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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第一卷 第四章 陰謀の第一幕が開かれる-5

騎士団きしだん団長だんちょうたちはこの光景こうけいたりにし、みな驚愕きょうがく不信ふしん表情ひょうじょうかべた。

かれらはようやく、わたしたちの実力じつりょく自分じぶんたちの想像そうぞうをはるかにえるものであることを理解りかいはじめたのだ。

そのとき亞拉斯アラス一歩いっぽがった場所ばしょから雷鳴らいめいのようなわらごえひびかせた。

「ハハハハ! さすがはおれをつけたものだ。実力じつりょくはやはりじゃないな。――団長だんちょうたちよ、そろそろおまえらの出番でばんじゃないか?」

かれはこの結果けっかにまったくおどろ様子ようすもなく、まるで舞台ぶたいひろげられるげきながめているかのように、終始しゅうしかるみをかべていた。

亞拉斯アラスがここまで公然こうぜん他者たしゃ称賛しょうさんするのはごくめずらしいことだった。

そのため、周囲しゅうい団長だんちょうたちは一瞬いっしゅん呆然ぼうぜんとし、視線しせんわしう。

かれらのこころにはまだ戸惑とまどいと疑念ぎねんのこっていたが、亞拉斯アラス号令ごうれいとともに、もはや退くことはできず、かれらは覚悟かくごめて、わたしたちとの対決たいけつ準備じゅんびはじめた。


騎士団きしだん団長だんちょうたちは、先程さきほど戦闘せんとうしんじがたいおもいをいだきながらも、こころおくではまだ楽観らっかんてき姿勢しせいたもっていた。

――すべての団長だんちょうちからを合わせれば、まだ可能性かのうせいはある、と。

かれらもまた、わたしたちの実力じつりょく並外なみはずれていることを承知しょうちしていたが、けっして容易よういくっするような相手あいてではなかった。

そんな様子ようす亞拉斯アラスは、ふっと口元くちもとかるみをかべ、おだやかながら挑発ちょうはつてきこえった。

「もしおまえたちがてば、冒険者協会ぼうけんしゃきょうかいめいじて、混沌級こんとんきゅう称号しょうごうあたえよう。それは最高さいこう栄誉えいよだ。

――だが、けたら……その小娘こむすめにはおれたいはいってもらうぞ。」

その言葉ことばひびわると同時どうじに、戦場せんじょう空気くうき一変いっぺんした。

騎士団きしだん団長だんちょうたちの表情ひょうじょう一斉いっせいまり、各自かくじ武器ぶきかまえる。

ぎの瞬間しゅんかん緊迫きんぱくした沈黙ちんもくやぶるように、はげしい戦鼓せんこおとひびいた――

こうして、しんたたかいがまくけた。


炎虎えんこ騎士団きしだん団長だんちょうディアと、闇蛇アンジャ騎士団きしだん団長だんちょう桃花晏矢とうかあんやが、だれよりもはや攻撃こうげき仕掛しかけた。

二人ふたり団長だんちょうはすでに完璧かんぺき準備じゅんびととのえており、そのいきった連携れんけい見事みごとなものだった。

かれらは同時どうじ六階ろっかい魔法まほう――「黒炎龍こくえんりゅう」を詠唱えいしょうする。

瞬間しゅんかん巨大きょだいくろほのおりゅう空間くうかん凝縮ぎょうしゅくし、轟音ごうおんとともに姿すがたあらわした。

その黒炎龍こくえんりゅう尋常じんじょうならぬ灼熱しゃくねつちから宿やどし、くろほのおをまとってわたしたちへと猛然もうぜん突進とっしんする。

ディアと桃花晏矢とうかあんや精密せいみつ魔力まりょく操作そうさによって、そのうごきはまるできたりゅうのようにしなやかで、圧倒的あっとうてき速度そくどをもってせまりくる。

黒炎龍こくえんりゅうとおぎたあとには、空気くうきげ、周囲しゅうい大気たいきそのものがゆがんでえるほどだった。


この一撃いちげきこそ圧倒的あっとうてき強力きょうりょくであったが、わたしたちにとっては依然いぜんとしておそれるにらなかった。

その魔法まほう緹雅ティアの「夜龍幻息やりゅうげんそく」とよくてはいたが、強度きょうどにおいてはあきらかに数段すうだんおとっている。

単純たんじゅん中位ちゅうい元素げんそ魔法まほうによる模倣もほうは、しん黒竜こくりゅうとはくらべるべくもない。

わたし緹雅ティアはすでにそなえていた。

黒炎龍こくえんりゅうせまるのをて、私は即座そくざ四階よんかい補助ほじょ魔法まほう――「光元素強化こうげんそきょうか」を発動はつどうする。

同時どうじに、緹雅ティアもすばやく反応はんのうした。

彼女かのじょにしたけんたかかかげ、周囲しゅういただようすべてのひかり元素げんそ剣身けんしんへと集中しゅうちゅうさせる。

ひかり粒子りゅうし収束しゅうそくしていくにつれ、けんはまばゆいかがやきをはなち、やがてその先端せんたん巨大きょだいひかり球体きゅうたい形成けいせいされた。

それこそが、緹雅ティア四階よんかい光元素こうげんそ魔法まほう――「光元素導彈こうげんそどうだん」であった。

ぎの瞬間しゅんかん彼女かのじょはなった光元素導彈こうげんそどうだんは、流星りゅうせいのごとく夜空よぞらけ、黒炎龍こくえんりゅうへとぐにすすんでいった。


もしわたしたちがおなじく六階ろっかい魔法まほう反撃はんげきすれば、騎士団きしだん団長だんちょうたちは重傷じゅうしょう可能性かのうせいたかい。

そのため、私は四階よんかい魔法まほうだけを使つかってかれらの攻撃こうげきすことにめた。

緹雅ティア攻撃こうげき威力いりょく調整ちょうせいむずかしいため、わたしたちは戦闘せんとうはいまえに取りめをしていた。

――緹雅ティア攻撃こうげきは、わたし使つか魔法まほう位階いかいえてはならない。

ほかものたちをあやまってきずつけてしまうのをけるためであった。


ひかり元素げんそ導彈どうだん黒炎龍こくえんりゅう命中めいちゅうしようとしたその瞬間しゅんかん岩猴ガンコウ騎士団きしだん団長だんちょう艾洛斯洛エイロスロ戦局せんきょくくわわった。

かれわたし以前いぜん使つかったものとおなじ、巨大きょだい岩掌がんしょう召喚しょうかんし、緹雅ティア攻撃こうげきはばもうとしたのだ。

地面じめんやぶってあらわれた岩掌がんしょうは、光元素導彈こうげんそどうだん軌道きどう正確せいかく捕捉ほそくする。

その巨大きょだいてのひらはまるで絶対ぜったいくだけぬかべのようにちはだかり、緹雅ティアはなった攻撃こうげきをしっかりとめた。

ぎの瞬間しゅんかん光元素導彈こうげんそどうだん反射はんしゃ衝撃しょうげきによって進行方向しんこうほうこうえ、艾洛斯洛エイロスロ岩掌がんしょうによってぎゃくはじかえされた。


