測すいそくした。やつ現在げんざい西北方せいほくほうの『毒沼之窟どくしょうのくつ』か、東北方とうほくほうの『天殞坑てんいんこう』のちらかにひそんでいる可能性かのうせいたかい。だが、もしより可能性かのうせいたか場所ばしょげるなら、『毒沼之窟どくしょうのくつ』のがわだろう。そこは四大禁区しだいきんくいちつであり、凡米勒ファンミラーたい被害ひがいったのち、あのやつ気息きそくはその方角ほうがくながれていったが、追跡ついせきされることをさっしてか、その気息きそくはすぐに各所かくしょへと消散しょうさんしてしまったのだ。」

「もし具体的ぐたいてき位置いち推測すいそくしているのなら、なぜそこで攻撃こうげきこころみなかったのですか?」と私はたずねた。

 盤古バンコウこたえた。「『毒沼之窟どくしょうのくつ』は聖王国せいおうこくから距離きょりがあり、その地域ちいき非常ひじょうひろく、地勢ちせい錯綜さくそうしている。ごくめて危険きけん場所ばしょなのだ。くわえて、環境かんきょうちた毒気どくき人体じんたいあたえるがい想像そうぞうえ、我々(われわれ)が付与ふよできる加護かごかぎられている。」

「さらに、王都おうとはなれると我々(われわれ)は権能けんのうまったちから発揮はっきすることが出来できなくなるため、容易よういめなかった。さきには探索部隊たんさくぶたい派遣はけんして調査ちょうさおこなったが、結局けっきょく手掛てがかりはられなかったのだ。」

 盤古バンコウ言葉ことばいて、わたし緹雅ティアは「毒沼之窟どくしょうのくつ」へおもむいてたしかめることにめた。


(我々(われわれ)がったあと――)

 女媧ジョカ嘆息たんそくまじりにった。

いま若者わかものたちは、あまりにも衝動的しょうどうてきね。どうして我々(われわれ)の忠告ちゅうこくいてくれないのかしら。」

 伏羲フクキ盤古バンコウう。

盤古バンコウさま、なぜおめにならなかったのです? 彼等かれらは我々(われわれ)の加護魔法かごまほうさえ拒絶きょぜつしたのですよ。」

 盤古バンコウしずかにじ、ひくこえこたえた。

彼等かれらちからは、すでわたし想像そうぞうえている……。」

 神農氏しんのうしいきみ、かえす。

「まさか……あなたのうことは……彼等かれらが――?」

 伏羲フクキまゆをひそめ、しんじられぬようにくびった。

「……ありありえません。」

 盤古バンコウはわず(僅)かに眼差まなざしをげ、とおそらつめながらしずかにった。

わたしもそうおもいたい。だが、あのような状況じょうきょうで、あれほどの冷静れいせいさをたもてるものは――この世界せかいに、あの者達ものたちしかいないのだ。」


(我々(われわれ)が拠点きょてん小屋こやもどり、準備じゅんびととのえる――)

 安全あんぜん確保かくほするため、今回こんかいも私は全身ぜんしん武装ぶそうすることにめた。

 だが、緹雅ティアはいつもの愛用あいよう武器ぶきってこうとはしなかった。その様子ようすに、私はすこおどろかされた。

「おやおや? もしかして今回こんかい相手あいては、緹雅ティアちゃんが本気ほんきすにあたいしないってこと?」

「ふん! 九階きゅうかい光元素使こうげんそし重傷じゅうしょうにしたようなやつに、本気ほんきいど価値かちなんてあるわけないでしょ? ……でも、すこしくらいは本気ほんきせる相手あいてだとうれしいけどね。」

「じゃあ、そんときたのんだよ!」

まかせて! あなたはただ、たたかいがわったあとわたし晩御飯ばんごはんなにつくってくれるかかんがえておけばいいの。」

 緹雅ティア期待きたいちたひとみわたしつめた。



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