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05_歓迎会なんて


土曜日の午後。新田の提案で、クラスで天崎さんの歓迎会が開かれることになった。


集合場所のボウリング場に向かいながら、俺は正直、あまり気が乗らなかった。

特に親しくもないクラスメイトたちとワイワイやるのは得意じゃないし、

ましてや新しく転入してきた天崎さんと何を話せばいいのか、全然わからなかったからだ。


「おい、颯真!」


新田が俺の肩を叩いてきた。


「せっかく参加してんだから、楽しもうぜ!」



「別に…俺は」


そう答えると、新田は俺の手に無理やりボウルを渡してきた。


「いいからストライク決めてこい!颯真のターンだ!」


しぶしぶレーンの前に立ち、重たいボウルを構える。



なんでこんなことを、と少し苛立ちながらも、

投げたボウルは意外にも見事にピンをすべて倒した。


周囲から歓声が上がり、

新田が「すげーじゃん!」と手を叩いているのが見えた。


「すごい、朝霧くん!」

天崎さんも拍手しながら笑顔を向けてきた。


「…たまたまだから。」

と言いながら、俺は視線を外した。




次は天崎さんの番だった。


彼女はボウルを両手で持って、少し不安そうにレーンの前に立つ。

そして、力を込めて投げたボウルは、コロコロとレーンを転がり、

あっけなくガーターに吸い込まれていった。


「あはは…ダメだったなぁ…」


と、彼女は少し気まずそうに笑った。

綺麗にガーターに吸い込まれるボーリング球を見て、思わず俺も微笑んでしまった。



「最初はそんなもんだよ」


と新田がすぐにフォローを入れる。


「うん、次は…フォームに気をつけてみる!」

天崎さんが意気込んでそう返す姿が、なんだか微笑ましかった。


二人はお似合いだと思った。





その後、ボウリングを終えた俺たちはカラオケに移動した。

部屋の中はみんなの声で賑やかだったけど、俺は少し端っこで様子を見ていた。


すると、天崎さんがマイクを握り、元気よく歌い始めた。

彼女は完璧な歌手ではなかったけど、楽しそうに歌う姿に、自然と周りのみんなが笑顔になっていった。


「結奈ちゃん、めっちゃ楽しそうだな」


と新田が俺に声をかけてきた。いつの間に下の名前で呼んでいたんだろう。


「颯真、お前も少しは楽しんだ方がいいんじゃないか?」


余計なお世話だ。



「別に、俺は…」


そう答えかけた時、天崎さんが歌い終わって、こっちに向かって歩いてきた。


「朝霧くん、次は一緒に歌おうよ!」


と、マイクを差し出してくる。


「俺はいいよ、歌なんて得意じゃないし」


すぐに断ろうとしたけど、天崎さんは引かなかった。


「そんなこと言わないでさ。みんなで楽しめたら、それだけで楽しいんだから、ね?」


彼女の言葉は明るくて、どこか真っ直ぐだった。


「それ最高!お前がこう言うところ来るの超レアだし!」


と新田が同調してくる。


「…分かったよ。でも、これっきりだからな」


俺は観念して、マイクを受け取った。


「やった!ありがとう、朝霧くん!」


天崎さんは嬉しそうに笑って、俺の隣に座った。






歓迎会が終わる頃、天崎さんがみんなに

「今日はすごく楽しかった!またこういうのやりたいね!」

と声をかけた。


その明るい声に、みんなも賛同して盛り上がっていた。

俺はなんとなくその場の雰囲気が気恥ずかしくて、先に部屋を出ようとした。


「朝霧くん、ちょっと待って!」


振り返ると、天崎さんが小走りで追いかけてきた。


「今日はありがとうね!朝霧くんが来てくれたから、みんなもすごく楽しんでたよ」


「…俺は別に、何もしてないけど。」

視線を少し逸らして、そっけなく答えた。


「そんなことないよ。だって、朝霧くんがいたから、みんなで笑って過ごせたんだもん。」

天崎さんはまっすぐ俺の目を見て、そう言った。


「これからも、もっと一緒に楽しいことしようね!」


俺は少しだけ息を飲んだ。

彼女の瞳はどこか懐かしくて、温かな光を放っているように見えた。


「…まぁ、気が向いたらな」

そう言うのが精一杯だった。


天崎さんは「うん!覚悟しててね!」と笑顔で返してきた。

その笑顔がやけに眩しくて、俺はなんだか目を逸らしてしまった。



歓迎会なんて無意味だと思いながら義務的に参加したつもりだった。

結果的には新田と天崎さんに流されてしまったけれど。


少しだけ、心の奥で何かが変わり始めた気がした。

それが何なのかは、まだ自分でも分からなかった。

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