この状況じょうきょうて、私は即座そくざ四階よんかい魔法まほう――「漩渦粒子風せんかりゅうしふう」を発動はつどうした。

それはかぜ元素げんそ魔法まほうであり、周囲しゅうい強力きょうりょく旋回せんかい気流きりゅうし、あらゆる物体ぶったいむことができる。

私はその渦巻うずまかぜながれを完全かんぜん制御せいぎょし、反射はんしゃされてもどってきた光元素導彈こうげんそどうだん正面しょうめんからむかつ。

旋風せんぷうすさまじいはやさで回転かいてんしながらひかりだんつつみ込み、その膨大ぼうだいなエネルギーを瞬時しゅんじ吸収きゅうしゅう分散ぶんさんさせていった。

こうして、光元素導彈こうげんそどうだん破壊力はかいりょく完全かんぜんされ、わたしたちのもとへとどまえにそのちから霧散むさんした。


しかし、わたしたちが反射はんしゃされた攻撃こうげき処理しょりしているあいだに、黒炎龍こくえんりゅう猛攻もうこうはすでにふせぐにはおそい――

すこなくとも、周囲しゅういものたちのにはそううつっていた。

その瞬間しゅんかん緹雅ティアふたた大量たいりょうひかり元素げんそけんそそむ。

剣身けんしんまばゆ閃光せんこうはなち、やいば宿やどひかり極限きょくげんまで充満じゅうまんしたそのとき

彼女かのじょなかけんかがやかまへと変化へんかした。

緹雅ティアしずかにうでるうと、そのかまからはなたれた剣気けんき閃光せんこうとなってちゅうき、

黒炎龍こくえんりゅう巨体きょたい一瞬いっしゅんにしていた。

とどろ爆音ばくおんとともに、くろほのおりゅうぷたつにけ、破片はへんとなってそらがる。

だが――緹雅ティア攻撃こうげきはまだわらなかった。

かまからはなたれた剣気けんきえることなく、そのまま流星りゅうせいのように軌跡きせきえがきながら、

ほか騎士団きしだん団長だんちょうたちへとかってすすんでいった。


艾洛斯洛エイロスロ状況じょうきょう危険きけんさをさっし、即座そくざ五階ごかい岩元素がんげんそ魔法まほう――「巨岩手臂きょがんしゅひ」を発動はつどうした。

それは強力きょうりょくいわうでしょうし、てき攻撃こうげきふせぐための防御ぼうぎょ魔法まほうである。

しかし、艾洛斯洛エイロスロ予想よそうしていなかった。

――この「巨岩手臂きょがんしゅひ」ですら、緹雅ティア剣気けんき完全かんぜんにはふせぎきれなかったのだ。

ごうという爆音ばくおんひびわたる。

緹雅ティアはなった剣気けんきいわうで一刀いっとうのもとにき、

巨岩手臂きょがんしゅひは粉々(こなごな)にくだった。

それでも、そのわずかな時間じかん艾洛斯洛エイロスロのがれる猶予ゆうよあたえた。

かれ咄嗟とっさひるがえし、かろうじてその一撃いちげき回避かいひする。

だが、剣気けんき地面じめん直撃ちょくげきした瞬間しゅんかん爆発ばくはつてき衝撃波しょうげきははしり、

艾洛斯洛エイロスロからだえきれず後方こうほうへと数歩すうほよろめき退しりぞいた。


玉牛ぎょくぎゅう騎士団きしだん団長だんちょう索拉ソラと、水羊スイヨウ騎士団きしだん団長だんちょう迪里米歐(ディリミオ)緋海フェイハイもまた、連携れんけいして攻撃こうげき開始かいしした。

索拉ソラひかり属性ぞくせいたてを、迪里米歐(ディリミオ)緋海フェイハイみず属性ぞくせい長剣ちょうけんをそれぞれ召喚しょうかんする。

このふたつの能力のうりょくわせは、騎士団きしだんなかでもとく強力きょうりょく攻撃陣形こうげきじんけいとして知られていた。

ひかりたてまばゆかがやきをはなち、せま攻撃こうげき効果的こうかてきふせぐ。

一方いっぽうみず長剣ちょうけんながれるようにかたちえ、そのやいばはまるできている水流すいりゅうのようになめらかでするどい。

索拉ソラ迪里米歐(ディリミオ)緋海フェイハイはともに近接戦闘きんせつせんとう得意とくいとしており、

このたたかいで主導権しゅどうけんにぎるには、距離きょりめての直接ちょくせつ攻撃こうげきこそが最善さいぜんだと判断はんだんしていた。


かれらは素早すばや緹雅ティアへと突進とっしんし、するど剣技けんぎ堅牢けんろうたてわせて、密不透風みつふとうふう攻防陣こうぼうじん形成けいせいした。

五階ごかい戦技せんぎ――「乱流斬らんりゅうざん」。


さらに、雷雞らいけい騎士団きしだん団長だんちょう霏亞フェイア加勢かせいはいる。

彼女かのじょ素早すばや五階ごかい魔法まほう――「雷針らいしん」を発動はつどうし、天空てんくうから無数むすう雷光らいこう正確せいかくち、索拉ソラ迪里米歐(ディリミオ)緋海フェイハイ攻撃こうげき支援しえんした。


三人さんにん連携れんけいいきむほどあざやかで、攻撃こうげき速度そくどすさまじく、威力いりょく圧倒的あっとうてきだった。

普通ふつう冒険者ぼうけんしゃであれば、とてもこの連続れんぞくした攻撃こうげきあらし正面しょうめんからめることなどできなかっただろう。

迪里米歐(ディリミオ)緋海フェイハイ索拉ソラみずからの特有とくゆう剣法けんぽう存分ぞんぶん発揮はっきし、そのながれるようなうごきにはどこか見覚みおぼえがあるほどだった。


かれらの一撃いちげきごとにするど剣気けんきはしり、るわれる長剣ちょうけんたんなる物理的ぶつりてき攻撃こうげきではなく、水流すいりゅう衝撃しょうげきともなっていた。

そのえぬ波濤はとうのような斬撃ざんげきは、相手あいて防御ぼうぎょすきあたえず、圧倒あっとうてきいきおいでせまる。

水流すいりゅう衝撃力しょうげきりょくきわめてつよく、周囲しゅうい空気くうきすらくほどの破壊力はかいりょくっていた。

速度そくど威力いりょく――そのどちらをっても、一級いっきゅう水準すいじゅんたっしていた。


しかし、そんな連携れんけい攻撃こうげきも――緹雅ティアにはるにらぬものだった。

彼女かのじょ依然いぜんとしてはらい、優雅ゆうが気配けはいくずすことなく、まるで舞踏家ぶとうかのようにかるやかにかまるう。

その一振ひとふりごとに宿やどちからはかれず、しかしうごきには一切いっさい無駄むだがなかった。

緹雅ティアのこなしはなめらかで流麗りゅうれい彼女かのじょみずからの身体からだかま完全かんぜん一体化いったいかさせていた。

てきはな剣気けんき水流すいりゅう衝撃しょうげきは、そのやいばした跡形あとかたもなく霧散むさんし、空気くうきふるえだけをのこす。

相手あいてがいかに攻撃こうげきかたちえようとも、緹雅ティアはそのすべてを見切みきり、

一瞬いっしゅんすきのがさず、最短さいたん動作どうさ的確てきかく反撃はんげきしてみせた。


両者りょうしゃ交戦こうせんきわめてはやく、ほとんど一瞬いっしゅん出来事できごとのようだった。

攻撃こうげき反撃はんげき刹那せつなあいだわり、すべてが数秒すうびょうのうちにひろげられる。

索拉ソラ緋海ひかいはな剣技けんぎは、すべて緹雅ティアによって優雅ゆうがながされ、

水流すいりゅう衝撃波しょうげきはさえも、彼女かのじょかまによって完全かんぜんめられた。

その姿すがたおだやかでかるやかにえたが、るわれる一撃いちげきごとにたしかな威力いりょく宿やどっていた。

時間じかん経過けいかとともに、次第しだい索拉ソラ緋海フェイハイ疲労ひろうえてあらわはじめる。

攻撃こうげき威力いりょく依然いぜんとしてたかかったが、緹雅ティア防御ぼうぎょくずすにはいたらなかった。

みっつの交戦こうせんわるころには、二人ふたり体力たいりょくあきらかにち、

けん速度そくどにぶり、うごきの精度せいどもわずかにみだれた。

それでも二人ふたり必死ひっしけんるいつづけたが、

緹雅ティア圧倒的あっとうてき攻勢こうせいまえでは、次第しだいされ、ちからおよばぬ様子ようすあらわになっていった。


光龍こうりゅう騎士団きしだん団長だんちょう傑洛艾德ジェロエイドはその光景こうけいると、即座そくざ戦列せんれつくわわる決意けついかためた。

かれにした武器ぶき――光明こうめい利爪りそうひかり元素げんそそそむ。

この利爪りそうそのものがひかり元素げんそ具現ぐげんであり、

傑洛艾德ジェロエイド魔力まりょくながむと同時どうじに、そのかがやきは一層いっそうつよまり、

やみき、戦場せんじょう全体ぜんたいらしすほどのひかりはなった。

かれ周囲しゅういにはひかり粒子りゅうしが次々(つぎつぎ)とあつまり、やがてそれが傑洛艾德ジェロエド自身じしん気勢きせい昇華しょうかさせていく。

その瞬間しゅんかんかれ全身ぜんしんからはなたれる圧力あつりょくあきらかにし、攻撃力こうげきりょくはこれまでにないたかみへとたっしていた。


それだけではない、傑洛艾德ジェロエイド単独たんどく行動こうどうしていたわけではなかった。

鉄馬てつば騎士団きしだん団長だんちょう艾瑞達エリダ、そして雲兔うんと騎士団きしだん団長だんちょう康妮カンニも、それぞれの能力のうりょく発揮はっきして傑洛艾德ジェロエイド支援しえんした。

