8話「路地裏タッグマッチ開幕」
「し……社長……!?」
「……あっぶな……死ぬかと思った」
「何が、あったんだ?」
「おぉ〜……紅鈴、少年見つかった?」
「あぁ……近くに隠してるよ」
「隠してる……?なんでまたそんなこと」
「……社長、今何処に寝転んでるか、分かってる?」
「は……何処って……?うぉぉぉ!?アカシャの仔!?なんでこんな所に!?うわぁ……!すっごく体ベトベトする!気持ち悪い!ていうか……おっっっも!」
黒い塊に半身以上を埋めてジタバタと藻掻く命。辛うじて黒い塊の外に出ている上半身は所々にその破片をくっつけている。状況だけで言うなら、白ポニテ青年の黒色スライム攻めの図だ
「……ったく!じっとしとけよっ!!!」
「らぁっっっ!!!」
僕の手から伸びていく無数の紅い糸。黒いベタベタしたアカシャの仔の中へと糸を入れ、ほとんど身動きが取れていない相棒へと糸を絡ませていく。
良い感じに相棒を雁字搦めにできた。後は!思いっきり!体を捻るっ!!!
ドボゥ!
……と気持ち悪い音を立てて、ゴリラから飛び出た命がアスファルトに叩きつけられ、転がる。「ぐへぇ……!ぐふっ……!おわぁ〜〜〜!」と声が聞こえてきたがまぁ……大丈夫だろう。
「あのさぁ……!仮にも私は貴方の社長でさぁ……!且つ貴方の大切な相棒なんだからさぁ……!もう少しさぁ……!優しさをさぁ……!」
「……何があったんだよ?」
「あぁ……フル無視ね?そういう感じね?んんっ!5人の方はなんとかなったよ。なんならちょっと仲良くなった」
「え、戦ったんだよね?」
「戦ったよ」
「あ……そう……」
「うん」
「ん?ていうか、方は……ってなんだよ。方は……って」
「いやぁ……なんかもう1人、変なハンマー使いが出てきてね?スラム街街潰すとか言って5人の内の1人にごちゃごちゃ言ってたから……十手ぶん投げちゃって……」
「えっ、ついさっきまで敵だったんだよね?」
「敵だったね」
「あ……そう……」
「うん」
「要するにだがぁー……強い乱入者が出たって事で大丈夫?」
「うん!良いね!完璧解釈!……そっちは?」
「カクカクシカジカ……」
「ゴリラ型かぁ……。初めて見るね。強かった?」
「戦おうとした所で誰かさんが吹き飛んできたんだよ!!!折角少しカッコつけて覚悟決めたのに……さぁ……!」
コツコツ。路地裏から足音が聞こえる。
ベチャ……ベチャ……。背後から嫌な音が鳴る。
音に対する不快感は、即ち、僕の中に渦巻く面倒事をぶん投げてきた守都 四方画への不信感でもあった。
「あははははっ!ごめんごめん!……でも、その覚悟もう一度決め直さないとだね……!」
そんな僕を心中をどうせ分かっているくせに、意に介す事無く笑う相棒。少し腹が立つが、ここが良い所だから仕方ない。
全く……いくら強いと言えど放っておけないな便利屋の社長は……!
「はいよぉ……!もう一踏ん張りって所かな?……ってな訳で聞きたいんだが、そりゃぁ……グルだわな……?お2人さん?」
「アカシャの仔って1人判定で良いの……?」
「良いんじゃないか?いや、どうだろ……。……。どうなんだい……変なハンマー使いさん?」
◆ ◇ ◆
命と紅鈴。
2人は直ぐに戦闘の準備をした。
十手を投げたばっかりに、素手になった命は強く両手を握り、軽く胸の前で構えた。
紅鈴はダラリ……と腕を、紅い糸を垂らし、僅かに身を前傾させる。
「変なハンマー使いっていうのは……私の事?」
ブラウンチェックのスーツを着こなす中性。その人物は、手に持つ背丈程の槌をグルングルンと回して、路地裏から現れた。
先程、命を打った時には鉄槌の様に見えた槌は、元の質素で気品のある木製の物へと戻っている。
ガンッ!
槌で地面を叩く。
それに応えるように、便利屋の2人で見事にその体を再生させたゴリラが両手と頭を垂れた。
「これは、ハンマーじゃない。ガベルって言うんだ。知ってるかい?裁判やオークション会場で見かける木槌の事だ。木板を叩くとカンカンッ!と良い音が鳴るアレだね!ま〜〜〜あ!私のは、人を叩くものなんだけどもね!」
「私の名前は咎 天子、傭兵!目的は名前持ち:鬼の討伐!……つまりだ。命、君を殺す事だぁ!さてっ!ここまで優しく説明してあげたんだ。取り敢えず、その変なハンマー使いと言うダサい呼び方をやめてもらおうか!……狒々っ!」
「……っ!社長っ!!」
「分かってる!」
ダァンッ!!!
上から振り下ろされた黒の拳。
粘液の体から放たれたとは到底思えない威力のそれを左右に避け、便利屋2人と変なハンマー使い、ゴリラの戦いは幕を開けた。