32話「修行だァッッッ!!!!!」
昨日は酷かった。キツ過ぎた。
心臓の鼓動が異常なのが自分でも分かった。
……しかも命無茶苦茶な道を通りやがる。狭い路地裏入ったかと思えば軽々しく壁を蹴って今度は屋上に登って、飛び渡り始める。
かと思えば、廃墟の中に入り込んで何回も登っては下って、ガラスなんてとっくに無くなってる窓から飛び降りる。
……ただ、それと同時に強く感じたものもあった。
ほんの少し、今日何もしなければ、忘れちまいそうなくらいに小さな感覚だが、自分の中に流れる何かをせき止める感覚。確かにそれはあった。なんとなく……だが、100を合格ラインにしたら1にも満たない程度だが、この感覚を知れたのは大きいな……。
「……てか、遅くね?」
「おや、確か……同じ部屋で寝泊まりしていましたよね?」
「あぁ……俺が起きた時には部屋にいなかったからてっきり外にいるのかと思ったんだが……」
「いらっしゃいませんね……?」
「……呼んでみるか」
「……どうやってですか?」
「ん?こう……やっ!てっ!だっ!……すぅーーー……!命ォッッッ!!!!!修行だァッッッ!!!!!」
若干、耳が痛い。
三申も目を白黒させてる。
……我ながら凄い声量が出たな。これなら近くには聞こえそうなもんだが。
「凄いよ!リーダー!」
「元気過ぎるよ!リーダー!」
「うるさすぎるよ!リーダー!」
「まだ朝の4時なんだよ!リーダー!」
……2階から飛んでくるクレーム。
あいつらも元気そうだな。
トンッ!
「ごめんなさいっ!ちょっと散歩してましたぁ〜!」
……は?
隈。ボサボサの髪。服も少しボロボロ。
寝て……ない、のか?
「な……えっと……?なんかあったのか?」
「ん?いえ、何も……!」
「いや、その格好で何も無いは流石に……」
「本当に何にもないですよ!大丈夫です!さて、修行を始めていきますか!……それでは頑張っていきましょう2人共っ!」
「「……」」
「2人共、返事はー!?」
「「お……おー!」」
ニカッ!と笑って、昨日と同じように進めていく命。本当に何もなさそうだ……。隈がなくて、髪がボサボサじゃなくて、服がボロボロでなければ……の話だが。
テンテンテンテンテレレレテンテン♪
まぁ、兎に角、今は修行に集中するか。
◆ ◇ ◆
「はい。今日もいい感じに準備運動出来ましたね〜!」
ラジオ体操と昨日から更に10回ずつ増えて、計20回ずつの筋トレメニューを終えた3人。……当然、誰も息は上がっていないし、疲れていない。
……ここまでは。
「さて、今日もこの白札を使って走り込みですね〜!はい、腕を出して下さい!」
「うっ……」
「ふむ……」
「……手、出して下さい」
「「……」」
バシンっ!ビシッ!
バシンっ!ビシッ!
無言な2人の拒絶反応を意に介さず、問答無用で右手を取り、シッペの勢いで貼っていく命。
痛さと急な霊気消耗、昨日の記憶から2人の顔は……もう……なんというか……めちゃくちゃだ。
「さて、今日は、崩壊街の方まで走っていきますか!」
「まじかよ……」
「なるほど……」
2人共、引き攣らせながら命についていくのだった。
あれから6時間。現在時刻午前10時。
3人は崩壊街の廃ビルで休憩していた。既に死にそうな勢いの一角と狒々丸。砂埃まみれの地面に躊躇無く横たわって、腹を上下させていた。
しかし、割れた窓ガラスの前で目を瞑り、気を抜くこと無く佇む者が1人、お察しの通り、命だ。
(……この玄札、少し霊気を流しただけで……全ての霊気を持っていかれそうになる。それだけに分かる。この力を引き出せれば、アカシャだって倒せる。問題は、力を制御出来ない所。……こればかりは数をこなすしかないか。よし!よしっ!よしッ!頑張ろう……!私ッッッ!)
ポニーテールに結ばれた髪を結び直し、命は振り返った。そこに横たわる2人に笑い、口を開く。
「一角さん!狒々丸さん!続き行きましょう!」
修行日和の快晴。
太陽が、やけに熱く燃えていた。