2話「幸せの国」
「命……氏!」
……ん?
氏ぃ……!?
今時そんな古風な表現を……?
何だ……この少女……。
「お嬢さん、2点、間違っていると思いますよ。1点目、氏と言うのは、代々受け継がれている家系に付ける敬称であるから、私の事を氏付けで呼びたいなら、魅神氏と呼ぶのが正しい。そして、もう1点目、今時氏と呼んでも大抵の人はそれが敬称だとも分からないでしょうから、勝手の知らない人物、それも友達でもないような人に使うのは適していないと思います……」
「へぇ……じゃあなんて呼ぶのが良いの?」
「……魅神さんじゃ……ないですかね?」
「堅くない?」
「あー……では、魅神くん」
「子供っぽ過ぎない?」
……これはツッコミ待ちかな?
いや、ちょっと確かに、子供っぽい言い方ではあると思ってしまった所が悔しい。
まぁ……それ言ってる当人の見た目は、完全に少女と呼ぶのに相応しいのだけど……。
身長は140と言ったところだろうか、薄紫の髪はボサボサになっていて、判断材料には……ならないが、その代わり、顔はモチモチとしていて、丸顔で、各パーツは大きめ、見るからに子供っぽい、と言うか見る限り子供だ。
歳で言えば、14、15と言った所じゃないのだろうか?
ただ捨ててはいけない可能性として、童顔の女性という可能性もあるのか。だとしたら、お嬢さん呼びに、敬称矯正で、既にド失礼王手だが……。あぁ……考えないでおこう。
う〜〜〜ん。しかし、なら……最も丸い形に答えるとするならば……。いや、難しいな。……と唸っている私をみかねてか、彼女は言葉を発した。
「……なら魅神氏、こうしよう。好物は?」
「……スルメ」
「趣味は?」
「……読書」
「将来の夢は?」
「……世界復興」
「私は、好物は干し肉、趣味は会話、将来の夢は寿命いっぱい生きる事。これでお互い勝手は知った。ようするに、友達だ。よろしく魅神氏!……で、早速なのだが、大切な友達にお願いがある……!」
「……一番大切な自己紹介を忘れてますよ」
「ん?」
「……名前名前」
「あぁっ!言観 霊架。訳あって一月程、流浪人をしている。よろしく!……よし!友達だな!ごほん!……で、お願いがあるんだ……盟友……!」
もう、嫌な予感しかしないんですけど、まぁ、面倒事を引き受けるのは便利屋の仕事か。……仕方無し。
というか、勝手に関係値クラスアップさせられてない……?
「はい。……なんでしょうか?」
「クズレの国の王様の所まで連れて行ってもらうことは可能だろうか?」
色々言いたいことはあるが、今起きたことの結論を示そう。どうやら私、魅神 命に面白そうな友達が出来た。
後、王様に会いに行く事になった。
◆ ◇ ◆
クズレの国。この摩天楼ばかりの崩壊都市はそう呼ばれています。由来は明白、崩れた国だからクズレの国。
現在、その全域の1割程が国によって再興されています。割合的に見てそれだけ?と思うかもしれないでしょうが、そもそも国土的に広い国ですからこれでも頑張っている方ですよ。
じゃあ、国の基本となる民は……と言うと、その大半は、再興された街の人工農場や人工農園で第一次産業を担っています。
国に申請を出せば誰でも働く事ができる。
給与は国から支払われ、安定している。
目立った命の危機がない。
という三拍子が揃っているからでしょうね。
今の時代、クズレの国では、最も基本的な職業であると言えるかもしれないです。
……では、もう半分くらいの国民は、と言うとですね。
国に認められ、駒として率いられる。
国に申請を出し第一次産業以外の仕事をしている。
国を嫌っている、または国が嫌っている等の理由でスラム街で生活している。
といった者が3対1対1ぐらいの割合でいます。
後はそれ以外のイレギュラーがチラホラと──。
「──因みに私がやってる便利屋は、第一次産業以外の仕事……ってところから最近、国の駒って方にジョブチェンジしましたね。特に変わったところは無いですが、強いて言えば、国から武器等のより強い支援を受けられる代わりに、国から最優先任務を任される様になった事ぐらいですかね。……まぁ、クズレの国についてはこんな所です。さて、着きましたね。ここがクズレの国ですっ!」
崩壊したビル、硝子、瓦礫、コンクリートが横たわる広い車道を数分間。歩き続けたその先に見えるネオンの街。とても崩壊した世界に存在するとは思えない整えられた美しい街。崩れていた事を感じさせないほどに立派なビルが並びたち、その上、ピカピカと光っている。
入口には1つアーチが置かれており、クズレの国と書かれた文字が、ネオンカラーに光っている。
やや趣味が悪い気もするが、これもこの国の復興の証だと思えば、そんなに悪くもない気がする。
ここはクズレの国。その一角、復興街。霊気によってありとあらゆるエネルギーを補っている再興の街。王、守都 四方画によって崩壊した建物をベースに建て直されたこの街は、国によって電気も熱も供給されている。それも、住むもの皆が困る事なく……だ。
外の人から見たら天国に見えるだろう。実際、住んでいる私自身もそう思うのだから。そして何より、この国を初めてみた少女、言観 霊架の反応がソレを物語っていた。
「あ……あぁ……!す……ご………」
最早、声も出ていない。……良い反応をしてくれる。この国を支える1人として、少し、いや、結構嬉しくなってしまう。つい、口が緩むのが自分でも分かった。
「明かり……点いてる!眩しい……!夜なのに……!魅神氏!ここは理想郷だなぁ……!」
理想郷か。確かに、確かにそうかもしれない。
実際、住んでいるものは皆、幸せなのだから、きっと理想郷なのだ。それは間違いない事だ。
……本当に?
「……」
「んぁ……?魅神氏……?どうか……したか……?」
「ん……?あぁ……ちょっと考え事を。んんっ!行きましょうか!王様の所へ」