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崩壊HAND  作者: ナタデ 小町【・△・】
1章:【───】
33/36

33話「修行で御座いますッッッ!!!!!」

「曇り……ですね……」


 昨日、一昨日の快晴と比べて、やや重く、やや暗い半端な悪天候。激しく動くにはありがたい日和(ひより)ですが、反面精神的に落ちるものがありますね。


 ……ここ2日、修行として霊1気をコントロールしながらの走り込みをしましたが、まるで体力が上がっている気もしませんし、霊気の操作が、上手くなる気もしませんね。……1日や2日で結果の見えるトレーニングなど無いとは分かっているつもりです。ですが、遠いですね……。

 毎日、瀕死手前の状態には、なっています。魂的にも、肉体的にもかなりの負荷を感じます。きっと成長への道を踏みしめては、いるはずです。……それでも、(わたくし)の中にいる怪物が、狒々(ヒヒ)が、もし今に、暴れ出したら、(わたくし)は果たして(いさ)める事が出来るのでしょうか。


 ……さて、と……そろそろ時間ですが、やはり、(ミコト)様は──。


「──いらっしゃいませんね?」


「……そうだな」


「呼んでみましょうか?」


「俺が呼ぼうか?」


「ははは!大声を出すくらい(わたくし)も出来ますよ……んんっ!……(ミコト)様ッッッ!!!!!修行で御座いますッッッ!!!!!」


 ……ここまでの大声を出したのは久しぶりですが、とてつもなくうるさいぐらいの通りの良い声が出ましたね。我ながら、よく出来ましたね……と褒めたいところです。


「うん。凄いけど流石に慣れたね……」

「うん。みんな元気で凄いね……」

「うん。うるさくて丁度良い目覚ましだね……」

「うん。朝の4時だって分かるようになったね……」


 タンッ!


「はいはい。すいません、遅れました〜」


 ……昨日より更にボロボロですね。秘密にするからには何か理由があると思い、心配の言葉を投げるのは止めました……が。


「……あの、大丈夫ですか?(ミコト)様?」


「ん?はい!問題ないですよっ!」


 いや、無理がありますよ(ミコト)様っ!?

 最早、髪はポニーテールにすらなっていませからね!どちらかと言えば赤兎馬(せきとば)テールですからね!それに、顔と服にもそこそこ暴れた証拠がありますし……何より、目の下にだってパンダの様な(くま)が……酷い。目……自体も半開きじゃないですか。

 いくら何でもこれは……。


「……どうする?」

「……どう致しましょうか?」


「ん?……2人共どうかしましたぁ?」


 ペタリ……。ペタリ……。


 まるで何事もないかのように(わたくし)達の腕に巻かれる白札(カルタ)。修行を頑張る気持ちよりも心配な心の方が勝つのですが……声だけはいつも通りなんですよね。


「取り敢えず、修行致しますか……」


「そうだな。帰ってきてから……だな」


 こうして、また今日も地獄の1日ランニングが始まります。努めて参りましょうっ!


「はい……それじゃあ、いっきまぁ〜〜〜す!」


          ◆ ◇ ◆


「さて、休憩はそろそろいいかな……」


 午前12時。昨日の休憩時間より2時間遅い休憩を終えて、無機質な廃ビルのコンクリート床に座る2人の前に魅神 命(ミカミ・ミコト)は仁王立ちした。


「……ふぅ、またランニング再開か」


「……若干慣れては……きましたが、やはりまだまだ辛いですね」


 ボヤく2人が重い腰を上げた。

 体にのしかかる疲労と精神をえぐるストレス。そして魂が悲鳴を上げるような霊気枯渇(こかつ)。なんとかたったその時、出鼻をくじく一言(ひとこと)(ミコト)の口から出た。


