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02_記憶移植と第二の人生


「絵莉の記憶をなくすことが出来たら、どれだけ楽になるだろうか―――」


颯真はベッドに横たわりながら、ぼんやりと天井を見つめていた。

日々の生活の中で何気ない瞬間に思い出してしまう、あの日の出来事。


思い出したくないのに、記憶の隅にこびりついて離れない。

笑顔で手を振る彼女の姿、そして次の瞬間、命を落としてしまった彼女の姿。

その記憶が、ずっと俺の中で色褪せることなく残り続けていた。


◇◇◇


2050年の現代社会では、「記憶移植」という技術が一般化しつつあった。

科学の進歩によって、脳内の神経回路から記憶のパターンを読み取り、それをデジタル化する技術が確立されたのだ。

記憶に関する脳波や電気信号を読み取り、部分的にデータ化することで、元の持ち主の記憶を損なうことなく別の人間に「コピー」することができる。


記憶の選択的な移植が可能となったこの技術は、超高齢化社会の中で「第二の人生」をサポートする手段として、大きな期待を集めている。


現代のストレス社会を背景に、うつ病やPTSDなどの精神疾患が増加する中、辛い記憶を削除したり、特定の幸せな思い出だけを移植して心の平穏を保つ「記憶療法」として知られている。


また、特定の記憶障害や学習障害、あるいは感情発達などの疾患を持つ患者には適合する記憶を記憶ドナーの中から移植出来る制度もある。

完全な人格移植ではなく、あくまで治療を目的とした断片的な『記憶の共有』や『感情の伝達』が可能となっており、社会的にも広く受け入れられつつある技術だ。


例えば、感情をうまく認識・表現できない症状を持つ人には、他者の『感情に関する記憶』を移植し、感情の発達をサポートすることで、社会的スキルの向上を図る。

また、学習関連の障害を抱える人には、学習や経験に関する記憶を補完する形で治療が行われている。


治療法として確立された当初は大規模な反対デモもあったが、他人の記憶を勝手にコピーすることの是非、記憶の捏造や改変の危険性、あるいは記憶の売買といった問題が発生しないよう、「記憶移植法」が成立しており、本人(未成年の場合保護者)の合意を前提とした、法律に則った手続きでのみ移植が可能となっている。


世間では、将来的にはビューマノイドに全ての記憶を移して永遠の命を得る計画があるなんて話も囁かれている。



◇◇◇


将来的には、大金を払えば死の間際まで積み上げてきた思い出や経験を別の体に引き継ぐことができる夢のような技術が生まれようとしている―――


「今なら絵莉を救えるかも知れないのに―――」

ふと、涙が頬を伝う。


仮に当時技術があったとしても、絵莉の記憶が残る脳の重要な部分が損傷していた以上、デジタル化することは到底できなかっただろう。

理解はしていても、毎晩飽きることなく彼女のことを考えてしまう自分がいた。


記憶を選択的に引き継げる技術―――

もし絵莉の記憶を消せるなら、この辛さから解放されるのだろうか。


いや、絵莉との想い出を失ってしまうことの方が辛い、か。

そう思い直し、颯真はゆっくりと瞼を閉じ、眠りについた。



しかし(のち)になって、記憶移植に関して”1つの重大な見落とし”があったことに気付くのであった。

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