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04_天崎結奈の転入


その日は教室に入ると、どこか緊張感の漂う雰囲気があった。

いつも通り自分の席に向かおうとしたその時、新田が勢いよく飛びついてきた。


「おい、颯真!ついにこの日が来たぞーっ!!」


「この日って?」

と聞き返すと、新田は眉をひそめて、


「お前…さては忘れたなんて言うなよ!? 今日、新しいクラスメイトが来る日だろ!?」


と、興奮を抑えきれない様子で迫ってきた。


そうだった。通りでクラスがざわついているわけだ。

颯真は大して興味を持てないまま、適当に相槌を打った。


すると突然、教室が静まり返る。

ドアの方を振り返ると、大柄な担任と一緒に、暗めの茶髪で華奢な女の子が教室に入ってきた。



「おはよう。早速だが、みんなに紹介する。

彼女が転入生の天崎結奈(あまさきゆいな)さんだ。仲良くしてあげてくれ。」


と担任が促すと、彼女は少し緊張した様子でキョロキョロと教室を見渡した。



「あ、あの…天崎結奈です。家庭の都合でこちらに転入してきました!

好きな食べ物はラーメンで、趣味は裁縫と映画を見ることです。

えっと、まだ土地勘もなくてこの辺に詳しくないので色々教えて下さい!よろしくお願いします!」


緊張しているのか少し早口で自己紹介を終えた。


「今日の日直は…えー、朝霧と網代か。クラス委員のことや学級日誌の書き方などは今日の日直が天崎に共有しておくように。よろしく頼むな。」


と担任が言うと、隣にいた彼女がこちらを見て小さく笑みを浮かべてお辞儀をした。


一瞬目が合った時に硬直したようにも見えたが、すぐに視線を外し、

その瞬間に感じた心のざわつきを振り払うように、目を伏せた。


心のどこかではクラスメイトと仲良くなりたい気持ちもあるのかも知れない。

しかし、あの光景がフラッシュバックするとそんな思いはすぐに消え去る。


彼女が新しく用意された一番後ろの席に座るのを横目に、自分には関係ない人間だと言い聞かせた。




授業が終わり、クラスメイトたちがそれぞれの帰り支度を始める中、

天崎さんに一通りクラス内の役割について共有をした。


「…あとは多分 前の人が書いた日誌を見れば大体分かると思うから。」


そう ぶっきらぼうに伝えたにも関わらず、


天崎さんは笑顔でお礼を言ってくれた。


天崎さんがありがとうと言い終わるやいなや、俺は鞄を片付けて足早に教室を出た。



廊下に出ると、小さな足音が追いかけてくるのが聞こえた。


「…あの、朝霧くん!」


振り向くと、そこには転入生の天崎さんが立っていた。

何やら緊張しているのか、手をぎゅっと握りしめている。


「何?」


と一言放つと、彼女は驚いて黙ってしまった。

俺は立ち止まることなく歩き出そうとした。


「せ、せっかくだから…その…もう少し話してみたくて!…良かったら、一緒に帰らない?」



「でも俺もう準備終わって帰るところだし。そういえば、新田が君と話たがってたよ。」


颯真は立ち止まらずに、ぶっきらぼうに言い放つ。


天崎さんが少し悲しげな顔をしているのを視界の隅で感じたが、敢えてその表情は見ないようにした。


「分かった…。ありがとう。」


その声にはどこか(かげ)りがあった。

結局、彼女はそれ以上何か言ってくることは無かった。





教室から聞こえるクラスメイトの楽しそうな笑い声が、妙に遠く感じられる。


薄暗くなり始めた放課後の廊下には、絶望する1人の少女の影が静かに伸びていた。

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