呪われし血脈~チャモ改
薄闇を貫く太陽光。遮光カーテンの隙間から降り注ぐ鮮烈な白い矢に、今日という日が雲ひとつない蒼穹なのだと思い知る。
途端に男は、恐怖した。晴天であるということは、男が最も恐れるべき事態だったからである。
汗が滲む、心臓が肋骨を叩く、苛立ちが喉に疼く。頭蓋が絶望そのものとなって――。
男は、光から逃れるように後じさった。そして小さく、呻いた。
逃れられない――、と。
今、この瞬間、世界中の多くの人間たちは産声をあげたばかりの朝に心を躍らせていることだろう。
だが、男は違う。普通の人間とは、異なる。輝かしい早朝に歓喜する者たちとは一線を画しているのだ。
二十歳も半ばを過ぎた頃だろうか。
まず、糸を感じた。それは見えない糸だった。
例えるならば、蜘蛛の糸。何気なく歩き、ふと肌に張り付き静かな驚きを感じるも、刹那に断ち切れ、すぐ忘却の彼方へと流れ去るような糸だった。故に男は気のせいだと思った。
否、思いたかった。
日が積もるにつれ糸は、その輪郭を定かにし、その重さを増し、瞬く間に変貌した。
糸から鎖へ。
それでも男は、自分に嘘をつき鎖を無視した。
男が目蓋を閉ざし耳を閉ざし、偽りの殻を作るにつれ、残酷にも鎖は、次第に己を主張し鼓舞し、そしてついには――。
呪いと、なった。
呪い。
そう、“血”の呪いだ。
あがらうことは出来ないそれは、古から伝わる深紅の呪縛。
呪縛は、男の全身を巡り、そして囁く。
光から逃れよ、闇を欲っせよ、と。
男の住む屋敷には、血の歴史が刻まれている。旧く、男一人には広すぎる屋敷の居間には、眠るように埃を被る肖像画がいくつも並んでいた。
代々屋敷を守ってきた主人たち。つまり、男の先祖である。
何故、この忌々しい血を持って生まれたのか。この血を残したのか。
彼らに問うた夜もあった。幾千の疑念の夜を重ねた。
……今はもう、彼らに目を合わせることもない。同じ血を持ち、同じ苦悩に喘いだであろう、彼らの痛みが問いを越え染み入り、堪らなくなるからだった。
だから今日も視線を逸らし、今の先にある洗面台に向かうのだ。
男は鏡面に映る我が身を認めなかった。己を否定するかのごとくうつむき、顔を水で洗う。朝の身支度は、その程度で終わらせる。きっと彼らも、先祖たちも、そうしていただろう。
男が居間を通り過ぎる。血を色濃く受け継いだ子孫を哀れむように、肖像画たちは男を見下ろしていた。
威厳と哀愁漂う、その剥げ抜かれた頭頂部を光らせて……。
この作品は、あんこだまさんの200文字小説『呪われし血脈』を1000文字にアレンジしたものです。
作品を読んでまず浮かんだのは、朝に憧れを抱きながら、同時に呪わなくてはならない哀しみを背負ったバンパイアでした。きっと、あんこだまさんのポイントはここだと思い、バンパイアの心の闇を強調することにしました。結局のところ彼はバンパイアではないわけですが。
200文字で完成している小説をバンパイア風味で伸ばしまくったので落ちが弱くなってしまったように思います。基のユーモアを残しつつ文字数を増やすのは難しいなと思った次第です。勉強になりました。
最後まで読んでくださった方、作品の二次創作を許してくださったあんこだまさん、本当にありがとうございました。