艾瑞達エリダ五階ごかい防御ぼうぎょ魔法まほう――「鉄質化てつしつか」を発動はつどう

そのちからによって、傑洛艾德ジェロエイド防御力ぼうぎょりょく飛躍的ひやくてきたかまり、

どんな攻撃こうげきにもえうる堅牢けんろう肉体にくたいた。


一方いっぽう康妮カンニ五階ごかい加速かそく魔法まほう――「疾風しっぷう」を詠唱えいしょう

それにより傑洛艾德ジェロエイド敏捷性びんしょうせい劇的げきてき上昇じょうしょうし、

わずかな時間じかんのうちに、わたし緹雅ティア防御線ぼうぎょせん突破とっぱして接近戦せっきんせん仕掛しかけられるほどの速度そくどた。

三人さんにん連携れんけい見事みごとであり、

それぞれの能力のうりょく完璧かんぺき融合ゆうごうしたことで、かれらは一気いっき形勢けいせい逆転ぎゃくてんさせ、

この一撃いちげきわたしたちをたおそうとしていた。


するど破空音はくうおん一瞬いっしゅんひびいたかとおもうと、

傑洛艾德ジェロエイド姿すがた突風とっぷうのようにけ、

そのはまるでかぜそのものとなって緹雅ティアへと突進とっしんした。

その速度そくどひとでは到底とうていれないほどで、

とくに「疾風しっぷう」の加護かごけたいま

かれうごきは幽霊ゆうれいのようにつかみどころがなく、

戦場せんじょうのこるのは、ただ風圧ふうあつ閃光せんこう残像ざんぞうのみであった。


――だが、傑洛艾德ジェロエイド依然いぜんとして緹雅ティア実力じつりょくあま見積みつもっていた。

かれ攻撃こうげきたしかに神速しんそくであったが、緹雅ティア反応はんのうはそれを上回うわまわる。

傑洛艾德ジェロエイド間合まあいはいったその瞬間しゅんかん――

緹雅ティアしずかに身体からだかたむけ、

たった一歩いっぽ側身そくしんでその攻撃こうげきなんなく回避かいひした。

傑洛艾德ジェロエイド反応はんのうするもなく、

その利爪りそう虚空こくうくだけにわり、

緹雅ティアころもすそすらかすめることができなかった。


それだけではなかった、緹雅ティアをかわしたその瞬間しゅんかんのがさず、

にしたかまなめらかにき、反撃はんげき一撃いちげきはなった。

その斬撃ざんげきおどろくほど正確せいかくで、

やいばからはなたれた剣気けんきまばゆひかりともないながら爆発的ばくはつてき放出ほうしゅつされ、

一瞬いっしゅん傑洛艾德ジェロエイド身体からだ直撃ちょくげきした。

あまりにもはやく、つよいその一撃いちげきを、傑洛艾德ジェロエイド回避かいひするもなかった。

かれはそのまま強烈きょうれつ衝撃波しょうげきはけ、

体勢たいせいくずして後方こうほうはじばされる。

ぎの瞬間しゅんかん地面じめん両膝りょうひざをつき、

くちから鮮血せんけつした傑洛艾德ジェロエイドは、その呼吸こきゅうあらげながら、

がろうとしても、反撃はんげき衝撃しょうげきれず、

しばらくのあいだひざについたままうごくことができなかった。


戦場せんじょう一瞬いっしゅんにして静寂せいじゃくつつまれた。

すべての騎士団きしだん成員せいん見開みひらき、

まえこった光景こうけいしんじられないといった表情ひょうじょうかべていた。

だれ想像そうぞうしていなかった。

――光龍こうりゅう騎士団きしだん団長だんちょう、あの傑洛艾德ジェロエイドが、

わずか一瞬いっしゅん攻防こうぼう撃退げきたいされるなどと。

戦闘せんとうがここまですすんだいまもなお、

緹雅ティアがこれほどのちから温存おんぞんしていたとは、だれ一人ひとりとしておもっていなかった。

その圧倒的あっとうてきつよさと優雅ゆうがたたかいぶりに、

にいる全員ぜんいんいきみ、言葉ことばうしなった。

一方いっぽうで、傑洛艾德ジェロエイドにとってこの敗北はいぼくは、

肉体にくたい以上いじょうに――精神的せいしんてき衝撃しょうげきとしてふかきざまれていった。


葉鼠ヨウショ騎士団きしだん団長だんちょう達拉克ダラックはこの状況じょうきょうて、即座そくざ治癒ちゆ魔法まほう発動はつどうした。

あわひかり傑洛艾德ジェロエイド身体からだつつみ、

そのひかりながれとともにきずえていく。

やがて、傑洛艾德ジェロエイド顔色かおいろは徐々(じょじょ)にもどり、

あらかった呼吸こきゅうきをもどした。

かれはまだ若干じゃっかん虚脱感きょだつかんのこしていたが、

ふたたがるだけのちからはすでに回復かいふくしていた。

傑洛艾德ジェロエイド真正面ましょうめんから緹雅ティア見据みすえ、

からだのこ激痛げきつうころしながら、こころなかしずかに決意けついかためた。

そして、こえげる。

「――いそげ! 補助ほじょをもっと強化きょうかしろ!」

いまかれには、仲間なかまたちの支援しえん不可欠ふかけつだった。

そのさけびには、ふたたかおうとするつよ意志いしめられていた。


艾瑞達エリダ康妮カンニ傑洛艾德ジェロエイド号令ごうれいくやいなや、

ためらうことなく最強さいきょう六階ろっかい補助ほじょ魔法まほう――

鉄壁てっぺき」と「瞬影しゅんえい」を同時どうじ発動はつどうした。

艾瑞達エリダはなつ「鉄壁てっぺき」は、傑洛艾德ジェロエイド防御力ぼうぎょりょくをさらにたかめ、

その肉体にくたいをまるで鋼鉄こうてつ城壁じょうへきのようにえていく。

いまかれは、亞拉斯アラース一撃いちげきでさえもめられるほどの驚異的きょういてき防御力ぼうぎょりょくにしていた。

一方いっぽう康妮カンニの「瞬影しゅんえい」は、傑洛艾德ジェロエイド身体能力しんたいのうりょく――とく速度そくど飛躍的ひやくてき上昇じょうしょうさせた。

その効果こうかにより、かれ一瞬いっしゅんのうちに戦場せんじょうけ、

えぬほどのはやさで位置いちえることができるようになった。

こうして、二人ふたり支援しえん傑洛艾德ジェロエイドは、

防御ぼうぎょ速度そくど両面りょうめん限界げんかいえ、

まさに戦場せんじょうそのものを支配しはいしかねないほどの存在感そんざいかんはなはじめた。


ふたつの補助ほじょ技能ぎのう加護かごけ、傑洛艾德ジェロエイド戦闘力せんとうりょく一気いっき別次元べつじげんへと跳躍ちょうやくした。

かれにぎられた光明こうめい利爪りそうは、ふたたまばゆひかりはなはじめ、

そのやいばからあふれる光元素こうげんそちからは、またた二倍にばいへとたかまった。

ひかり奔流ほんりゅうかれ周囲しゅういひろがり、れるものすべてをくすほどの破壊力はかいりょくびていた。

この強化きょうかわせは、かつてのたたかいにおいてすら、

暴走ぼうそうした四神獣ししんじゅう足止あしどめし、

亞拉斯アラース救援きゅうえんけるまでの時間じかんぐほどのちから発揮はっきしていた。


しかし、それほどの強化きょうかけても、緹雅ティアはまったくどうじなかった。

彼女かのじょ終始しゅうしはらい、表情ひょうじょうひとつえずにそのっていた。

五階ごかい魔法まほう六階ろっかい魔法まほう複合ふくごう――それがいかに強力きょうりょくであろうとも、

彼女かのじょにとってはまるで子供こどもあそびのようなものだった。

緹雅ティアにしたかまかるやかにるい、傑洛艾德ジェロエイドはな猛攻もうこうをことごとくながしていく。

その動作どうさはあまりにも正確せいかく無駄むだがなく、

反応はんのう閃光せんこうのようにはやかった。

するど斬撃ざんげきも、つらぬひかり衝撃しょうげきも、

彼女かのじょまえではすべて空気くうきるだけのむなしいうごきにぎなかった。

周囲しゅういものたちが一斉いっせいはなった連携れんけい攻撃こうげきでさえ、

速度そくど威力いりょくも、緹雅ティアをわずかにるがすことすらできなかった。

――わたしかられば、これほどの攻撃こうげきであっても、

もしここに迪路嘉ディルジャ音魔おんまがいたとしても、やはり一傷いっしょうわぬままっているにちがいないだろう。



幾度いくどかの攻防こうぼうかえされるうちに、緹雅ティアひとみにはわずかな退屈たいくついろかびはじめていた。

彼女かのじょにとって、この程度ていどたたかいなど、もはやるにらぬものだった。

そのうごきは次第しだいにいっそう優雅ゆうがさをし、はらった所作しょさは、まるで舞台ぶたい精霊せいれいのようであった。

にした光鐮刀ひかりれんとうは、まるで彼女かのじょまい相手あいてであるかのように、

そのうごきに合わせて流麗りゅうれいかがやきをはなつ。


そしてぎの瞬間しゅんかん――

緹雅ティアはふとあしめ、しずかな呼吸こきゅうとともに、突如とつじょ全身ぜんしんちからめた。

光鐮刀ひかりれんとう閃光せんこうえがいてるわれると、

その一閃いっせん雷鳴らいめいのごとき衝撃しょうげきみ、

彼女かのじょかこんでいた騎士団きしだん団長だんちょうたちをまとめてばした。

団長だんちょうたちは反応はんのうするもなく、

すさまじいちから衝撃波しょうげきはたたきつけられ、

かべへと激突げきとつしてにぶ衝撃音しょうげきおんひびかせた。


その一撃いちげきはあまりにも強烈きょうれつだった。

泥豬でいちょ騎士団きしだん団長だんちょう派克パック咄嗟とっさ防御ぼうぎょ魔法まほう泥牆でいしょう」を展開てんかいしたものの、

