③ 強きを助長し、弱きを沈める悪夢の賃上げ政策
質問者:
賃上げ政策の3.0兆円についてはどうなんでしょうか?
筆者:
これは本当に“惨劇”と言わざるを得ない今回の予算付けの中で最悪の内容です。
首相は、
「30年ぶりのコストカット型経済からの脱却」
今後は、賃上げ、人への投資で経済の好循環を実現する方針を掲げ「熱量あふれる新たな経済ステージへの移行、方向感を明確確実にする」と示したようですが、
今回の経済対策とやらで構造的な賃上げが本当にできると思っているのだとしたら頭の中が凄く“お花畑”に近い状況だと思います。
質問者:
そんなにも酷いんですか……。
筆者:
この日本には今現在、社会保険料が発生する「年収106万円の壁」と
配偶者の扶養が外れ、年金を支払うことになる「年収130万円の壁」というものがあります。
野村総合研究所の2022年の試算で見ていきます。
二人世帯(他に扶養者なし)夫の年収500万円(家族手当含まず)妻はパートタイムのケースです。
妻の年収が100万円のときは世帯の手取り額が「513万円」ですが、
妻の年収が106万円に上がると社会保険料などの支払いが増え、世帯の手取り額は「489万円」に減ってしまうのです。この差額の「24万円」がいわば“働き損”になるわけです。
質問者:
だから月8万円ほどで主婦の方は「働き止め」をしてしまうわけですか……。
筆者:
政府としてはこの「働き止め」の減少をやめさせたいわけですね。
この狙いそのものについては理解できます。
ところがその「働き止め」対策の内容が酷すぎます。
まず、「年収106万円の壁」対策として、労働者の手取り収入が減少しないよう、新たに生じる社会保険料を手当で穴埋めするなどした事業主に対して、「社会保険適用促進手当」を創設し、労働者1人あたり最大50万円の支援を行うというものです。
次に「年収130万円の壁」対策について、一時的な増収であれば連続して2年までは扶養にとどまれるようにする方向で検討しているようです。
質問者:
……なんだか微妙じゃないですか? 手当とか社員じゃなくて企業に払うんですね……。
企業が従業員にお金を渡してくれなかったらどうするんでしょう……。
筆者:
ホントそれが酷いんですよ。補助金をどれぐらい社員に渡すかどうかを“企業の善意に任せる”というシステムは国民の可処分所得を増やすための施策ではないことが明らかです。
最低でも従業員本人に渡すか控除を増やすかしないと企業に半分ぐらいピンハネされますよこれは。
正直なところまどろっこしいことをせずに、単純に「壁」上限額を2倍とかにすればいいだけなんです。
この「壁」が最初にできた1986年時には全国最低時給は451円。
20年前で見ても664円でした。
それを考えたら、「壁」を106万円は200万円や250万円、130万円の壁は300万円などにしても良いと思うんです。
それに伴って「壁」を多少超えても大幅に損をしにくいような社会保険料のシステムにすることが求められると思います。
この「壁」への補助金政策どうしても、「税金をかける対象を増やしつつバラマキたい」姿勢が見え隠れしているんです。
質問者:
今回の案としては恐らくは一度、税金や保険料を引かれる状態にしてそれを時間と共にマヒさせるのが狙いなんでしょうね……。
筆者:
僕もそうだと思っています。本来なら無駄を少しでも減らすために取らないことと、予算をかけずに効果を上げることに全力を尽くすべきだと思うんです。
(そもそもそれ以前の問題として、国債を発行すれば良いわけですが)
また、賃上げについても補助金の拡充とのことですが、現在も存在して物価の高騰に追いついていないことは明白なためにあまり効果があるようには思えません。
また、これまでの補助金は「法人税の減税」という形でした。
しかし、そもそも中小企業の約6割が赤字のためにそもそも法人税を払っていません。
それよりも、消費税か社会保険料の納付の減免の方がよっぽど効果的だと思います。
賃上げをする業種として名前が挙げられたものとして介護がありますが、これだけは評価できます。
ただ、職業の内容がかなり過酷であることからまだまだ給料そのものが足りないでしょう。
僕は農業なども含めて国にとって必須な産業であるにもかかわらず就業者が少ないのでしたら、いっそのこと公務員化してしまって給料も一定以上の水準に保全をしたほうが良いと思うんですけどね。
質問者:
確かに下手に補助金などの中抜きが無くなるだけいい気もしますね。
筆者:
とにかくこれらの賃上げについては、減税(失笑)とガソリン高対策についてもそうなんですが、補助金という形で配ることで、
「中抜きをどうしてもしたいんだ」
という強い意志を感じてしまいますね。
事業主に対する補助金は今困っている人はほとんど活用できるものではなく、
今儲かっている人が更に儲かせるための利権スキームと言わざるを得ないんです。
質問者:
大体、給料が多少上がっても社会保険料とかが高すぎてほとんど差が無かったりしますからね……。
筆者:
そう、結局のところ消費税減税、ガソリン税減税、社会保険料引き下げが最大の国民の負担軽減につながりますし、即効性があるんです。
また、ちょっとこの経済対策とは別の話ですが、同時並行で扶養控除を廃止・縮小が検討されています。
これが本当に恐ろしい流れでして、国民の中からも「主婦は何もしなくても年金2400万円を受け取れる」とネットで言われていることです。
(もっとも、政府から雇われた工作員が扇動している可能性はある)
こうした国民同士で潰し合いをしていると政府の思う壺です。
インボイス制度の時にも話題が上がった「売り上げ1000万円以下の非課税業者」もそうですが、弱い立場の人たちを助けるための基盤を破壊することは更なる格差拡大につながるのです。
質問者:
一部の経済学者などでは、
「扶養控除を世界では廃止している先進国が多いので日本もそれに倣うべきだ」
といった意見もあるのですがそれについてはどうなのですか?
