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崩壊HAND  作者: ナタデ 小町【・△・】
1章:【───】
18/36

18話「鉄パイプの覚悟」

 飛沫(しぶき)が宙を舞った。


 まるで一つ一つが好き勝手なダンスをするかの様に、爆発的に宙を散る。


 ()()飛沫(しぶき)が宙を散る。


「喰わせないッ!」


 ドゴンッ!!!


 弾ける黒の塊。

 (サメ)……だったものはその顔を大きく砕けさせた。直後、ドロリ……とその体を崩していく。


 黒い口腔の中だった場所には、スラム街自衛団の1人、四美(ヨツミ)……そして、もう一人。十手を構える白き青年、魅神 命(ミカミ・ミコト)が立っていた。


「……ぁぁッ!(ミコト)ッ!」


鬼頭(キトウ)さん……!皆さんっ!……あの(サメ)ぇ……!ぶっ倒しますよっ!」


「おうッ!」


 地面に沈んだ黒い影。


 また気配を消した(サメ)


 敵は依然として虎視眈々と狙ってきている。


 変わらぬ恐怖がそこに……其処に……底に……存在している。にも関わらず、勝てる……!一角(イッカク)は確信した。魅神 命(ミカミ・ミコト)……彼がいる限り負けない、死なない、敗れる訳が無いッ!彼の並外れた実力を知っているから……そう思う。しかし、それ以上に彼の声が、朗らかな笑顔が、その自信と興奮が、強く……強く……一角(イッカク)に鉄パイプを握らせた。


「今、分かった事が2つあります」


「何だ……?」


「奴の核は頭部にあります。頭を砕いたその時に、少しですけど白い球体が見えました。そして、奴の体が異常に硬い。……でも、私なら砕けるっ!私がチャンスを作りますっ!奴の核を叩き出しますっ!皆さんは核を壊してくださいッ!」


「なるほどなぁ……おいッ!聞いたかぁ……!四美(ヨツミ)ッ!五右衛門(ゴエモン)ッ!」


「「おうっ!」」


「よしっ!勝つぜぇ……!」


           ◆ ◇ ◆


 あの(サメ)は……本当に地面を海の様に潜っている訳じゃ無い。地面に着いたその瞬間に自身の身体を自壊させて、平たい黒い塊のペーストとして移動している。ただ、このアスファルトの地面じゃ……それを見つけるのは無理だ。


 なら……霊気で探せば良いだけだ……!


 連日連夜……アカシャの()と対峙する様な依頼事が舞い込んてくるんだ。これぐらい簡単に……。


「そこだぁぁぁッ!」


「グゥォォォォッ!!!」


 ドゴンッ!!!


 一瞬の霊気の高まり。

 それを感知する事は問題ない。


 問題は……。


 溶ける黒い体。その中に再び白い球体……核が見える。だが、それすらも溶ける。地面に当たるその瞬間、黒い中に溶け込んでいく。


 奴を倒す為には……硬い体を打ち砕き、核が溶けるその前に砕かないといけない。流石に1人じゃ手が足りない。……厄介だな。ほんっとにっ!!!


 次は……何処だ?


 ……。


 ……ッ!


「あの人、あの人の所に出るッ!」


 急速に霊気が高まって、近づく黒い水溜り。


 慌てて指を刺す。


 五右衛門(ゴエモン)さんが、間一髪、二郎(ジロウ)さんを抱えてその場を離れる。その後ろを噛み砕く(サメ)


「くっそ……狡猾な……!ただの黒い水のクセにッ……!」


 五右衛門(ゴエモン)さんが声を荒げ、一つ舌打ちをした。その後ろで、四美(ヨツミ)さんが三助(サンスケ)さんを抱え上げる。


 ナイス判断……!


 まともに動けるとしたらやっぱり……私と鬼頭(キトウ)さんかだけ……か。


 ……ッ!好機!


 鬼頭(キトウ)さんの足元に感じる強い霊気。……(サメ)が出るッ!私が、私だけが……!チャンスを作れるッ!絶対に逃さないッ!


鬼頭(キトウ)さんッ!来ますッ!……とぉりゃぁっ!」


 鬼頭(キトウ)さんの腕を引く。(サメ)の出る位置から少しズラして、私が前に飛ぶっ!ここで、振り向けば、(サメ)の頭部が直ぐそこに!


 行ける……!破壊するっ……!


 ドゴンッッッ!!!