あつきずかれたどろかべ緹雅ティア**の斬撃ざんげきからはなたれた衝撃波しょうげきは完全かんぜんにはふせれなかった。

轟音ごうおんとともに、泥牆でいしょう粉砕ふんさいされ、

土塊つちくれ岩片がんぺん四方しほうる。

派克パイク自分じぶん防御ぼうぎょつらぬかれたことを即座そくざさとり、

すぐさま魔力まりょく集中しゅうちゅうしてあらたな防護ぼうご障壁しょうへき構築こうちくした。

だが、それでも衝撃波しょうげきは威力いりょくすさまじく、

ほか団長だんちょうたちは次々(つぎつぎ)とばされ、

おもおとてて地面じめんたたきつけられた。

その様子ようすた**達拉克ダラック**は、すぐに治癒ちゆ魔法まほうふたた発動はつどうし、

たおれた団長だんちょうたちのきず瞬時しゅんじしていく。

一時いっとき陣形じんけいくずれたものの、

かれらは必死ひっしがり、素早すばやさい配置はいちととのえた。

しかし――

その表情ひょうじょういきあきらかに疲労ひろうちており、

もはや戦意せんい維持いじするのが精一杯せいいっぱであることは、だれにも明白めいはくだった。


このとき緹雅ティアはなおも光鐮刀ひかりれんとう優雅ゆうがるいつづけていた。

そのやいばからはなたれるひかりは、彼女かのじょうごきと完璧かんぺき調和ちょうわし、

一振ひとふりごとに空気くうきなか幾筋いくすじもの閃光せんこうきざんでいく。

うようにかるやかな彼女かのじょどうきが次第しだいはやさをすにつれ、

光鐮刀ひかりれんとう威力いりょくもまた倍加ばいかしていった。

それは、この武器ぶきめられた特有とくゆう技能ぎのう――

死神しにがみまい」の効果こうかだった。

この技能ぎのうは、舞踏ぶとうのような連続れんぞく動作どうさによって攻撃力こうげきりょくたかめ、

るわれるたびに刀気とうき強化きょうかする性質せいしつつ。

いが加速かそくするほどにひかりはげしさをし、

周囲しゅうい空気くうきはまるでふるえるようにれた。

ひかりせん交錯こうさくし、

そのまばゆさのなか騎士団きしだん団長だんちょうたちはもはや緹雅ティア姿すがた視認しにんすることができなかった。

かれらがかんれるのは、ただ四方しほうからせるひかりあつと、

くほどのかがやきのみ。

その瞬間しゅんかん緹雅ティアはまるで黄金おうごん死神しにがみのようであった。

彼女かのじょからはなたれる気迫きはくは、

まるでこの存在そんざいするすべてを、

――いのちすら――一息ひといきのうちにってしまいそうな、

絶対的ぜったいてき気配けはいまとっていた。


(おれ)()かっていた。もう、()わりにする(とき)だ。

そうして、(おれ)はすぐに第六階位(だいろっかいい)防御破壊魔法(ぼうぎょはかいまほう)――「詩人(しじん)号角(ごうかく)」を(はな)った。

この魔法(まほう)効果(こうか)は、緹雅(ティア)攻撃力(こうげきりょく)顕著(けんちょ)(たか)め、さらに三〇パーセントの防御(ぼうぎょ)貫通効果(かんつうこうか)(あた)えるものである。

魔法(まほう)発動(はつどう)(とも)に、緹雅(ティア)()(にぎ)られた(ひかり)(かま)瞬時(しゅんじ)巨大化(きょだいか)し、その(やいば)から(はな)たれる(ひかり)一層(いっそう)(するど)(まぶ)しく(かがや)いた。

その()にいた全員(ぜんいん)がその強烈(きょうれつ)気配(けはい)を感じ取り、心臓(しんぞう)鼓動(こどう)(おも)わず(はや)まった。

(かれ)らは(みな)、この(たたか)いの(きび)しさをありありと想像(そうぞう)していた。


緹雅(ティア)攻勢(こうせい)(うつ)ろうとしたその瞬間(しゅんかん)傑洛艾德(ジェロエイド)もまた、この圧迫感(あっぱくかん)敏感(びんかん)に感じ()った。

(かれ)一瞬(いっしゅん)(あせ)りを()せたものの、すぐに冷静(れいせい)表情(ひょうじょう)()(もど)し、大声(おおごえ)(さけ)んだ。

全員(ぜんいん)、かかれ!」

(あき)らかに(かれ)理解(りかい)していた。(いま)全員(ぜんいん)協力(きょうりょく)して(たたか)わなければ、()()はわずかにすら存在(そんざい)しないことを。

その瞬間(しゅんかん)全員(ぜんいん)同時(どうじ)第七階位(だいななかいい)魔法(まほう)――「混沌(こんとん)(うず)」を詠唱(えいしょう)した。

それは(きわ)めて強力(きょうりょく)混沌(こんとん)属性(ぞくせい)魔法(まほう)であり、元素(げんそ)(ちから)(もち)いて莫大(ばくだい)破壊(はかい)(うず)()()し、周囲(しゅうい)空間(くうかん)完全(かんぜん)()()く。

そのエネルギーが解放(かいほう)された瞬間(しゅんかん)周囲(しゅうい)のあらゆるものが強大(きょうだい)(ちから)()()せられ、(うず)中心(ちゅうしん)へと()()まれていった。

この魔法(まほう)は、まるであらゆる物質(ぶっしつ)粉砕(ふんさい)するかのようであり、空気(くうき)(なが)れさえ完全(かんぜん)(ゆが)められていく。

その圧倒的(あっとうてき)(ちから)に、緹雅(ティア)でさえもわずかに(おどろ)きを(おぼ)えたほどだった。


緹雅(ティア)(おどろ)きは、「混沌(こんとん)(うず)」そのものの威力(いりょく)(つよ)さに(たい)するものではなかった。

彼女(かのじょ)(おどろ)いたのは、あの騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちが、まさか協力(きょうりょく)して混沌(こんとん)元素(げんそ)(あつか)えるという事実(じじつ)だった。

混沌(こんとん)元素(げんそ)はもともと(きわ)めて制御(せいぎょ)(むずか)しいものであり、それを(あやつ)れる(もの)はほんのわずかしか存在(そんざい)しない。

ゆえに、それを同時(どうじ)(あつか)える騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちの実力(じつりょく)は、まさに驚異(きょうい)()ぶに(あたい)した。

しかし、それでも結果(けっか)()わらなかった。

緹雅(ティア)(ひかり)(かま)()るいながら、第六階位(だいろっかいい)戦技(せんぎ)――「鏡月(きょうげつ)(かま)」を発動(はつどう)した。

この攻撃(こうげき)は、彼女(かのじょ)がこの(ひかり)(かま)使(つか)(とき)にしか発揮(はっき)できない特別(とくべつ)(わざ)である。

そして、緹雅(ティア)斬撃(ざんげき)騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちの攻撃(こうげき)は、舞台(ぶたい)中央(ちゅうおう)(はげ)しくぶつかり()った。


(ふた)つの(ちから)空中(くうちゅう)(はげ)しく衝突(しょうとつ)し、爆発音(ばくはつおん)雷鳴(らいめい)のように舞台(ぶたい)全体(ぜんたい)()るがせた。

莫大(ばくだい)衝撃(しょうげき)によって周囲(しゅうい)()(けむり)(つつ)まれ、視界(しかい)急速(きゅうそく)(うしな)われていった。

やがて(けむり)がゆっくりと()れていく(ころ)騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちはすでに疲労(ひろう)困憊(こんぱい)していた。

(かれ)らの身体(からだ)(いま)にも(くず)()ちそうに()らぎ、呼吸(こきゅう)(あら)く、(はげ)しい戦闘(せんとう)(すえ)にもはや(たたか)(ちから)(うしな)っていた。

だが、その一方(いっぽう)で、緹雅(ティア)依然(いぜん)として(きわ)めて安定(あんてい)した状態(じょうたい)(たも)っていた。

騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちの連携(れんけい)攻撃(こうげき)()けながらも、彼女(かのじょ)余裕(よゆう)(うしな)わず、(いき)(ひと)(みだ)していなかった。

緹雅(ティア)(ふたた)(ひかり)(かま)(たか)(かか)げ、最後(さいご)一撃(いちげき)(はな)準備(じゅんび)(ととの)えた。

彼女(かのじょ)(ひかり)元素(げんそ)(かま)(やいば)集中(しゅうちゅう)させ、瞬時(しゅんじ)(ひと)つの光元素導彈こうげんそどうだん形成(けいせい)した。

その(ひかり)(だん)は、最初(さいしょ)攻撃(こうげき)よりもはるかに強大(きょうだい)破壊力(はかいりょく)()めていた。


「もういい! そこまでだ!」

その瞬間(しゅんかん)亞拉斯(アラース)舞台(ぶたい)中央(ちゅうおう)姿(すがた)(あらわ)し、緹雅(ティア)(はな)とうとしていた最後(さいご)一撃(いちげき)(せい)した。

(かれ)(こえ)冷静(れいせい)で、一切(いっさい)感情(かんじょう)(ふく)んでいなかった。

「お(まえ)たちの実力(じつりょく)十分(じゅうぶん)()かった。約束(やくそく)どおり、今日(きょう)からお(まえ)たちは“混沌級(こんとんきゅう)”の冒険者(ぼうけんしゃ)だ。」

