公園でなんか誘拐事件起きたらしい、な第5話
昼下がりの公園、そこら中を子供たちが駆けまわり、その母親たちが世間話に花を咲かせている。
「ギュパー、もう少し安くなりませんか?」
そんな中、シオは屋台のカウンターで値切り交渉をしている。
背が足りないため椅子を踏み台にし、カウンターに手をついて、あからさまに迷惑そうな顔をしている店主と向かい合ってかれこれ十数分粘り続けている。
結局半値以下まで値切り倒しシオはホットドッグを二つ買い、ケチャップとマスタードをこれでもかというくらいにかけて店を後にする。
そして、ベンチに腰掛けて浮かない顔をしているルシアに一つを手渡す。
受け取ったルシアは顔をしかめ
「……ケチャップとか、多くない?」
「かけれるものはかけれるだけかけとかないと損です」
シオはキッパリ言ってルシアの隣に飛び乗り、口の周りが汚れることも気にせずホットドッグをあっという間に平らげる。
ルシアもホットドッグを齧る。
「うん、おいしい」
やはりケチャップとマスタードは気になるが、正直にルシアは言った。
「ギュパ、元気出たみたいですね」
シオの言葉にルシアはまた表情を暗くし俯いてさっきまでの魔術学校の見学のことを思い出す。
学校では魔術の基礎理論の講義の様子を見せられ、そのあとは延々と学校の校風や何人の魔術師を輩出しただのといった実績を聞かされた。
「ねえ、シオちゃん、マジュツシになるんなら昨日のソードの話しとか今日の学校みたいな勉強しなきゃいけないのかな……」
ルシアの問いにシオは少し考え
「ギュパア……魔術師試験は相当難しい試験らしいですからねえ……」
魔術師連名及び帝・王国連盟が主催する魔術の使用及び魔術媒体所持認可試験、その略称が魔術師試験だ。
魔術の基礎理論はもとより一般教養に法律、果ては精神適正までも問われるこの試験は人類種族の社会では最高の難易度を誇る試験のうちの一つだ。
シオの言葉にルシアはさらに肩を落とした。
「ギュパ、焦ること無いと思いますよ、ソードさんはあそこに入学しろとは言いませんでしたし、あそこより程度のいい学校は幾つでもあります、気長に行きましょう」
シオはのんびりとして言う。
「そうかな……それと、先生が仕官、仕官って連呼してたけど、あたしそういうのに興味ないし……」
「ギュパア、どういう魔術師になるのかも含めてソードさんの下でじっくり考えたらどうですか、ああみえてソードさん意外に気が長いですから、教えるのもそこそこにうまいみたいですし……それくらいしかいいとこないですけど」
シオは憎まれ口を叩いてベンチから飛び降りる。
「どこ行くの、シオちゃん?」
「ウン……ではなくて御手洗いです、ここで待っててください」
シオはルシアに答えて公園のトイレに小走りで入っていく。
「……そーだよね、しばらくはソードに教えてもーらおっ」
ルシアは行って足をプラプラと揺らし鼻歌を口づさみ始める。
「おい、娘っこ」
突然かけられた男の声にルシアが振り向くと、目の前に山ほど菓子を載せた手の平が差し出される
「はえ?」
わけが分からずルシアは声をあげる
「これやるからオラについてくるべや、来ればもっといっぱいあるべ」
男の言葉にルシアは表情を輝かせ
「ホント?、行く行くー♪」
ルシアは声を弾ませ意気揚々と男についていってしまう。
それから少ししてシオがトイレから戻ってくる。
「いやあ、なかなか大きな………………」
シオはそこまで言って周囲を見回す。
しかし、さっきまでベンチに座っていたはずの少女の姿はどこにもなかった。
「ルシア……さん?」
シオは呆然として先ほどまでベンチに腰掛けていた少女の名を呟いた。
………ふむ?