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崩壊HAND  作者: ナタデ 小町【・△・】
1章:【───】
17/36

17話「恐怖、迫るッ!」

 崩れるスラム街。


 人の波を逆流し、駆けた先でソイツは現れた。


 不定形の黒い体は粘液質。

 ここ最近は是が非でも見ることになるその怪物。

 アカシャの()だ。


 不意にビルの側面、コンクリートの地面から姿を現し、人を吹き飛ばしては喰らい、弾き飛ばしては切り裂く……硬く鋭利な体を持つソイツは紛れもない───(サメ)型のアカシャの()であった。


(サメ)……だな?……最近やたらと初めて見るアカシャの()が現れるなぁ……。まぁ、良い。どんな奴が相手だろうと……全力で倒すッ!それだけだァッ!」


 背中に差していた鉄パイプを引き抜く一角(イッカク)(サメ)型のアカシャの()へ鉄パイプを向ける。それは、彼の、宣戦布告であった。


 その光景を一角(イッカク)の後ろから見ていた(ミコト)。白いポニーテールを揺らしながら、迷うこと無くその力を叫ぶ───「【玄骨(ゲンコツ)】ッ!」……と。


 ……。


 ……。


 ……。


「……ぁ……あれっ?」


 おかしい。思わず立ち止まる(ミコト)

 自分の右手を見つめ、左手で撫でる。


魔の手(ハンド)が、使えない……?)


 (ミコト)は自覚している自分の内にはしっかりと、霊気が宿っている事を。(ミコト)は自覚していない、その霊気は()()()()点では問題ないほどの量だったが、彼が()()()()()使()()にはあまりにも不足している事を。


 そして、それに気づいた時には──。


「あっ……?おい、何してるっ!避けろッ!(ミコト)ォッ!!!」


 ──恐怖は直ぐそこに迫っていた。


 ドォッンッ!


「ゥ……アアアァッ………!」


 直撃だ。


 地面を泳ぐかのように猛進してきた(サメ)によって飛ばされる体。幾つかの壁を砕いて、彼はコンクリートの床を転がった。


「グゥゥゥ……ォォォォォッ!」


 咆哮を上げる(サメ)は振り返り、一角(イッカク)達を睨みながらに地面の中へと潜り込んだ。


「……どこだ?」


 見渡す限りどこにもいない(サメ)一角(イッカク)を含めた自衛団5人が全力で、その姿を見つけようとするも……まるで分からない。


 本当に先程まで、(サメ)のアカシャが居たのか?そう思う程の静寂が訪れた。


 そして音の1つも無く、不意に(サメ)は現れた。そこは、自衛団の1人・二郎(ジロウ)の足元だ。海賊船から放たれた砲弾のように勢い良く黒い塊が飛ぶ。当然、その上に居た二郎(ジロウ)は天高く打ち上げられる。


「なあっ!?……や……やべぇ……ぜ!」


 なんとか空中で鉄パイプを構える二郎(ジロウ)だったが、そんなものは関係ないと……まるで嘲笑うかのように口を開けた(サメ)


「うぉ……!」


 驚く二郎(ジロウ)は容赦無く、奴の尾に叩きつけられ、地面へ打つかった。跳ねる二郎(ジロウ)。そんな彼への攻撃はまだ終わらない。空中からその黒い塊は彼を目掛けて落ちていく。


 バシャァァァンッ!


 そして、(サメ)は再び……地面の底へ潜っていった。


 相当の負荷がその一身に掛かったであろう二郎(ジロウ)は、その手から鉄パイプを手放していた。


「くっ……そがッ……!三助(サンスケ)ッ!二郎(ジロウ)を連れて逃げろッ!」


「……だけど!」


「速くッ……!」


「……分かっ──」


 駆け出そうと一歩踏み出した三助(サンスケ)が、二郎(ジロウ)同様空高く飛ばされた。後はまるで二郎(ジロウ)同様に処理される。


「遊んでやがるッ……!コイツ……!コイツゥッ!」


 ガヂリ……!


 一角(イッカク)が強く歯軋りをした次の瞬間。今度は四美(ヨツミ)の直ぐ横のコンクリートの壁から現れる。


 だが、今度は先程までと違う。


 奴は体当りするわけではなく、尾で叩くわけでもなく、口を大きく開いていた。その、刀のように鋭い黒き歯が、一角(イッカク)の目から離れない。彼の脳裏に嫌な光景が浮かび上がる。

 鋭利な歯。血飛沫(ちしぶき)。上半身の無い体。


四美(ヨツミ)ィィィッ!!!」


 駆け出した一角(イッカク)


 だが……遠い。

 あまりにも遠すぎる。


 彼の一歩、また一歩が、地面を叩くよりもずっと、うーんと速く、(サメ)は大きく開いたその口で四美(ヨツミ)の姿を消してしまう。


「クッソガァァァ……!」


 それでも彼は駆ける。


 大事な仲間の死を何もしないで認める事など、絶対に……出来なかった。


 そして飛沫(しぶき)が宙を舞う。


           ◆ ◇ ◆


「……また飯を食わなかったのか。これで2日目だ。死にたいのか?……水にも口をつけていないな?お前に死なれては約束を破る事になる。せめて水は飲め……」


「……なら……自分の尿を飲む事にする」


「不味いぞ。辞めておけ。あの味を知って得れる知見はアレは飲むものではない……それだけだ……」


 牢屋。暗い……という事は全く無く、いくつかの堤燈(ランタン)が明るく照らす。この牢屋にはふかふかのベッド。完全個室のトイレ。温かい状態で食べれるはずのご飯があった。