その明確(めいかく)宣言(せんげん)(ひび)いた瞬間(しゅんかん)場内(じょうない)空気(くうき)一瞬(いっしゅん)(こお)りついた。

だが()いで、観客席(かんきゃくせき)からは(はげ)しい歓声(かんせい)雷鳴(らいめい)のような拍手(はくしゅ)()()こった。

しかし、その(にぎ)わいとは対照的(たいしょうてき)に、緹雅(ティア)反応(はんのう)亞拉斯(アラース)期待(きたい)したものではなかった。

彼女(かのじょ)(つめ)たく(わら)い、(あざけ)るような(こえ)()(はな)った。

「ふん? これで()わりなの?」

その(こえ)(こおり)のように(つめ)たく、(するど)(ひび)きを()っていた。

彼女(かのじょ)表情(ひょうじょう)には、この試験(しけん)にも、亞拉斯(アラース)言葉(ことば)にも、微塵(みじん)興味(きょうみ)さえ感じられなかった。


亞拉斯(アラース)は、緹雅(ティア)言葉(ことば)(たい)して(いか)りを()せることはなかった。

むしろ、(かれ)(くちびる)にはわずかに(かす)かな()みが()かんだ。

「そうだな。残念(ざんねん)ながら(きみ)(おれ)のチームに(むか)()れることはできなかったが、いずれまた(とも)(はたら)機会(きかい)があると(しん)じている。

それまでに、まずは冒険者(ぼうけんしゃ)としての仕事(しごと)()れておいてくれ。

機会(きかい)があれば、その(とき)また(おれ)から(こえ)をかけよう。」

亞拉斯(アラース)のその(おだ)やかな言葉(ことば)()いた瞬間(しゅんかん)緹雅(ティア)(ひとみ)はさらに(つめ)たく(ひか)り、(あき)らかに興味(きょうみ)(うしな)っていた。

彼女(かのじょ)(はな)(わら)い、不遜(ふそん)口調(くちょう)()()てるように()った。

「ふん! (いま)こそ、あんたが()てくる(ばん)じゃないの?」

その一言(ひとこと)は、(あき)らかに亞拉斯(アラース)への挑発(ちょうはつ)だった。



その言葉(ことば)(はつ)せられた瞬間(しゅんかん)会場(かいじょう)全体(ぜんたい)一気(いっき)(しず)まり(かえ)った。

観客(かんきゃく)視線(しせん)一斉(いっせい)亞拉斯(アラース)へと(そそ)がれ、騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちでさえも(おも)わず()()けた。

(かれ)らは、緹雅(ティア)の堂々(どうどう)たる挑戦(ちょうせん)(おどろ)きを(かく)せなかった。

そんな緊張(きんちょう)空気(くうき)(なか)亞拉斯(アラース)はふっと(わら)(ごえ)()らした。

その口調(くちょう)には、どこか愉快(ゆかい)さと挑発(ちょうはつ)()じっていた。

「ハハハ! いいじゃないか。(おれ)(いど)もうなんて、大した度胸(どきょう)だな。」

(かれ)はそう()うと、わずかに()()き、今度(こんど)(かる)(あざけ)るような口調(くちょう)へと()わった。

「だがな――あまり自惚(うぬぼ)れないほうがいい。

(まえ)のその程度(ていど)(ちから)じゃ、(うえ)にはお(まえ)より(つよ)(やつ)がいくらでもいる。

あまり利口(りこう)ぶって、(いた)()()るなよ。」


しかしその(とき)場内(じょうない)空気(くうき)突如(とつじょ)として一変(いっぺん)した。

亞拉斯(アラース)言葉(ことば)()わるか()わらないかのうちに、(くろ)()(てん)から突如(とつじょ)として()(そそ)いだのだ。

それは圧倒的(あっとうてき)威圧感(いあつかん)(ともな)い、まっすぐに亞拉斯(アラース)へと(たた)きつけられた。

亞拉斯(アラース)反応(はんのう)する()もなく、その(すさ)まじい(ちから)によって完全(かんぜん)()()ばされ、地面(じめん)(たた)きつけられた。

騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちは、()(まえ)()きた予期(よき)せぬ出来事(できごと)驚愕(きょうがく)し、ただ()()くしていた。

その(くろ)()(ちから)は、まるで亞拉斯(アラース)完全(かんぜん)()さえ()むかのようであった。

やがて(けむり)()れた(とき)(だれ)もが(しん)じられない光景(こうけい)()にした。

――地面(じめん)(たお)れていた亞拉斯(アラース)が、人形(にんぎょう)()わっていたのだ。

その(くろ)()は、(おれ)(はな)った第七階位(だいななかいい)召喚(しょうかん)魔法(まほう)――「死神掌握(しにがみしょうあく)」だった。

この魔法(まほう)低階(ていかい)召喚体(しょうかんたい)()つためのもの。

その(ちから)強大(きょうだい)で、標的(ひょうてき)瞬時(しゅんじ)消滅(しょうめつ)させる。


亞拉斯(アラース)の“傀儡くぐつ”が(たお)れた瞬間(しゅんかん)騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちの(かお)には、一斉(いっせい)驚愕(きょうがく)(いろ)()かんだ。

その(とき)突如(とつじょ)として()(さか)火球(かきゅう)決闘台(けっとうだい)上空(じょうくう)(あらわ)れ、(ほのお)四方(しほう)(はじ)()った。

そして、(ほのお)(しず)かに(おさ)まると同時(どうじ)に、そこに(ひと)つの姿(すがた)(あらわ)れた。

(あか)いマントを(ひるがえ)しながら、亞拉斯(アラース)(ふたた)舞台(ぶたい)中央(ちゅうおう)()っていた。

(かれ)象徴的(しょうちょうてき)(あか)のマントは、(ほのお)(ひかり)()けて()らめき、まるで(ほのお)(なか)から(あらわ)れた魔王(まおう)のように威厳(いげん)()ちていた。


「こんな登場(とうじょう)仕方(しかた)不愉快(ふゆかい)ね。」

緹雅(ティア)(おれ)耳元(みみもと)(ちい)さくつぶやいた。

(おれ)(かる)くうなずき、わずかに()まずそうに(こた)えた。

(わる)かったな、緹雅(ティア)。ちょっとやりすぎた。」

本当(ほんとう)のところ、私は当初(とうしょ)亞拉斯(アラース)(たい)して六階位(ろっかいい)以上(いじょう)魔法(まほう)使(つか)うつもりはなかった。

だが、あの言葉(ことば)(いら)だちが込み(こみあ)がり、()づけば無意識(むいしき)のうちに「死神掌握(しにがみしょうあく)」を(はな)っていたのだ。

あれは完全(かんぜん)予定外(よていがい)だった。


緹雅(ティア)はその言葉(ことば)()くと、ふっと微笑(ほほえ)み、安堵(あんど)したような表情(ひょうじょう)()かべた。

大丈夫(だいじょうぶ)よ~。(わたし)のために(おこ)ってくれるなんて、(うれ)しいわ。」

その一言(ひとこと)()いた瞬間(しゅんかん)(おれ)(むね)(おく)にあった(おも)たいものがふっと(かる)くなった。

(むね)(なか)にくすぶっていた不快(ふかい)感情(かんじょう)も、彼女(かのじょ)笑顔(えがお)(とも)()けていくようだった。

(おれ)たちは()(かえ)り、亞拉斯(アラース)(ほう)()た。

(かれ)はゆっくりと()()がり、その(かお)には相変(あいか)わらず冷静(れいせい)()みを()かべていた。

「さっきは(おれ)(ほう)(すこ)(きみ)たちを(あま)()ていたようだな。まさか、(おれ)傀儡(くぐつ)魔法(まほう)見破(みやぶ)っていたとは(おも)わなかった。」

(かれ)言葉(ことば)()いて、(おれ)(はな)(わら)った。

当然(とうぜん)だ。あんな粗雑(そざつ)魔法(まほう)(おれ)たちに見抜(みぬ)けないわけがないだろう。」

私はあえて軽蔑(けいべつ)(かく)さず、不遜(ふそん)口調(くちょう)()(はな)った。

その瞬間(しゅんかん)亞拉斯(アラース)()みがすっと()えた。

(かれ)双眸(そうぼう)(こおり)のように(つめ)たく、(するど)(ひかり)宿(やど)して(おれ)見据(みす)えていた。

「そこまで自信(じしん)があるとはな……ますますお(まえ)たちの(ちから)()たくなった。」

その声音(こわね)には、(しず)かな(いか)りと興奮(こうふん)が入り()じっていた。

私もまた、一歩(いっぽ)()かずに冷静(れいせい)(かえ)す。

「なら、今度(こんど)こそ……お(まえ)(ばん)じゃないのか?」


亞拉斯(アラース)(ふたた)(まゆ)をわずかに()げ、(おれ)挑発(ちょうはつ)(あざけ)るように()つめた。

(おれ)(いど)もうっていうのか? まったく、()(ほど)()らない(やつ)だな。

さっきまで狄蓮娜(ディリエナ)(じょう)支援(しえん)をしていただけのくせに、自分(じぶん)(おれ)互角(ごかく)だとでも(おも)っているのか?」

私はその言葉(ことば)にわずかに口角(こうかく)()げ、()()いた(こえ)(かえ)した。

「じゃあ、今回は私が相手(あいて)になってやろうか。狄蓮娜(ディリエナ)(ちから)なんて必要(ひつよう)ない。」

その瞬間(しゅんかん)亞拉斯(アラース)表情(ひょうじょう)から(わら)みが()えた。

()わりに(ひく)(こえ)で、(つめ)たく()(はな)つ。

「……小僧(こぞう)後悔(こうかい)させてやる。」

その言葉(ことば)には明確(めいかく)威圧感(いあつかん)()められていた。

同時(どうじ)に、(かれ)(こおり)のような(ひとみ)(おく)に、()えるような闘志(とうし)宿(やど)る。

(あき)らかに、(おれ)挑発(ちょうはつ)(かれ)(なか)戦意(せんい)()()ましたのだ。

こうして、(おれ)たちの(たたか)いは(しず)かに(まく)()けようとしていた。


私の挑発(ちょうはつ)(こた)えて、亞拉斯(アラース)正面(しょうめん)からの勝負(しょうぶ)(えら)んだ。

意外(いがい)だったのは、亞拉斯(アラース)鑑定(かんてい)を見る(かぎ)り、(かれ)のレベルはだいたい七級(ななきゅう)程度(ていど)()ぎないということだ。だが、その諸能力(しょのうりょく)德蒙(デモン)よりもかなり(たか)()える。

