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崩壊HAND  作者: ナタデ 小町【・△・】
序章:【崩壊世界と僕の夢】
10/33

10話「白熱と爆発」

「ぐっ……と……どぉ……!けぇぇぇぇ……!!」


 ボォンッ!


 ゴリラの拳が発射された音がする。

 後ろは振り向かない。それで問題ない。


 ……それはそうと怖いものは怖いな。

 嫌な想像が頭を駆ける。


 もし、あのロケットパンチがあたったらどうなるのだろうか?僕の背に拳の型が付く?いや、もしかしたら体に拳型の穴が空くかも知れない。死ぬだろうか?それとも何とか生きれるか?どちらにせよ、少なくとも動けなくなるのは確実だ。




 ……じゃあ!そうならない為に踏ん張れ!僕!




 地面を強く!足の裏で蹴るんだ!


 前に!伸ばせ!脚を!手を!


 あの武器に!伸ばせ!届け!


 届けぇ!糸ぉぉぉっ!!!


           ◆ ◇ ◆


 紅い糸が確かに掴む。


 紅鈴(クレイ)魔の手(ハンド)が確かに掴む。


 その武器を。


 (ガベル)を。


 ドバァンッ!


 弾け飛ぶ黒い塊。粘液。

 ゴリラの放ったロケットパンチ。

 それは見事に打ち砕かれた。

 紅い糸に振り回された、(ガベル)によって。


 シュゥゥゥ……と紅い糸が巻かれる。

 (ガベル)紅鈴(クレイ)の手に収まる。


「さぁてっ!これでようやく真正面から戦えるね!……さっ!来なよ」


 バァァァァァァンッッッ!!!!!


 (ガベル)を構え、ゴリラを見据えた紅鈴(クレイ)。その時だった。突如として、爆音が、爆発音が、耳を貫いた。


 「……爆……発?」


 (なび)くクセのある紅髪の、奥に隠れる紅い瞳。そこには、今まさに、黒煙を立てるビルが映っていた。


           ◆ ◇ ◆


「ほら、どうした?君も使うと良い……魔の手(ハンド)をね。それともなんだい?怖いのかい?(オニ)がその身を支配しようとする事が……」


「どこまで……知ってるんですか?」


「少なくとも君の力の事なら良〜く分かるよ。魔の手(ハンド)、【玄骨(ゲンコツ)】。名前(コード)(オニ)の力の一端を引き出す魔の手(ハンド)。主な性質は身体能力の上昇。ただ、魂に眠る(オニ)を呼び起こしてしまう。故に、気を抜くと(オニ)に主導権を渡してしまう欠点も持つ。……そして、何より、君、魅神 命(ミカミ・ミコト)(オニ)を恐れて、魔の手(ハンド)を使おうとしない……」


「随分と熱烈なファンなんですね……そろそろ怖くなってきたんですけど……」


「軽口を言えるのは余裕があるのか、はたまた自分に余裕を持たせるためか……どっちか教えてくれるかな?」


「もちろん前者です……ねっ!」


 事実、(ミコト)は苦戦していた。

 殴りかかる度にひらりと簡単にかわされて、軽く一撃を受ける事の繰り返し。何度やっても、何回やっても攻撃が当たらない。


 間違いなく、間違いなくこのままでは負ける。そんな事はわかっていた。だがしかし、(ミコト)魔の手(ハンド)を使わない。


 ()()、使わない。


紅鈴(クレイ)君に手伝って貰ったほうが良いんじゃないか?ほら、また当たらない。はぁ……いい加減……魔の手(ハンド)を使えッ!!!」


 ドゴッ!


 重い蹴りが(ミコト)の腹部に突き刺さる。

 「がはっ……!」と声を漏らし、それでも歯を食いしばり堪える(ミコト)。そこにもう一撃与えようと天子(テンコ)が脚を引こうとしたその時だった。


 グンッ!グッ!グッッッ!


 抜けないのだ。脚が。

 (ミコト)にその両手で強く握られているせいで抜けないのだ。動けない。何度やっても、より強く引き抜こうとしても、まるで動かない。


「アナタに聞きたい事があるんですが、良いですかね?」


「あまり人の脚を掴みながら言う台詞ではないんじゃないかな?」


「アナタは私を……名前持ち(コード)(オニ)を殺す……と言いました。でも、何故ですかね?アナタは本気で掛かってこない。私が十手を持たないからか、(ガベル)も攻撃として投げる事で、捨てた。まるで私とアナタの戦闘能力を(なら)すかのように……」


「……なにが言いたい?」


(オニ)を殺すと言うのは建前で、本当の目的は別にあるのではないかなぁ……と!思いました」


「……」


「それだけじゃないですよ。アナタは何度も私の不快感を煽った。怒りを誘った。そして、魔の手(ハンド)を使うことを勧めた。まるで使って欲しいみたいでしたよね?」


「本気じゃない(オニ)を殺してもつまらない」


「違う。魔の手(ハンド)を使わせて、霊気を消耗させたい……が本音ですよね?つまり、この戦いは──」


 バァァァァァァンッッッ!!!!!