 牢屋と呼ぶにはあまりにも温かく、部屋と呼ぶにはあまりにも冷たい。この場所はそんな中途半端な牢屋部屋だった。


 牢屋の中に居る少女。言観 霊架(コトミ・レイカ)───深い紫色の髪の彼女は捕まっている割には髪は美しい。少なくともお風呂には入れている……と分かる状態だった。

 彼女は薄ら笑いで、牢屋の前に立つ彼を見ている。


 牢屋の前に立つ男。群道 浪歩(グンドウ・ロボ)───顔は狼を模したフルフェイスのヘルメットをしている彼は監禁している本人とは思えぬ言動で少女と接していた。

 ヘルメットの性で、表情こそ読み取れないが、彼が真っ直ぐ自身を見ている……それが王に裏切られた自身への哀れみによるものか。はたまた、下衆な思惑を抱いたものか。そこは分からないが、確実に目線を合わせている。……それだけは彼女には分かっていた。


「「……」」


 沈黙。


 偽善かどうかは別として、出来る限りの善意を与えようとする者と善意を徹底して拒絶する者。彼等の前には格子があるだけである。されど、そこには、あまりにも分厚く高い壁が存在していた。


「ねぇねぇ!意固地になってないで食〜べ〜な〜よ〜っ!美味しいよ!なんせ!私達の中で一番(いっちばん)料理上手な聖杜空(ミズク)ちゃんお手製の料理だよ〜!てか、えっ?エビフライある〜!食べないなら私が食べてもい〜い?」


「好きにしろ……」


「やった〜!あひがほへ(ありがとね)……ぅん!霊架(レイカ)ちゃん♪すっごく美味し〜〜〜♪」


 兎を模したフルフェイスのヘルメットを少しずらしてエビフライを食べる少女。少し見えた顔立ちだけでも分かる程に可愛い顔。フレンドリーどころでは無く、距離感バグな彼女は浪歩(ロボ)の仲間である。

 青白く光る狼のフルフェイスヘルメットとは違い、彼女のヘルメットはピンク色に目や耳が光っていた。


「何をしている……」


「んふ〜!エビフライ貰ったぁ〜♪アゥ……!」


 軽くチョップを受ける少女。


 その横に立つ男は緑色の蛇柄スカーフで顔の下半分を隠していた。無駄な丸がいくつかついている変な形の眼鏡を掛けた彼もまた浪歩(ロボ)の仲間である。


「いった〜!なにするのさ〜!辰巳(タツミ)っ!」


「人のもん食べてんじゃねぇよ。それに、お前昼に食べたばかりだろうが……」


「美味しいものはいくら食べてもい〜のです!ふふん!」


「……だとよ。お前もなんか言ってくれ……聖杜空(ミズク)……」


「ん、食べたい人が食べれば良い。けど……まぁ……温かかったらもっと美味しい……」


「……嫌味か?」


「別に……」


 水色に光るペストマスクのクチバシ部分を弄りながら、雑に答える彼女。勿論、彼女も浪歩(ロボ)の仲間である。


「今日はとても賑やかだね……。こんなにも集まって……何をしに来たのかな……?」


「お前を出す日が決まった……」


「へぇ……?」


「明後日だ……」


「へぇっ……!?」


「元々お前は、確実に引金薬(ハンドガン)を得る担保としての人質だからな。そして、今日の朝、引金薬(ハンドガン)を受け取った。今日から明日にかけて使うつもりだ。……死ぬ覚悟もしておけ。こいつに遺書を書いておけば、もし死ん事になった時に送ってやっても良い。それを伝えに来た」


 彼は格子の隙間から白紙の紙を落とす。


 「まるで死刑宣告だな……」と呟く霊架(レイカ)

 睨む彼女の目線にまで腰を落とした狼は、一つ質問を繰り出した。


「何故、守都 四方画(モリミヤ・ヨモエ)を支持する?」


「命の恩人だ……!」


「……本当に……か?」


「何が言いたいッ!聞き出したい事があるならば、遠回しに言うのではなく、聞いてみれば良いんじゃないか?」


 狼は仲間と一通り目を合わせ、言葉を続けた。


「少なくとも、ここにいる四人は……守都 四方画(モリミヤ・ヨモエ)の手によって地獄を生きた。元々いた20余りの仲間は全員……奴が殺した。俺は……俺達は……奴を盲信する国民に、特務隊に、お前に、疑問を抱いている。お前だってそうだろう?あっさりと切り捨てられた。違うか……?だから、今、ここに、居るんじゃないのか?……お前にとってはうるさい小言になるかもしれない。だが、言っておく……」

守都 四方画(モリミヤ・ヨモエ)を信じるな……!」


「……」


 何も言葉の出ない彼女を後に、彼等は部屋を出ていくのだった。それぞれが彼女に、「まったね〜!」、「それでは……」、「んっ」と雑な挨拶をしながら。

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