「さて、準備運動は、そろそろ終わりでいいかな」


「「はい?」」


「あぁ……霊気を漏らしながらランニングするのはもうおしまい。ここからは本格的にやるよ!……ってこと」


「まるで、これまでが本格的じゃなかったみたいな口振りだなぁ……」


「まぁ……2日と半日掛けて体と魂を慣らしてただけですからね。でもほら、具体的には分かってないと思いますけど、何となく……本当に何とはなしに分かってるんじゃないです?自分の体の中を作っている骨や筋肉、臓器、自分の体の中を巡る空気や血液、それ以外のナニカが自分の中にあるって感覚。狒々丸(ヒヒマル)さんもじゃないですか?今朝だって白札(カルタ)を着けた時も私の心配をする余裕がありそうでしたし……ね♪」


「……言われてみれば、2日前よりかは気持ち……楽、か?」


「そうですね。依然として霊気は激しく浪費していっています……が、一方で、走り始めてから苦しいと思うまでの時間は延びた気が致します……」


 ブイッ!とピースサインを向ける(ミコト)

 ボロボロだが、明るい笑みで、自信満々な表情をしている。まるでひまわりみたいな笑顔だ。


「ふふんっ!ルートは入念に考えて決めましたからねっ!……って、そんな事はどうでもよくて」

「さぁ、今日から7日、1週間で、2人にはアカシャと戦えるくらいに強くなってもらいますッ!……と言っても最後の2日は戦いに備えて休んでもらうので、実質5日ですけど」


「「……ッ!?」」


「何驚いてるんですか。確かに可能なら一月(ひとつき)しっかり鍛え上げたいところですけど……流石に一月(ひとつき)もアカシャに相棒を囚われのままにするのは忍びないです。ですから、(あいだ)を取って1週間です。修行は簡単っ!その白札(カルタ)を付けたまま、素の状態の私を倒す事。さぁ!早速取り掛かりましょう!」


 突如として走る緊張。

 ニコリと微笑む(ミコト)


 曇りの性で、重く暗い灰色の室内。


 背から鉄パイプを引き抜く。

 拳を高く構える。

 そして、十手を腰のアタッチメントから外す。

 三者三様。取った戦闘の構え。


「舐められたものですね。(わたくし)は、霊気の扱いが苦手と言えど、魔の手(ハンド)を扱えます。魔の手(ハンド)を解放した貴方ならまだしも、今のボロボロな貴方を倒す事など……造作もない!」


「右に同じく。……俺だって半端にスラム街の自衛団のリーダーやってねぇんだ。ぶっ飛ばしてやるっ!」


 駆ける2人。

 (ミコト)は真っ直ぐ応えた。


「……全力でどうぞッ!!!」


           ◆ ◇ ◆


 おぉ……!凄い連携じゃないですか……!


 拳を受け止めた左手、鉄パイプを受け止めた右手で握る十手……から伝わる衝撃。本気だ。良い、とても良い、凄く良いっ!


 窓を通り抜けて落ちていく体……を力任せに捻り、2人が飛び出してくるであろう上方に向ける。


「ダッリャアァァッ!」


 ……と声を荒げて飛び降りてくるのは一角(イッカク)さん。真っ直ぐに私を見つめて、鉄パイプを構え、向かいの建物と飛び降りてきた建物を蹴りつけ、ジグザクに接近してくる。


「喰らえッ!(ミコト)ッ!」


 一際深く腰を落として、壁を蹴る。


 来る!


「いくら何でも単純過ぎるんじゃないですか!?一角(イッカク)さんっ!」


 鉄パイプを構える一角(イッカク)さんを見つめたその時だった。


「これでも……でしょうか?」


 不意に右耳から入り込んだ言葉。視界の両端から現れたゴツゴツとした猿の腕。なすすべもなく、私の両目は塞がれた。


「【猿(見×聞×言)(モンキー・ビジネス)】……一角(イッカク)様っ!」


「あぁ……!!!」


「はぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

「ウォォォリャァァァ!!!!!」


 ドンッ!


「ぁ゙……は……」


 腹に捩じ込まれる2つの一撃。

 なるほど……思っていたよりも、うんと連携はできてる。これは、想定にしてなかったなぁ。


「流石だね……強いね、2人共っ!」


「平然と仁王立ちしやがって……よく言うぜ……」


「本気で殴らせて頂いたのですが……流石に強いですね。(ミコト)様……!」

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