 (ミコト)の背後、スラム街のその先から聞こえる爆発音。


 (ミコト)は振り返らずとも理解できた。


 このクズレの国を象徴するビル。

 先程まで自分達が居たビル。

 王とその関係者、更には国の重要なモノが集うあのビル。

 その名も、摩天城(キャッスルタワー)が爆破された。


 この耳を(つんざ)く轟音は、その音であると……魅神 命(ミカミ・ミコト)は理解できた。


「──時間稼ぎ……ですね?」


「大正解。ウザいくらいにね……!だけど、気づくのが遅かった。ここまで時間稼ぎができれば、後はお前を守都(モリミヤ)の所へ行かせなければ良いだけだ。さぁ……相手してくれよ、(ミコト)。どの道、魔の手(ハンド)を使わないお前を倒す事なんて難しくないんだからさ……!」


「勘違いしてませんか?」


           ◆ ◇ ◆


 (ミコト)魔の手(ハンド)を使わない理由は決して、自分の中に居る(オニ)を恐れたわけではない。


 時間は遡り、便利屋の二人が守都 四方画(モリミヤ・ヨモエ)に今回の調査を依頼されていた時の話。


「分かった。行ってくる。ほら、紅鈴(クレイ)行くよ?」


「はぁ……分かったよ、社長」


 そうして(ミコト)が扉に手を掛けた瞬間だった。


「あっ……!魅神(ミカミ)君、もう1つだけ!」


「ん……はい?」


「多分、この後ここは襲撃される」


「……ん?はいぃ!?」


「最近怪しい動きが国の中でも、このビルの中でも多い。だから特務隊の皆にそれの調査をさせていたんだよ。他の事務処理をしている者達も最小限にして、人工農園の方に避難して貰ってる。……ここに残ってるのは、お手頃な手駒」


「あー、だから人が少なかったんですね。それで、襲撃というのは……?」


「今の所……正面玄関と屋上に爆弾があるね。逃げ道を非常用階段に絞りたいんだろうね」


「分かってて外さないんですか?」


 不信の目。

 (ミコト)の思う事は痛い程四方画(ヨモエ)には分かっていた。何故、わざわざ危険を引き寄せるのか?


 その答えはとても簡単である。


「……上手くいけば……アカシャに繋がるかも……しれないからね!」


 アカシャ。


 アカシャの()を生み出す怪物。

 (ミコト)(オニ)になった原因。


 神出鬼没で、悪逆無道の奴が狙うモノは1つ。

 人の命である。

 奴は人を喰らう。人の魂を奪う。

 生きる為に。


 人が家畜を食すのと何ら変わりは無い。

 ただ、1つ違うとすれば、奴は生まれながらに欠落している。心が無い。魂がない。命がない。されど、この世に生きている。


 故にアカシャは人を喰らう。

 その未来永劫、足りる事の無い腹を満たす為に、人を喰らう。

 故にアカシャは魂を求める。

 永遠に潤う事の無い、渇きを消す為に、命を(すす)る。


「アカシャが関わっているんですか?アカシャを見つけられるんですか?アカシャを……」


「その為に……だ。君にやってほしいことがあるだ。きっと名前持ち(コード)が出たと言うのは嘘だろうね。それなら今頃、ここら一帯は地獄になっているだろうから。だから、その悪戯は誘導。ここ摩天城(キャッスルタワー)を襲撃しやすくする為の……ね?で、やって欲しい事っていうのが、その場にいる者を全員1人残らず捕まえるんだ。ここが襲撃させた後にね。こっちのことは気にしなくて良い。どうにかするさ。……と言う事なんだけど……出来るよね……便利屋さん?」


「報酬はアカシャの情報で良いですよ?」


「「了解」」


「お〜い!社長?何してんだ?早く行くぞ〜?」

「あぁ!今行くよ、紅鈴(クレイ)!」


 (ミコト)は部屋を出る。「いってらっしゃい」と微笑む四方画(ヨモエ)に、答えること無く、部屋を出る。

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