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崩壊HAND  作者: ナタデ 小町【・△・】
1章:【───】
27/36

27話「……どうして?」

「さて……行きましょうか!」


「あぁ、スラム街の案内だっけか?」


「……いえ、罠張り散歩ですね!」


「……」


「……」


「……は?」


「何か手掛かりや被害が出た場所をまとめたものはありませんか?……そこに罠を張りに行きますよ!ほら、速く!」


「ちょ……ちょちょ、ちょっと待てぇ!え、何?てっきり商店街を見るのかと思ったんだが……え?」


「そんなもの起きた当日にこっそり治療所を抜け出して、見廻りましたよ……!」


「え……えぇ……?」


「良いですか、これ以上被害を増やさない為にも出来る事は全て致しましょう!迅速に致しましょう!なぁに……お任せ下さいませっ!先程、知ったでしょう……?元・クズレの国研究チームの一員です。貴方の持つ知識さえあれば、(わたくし)の持つ霊気技術で完全な包囲網を構えてお見せ致しますよ……!」


 ニヤリと笑い、眼鏡を左手中指で位置直しする狒々丸(ヒヒマル)は1言、「張り切って行きましょう!」と鼓舞してみせる。


駄洒落(ダジャレ)かよ……」


 呆れる一角(イッカク)の顔には、浪歩(ロボ)から話を聞いた時の影が無くなっていた。


           ◆ ◇ ◆


「あれは……名前持ち(コード)……?」


「うーん、相当の魂は持ってるけど……そこまで霊気の質は感じないねぇ……。生まれたて……ともなんか雰囲気違うし……。ねぇ、一旦退いて貰って良い?流石にこんなに押し倒されてると照れちゃうかも……♪」


 へっ……?


 ……あっ!


「すいませんっ!」


 慌てて飛び退いた私と守都(モリミヤ)の間を通り抜けて行く黒い人状のアカシャの()が放った触手。


 あっぶな……!?

 あと少し反応が遅れてたら貫かれてた。

 ……嫌な事思い出しちゃったな。


「グゥゥ……」


 触手を自身の元へ引き戻すアカシャの()は、顔は平面で、ドロドロと粘液が(うごめ)いているだけで、辛うじて口の様に見える場所がある程度。


 それなのに妙にべったりと()られているような感覚が肌を撫でて気持ち悪い。好きでもない異性に抱きつかれている気分だ。

 でも、なんだろうそれと同時にとても懐かしくて、温かな何かも感じる……これは?


「何ぼさっとしてるいるんだっ!魅神(ミカミ)君っ!」


 ギィンッ!


 鉄と鉄の当たる音。

 えっ……!?


 確かにさっき見た触手も人を貫けるぐらいの勢いを持っていたけど……そこまでじゃ……!


 部屋を照らす天井の蛍光灯。

 その人工的な光が2箇所から跳ね返ってくる。


 1つは守都(モリミヤ)さんの握っている刃折れの刀。斬る分には余りにも短く、刺すには余りにも平坦になってしまったその刀。

 そして、もう1つが触手の先端。そこに付着している黒い刃が光を反射している。


 そうかッ!今、触手を伸ばした時に、さっき私が折った守都(モリミヤ)さんの刀の先端を拾ったのかッ!


 触手ごと黒い粘液の体に入っていく刃先。

 ごく自然に取り込む黒い人型。


 私はそれを良く知ってる。最近も見た。最悪な形で見た。それが再び嫌悪(けんお)すべき形で目の前に現れた。


 ……最悪だ。

 なんでどいつもこいつもあの人の姿をするんだッ!


