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崩壊HAND  作者: ナタデ 小町【・△・】
1章:【───】
15/36

15話「状況整理はディナーと共に!」

「おう……(ミコト)!時間だぞ!そろそろ起きろっ!」


 んん……!手綱(タヅナ)……もうちょっと……。


「……(ミコト)。起きろ」


 (スミ)ぃ、後……5分……。


「ミ〜〜〜コ〜〜〜卜♪起きなよ……お友達……殺しちゃうよ……?」


 あ……あぁ……アカ……シャ?


 ハッ……!?


「やめ、や゛め゛ろ゛ォォォォォッ!!!」


「うぉっ!?びっくりしたぁ!……起きたかぁ!おはよう、(ミコト)!いやぁ……死んだかと思ったぞ、寝すぎだぜ?」


 知らない場所。

 ボロボロのベッド。ボロボロの無機質なコンクリート性の部屋。ここは……?


 声の主を見れば、そこに居たのは……。


「あっ、オッサン」


「誰がオッサンだぁ!舐めやがってぇ!お前が怪我人じゃなけりゃぁ叩いてるところだぞ!?俺は28だ!まだ、オッサンじゃねぇ!28だからな!まだだよ!まだ……オッサン……じゃ……ねぇ……よな?」


 だんだんと萎縮する彼。

 思いの外、私の一言が深く刺さってしまったみたいだ。……少し、申し訳ないな。


「オッサ……んん!えっと……名前は?」


「俺は鬼頭 一角(キトウ・イッカク)ッ!(ミコト)、ありがとな。4人を殺さないでくれてよ……」


 このオッサン。

 掴みどころのないただのオッサン。


 強いて言えば、若干筋肉質な体躯(たいく)と勇ましさを感じる雄々しい体。ボロボロな服装に身を包んでいるが、何故かとても生きている……と言う感じがする。そんなオッサン。


 このオッサンは……変なハンマー使い、咎 天子(トガ・テンコ)と戦う前に一戦交えた5人組のまとめ役の人だ。


「すいません。まだ状況が上手く掴めていないのですが……ここって……?」


「ここは、スラム街のメインストリートから少し離れた所にある俺の家だ。お前が天子(テンコ)に吹き飛ばされて、その後を追って見に行ったら……血(まみ)れのお前と知らない奴が倒れていたからここまで連れてきた。調子はどうだ?……見た感じ、出血量の割には、致命傷って感じじゃ無かったが……それでも、十分に酷い怪我って部類には入るレベルだったぞ」


「実は……」




「……なるほど?狒々(ヒヒ)ってアカシャの()がいて、天子(テンコ)を倒したらアカシャが出て、子供が死んで、紅鈴(クレイ)が連れて行かれたってことか。取り敢えずは、平気そうで良かったよ。……さて、となると……天子(テンコ)も連れてかれたんだな……少なくとも俺が見た時には、お前と背の高い男しか居なかったぞ」


「背の高い……男……?」


「ん、どうかしたか?」


「いえ、身に覚えのない特徴の人だったので……」


「なら後で見に行ってみるか?アイツは外傷こそ無いと言って良いぐらいだったが、極度の霊気異常だったから治療所に連れて行ったんだ」


「はい!お願いします!」


「あっ、そうそうコレ……持ってきたんだよ」


 そう言って、彼は布に包まれたソレを渡してくる。


 「んっ!」と手を出すように言われ、手で持つと伝わる重さと硬さ。コレ……は……。


「私の十手!ありがとうございます!鬼頭(キトウ)さんっ!」


 銀に輝くユの字。

 よく手に馴染む。

 コレを持っただけで、不思議と心が落ち着く。


 投げて悪かったね……。


「いや、こっちこそだぜ。俺の事を思って天子(テンコ)にキレて、それ……ぶん投げたんだろ?はっ!俺が女だったら惚れるところだったぜ?改めてありがとよ、(ミコト)


 豪快に笑う鬼頭(キトウ)さん。良い人だ。仲間思いで、義理堅いのが伝わる。温かい。


「んで、これからどうすんだよ?」


「これから……と言うと?」


紅鈴(クレイ)助けんだろ?必要なら力貸してやるぜ……!一通り終わったら……捕まってやろうか?」


「もう良いですよ……。アカシャに邪魔されて捕まえる余裕がなかった……という事にしておきます」


「王様に怒られるぞ?」


「その分、情報を手土産にしますよ……」


「なるほどな?……いいぜ、天子(テンコ)の事とか今回の一件の流れとか……な?」


「助かります」


 「それじゃ早速ぅ──」


 ぐぎゅぅぅぅぅ……!


 空気の読めない花が無く。

 ご飯が欲しいと喚く。


 その腹の主は……私だった。


           ◆ ◇ ◆


「俺が奢ってやるよ。たーんと食べなっ!」


「あぁ……実は……その少食で……」


 テーブルの上に並ぶ料理。

 (ミコト)が注文したものは……軟骨の串、クラゲの刺し身、スルメイカ等と噛み心地の良いものばかりだ。それを目にした(ミコト)一角(イッカク)の口の中は唾液でいっぱいだ。それは確かに、空腹というものも影響しているだろう。確かに、美味しそうな見た目をしていたというのも影響しているだろう。だが、それ以上に目前にある料理の放つ兵器的な香りのせいでもあった。


 並ぶ料理は全て赤。

 軟骨の串も、クラゲの刺し身も、スルメイカも真っ赤に燃えている。その赤の正体は唐辛子。鼻から空気と共に入ってくる辛い匂いが、自然と2人に半ば無理矢理な形で涎を出させていたのだ。