 勢い良く吹き飛んだ(サメ)の頭部。露出した白い核に急いで鬼頭(キトウ)さんは鉄パイプを振り下ろす。


 だが、当たらない。


 溶けるのが速すぎる。


 アスファルトに跳ね返された鉄パイプを構え直し、鬼頭(キトウ)さんの顔が歪む。


「悪いッ!次は当てるッ!」


「……うん!何度でも砕いて見せるッ!」




 そうしてかれこれ1時間以上。


 緊迫した、死がすぐ横で肩を組んできている現状は全く以て好転していない。


 (サメ)は絶えず奇襲を繰り返している。狡猾な奴が考えている事は分かっている。……私も、他の三人も汗が酷い。心臓の鼓動が早くなっている。気の抜けない現状に、精神が疲労している。


 手に取るように私達が疲れている事は分かる。


 狡猾な奴がそれを逃さない筈がない。


 奴は……体力切れを狙っている。


 幾度となく(サメ)の頭部を破壊して、仲間を抱えた四美(ヨツミ)さんと五右衛門(ゴエモン)さんのカバーをする。

 鬼頭(キトウ)さんの付近に出た時には、タイミングをずらしたり、あえて避けるだけにしてみているが、どれも効果はそこまで無い。更には、何度もやられて理解したのか……鬼頭(キトウ)さんの付近に出る際だけ、異様に低く現れる。隙が無い。


 正直……苦しい。


 皆、なんとか私に答えてくれているが、いつやられてもおかしくない。


 ……クッソォ。せめて、魔の手(ハンド)が使えれば……1人でどうとにもできるのに……!


 どうしたら……?


 焦る心を胸に無理矢理にでも仕舞う。


(ミコト)……作戦が……ある……!」


「……何ですかっ?」


「一度……奴を打ち上げたい……!」


「……つまり?」


「俺が二撃喰らうッ!」


「無茶だッ!」


「このまま消耗し続ける方がもっと無茶だッ!正直に言うが……俺達はそろそろ限界だ」


「死んだら意味が無いッ!貴方がそれを一番分かってるんじゃ無いんですかッ……!?」


「……(ミコト)。分かるぞ?お前、俺達が──」


 時間が止まった感覚に襲われた。


 耳に入って来た言葉を脳が納得する事を拒んだ。


 そんな訳が無い。違う。私はそんな奴じゃない。

 ……そう、思いたかった。


 だって今まで誰かと一緒に戦う事だって多くあった。協力して仕事をした事だって何回もあった。初対面の人と共闘する事もそれなりにあった。


 今まで問題なかった筈なんだ。


 いや……。


 分かっている。

 頭の中で分からないフリをしている事を。


 理解している。

 心が必死に理解を拒んでいる事を。


 気づいている。

 アカシャから少年を守れなかった事を。

 自分の目の前で苦しんでいる人が居て、それを助ける事の出来ない無力さを。苦しみを。


 心の奥にある助けられない事への恐怖が、必要以上に過保護的にさせていた。何が何でも守るという思考にさせていた。


 そう。私は……鬼頭(キトウ)さん達を……。


「──信頼できねぇんだろ?」


「ぁ……ぁぁ……!」


「最初の方は確かに無理だった。でもなぁ……!何度も同じ動きを見て、学ばない俺達じゃねぇ……!良いかッ!お前は俺達よりも随分と強いかも知れねぇっ!だが……!俺達もッ!弱くねぇんだよッ!……だよなァ゙ッ!?……お前らッ!」


「「オウッッッ!!!」」


「ハッ……良い返事だぜ!俺達の事は……心配するなッ!絶対に死なねぇッ!!!……次、俺が狙われた時に仕掛ける……!良いなッ!」


「……ッ!……分かりました。私はどうしたら良いですか?」


「2人と一緒に思いっきり離れろ!コイツから出来るだけ逃げるんだッ!」


「……なッ!?……その作戦って本当に倒す為の作戦なんですよね……!?」


魅神 命(ミカミ・ミコト)ッ!頼むぜ……!」


 いや、今、鬼頭(キトウ)さんを、鬼頭(キトウ)さん達を信じなくてどうする……?(サメ)のアカシャの()を倒すんだろ!?……私ッ!


 信じるんだ。怖くても、仲間の力を。

 弱くないと伝えてくれた……皆を。


 ……良し!


「分かりましたよッ!任されましたッ!……一角(イッカク)ッッッ!」


「あぁ……!行くぜ……!」


 迫る背びれに鉄パイプを構える鬼頭(キトウ)さん。それを合図に私と四美(ヨツミ)さんと五右衛門(ゴエモン)さんは、彼を背に走り出した。


 彼を信じて走り出した。

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