オネェは好きですか?はい、大好きです。
ちまちま書こうと思います。
「さぁ、セレステ、お前の婚約者だよ、ご挨拶を。」
その日、私は天使に出会った。
そう断言できるほど、その人は美しかった。羽は生えてなかったけど。
透き通るような白い肌。
深い碧の瞳。
金糸の髪。
スッと通った鼻筋に、薄い唇。
背が高く、優雅なしぐさ。
たとえ、彼が眉を寄せていて、不機嫌な態度を隠そうとしていなくても、美しさに翳りはない。
雷に撃たれたような衝撃を受けた。
こんな美しい人を、時間の許す限り眺められるなんて。
私は歓喜した。
その人を、毎日眺められる事実に。
婚約を嫌がるはずもない。むしろ、父よ、よくやった。生涯大切にしまあぁぁす。
「私はアトラス家が長女、セレスティカ・ジル・メルフィールド・アトラスと申します。末永くよろしくお願い致します。」
私は体に染み付いたカーテシーを披露する。彼は不敵に笑った。私の末永くを理解してくれただろうか?
「アタシはメルニルクス家の三男、トーリストス・ライ・メルニルクスよ。『人形姫』とお近づきになれて光栄だわぁ~」
彼は、したり顔で近づき、私の手を取った。
彼の向こうでメルニルクス伯爵様が額に手を当てて天を仰いでいる。
後ろからは、パパんが怒っているのか、冷気を感じる。比喩じゃなくてホントに。我がパパんは氷属性の魔術を使うので。
ははぁん、なる、理解した。
演技かは知らんが、彼の口調はオネェ、世の淑女には受け入れられないだろう。
勿論私は淑女ですが…はぁぁい!ありがとうございまぁぁす!
手袋越しに、彼が唇を寄せる。あ、良い匂いがする。美形パネェな。この手袋家宝にするぅ。
「人形姫…ですか。王都では、私はそのように言われているのですか?」
初めて聞く二つ名には、驚いてしまった。
私ん家は王都の遥か北の辺境で、私は、3歳の春に精霊の儀と、5歳の春に兄の挙式の参列、6歳の春に姉の挙式の参列のため、及び春の等日(所謂春分の日)祭りのため、18歳の成人の儀、及び祝賀会の参加のため、計4回しか王都に行ったことはない。
さらに、そのほとんどの時間を、王都に構える別邸にて引きこもっていたので、巷の噂にも疎かった。
なおかつ、西から北にかけては魔の森と、東隣の帝国にも接しているので、争いも多く、王国の防衛を担っている我が領においては、令嬢の嗜みより先に戦いを覚えるのが普通。私の王都での噂なぞ、辺境での暮らしには最も関係ないのである。
「え…まぁ。人形のように、表情が乏しいとか。あら?そうでもないのね?」
彼は、私の驚く様子に怪訝な顔をしている。細身の印象だったが、近くで見ると、やはり男性らしく大きい体に気づかされた。ヤダ、大好きぃ。
彼は私から視線を外し、父の方へ向き直る。
「まさか、北の辺境伯ともあろう御方が、アタシのような男を…」
「トーリストス・ライ・メルニルクス様、どんな妨害を考えていらっしゃっても構いませんが…私は、貴方と、結婚、しますよ。」
彼の言葉を遮り、私がピシャリと発言すると、部屋の一同、満場一致でビックリ顔してますね。そんなにか。
でも、お察しの通り、私は俗によく言う異世界転生を果たしています。
オネェが表舞台で活躍できるような世間で揉まれていたら、その程度のこと、私にはなんてこと無いです。
「お父様、書類をお出しして。お互いに不備が無ければ、ここでサインを済ませてしまいましょう。帰りに王宮へ提出します。晴れて夫婦です。」
声をかけられて、1番に再起動したパパんは、婚約のための書類作成に同行した役人を呼び寄せる。
「…本当に良いんだな?」
「はい。ここへ。」
私は渡された婚姻届の内容を手早く確認し、筆を走らせる。続いて父が欄を埋め、サインを入れる。
メルニルクス親子が息を飲む気配がする。
「では、お預かりします。」
1度受け取り不備がないか確認すると、役人はメルニルクス親子の前にペンと共に送る。伯爵はさっさと済ませた。
「…ハイハイ。」
顔を合わせたメルニルクス伯爵が睨んで顎をしゃくると、彼は諦めたようだ。筆の音が走る。
役人が再び書類を手に確認する。
頷いて丁寧に自分のサインを書き込むと、畳んで封筒に入れる。
頭を下げながら、両手で封筒を額まで持ってくると、
「確かに承りましてございます。これにて不備なく書類が揃いました。両家に縁ができ、婚姻が相成りましたこと、速やかにご報告致します。」
頭を上げて懐に封筒をしまうと、一礼して部屋から出ていった。
やった。素敵な旦那ゲットだぜ。
読んで下さりありがとうございまぁぁす。