筆者:
日本という国家は、「2000万円問題」という言葉があるように負担が多い割に年金のみで老後を暮らすことができません。
ですから弱者の救済ということは必須なんですね。
「フルタイムで働くことが正義」「男女共同参画こそ正義」という思想の下で女性の方の生き方の選択肢を狭めているのではないでしょうか?
結局のところ今の世の中、産休育休をすると「出世コースから外れる」という現実があることから男性は休めないんです。
かといって女性は男性ほど働く時間を体力上のこともあって増やせません。
僕もガサツではないつもりですし、他の男性より家事に時間を投入していると思うのですが、やはりどんなにやっても炊事洗濯において女性に勝てる気はしません(笑)。
質問者:
やはり、女性ならではの配慮というのがありますよね……。
筆者:
ことの問題が「育児、介護、炊事家事」などをしていることが報酬が外部からもらえないばかりに評価されていないということだと思うんです。
何かしら評価するシステムがあると良いのですが、まさか自宅の中を監視するわけにもいかないでしょうから貢献度を測ることができないのが現実だと思うんです。
質問者:
しかし、日本では共働きの家庭ほど出生率が高いという話もあるのですがこれについてはどうなんですか?
筆者:
働いている家庭が子供が多いという話は、働かないと子供も持てないといったことを意味しているため、想像以上に絶望的な状況を示しているとも取れるんです。
実際に勤労世代(20歳から64歳)の一人暮らしの女性の3人に1人が貧困であることが総務省の統計でもわかっています。
このまま扶養控除を廃止してしまうと稼げない女性は結婚もできなくなってしまいます。
男性も稼ぐ能力が以前よりは低下していることから扶養控除廃止は少子化がさらに進むことは間違いないと思います。
このように海外と日本の状況は全く違うために、「海外で大丈夫だから日本もそれを続け」というのは危険な考えだと思います
ちなみに扶養控除を完全に廃止してしまうと
年収400万円世帯で年間16万8240円、年収600万円の世帯では年間15万8240円も負担が増えてしまうようです。
質問者:
今回の減税(給付金)より遥かに多いじゃないですか……。
筆者:
そうなります。皆が皆、体力気力が充実してバリバリ働けるわけでは無いのです。
強制的に働かないと生活できなくなる状況というのは更なる少子化を促進することでしょう。
質問者:
主婦の方がサボっているとも思えませんからね……。
筆者:
もちろん中には怠惰な生活をしている方もいらっしゃると思います。
ですが、怠惰な人も含めて丸っと救うことが先進国の包容力だと思うんですよ。
先進国じゃないというのなら世界へのバラマキを直ちにやめて下さい(笑)。
毎回思うのですが、一部の極端に得している人間が「その属性の全て」だと捉えて報道したりすることは情報の歪曲のようにも思えますし大変不快です。
どんな政策でも100%平等にできないですし、
是正することで「ズルい人」が減る数よりも、不幸になる人が多く生まれるのなら是正すべきでないと僕は感じます。
質問者:
そもそもサボっているような人が働いたところで大した戦力にならなさそうですよね……。
筆者:
ミスばかりして足を引っ張ったりしたらむしろマイナスですからね。
僕はむしろ扶養控除は拡大――というか戻していくべきだと思うんです。
児童手当とともに廃止された、中学生以下の扶養控除を復活させ、それを少子化対策としてほうがよっぽど合理的です。
もちろん児童手当も残します。
大して効果が無い下らないところに給付をして中抜きをしないで、
「取らないこと」を学んでほしいように思いますね。
質問者
「給料を上げろ」とか旗を振ってないでまずは社会保険料とかを取るなと思いますよね……。
筆者:
ホント、見えていないんだなと思いますね。
“上級国民”は産まれてこのかたお金に困ったことが無いからでしょうね。
「退職金課税」について今回は見送られたようですから、ドンドン声を上げて増税を全くさせない風潮を国民全体で作り上げることが大事だと思っています。
次に“成長戦略”についてみていこうと思います。
ついでに、技術についての投資についても書いてありそうなので、僕のエッセイの「未来の技術」にどれぐらいお金を投じているのかについても見ていこうと思います。
自民党の税制調査会(宮沢洋一会長)は23年11月16日、岸田文雄首相が力を入れる「賃上げ促進税制」について、勉強会を党本部で開きました。同制度の検証を受け、賃上げの動機につながったとは言いがたいとの意見が出たようです。