 一角(イッカク)は若干引いていた。


 種類こそ豊富だが、味の行き着く先は同じ。さらに腹が鳴った青年が満足いく程の量かと言えば、そうにも見えない。そんな量で大丈夫なのか?そんなヤバそうなのを本当に食べるのか?と言う細かく、大きな疑問を心の隅に置いて、一角(イッカク)は自身の注文した超絶大盛りスラム街オムライスーハンバーグ&目玉焼き&千切りキャベツトッピングを箸で食べ始めた。

 小皿がたくさんの(ミコト)と比べて、一皿が驚くべき大きさである。


 一角(イッカク)は、人の事をとやかく言えねぇなと、今は兎に角目前の料理と(ミコト)との会話を楽しむことにしたのだった。


「スラム街なのに、凄いですねここ……」


「ん?はひは(なにが)?」


「いえ、勝手な偏見でしたけど、こんなにも多くの食材が入ってくるものなんだなぁ……と」


「あぁ!……んん。ここには定期的に運び屋が来てくれるんだよ……」


「運び屋……?」


 水を一杯グイッと飲んで、喉にある物を胃に流し込んだ一角(イッカク)は、箸を更に置いて続ける。


「運び屋!正しくは運び屋・WILD ROAD(ワイルドロード)。クズレの国の中は知っての通り、主に再興した都市、復興街(ふっこうがい)。未だ再興が出来ていない崩壊街(ほうかいがい)。そんでもって、俺達みたいな国と馴染めない奴らの来る……ここ、スラム街があるだろ?運び屋は主に崩壊街(ほうかいがい)で動いてんのよ」

「実際、なにしてるかと言うと……崩壊街(ほうかいがい)の中にある無数の村と村を交流させてんだよ。例えば、物資を運んだりしてな?時には情報や人だって頼まれれば運ぶらしい。まっ、そんな奴らが時たまここにも顔を出してよ。格安で食べもんやらなんやらを売ってくれるってわけだな。スラム街の平和の一端を担ってくれてると言っても良い。少なくとも、俺はそう思うし、スラム街の皆も来る度に良くしてるぜ?なっ!マスター?」


 ( ´∀`)bグッ!

 マスターは無言で親指を立てた。

 ……ものすっっっごい笑顔だ。


「……初めて聞きました。そんな凄い人たちが居たなんて」


「まぁ……復興街(ふっこうがい)の方には滅多に行かないらしいからな。知らなくても無理ねぇんじゃねぇか?」

「さて、それじゃあ……本題に入るとするかな」


 そう言って、一角(イッカク)(ミコト)の前、テーブルの上にドサッ……!と布袋を置いた。


「正直……何から話せば良いか……俺も上手く整理がつけれて無くてな。取り敢えず、こいつを見てくれ……」


「えっと……鬼頭(キトウ)さん、これは?」


「……」


「……?」


 ふぅ……と大きく一角(イッカク)は息を吐いた。肩が動く程に大きく。


 一拍。


 言葉を続ける。


「……遺品だ」


「……遺品?」


「正確に言うと……推定死亡者の手掛かりだ」


 遺品と聞いて、恐る恐る布袋を縛っていた紐を解く(ミコト)。中を見れば……。


「ぁ……」


 目を見開き、小さく声が漏れる。

 中に入っていたモノは、まるで一見、まるで統一感のない小物だ。しかし、その折れたペン、割れた手鏡、砕けたピアスはどれもグロい紅色が付着している。それらが酷い何かが起きた証拠だと言う事は、どんな馬鹿でも分かるだろう。


一月(ひとつき)ぐらい前から、ここ……スラム街じゃ、行方不明者が多発している。老若男女問わずだ……。俺は一応、自衛団のリーダーでな。この行方不明事件を調査をしてくれと頼まれたんだ。んで、3週間調査をして集められた手掛かりがそれだ。スラム街をウロウロと見て、見つかったのは結局……血溜まりと小物……それだけだった。(もや)が晴れる気配がないが、ただひたすらに調査をしていたある日、不意にここの統治者に調査をやめろと言われた。なんでも……王からの命令だとよ。だけどよ、身近な連中が今も苦しんでるかも知れねぇ、何よりそんな意味分かんねぇ命令は聞けねぇ、当然、そんな命令は無視して調査を続けたら、取引を持ち込んできた奴がいた……」


「それが、咎 天子(トガ・テンコ)……ですね?」


「大正解だ。アイツはこう言った……。行方不明事件の真相を知っている。手伝いをするなら教えても良い……とな?そして、俺達が協力すると約束してからこう言いやがったんだ……っ!失敗したらスラム街を潰す。平気な顔してそう言いやがった。ポーカーフェイスなんてもんじゃ無い。人の心を持ち合わせていないタイプの人間……そう思った。だけど……なんでかな。アイツと話せば話すほどに妙に悲しい顔をしている……そう感じるようになった。だから、俺は取り敢えず協力することにしてた。で、後は指示された通りにやったら……(ミコト)。お前と戦う事になったんだよ。これが俺の知る全てだ。……どうだ?長々と話した割には何もわかんねぇだろ?悪いな……これじゃ、お前が王様に怒られちまう」


 絶えず、平然とした顔で、辛さ燃える料理を口に運んで聞いていた彼は、目を瞑って思考を始める。


 それから……2分程経って彼は口を開いた。

 当然、料理を食べるためではない。ハンバーグを豪快に頬張った一角(イッカク)を真っ直ぐ見つめ──。


「いや、十分過ぎる程大切な情報だよ」


 ──彼への感謝を告げるのだった。

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