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08_合宿の準備


夏休みが近づいてくると、毎年恒例のクラス合宿の話が持ち上がった。

2泊3日のプログラムで、クラスメイト同士の絆を深めるのが目的らしい。


今年は班ごとに協力して行うアクティビティがメインになっている。

合宿に乗り気な生徒もいれば、俺のように興味のない者もいる。


新田はこういうイベントが好きで、今年もすぐに準備係に手を挙げた。

教室では、彼を中心に合宿の班決めの話題で盛り上がっていた。



◇◇◇



「班分けはくじ引きだから、公平にねー!」


準備委員の新田が手にした小さな箱を掲げ、みんなの注意を引く。

俺は特に何の感慨もなくその光景を眺めていた。



「おい颯真、お前の番だぞ!」



俺の順番が回ってきた。新田に呼ばれて、仕方なくくじを引きに行く。

紙を開くと「5番」と書かれていた。


周囲を見渡すと、他のクラスメイトたちも自分の番号を確認しながら、

誰と同じ班になったかで一喜一憂している。


「お、俺も5番だぜ!」


新田がにっこり笑いながら自分のくじを見せてきた。

それを見た周囲の数人も、「新田と一緒なら安心だな」と笑いかけてきた。


班のリーダーは新田で決まりだし、俺が何もしなくても進むだろうからその点においてはありがたかった。


くじ引きが終わり、新田が一旦集計を行った後、班のメンバーが発表された。


「えー、班決まりました!5班は、俺、朝霧、天崎さん、あと…」


新田が読み上げると、結奈がにっこりと笑顔を見せた。

「新田くんと同じ班、良かった!」と呟いたのが聞こえた。


俺はその言葉を聞いた瞬間、なぜか胸がちくりと痛んだ。



◇◇◇




班決めが終わると、今度は合宿で使う備品の準備や、当日行うアクティビティの話し合いが始まった。

新田が率先してメンバーに指示を出し、各自が分担された役割に従って動き始める。


「結奈ちゃん、こっちのリストを確認してもらえる?班の備品がちゃんと揃ってるか見ておきたいんだ。」


「うん、分かった!新田くん、ここはもうチェックしてあるよ」


結奈が笑顔で答えると、新田も笑い返した。

二人はまるで息が合っているかのようで、そのやり取りを見ているクラスメイトたちも自然と和んだ空気を作り出していた。


隣の班の生徒が「いいなぁ、あの班、楽しそう」とぼそっと呟くのが聞こえた。



「颯真も手伝ってくれよ!そこの道具、運んでくれ」



新田が俺に声をかけてくる。


指示された通りに道具を運びながら、結奈と新田の姿をちらりと見た。

二人はリストを確認しながら、時折顔を見合わせて笑っていた。



「颯真くんも、ありがとうね」



結奈が俺に向かってそう言ったとき、思わず言葉を返すのをためらってしまった。


何を考えているんだ俺は、と自分を戒めるように道具を運び続けたが、

結奈と新田のやり取りが頭から離れなかった。





準備がひと段落ついたところで、新田が「ちょっと休憩しようぜ」と言い、班のメンバー全員が一息つくことになった。

教室の窓から外を眺めながら、俺は自分の席でぼんやりと座っていた。



「ねえ、新田くん、クラス全体のアクティビティの方はどう?合宿で何か面白いこと考えてるの?」


結奈が新田に話しかけているのが聞こえた。

新田は「おう、もちろん!」と得意げに胸を張って答えている。


二人のやり取りに、他のメンバーも興味津々で耳を傾けているようだった。



「夜のキャンプファイヤーの前に何かゲームでもしようかと思ってさ。結奈ちゃんも何かアイデアある?」


「うーん、そうだなあ…肝試しとかどうかな?楽しそうだし、みんな盛り上がると思う」



結奈が提案すると、新田が「それいいな!」と目を輝かせた。

そして、班のメンバーも「面白そう!」と声を揃えて賛成する。



俺はそんな光景を見ながら、またしても胸の奥がざわついた。


結奈と新田が、まるで昔からの友達のように仲良く話していると、

どうしても二人を目で追いかけてしまう。


以前まではこんなに孤独感を感じなかったのに。







放課後、合宿の話し合いが終わり、俺は一人で帰る準備をしていた。

新田と結奈が「このまま一緒に帰ろうか!」と話しているのが耳に入ったが、聞こえないふりをした。



彼らが楽しそうに並んで歩いている姿を見たくなかった。



「じゃあ、また明日ね、颯真くん!」


結奈が明るく声をかけてきた。

その笑顔はいつもと変わらないのに、俺の心にはどこか引っかかるものがあった。



「じゃ。」

と返して手を振り返しながらも、心が重くなっていくのを感じていた。

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