しかも、虚偽情報魔法(きょぎじょうほうまほう)使(つか)った痕跡(こんせき)確認(かくにん)できなかった。

――もしかして、(かれ)他者(たしゃ)能力値(のうりょくち)見抜(みぬ)くために、(べつ)道具(どうぐ)(たす)けを()りているのだろうか?

大丈夫(だいじょうぶ)?」と緹雅(ティア)心配(しんぱい)そうに(たず)ねた。

問題(もんだい)ない。もう作戦(さくせん)()ってある。」と(おれ)(こた)えた。

()てないことを心配(しんぱい)してるんじゃなくて、あなたが自分(じぶん)力量(りきりょう)をうっかり(さら)しすぎるんじゃないかって()ってるのよ」

安心(あんしん)しろ、それも(ふく)めて私の掌中(しょうちゅう)だ。」


決闘台(けっとうだい)大太鼓(おおだいこ)()(ひび)くと、観客席(かんきゃくせき)はたちまち()()った。

(だれ)もが()っていた――これは滅多(めった)にない機会(きかい)であり、聖王国(せいおうこく)最強(さいきょう)聖騎士(せいきし)(みずか)登場(とうじょう)するのを()られるのだと、(みな)(むね)高鳴(たかな)らせた。

観客(かんきゃく)たちの熱情(ねつじょう)はかつてないほど(たか)まり、(みな)興奮(こうふん)して亞拉斯(アラース)声援(せいえん)し、(なか)にはすでに(かれ)()(さけ)(はじ)める(もの)もいて、勝利(しょうり)瞬間(しゅんかん)()(まえ)にあるかのようだった。

その(こえ)()いて、私はどうしてもアウェイで(たたか)っているように感じた。こうした熱狂(ねっきょう)する観客(かんきゃく)(くら)べると、私と緹雅(ティア)立場(たちば)はひときわ()(りつ)して()えた。


亞拉斯(アラース)(あき)らかに場内(じょうない)注目(ちゅうもく)を感じ取り、舞台(ぶたい)中央(ちゅうおう)()つと、その(かお)自信(じしん)微笑(びしょう)()かんだ。まるでこの勝負(しょうぶ)(かれ)にとってささやかな娯楽(ごらく)()ぎないかのようだった。

(かれ)()(うご)かすが(はや)く、第六階位(だいろっかいい)補助(ほじょ)魔法(まほう)――「精神集中(せいしんしゅうちゅう)」「獵手(ハンター)爆發(ばくはつ)」「精準(せいじゅん)提升(ていしょう)」を次々(つぎつぎ)と(はな)った。これにより(かれ)精神力(せいしんりょく)爆発力(ばくはつりょく)精準度(せいじゅんど)強化(きょうか)された。

これらの魔法(まほう)加護(かご)()けて、亞拉斯(アラース)気配(けはい)一層(いっそう)強大(きょうだい)になり、(かれ)一挙一動(いっきょいちどう)はひときわ()()いて()えた。


(さき)にちょっと(かる)(ため)してみようか~」と亞拉斯(アラース)自信(じしん)たっぷりに()い、その口調(くちょう)非常(ひじょう)軽薄(けいはく)だった。

(かれ)自分(じぶん)たちの実力(じつりょく)把握(はあく)していると自負(じふ)しており、この勝負(しょうぶ)容易(ようい)()むだろうと(かんが)えていた。

そう()うと、亞拉斯(アラース)背中(せなか)からずっしりと(おも)后羿(こうげい)(ゆみ)()()した。(ゆみ)(つる)指先(ゆびさき)(かす)かに(ふる)え、いつでも致命(ちめい)(てき)()(はな)てる準備(じゅんび)(ととの)っている。

(かれ)体内(たいない)からは強烈(きょうれつ)魔力(まりょく)(なが)()周囲(しゅうい)(つつ)()む。あの(かがや)きと魔力(まりょく)波動(はどう)観衆(かんしゅう)(だれ)もが(いき)()めるほどの威圧感(いあつかん)(はな)っていた。

亞拉斯(アラース)**は(ふか)(いき)()い、一気(いっき)(ゆみ)(つる)()(しぼ)ると、第六階位(だいろっかいい)戦技(せんぎ)――「烈焰(れつえん)()」が放たれた。(ほのお)(ごと)()(ゆみ)から()じかれ、(ちょく)(おれ)めがけて()んでくる。

その(あと)(かれ)()雨粒(あまつぶ)のように連射(れんしゃ)され、その速度(そくど)(きわ)めて(はや)く、ほとんど瞬間(しゅんかん)にして(おれ)(おそ)いかかってきた。

このような連射(れんしゃ)攻撃(こうげき)の速さ(はやさ)と脅威(きょうい)は、一般(いっぱん)(もの)にとって()けることはほとんど不可能(ふかのう)であり、緹雅(ティア)奧斯蒙(オスモン)のような敏捷(びんしょう)身手(みて)でなければ完全(かんぜん)回避(かいひ)するのは困難(こんなん)だろう。

亞拉斯(アラース)は、この攻撃(こうげき)命中(めいちゅう)すれば確実(かくじつ)(おれ)甚大(じんだい)損害(そんがい)(あた)えることを理解(りかい)していた。


しかし、(おれ)はこれらの攻撃(こうげき)回避(かいひ)することを(えら)ばなかった。

(おれ)()っていた──これらの攻撃(こうげき)(おれ)(たい)して(まった)効果(こうか)()たないことを。ゆえに、回避(かいひ)する必然性(ひつぜんせい)(まった)くなかった。

烈焰(れつえん)()一本(いっぽん)また一本(いっぽん)(おれ)命中(めいちゅう)するにつれて、爆発音(ばくはつおん)()(つづ)けに()(ひび)き、濃煙(のうえん)四方(しほう)()ちこめた。

爆発(ばくはつ)()()こす衝撃(しょうげき)(なみ)のように(はげ)しく、観客席(かんきゃくせき)(おお)くの(もの)(おも)わず驚声(きょうせい)()げた。

会場(かいじょう)煙霧(えんむ)(つつ)まれ、(だれ)事態(じたい)細部(さいぶ)正確(せいかく)()ることができなかった。(なか)には、さっきの爆発(ばくはつ)(おれ)()ぬのではないかと懸念(けねん)する(もの)さえいた。

その一方(いっぽう)亞拉斯(アラース)(かお)には(あざけ)るような微笑(びしょう)()かんでいた。(かれ)自分(じぶん)()確実(かくじつ)(おれ)命中(めいちゅう)したと確信(かくしん)していたからである。


「ハハハ! たったこれだけか?」と亞拉斯(アラース)自信(じしん)たっぷりに(わら)った。

その口調(くちょう)には高慢(こうまん)慢心(まんしん)()ちあふれ、あたかも自分(じぶん)(てき)はいないかのような誇示(こじ)()びていた。

亞拉斯(アラース)視線(しせん)はふと緹雅(ティア)(ほう)()いた。だが(かれ)は、彼女(かのじょ)(すこ)しも狼狽(ろうばい)しておらず、むしろ一層(いっそう)()()いている様子(ようす)()て、不安(ふあん)(かげ)(おぼ)えた。

緹雅(ティア)眼差(まなざ)しに宿(やど)冷静(れいせい)さは(なに)かを物語(ものがた)っており、彼女(かのじょ)先刻(せんこく)攻撃(こうげき)(かる)んじているように()えることが、亞拉斯(アラース)胸中(きょうちゅう)違和感(いわかん)(いだ)かせた。

その(のち)(かれ)(かお)をこちら――(おれ)(ほう)()けて(ふたた)目線(もくせん)(おく)った。(こころ)(なか)で、ぽつりと(つぶや)いた。

「まさか……」


亞拉斯(アラース)()をそらしたその刹那(せつな)猛烈(もうれつ)火焰(かえん)(ほう)突如(とつじょ)として(かれ)顔面(がんめん)めがけて襲来(しゅうらい)した。

亞拉斯(アラース)はすでに防御(ぼうぎょ)魔法(まほう)展開(てんかい)していたが、この火砲(かほう)強大(きょうだい)威力(いりょく)はその防御(ぼうぎょ)相対的(そうたいてき)(もろ)()せた。

