20話「HEART HARD HURT」
「おう、終わったか……どうだった?」
「実は先程の戦闘で霊気能力が使えなくなっていたんです。それを話したら、そりゃあ!あんな死にかけでココに連れてこられたんだ!意識が戻ってすぐにそんな無茶出来るかっ!……って怒られました。怖かったです……」
「俺もだ。命を粗末にするなっ!……ってド叱られた。腕は確かなんだけどなぁ……口調だけきついんだよなぁ……あの先生」
真っ白な空間。
鮫のアカシャの仔を倒した鬼頭 一角と魅神 命は、治療所に来ていた。
二郎、三助、一角、四美、五右衛門、命の順で対処され、ようやく一段落がついたのだった。
「四人は……?」
「あぁ……二郎と三助は2週間はココで安静にするように言われたらしい。四美と五右衛門がその世話をしてる。」
「そんで、俺は1日ココに安静にしてれば良いって訳だからよ。明日一緒に例の奴の所に行ってみないか?」
「はいっ!そうしましょうっ!」
「……」
「……」
「暇なんだけど……」
「……えぇ?」
「痛みがあるが別にそんな激しいものじゃねぇんだよ。念の為、霊気で簡単な治療してやるって言われたから受けたんだけどよ……まさかベッドから出るなって言われるとは、思わなかったよなぁ。なんか面白話してくれよ」
「えぇっ……急に!?どんな風に会話のハンドル切ったらそんなキラーパス投げられるんですかっ!」
「えー……じゃあ、あれだ。紅鈴の話してくれよ。見た目は会ったから分かるけどよ、実際どんな奴なんだよ?良い奴だってのは分かるけどな」
「紅鈴はぁ……そうですねぇ……。まず、大事な便利屋の1人ですね。頭が良いのでとても頼りになります。私と一緒で、本の虫で、何も依頼がない時とかはよく大図書館に行って本を読み漁ってますよ」
「読めるのか……」
一角の発言は決して読み書きが出来るのか?……という意図の発言ではない。こんな崩壊した現状では読める本がほとんど無いのだ。
実際、漫画や小説、雑誌といった様々な本が大図書館に眠っている訳だが、本の入った棚の4倍はホコリの溜まった棚の方が多い。
棚に入っていたものだとしても、ページが破れていたり、汚れで読めなくなっていたりするものが半分を占めている。まともに読める本なんてそもそもそんなに残っていないのだ。
それは決してクズレの国の復興街にある大図書館の本に限った事では無い。
スラム街でも、崩壊街でも、そこら辺の空き家を探索すれば未だ無数に本を見つけられる。されど、読めるものがあるはずもなく、使い道と言えば着火剤だ。
「日に日に読める物が増えていってますよ!」
「へぇ〜……良くそんな良い状態の本収集出来るな……国の力か……?」
「あぁ……いや、凄いのは司書さんですよ」
「司書……?」
「はい。大図書館には1人、国の駒として使われている司書さんがいるんですけど、その人も魔の手が使えます。それが、本の記憶を読み取ると言うもので、詳しくはどんな風に読み取ってるのかは知らないですけど……地道に書き直してるんです。ですから、そういう意味で日に日に読める本は増えてますね♪」
「司書が本の修理屋もしてんのか……。そりゃすげぇな!俺も一度行ってみてぇもんだ」
「……行きたくないんですか?復興街」
だら〜んとしていた一角の顔が苦虫を噛み潰したそれに変わる。……物凄く分かりやすい嫌悪である。
命はその嫌悪の矛先が分からない程に鈍感ではなかった。だが、聞こうか迷って目が泳いだ。
それを見た一角は笑った。
「ハハハッ!そんな気を使わなくて良いって!お察しの通り、守都が嫌いだ。なんなら特務隊も嫌いだ。それに従順に従ってる国民もそんなに好きじゃない……見るべきものを、受け止めるべき事を全部無視してるのが気に入らない……って、感じだな」
「まぁ、やってる事がやってる事ですからねぇ……」
「俺だって分かるさ。国には白い部分を保つ為に、それ以上の黒い部分が必要なんてのは良く分かる。でも、理解出来ない。したくない。……俺もそういう意味では目を逸らし続けているのかもな。解決策を見つける訳でもなく、ただ文句垂れてるだけだからよ……」
「充分ですよ。だって少なくとも鬼頭さんは、受け止めた上で目を逸らすことを選択してる。でしょ?……急激な街の復興。眩しく光る事すら可能な電力。あれだけの国民が困ることなく、衣・住・食を満たせる環境。上げればキリが無い幸せだけに目を向けて、知らない事を当然としてしている人よりもよっぽど僕は……かっこいいと思いますよッ!フフン♪」
「……今、僕って言った?」
「そこですか……?」
「ンンッ!」と1つ咳払いをして、場を整えた命は説明を始めた。
「私……あー……僕には憧れの人が2人います。今は多分もう死んでます。その片方の人はとても礼儀を重んじる人で、優しいと言う言葉が誰よりも似合う人でした。……だからですかね?いつしか、その人の真似をして、僕の事を私って言うようにして、丁寧な言葉遣いもする様になりましたよ。……我ながらかわいいですよね♪」
「いや、かっけぇんじゃねぇか……?」
「えへへ〜!そうですか〜〜〜♪」
「人の事は言える様な俺じゃないが、お前も大概分かりやすいな……。なぁ、じゃあどうしてお前は守都の下に付いてるんだ?……特務隊とは、また別の組織なんだろ?っていうかそもそも、便利屋なんでやってんだ?」
「すっごい疑問のマシンガンですね……。そうですね、便利屋をやってる理由も大体さっきのと一緒です。……ですけど、もっと大きな理由もあります。罪滅ぼしですね。私、あまり大きな声で言いたくない事を沢山してしまったので、その分、良い事を成し遂げ無いと死んだ時に後悔してしまうと思うんです。それにそもそも誰かにありがとうって言ってもらえると嬉しいですからね。守都さんに協力している理由も、もっと多くの人を救う為です。……目の前で助けられる筈だったものを、決して逃してしまわない様に……ですね!」
「ふ〜ん……」
現在時刻午後6時。
窓から入ってくる橙色が、病室の2人を包んだ。
今日の夕方はもう少し続いた。