5話「捨てちまえ!そんな害悪指定図書ッッッ!」
「……んで、なんであんな事言ったんだよ、無口馬鹿。下ネタとか言うタイプじゃねぇだろ……お前……」
刃山 堅剛その人に腰を下ろし、自分の膝に肘を付いて問いかける茶畑 香呑葉。
お姉さんよりも寧ろ、姉御という言葉が似合いそうな姿だけど……。あっ……やっば……睨まれた。知らんぷり知らんぷり。
「朝読んだ本に……かわいいあの子と仲良くなるには、まずは好きなタイプを伝えること!特にない人は巨乳好きって言うと良い!……って……書いてた」
「どこのどんな本だ!そのクソ本!燃やしちまえ!そんなイリーガル思想の害悪指定図書ッッッ!」
「今は紅鈴に……渡した」
プルプルと震える大きいながらにか弱い手で、部屋の隅、自販機とベンチがある場所を指差す刃山さん。
全員がそちらを向けば、そこには蜘蛛の足の様に内側へとクセの付いた真紅の髪。目の下には酷い隈があり、不気味な顔付きをしている青年がいた。持っていた本をパタリと閉じて、私達に向けて手を振った。
「あぁ!読んだよ。恋愛の天才・ラブ田中のモテモテクニック♡……不愉快なコミュニケーション方法しか書かれてないただのゴミだったけどね。スラム街の焚き火に放り込んできたら良いと思うよ?」
「……本を……だよね?」
「それかまぁ……我路君に八つ裂きにして貰うとか……?」
「本をだよねぇっ……!?」
いたずらにケラケラと笑う彼は、一通り笑うと、体を言観さんに向き直して口を開く。
「僕は絡繰良 紅鈴。そこの白ポニテがやってる便利屋を手伝ってる。得意な事は捕縛。苦手なモノは柑橘類。まぁ……大体蜘蛛みたいな人だって思ってくれたら良いかな?」
「酷い隈だな……」
紅鈴の眼を半ば覆う勢いで存在する隈。見様によってはパンダのソレである隈。
紅鈴は細い指で、隈を撫でた。
「格好良いだろう?」
コーン。コーン。コーン。
8時を知らせる鐘の音。部屋の壁に取り付けられたスピーカーから鳴るお世辞にも、綺麗とは言い難いその音色と同時に彼女は現れた。
「うん、ちゃんといるね。良かった良かった」
両手で、雑多な物を抱える守都さんは、いつの間にかそこにいた。
◆ ◇ ◆
「はい、まずこれ技術チームに作ってもらった3種のホルダー付きベルト。まずはこれを巻いてね……」
明らかに銃と短刀を差すアタッチメント。その2種は基本パーツ的な物だろう。しかし、ホルダーは3つ。他の2点と少し離れて付けられている長方形の黒い薄い箱。きっとアレ用なのだろう。
ようやく、私も、戦えるようになるのか。一月以上……長かった。
私は腰にベルトを巻いた。
「これが霊気銃。霊気を弾丸として撃てる優れもの。殺傷力は高くはないが、アカシャの仔を倒すには申し分ない程の威力がある」
「これは短刀。まぁ……言うことはないね。気をつけて扱うように」
「そしてこれが、頼まれていたものだよ……」
守都嬢が取り出した1枚の札。黒い。どこまでも。その黒さは、アカシャの仔を彷彿とさせるおどろおどろしさを纏っている。
その上から白色で、模様の様に崩れた形で言葉が書かれている。
「黒い……札……」
不気味だ……。でもこれが……。
「霊気を流せば、札の中にある魂の力を使えるよ。今の言観君なら……1日に30分程度に留めておいたほうが良いかな?はい、どうぞ」
既に銃と短刀を差したベルト残った箱の中に札を入れる。
「それ……いちいち開けなくても使える様にしてあるからね」
「うん?……わ……分かった。守都嬢!ありがとう!」
「うん!改めて、入隊おめでとう!私達、クズレの国国家特務隊は言観君、君の入隊を歓迎する!ようこそ!特務隊へ!」
◆ ◇ ◆
「……命君。命君」
「えぁ?はい、どうかしましたか?守都さん」
紅鈴の座るベンチへと呼び出す守都さん。仲良く話に花を咲かせている言観さんと茶畑さんと刃山さん、1人クラゲ型のアカシャの仔と激しい戦闘を繰り広げる灯代さんを背にして私は2人の下へ歩を進めた。
「急で申し訳ないだけど緊急の依頼があるんだ。崩壊街のスラム街近くで、名前持ち付きのアカシャの仔の報告が何度も上がってきているんだよね。悪いけど調査に行ってもらえるかな……?」
「それは良いですけど、どの名前持ちですか?」
「……」
「……ん?どうかしたのか、守都。その沈黙はあまりにも不穏なんだが……」
「実はね。来ている報告が名前持ちのアカシャの仔を見た……と言う事だけで、肝心などの名前持ちかが分かっていないんだよ。もしかしたら……罠かもしれない。だから君たちにお願いしたいんだ。」
「国として関わるのは避けたい……って事か……」
コクリ……。
深く頷く守都さんに、どうする……?と目を向けてくる紅鈴。……そんな目を向けられても、答えは決まってる事を知ってるだろ……お前は。
「分かった。行ってくる。ほら、紅鈴行くよ?」
「はぁ……分かったよ、社長」
私達便利屋はスラム街へ向かうのだった。