一瞬(いっしゅん)にして(かれ)砲撃(ほうげき)()()ばされ、致命傷(ちめいしょう)こそ(まぬが)れたものの、足元(あしもと)がおぼつかなくなった。

これは(おれ)(はな)った第六階位(だいろっかいい)魔法(まほう)――「達達內爾(ダダネル)守門員火砲ガードキャノン)」である。

この(わざ)中階(ちゅうかい)以下(いか)防御(ぼうぎょ)魔法(まほう)()()くために設計(せっけい)された攻撃(こうげき)技能(ぎのう)で、必ずしも高階(こうかい)破壊力(はかいりょく)()つわけではないが、極めて(きわ)貫通(かんつう)能力(のうりょく)(そな)えており、()くの防御(ぼうぎょ)を突き(つきぬ)けることができる。

煙塵(えんじん)()れてくると、観衆(かんしゅう)視線(しせん)(おれ)集中(しゅうちゅう)していた。(かれ)らの()(うつ)ったのは、(おれ)依然(いぜん)として(ひと)()(きず)もなく()中央(ちゅうおう)()っている姿(すがた)だった。

(おれ)()()いた(はい)(かる)(はら)い、ゆっくりと()()っていた武器(ぶき)()いた。()つきは平静(へいせい)波風(なみかぜ)ひとつ()っていない。

緹雅(ティア)(かお)には得意(とくい)げな()みが()かんでおり、この結果(けっか)(たい)して(なに)意外(いがい)を感じていない様子(ようす)だった。


「よくも(おれ)火砲(かほう)(ふせ)いだな。防御(ぼうぎょ)能力(のうりょく)、なかなか優秀(ゆうしゅう)だ。」と(おれ)(つめ)たく()った。

「お(まえ)連射(れんしゃ)確実(かくじつ)()てたはずだ。どうして無傷(むきず)でいられるんだ?」と亞拉斯(アラース)驚愕(きょうがく)して(さけ)んだ。(かれ)()(まえ)状況(じょうきょう)理解(りかい)できずにいた。

(かれ)推測(すいそく)によれば、これらの攻撃(こうげき)威力(いりょく)からすると、(だれ)命中(めいちゅう)したとしても無傷(むきず)でいることはあり()ないはずだった。だが、事実(じじつ)(あき)らかに(かれ)(おお)いに(おどろ)かせた。


(おれ)はかすかに(わら)って(こた)えた。

「ふん、ああ〜そうだ。お(まえ)(たし)かに()てた。だが、いくら攻撃(こうげき)(かさ)ねても、ダメージがゼロならば、()(ざん)しても結局(けっきょく)ゼロだ。」

(おれ)(つめ)たく(かれ)()()め、()攻撃(こうげき)などまったく()(かい)していなかった。

亞拉斯(アラース)当然(とうぜん)それを予期(よき)していなかったようで、(まゆ)をひそめて問い(と)いかけた。

「まさか、火炎(かえん)(たい)する耐性(たいせい)があるのか?」

(おれ)はあっさりと(こた)えた。

(だれ)()ってるっていうんだ?」

亞拉斯(アラース)()みは次第(しだい)()え、()(なか)(いか)りが(はし)った。

「だが――(あらゆる)属性(ぞくせい)(たい)する耐性(たいせい)()つことなど不可能(ふかのう)だ! そういうなら、威力(いりょく)強化(きょうか)してやる!」

先刻(せんこく)の予期せぬ反撃(はんげき)()けたことで、亞拉斯(アラース)はさらに(つよ)(ちから)(おれ)防御(ぼうぎょ)(やぶ)ろうと決意(けつい)した。

その言葉(ことば)()わるや(いな)や、(かれ)(ふたた)(ゆみ)(つる)(おお)きく()(しぼ)り、(つぎ)のより強力(きょうりょく)攻撃(こうげき)(はな)準備(じゅんび)(ととの)えた。


亞拉斯(アラース)気配(きはい)はこの瞬間(しゅんかん)、いっそう(つよ)くなり、観客席(かんきゃくせき)からは(おも)わず(ひく)驚嘆(きょうたん)(こえ)()れた。

亞拉斯(アラース)から(はな)たれる気圧(きあつ)明確(めいかく)に、(かれ)がこれから驚異的(きょういてき)大技(だいわざ)()()そうとしていることを(しめ)していた。

(かれ)(ひとみ)冷冽(れいれつ)(ひかり)(またた)かせ、まるで戦場(せんじょう)支配者(しはいしゃ)()したかのように()えた。周囲(しゅうい)騎士団員(きしだんいん)でさえ、その強烈(きょうれつ)威圧(いあつ)()(ふる)わせていた。


亞拉斯(アラース)動作(どうさ)非常(ひじょう)素早(すば)く、(かれ)()()(ゆみ)魔力(まりょく)集中(しゅうちゅう)させた。弓身(きゅうしん)(まぶ)しい(ひかり)(はな)ち、その(かがや)きは次第(しだい)(つよ)まり、まるで(そら)全体(ぜんたい)がその魔力(まりょく)によって()()かれるかのようだった。

(かれ)魔力(まりょく)弓矢(ゆみや)(そそ)がれると、無形(むけい)威圧(いあつ)瞬時(しゅんじ)四方(しほう)へと()(わた)った。決闘場(けっとうじょう)全体(ぜんたい)(ふる)え、観客席(かんきゃくせき)にまでその強烈(きょうれつ)圧迫感(あっぱくかん)(とど)き、まるで(おお)きな(やま)が各々(おのおの)の(むね)(おも)くのしかかるようだった。

「この(わざ)神明かみ(さま)が直々(じきじき)に(おし)えてくださったものだ。()をつけろ、()なうんじゃないぞ!」と亞拉斯(アラース)大声(おおごえ)宣言(せんげん)した。


(じつ)は、(おれ)(おどろ)いていなかった。

(おれ)亞拉斯(アラース)()にある(ゆみ)についてある程度(ていど)知識(ちしき)があった。亞拉斯(アラース)()にあるその(ゆみ)は「后羿弓(こうげいきゅう)」と()ばれている。

この(ゆみ)特性(とくせい)は、攻撃(こうげき)連続(れんぞく)して(はな)つことのできる能力(のうりょく)で、プレイヤーが(ぜん)中期(ちゅうき)にレベル()げを(いそ)(さい)非常(ひじょう)(てき)している。

その連射(れんしゃ)能力(のうりょく)は、所持者(しょじしゃ)短時間(たんじかん)多数(たすう)(てき)継続的(けいぞくてき)損害(そんがい)(あた)えることを可能(かのう)にする。こうした武器(ぶき)多数(たすう)(てき)相手(あいて)にする場合(ばあい)莫大(ばくだい)威力(いりょく)発揮(はっき)し、(ぐん)()魔物(まもの)(たい)しては、十分(じゅうぶん)魔力(まりょく)があれば()さな雑魚(ざこ)()えず一掃(いっそう)できるし、比較的(ひかくてき)単純(たんじゅん)なボスに(たい)しても有効(ゆうこう)(たお)すことができる。

だが、后羿弓(こうげいきゅう)には使用(しよう)制限(せいげん)もある。単一(たんいつ)属性(ぞくせい)攻撃(こうげき)媒介(ばいかい)使(つか)うしかなく、かつ九階(きゅうかい)()える魔法(まほう)戦技(せんぎ)行使(こうし)することはできない。

以前(いぜん)情報(じょうほう)から、(おれ)はこの世界(せかい)に「DARKNESSFLOW」といった(るい)武器(ぶき)存在(そんざい)することを()っていたため、亞拉斯(アラース)后羿弓(こうげいきゅう)使(つか)っていることに(おどろ)かなかった。


亞拉斯(アラース)(ちから)()め、()宿(やど)魔力(まりょく)()()后羿弓(こうげいきゅう)へと(そそ)()んだ。

后羿弓(こうげいきゅう)(かれ)制御(せいぎょ)のもとで想像(そうぞう)()える(ちから)発揮(はっき)した。

亞拉斯(アラース)自身(じしん)能力(のうりょく)()ってすべての元素(げんそ)弓矢(ゆみや)()()ませた。(はな)たれる()はそれぞれ(こと)なる属性(ぞくせい)――(ほのお)(こおり)(いかずち)烈風(れっぷう)(ひかり)(やみ)――の(ちから)を帯(おび、)各々(おのおの)が(ぞく)する元素(げんそ)脅威(きょうい)宿(やど)していた。

「これは(おれ)自身(じしん)権能(けんのう)元素(げんそ)異変(いへん)』を(もち)いてこそ()()るものだ。」と亞拉斯(アラース)(こえ)()()げた。

「この技能(ぎのう)(おれ)(すべ)ての属性(ぞくせい)攻撃(こうげき)一度(いちど)(はな)すことを可能(かのう)にする。ゆえに、たとえ(ほのお)以外(いがい)元素(げんそ)耐性(たいせい)があろうとも、僥倖(ぎょうこう)にして回避(かいひ)することはできまい! 第七階位(だいななかいい)戦技(せんぎ)――『漣漪(れんい)()』だ!」