 表情の無い黒い塊。人型。

 あの人の髪型の様にうねった頭部。

 溶け続ける頭部と裏腹に、首から下はしっかりとその体を保持している。黒く染まったマネキンの様に。

 

 その体躯(シルエット)は間違いなく──。


「──(スミ)さん……なんで……」


「アカシャが魂を取り込んでるはずだよね……だとしたら、この姿を取れる理由は1つしか無い……」


「……つまりッ!?」


言観(コトミ)君に渡した玄札(アカシャカルタ)があるだろう……?あれは、(スミ)の魂の破片が入っている。……もしそれが核の代わりとして使われていたら……」


「……なんで、言観(コトミ)さんがそんなものをッ!」


「詳しく話してる時間は無い……かもぉッ!」


 ギィンッ!


 飛び掛かってくるアカシャの()

 その右手の掌から伸びた一刀(いっとう)

 刃先から下の刀身を黒い粘液によって修復されたその刃が守都(モリミヤ)さんを狙った。


守都(モリミヤ)さんッ!」


「ワタシは問題無いっ!それよりもっ……!」


 棚に勢い良く打つかって塵埃(ちりぼこり)を巻き上げる守都(モリミヤ)さん……は大丈夫そうだ。


 私に迫る黒刀。だけど遅い。

 これぐらいなら、問題なく!


 ガァン……!


 止めれるっ!


 守都(モリミヤ)さんの言った通りだとしたら核が玄札(アカシャカルタ)になっているって事か。

 ……なら、名前持ち(コード)の対処と同じ。核の代わりになっているモノを引き剥がせば、一旦は落ち着くはずっ!


「フッ……!」


 確かに力は強い……が、押し返せない程じゃないッ!


 そして、体勢が崩れたこの一瞬。

 その隙は見逃さないッ!


魔の手(ハンド)ッ!」


「グゥアゥッ!」


 その時だった。


 瞬く間に、床に黒い粘液が広がった。


 これは……?


 思考する間も無く、黒い人型の胸元が発光する。

 玄札(アカシャカルタ)を使った時と同じ白い光。

 (ふだ)に書かれていた(いん)が浮かび上がって、白く目の前で燃え上がる。


 しまった……!

 体を動かそうとした時には遅かった。


 私の体は足元から飛び出した魚の様な……虫の様な……黒いナニカに貫かれた。


「い゙ッッッ……たく……な、い?」


「グヒィァ……!」


「ハッ……!」


 ドォンッ!


「……がっ……はっ!」


 殴られ、吹き飛んだ私の体は守都(モリミヤ)さんの様に棚に当たって止まらなかった。この部屋の硬いコンクリート性の壁を穿(うが)った。


「痛いじゃんか……」


 乱れた呼吸。目に入る汗。

 一瞬の隙を突いたつもりが……逆に一瞬の隙を突かれていた。……とんだ大恥(おおはじ)だ。


 だけど、分かった。


 魔の手(ハンド)を解放して、攻撃が当たらない程速くはない。戦える。


 右手に握る十手を立ちながらに腰のアタッチメントに戻す。


「すぅ……はぁ……」


 呼吸を落ち着ける。右手に力を込める。

 霊気が、血が、体を廻る。

 1つ強く鼓動が響く。


 やってやるッ!


魔の手(ハンド)ッ……!くぅ……あれ?」


「危ないッ!」


 ギィンッ!

 

魅神(ミカミ)君ッ!なんで魔の手(ハンド)を使うのを止めたんだ!」


「いや……ちが、くて……あれ?なんだっけ……あれ……魔の手(ハンド)ッ!コッ……あれ?」


魅神(ミカミ)君、まさか……」


「あ……あれ……私の魔の手(ハンド)って──」


 グルグルと頭の中で、脳の中で、答えを探して思考が廻る。でも駄目だ。どうやっても出てこない。私は確かに魔の手(ハンド)を使えた筈なのに。ベタリ……と、その事だけが黒く汚れて思い出せない。


 待て。待って。私。落ち着け。

 私の名前は魅神 命(ミカミ・ミコト)。便利屋の社長で、(オニ)で、髪の色は白で、ポニーテールで、それで紅鈴(クレイ)を助けたくて……それで……それで……!


 魔の手(ハンド)の名前は……!力は……! 


「──何だっけ?」

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