33話「修行で御座いますッッッ!!!!!」
「曇り……ですね……」
昨日、一昨日の快晴と比べて、やや重く、やや暗い半端な悪天候。激しく動くにはありがたい日和ですが、反面精神的に落ちるものがありますね。
……ここ2日、修行として霊1気をコントロールしながらの走り込みをしましたが、まるで体力が上がっている気もしませんし、霊気の操作が、上手くなる気もしませんね。……1日や2日で結果の見えるトレーニングなど無いとは分かっているつもりです。ですが、遠いですね……。
毎日、瀕死手前の状態には、なっています。魂的にも、肉体的にもかなりの負荷を感じます。きっと成長への道を踏みしめては、いるはずです。……それでも、私の中にいる怪物が、狒々が、もし今に、暴れ出したら、私は果たして諌める事が出来るのでしょうか。
……さて、と……そろそろ時間ですが、やはり、命様は──。
「──いらっしゃいませんね?」
「……そうだな」
「呼んでみましょうか?」
「俺が呼ぼうか?」
「ははは!大声を出すくらい私も出来ますよ……んんっ!……命様ッッッ!!!!!修行で御座いますッッッ!!!!!」
……ここまでの大声を出したのは久しぶりですが、とてつもなくうるさいぐらいの通りの良い声が出ましたね。我ながら、よく出来ましたね……と褒めたいところです。
「うん。凄いけど流石に慣れたね……」
「うん。みんな元気で凄いね……」
「うん。うるさくて丁度良い目覚ましだね……」
「うん。朝の4時だって分かるようになったね……」
タンッ!
「はいはい。すいません、遅れました〜」
……昨日より更にボロボロですね。秘密にするからには何か理由があると思い、心配の言葉を投げるのは止めました……が。
「……あの、大丈夫ですか?命様?」
「ん?はい!問題ないですよっ!」
いや、無理がありますよ命様っ!?
最早、髪はポニーテールにすらなっていませからね!どちらかと言えば赤兎馬テールですからね!それに、顔と服にもそこそこ暴れた証拠がありますし……何より、目の下にだってパンダの様な隈が……酷い。目……自体も半開きじゃないですか。
いくら何でもこれは……。
「……どうする?」
「……どう致しましょうか?」
「ん?……2人共どうかしましたぁ?」
ペタリ……。ペタリ……。
まるで何事もないかのように私達の腕に巻かれる白札。修行を頑張る気持ちよりも心配な心の方が勝つのですが……声だけはいつも通りなんですよね。
「取り敢えず、修行致しますか……」
「そうだな。帰ってきてから……だな」
こうして、また今日も地獄の1日ランニングが始まります。努めて参りましょうっ!
「はい……それじゃあ、いっきまぁ〜〜〜す!」
◆ ◇ ◆
「さて、休憩はそろそろいいかな……」
午前12時。昨日の休憩時間より2時間遅い休憩を終えて、無機質な廃ビルのコンクリート床に座る2人の前に魅神 命は仁王立ちした。
「……ふぅ、またランニング再開か」
「……若干慣れては……きましたが、やはりまだまだ辛いですね」
ボヤく2人が重い腰を上げた。
体にのしかかる疲労と精神をえぐるストレス。そして魂が悲鳴を上げるような霊気枯渇。なんとかたったその時、出鼻をくじく一言が命の口から出た。
「さて、準備運動は、そろそろ終わりでいいかな」
「「はい?」」
「あぁ……霊気を漏らしながらランニングするのはもうおしまい。ここからは本格的にやるよ!……ってこと」
「まるで、これまでが本格的じゃなかったみたいな口振りだなぁ……」
「まぁ……2日と半日掛けて体と魂を慣らしてただけですからね。でもほら、具体的には分かってないと思いますけど、何となく……本当に何とはなしに分かってるんじゃないです?自分の体の中を作っている骨や筋肉、臓器、自分の体の中を巡る空気や血液、それ以外のナニカが自分の中にあるって感覚。狒々丸さんもじゃないですか?今朝だって白札を着けた時も私の心配をする余裕がありそうでしたし……ね♪」
「……言われてみれば、2日前よりかは気持ち……楽、か?」
「そうですね。依然として霊気は激しく浪費していっています……が、一方で、走り始めてから苦しいと思うまでの時間は延びた気が致します……」
ブイッ!とピースサインを向ける命。
ボロボロだが、明るい笑みで、自信満々な表情をしている。まるでひまわりみたいな笑顔だ。
「ふふんっ!ルートは入念に考えて決めましたからねっ!……って、そんな事はどうでもよくて」
「さぁ、今日から7日、1週間で、2人にはアカシャと戦えるくらいに強くなってもらいますッ!……と言っても最後の2日は戦いに備えて休んでもらうので、実質5日ですけど」
「「……ッ!?」」
「何驚いてるんですか。確かに可能なら一月しっかり鍛え上げたいところですけど……流石に一月もアカシャに相棒を囚われのままにするのは忍びないです。ですから、間を取って1週間です。修行は簡単っ!その白札を付けたまま、素の状態の私を倒す事。さぁ!早速取り掛かりましょう!」
突如として走る緊張。
ニコリと微笑む命。
曇りの性で、重く暗い灰色の室内。
背から鉄パイプを引き抜く。
拳を高く構える。
そして、十手を腰のアタッチメントから外す。
三者三様。取った戦闘の構え。
「舐められたものですね。私は、霊気の扱いが苦手と言えど、魔の手を扱えます。魔の手を解放した貴方ならまだしも、今のボロボロな貴方を倒す事など……造作もない!」
「右に同じく。……俺だって半端にスラム街の自衛団のリーダーやってねぇんだ。ぶっ飛ばしてやるっ!」
駆ける2人。
命は真っ直ぐ応えた。
「……全力でどうぞッ!!!」
◆ ◇ ◆
おぉ……!凄い連携じゃないですか……!
拳を受け止めた左手、鉄パイプを受け止めた右手で握る十手……から伝わる衝撃。本気だ。良い、とても良い、凄く良いっ!
窓を通り抜けて落ちていく体……を力任せに捻り、2人が飛び出してくるであろう上方に向ける。
「ダッリャアァァッ!」
……と声を荒げて飛び降りてくるのは一角さん。真っ直ぐに私を見つめて、鉄パイプを構え、向かいの建物と飛び降りてきた建物を蹴りつけ、ジグザクに接近してくる。
「喰らえッ!命ッ!」
一際深く腰を落として、壁を蹴る。
来る!
「いくら何でも単純過ぎるんじゃないですか!?一角さんっ!」
鉄パイプを構える一角さんを見つめたその時だった。
「これでも……でしょうか?」
不意に右耳から入り込んだ言葉。視界の両端から現れたゴツゴツとした猿の腕。なすすべもなく、私の両目は塞がれた。
「【猿(見×聞×言)】……一角様っ!」
「あぁ……!!!」
「はぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
「ウォォォリャァァァ!!!!!」
ドンッ!
「ぁ゙……は……」
腹に捩じ込まれる2つの一撃。
なるほど……思っていたよりも、うんと連携はできてる。これは、想定にしてなかったなぁ。
「流石だね……強いね、2人共っ!」
「平然と仁王立ちしやがって……よく言うぜ……」
「本気で殴らせて頂いたのですが……流石に強いですね。命様……!」