第七階(だいななかい)以上(いじょう)魔法(まほう)戦技(せんぎ)は、一般(いっぱん)(もの)には(とお)(およ)(がた)高峰(こうほう)であり、騎士団(きしだん)団長(だんちょう)たちが協力(きょうりょく)してようやく発動(はつどう)できることも(おお)い。

だが亞拉斯(アラース)単独(たんどく)でそれを行使(こうし)できるという事実(じじつ)は、(かれ)実力(じつりょく)がいかに卓越(たくえつ)しているかを端的(たんてき)(しめ)している。


これは(たん)なる元素(げんそ)()(とど)まらず、特殊(とくしゅ)魔法構造(まほうこうぞう)(そな)えていた。

()標的(ひょうてき)命中(めいちゅう)すると、強烈(きょうれつ)余波(よは)(はな)たれ、その余波(よは)範囲(はんい)ダメージを(あた)え、相手(あいて)容易(ようい)反撃(はんげき)させないようにする。

亞拉斯(アラース)攻撃(こうげき)(たい)して、(おれ)魔法(まほう)(こた)えることを(えら)んだ。こうした連続的(れんぞくてき)かつ範囲的(はんいてき)攻撃(こうげき)(たい)しては、(もっと)有効(ゆうこう)なのは強力(きょうりょく)防御(ぼうぎょ)魔法(まほう)(もち)いてこれを無効化(むこうか)することだ。

これは当初(とうしょ)志向(しこう)には(はん)するものの、(さき)挑発(ちょうはつ)軽視(けいし)()けたことで、(おれ)はより高位階(こういかい)魔法(まほう)使用(しよう)する決意(けつい)(かた)めた。


(おれ)第八階位(だいはっかいい)召喚魔法(しょうかんまほう)――「魔靈要塞(まりょうようさい)」を発動(はつどう)した。瞬時(しゅんじ)巨大(きょだい)要塞(ようさい)(おれ)()(まえ)出現(しゅつげん)した。

その要塞(ようさい)は、第七階位以下(だいななかいいいか)物理(ぶつり)および魔法(まほう)攻撃(こうげき)免疫(めんえき)する能力(のうりょく)(そな)え、さらに自動(じどう)反撃(はんげき)特性(とくせい)()っていた。

(たし)かに、第八階位以上(だいはっかいいじょう)魔法(まほう)(まえ)ではそれは(おお)きな玩具(がんぐ)(じょう)(ひと)しいかもしれないが、亞拉斯(アラース)攻撃(こうげき)相手(あいて)であれば、(ほのお)であれ(こおり)であれ、その()元素(げんそ)攻撃(こうげき)であれ、その要塞(ようさい)有効(ゆうこう)にこれらを無力化(むりょくか)した。

亞拉斯(アラース)()(おれ)()かって(はな)たれると同時(どうじ)魔靈要塞(まりょうようさい)即座(そくざ)防御(ぼうぎょ)態勢(たいせい)展開(てんかい)した。(かく)()要塞(ようさい)命中(めいちゅう)するたびに、周囲(しゅうい)空気(くうき)震動(しんどう)し、魔靈要塞(まりょうようさい)防護(ぼうご)バリアが(ひかり)(またた)かせて、それぞれの()攻撃(こうげき)確実(かくじつ)無効化(むこうか)していった。

さらに、()魔靈要塞(まりょうようさい)衝突(しょうとつ)した(さい)要塞(ようさい)は単に攻撃(こうげき)(ふせ)ぐだけでなく、衝突(しょうとつ)した()同属性(どうぞくせい)元素(げんそ)()瞬時(しゅんじ)生成(せいせい)し、即座(そくざ)亞拉斯(アラース)反撃(はんげき)(くわ)えた。


その反撃(はんげき)威力(いりょく)(おれ)予想(よそう)をはるかに()えていた。亞拉斯(アラース)反応(はんのう)する()もなく、自分(じぶん)(はな)った攻撃(こうげき)(はじ)(かえ)されてしまった。

この突如(とつじょ)反撃(はんげき)に、亞拉斯(アラース)一瞬(いっしゅん)呆然(ぼうぜん)とし、まさか(だれ)かが自分(じぶん)のような攻撃(こうげき)()(かえ)すことができるとは(ゆめ)にも(おも)わなかった。

「ありえない!」と(かれ)(あわ)てた(こえ)(さけ)んだ。()(まえ)光景(こうけい)(しん)じることができない様子(ようす)だった。これまででさえ、(ほか)混沌級(こんとんきゅう)冒険者(ぼうけんしゃ)たちもこの(わざ)(まえ)無傷(むきず)でいられなかったのだ。

「まさか――神明かみ(さま)(ちから)にすら()()えるというのか?」と(かれ)動転(どうてん)し、試合(しあい)形勢(けいせい)急速(きゅうそく)変化(へんか)しつつあることに()づいた。


「こんな技術(ぎじゅつ)で、もうそこまで(すご)いの?」と緹雅(ティア)(こえ)がそっと(とど)いた。

彼女(かのじょ)(あき)らかに亞拉斯(アラース)実力(じつりょく)失望(しつぼう)しているようで、まるでこの(たたか)いが(おも)っていたほど劇的(げきてき)ではないかのようだった。

(おれ)はかすかに(わら)い、(ひく)(こえ)(こた)えた。

多分(たぶん)だ。相手(あいて)実力(じつりょく)は、(おれ)予想(よそう)(おお)むね一致(いっち)しているようだ。」

緹雅(ティア)(かる)(わら)うと、さらに小声(こごえ)注意(ちゅうい)(うなが)した。

「でも、こんなふうに簡単(かんたん)(かれ)(たお)しちゃうのは、ちょっと目立(めだ)ちすぎない?」

(おれ)(かた)をすくめ、(こころ)(なか)(かんが)えた。

こういう亞拉斯(アラース)のような相手(あいて)には、こちらの()(ふだ)()して()()せなければ、本当(ほんとう)()()からないかもしれない――そう(おも)ったのだ。

だが、最初(さいしょ)から王国(せいおうこく)最強(さいきょう)冒険者(ぼうけんしゃ)簡単(かんたん)()()かしてしまうのは、後々(のちのち)不必要(ふひつよう)面倒(めんどう)(まね)(おそ)れがある。

(たし)かに」(おれ)(わら)って()った。

「だが、これもまた(かれ)にとって(もっと)相応(ふさわ)しい教訓(きょうくん)なのかもしれない。」

亞拉斯(アラース)魔力(まりょく)使(つか)()たして攻勢(こうせい)()めた瞬間(しゅんかん)(おれ)時間(じかん)無駄(むだ)にせず、指先(ゆびさき)(ひと)はじきで魔靈要塞(まりょうようさい)防護(ぼうご)解除(かいじょ)した。さらに、わざと魔力(まりょく)使(つか)()たしたふりをして()せた。


(おれ)所作(しょさ)(きわ)めて自然(しぜん)で、(だれ)にも一片(いっぺん)異状(いじょう)すら気付(きづ)かれなかった。

「どうやら我々(われわれ)の魔力(まりょく)はもう()きたようだ。」と亞拉斯(アラース)無理(むり)(からだ)()こし、表情(ひょうじょう)はやや落胆(らくたん)(いろ)()びており、この結果(けっか)(たい)して(あきら)めと不服(ふふく)()じっているようだった。

(おれ)(いき)()らすふりをして(こた)えた。

「そうだな! まさか(おれ)をここまで使(つか)わせるとは…この技能(ぎのう)はやっかいだ。」と、わざと疲労(ひろう)した様子(ようす)()せて、(かれ)(おれ)相当(そうとう)労力(ろうりょく)(つい)やしたと(しん)()ませた。

「今日はここまでにしておこう、布雷克(ブレイク)さん。」と亞拉斯(アラース)名残(なごり)()しげに()った。(かれ)心中(しんちゅう)には不本意(ふほんい)さがあり、()いは(のこ)るものの、結果(けっか)()()れて「(きみ)たちは(たし)かに混沌級(こんとんきゅう)冒険者(ぼうけんしゃ)称号(しょうごう)相応(ふさわ)しい」と無念(むねん)(なか)宣言(せんげん)した。

その言葉(ことば)幾分(いくぶん)重苦(おもくる)しかったが、最終的(さいしゅうてき)には(おれ)たちの実力(じつりょく)(みと)めるものだった。




ようやく第4章の執筆が完了しました。本当に簡単なことではありませんでした。


最近は大小さまざまな用事に追われていて、正直かなり手一杯な状態でしたが、仕事をこなす傍ら、なんとか毎週決めていた作業も順調に進めることができました。


現在は週一回のペースで更新を行っていますが、このペースでの公開スタイルは、読者の皆さんにとって受け入れやすいでしょうか?

それとも、一章ごとにまとめて一気に公開する方が良いと感じますか?


今のところは当初のペースを維持していますが、今後は変更する可能性もあるかもしれません。


次は第5章の作業に入ります。この章は、第1巻の中でも私が特に気に入っているエピソードなので、丁寧に描きたいと思っています。皆さんにも気に入っていただけたら嬉しいです。


第5章の完成には、細部の調整を含めて7-8週間ほどかかる見込みです。

これからもぜひ、応援やご意見をいただけると励みになります。

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