なんでも屋やってる器用貧乏な男と愉快な仲間の朝食シーン
ガキィン、ギンキキンッ、ガキキキキ…………
朝日を映して閃くナイフとせめぎあうフォーク
ボロ宿の一階、酒場兼食堂は修羅場と化していた。
「なかなかやりますな……ソードさん」
シオはフォークを持っている手に力を入れる。
「テメェもな、シオ……だがこのソーセージは譲れねぇな……」
ソードも負けじとフォークを押し戻す
ルシアは寝ぼけ眼でパンを少し齧り、クチャクチャと咀嚼する。
(何で朝からこんなにテンション高いんだろ、この二人……)
ソードとシオの攻めぎ合いとテーブルの上にずらりと並んだ空の皿を見てルシアはそんなことを考える。
キイイイィィィィィィィーーーン…………トスッ
ルシアがパンを飲み込んだのとほぼ同時、シオの手からフォークがはじかれて宙を舞いルシアの頭頂に突き刺さる
「…………キ、キャアァァァ、刺さってる、ささってるぅぅぅぅ!」
一気に眠気が覚めたルシアはボロ宿を走り回る。
「大丈夫か、ルシア!?」
ソードが声を上げる
「もらったぁ!」
その間にシオが素早くソーセージを奪い、口に入れる。
「な、テメェッ」
ソードが叫んで勢いよく立ち上がったとき
ドガアッ
「グハァッ!?」
ソードの足元の床が見事に抜ける。
シオはソーセージを数回咀嚼して飲み込み
「しょーーーーーーーーーりっ」
シオが勝ち鬨の声を上げたとき、飛来したフライパンがシオの頭を痛打しシオは悲鳴も上げられぬまま倒れた。
「朝飯くらい静かに食いやがれ……」
なぜか可愛らしいエプロンをつけたいかつい宿の主人がフライパンを投げたポーズのまま、ぼそりと言った。
その後、ソードたちは宿の食事の片付けと修繕を気まずい空気が流れる中で手伝い、テーブルに戻る。
「さて……今日俺は用事があるんで少し出てくる」
ソードが言うとシオとルシアは掌を差し出し
「なら、オイオラたちは町でパーッと遊んでくるってことで」
「お小遣いちょーだいっ」
ソードは二人の手を叩き
「ンなわけねぇだろ、テメェらは魔術学校の見学に行って来るんだ」
「え~」×2
二人が不満の声を上げる
「あのなぁルシア、お前遊ぶために旅してるわけじゃないって分かってるか?」
「ブー」
ルシアは頬を膨らませる
「ギュパァ、何でオイラまで?」
「シオ、お前ルシア一人で町を歩かせて大丈夫だと思うか?」
ソードの言葉にシオはウッと黙り込み
「……ギュパァ、分かりましたよ、行けばいいんでしょう、行けば」
シオは言って項垂れる
「わかればいい、手続きはこれから俺がしといてやるから、今から二時間後、午前十時くらいには学校に着いとけ」
ソードは言ってテーブルに銀貨を二枚置き
「これは昼飯代と小遣いだ、無駄遣いはするなよ……」
ソードは言って席を立ち宿から出て行く。
「ギュパ、サボっちゃいましょう」
シオが言ったとき、突然にソードがドアから顔を覗かせ
「必ず行けよ……確認するからな」
ソードは二人に睨みを利かせ、今度こそ宿を後にする
「ギュパ、めんどくさいですけど……」
「行くしかないみたいだね・・・」
ルシアとシオは先程のソードの顔を思い起こし、暗い表情で二階の部屋へと戻っていった。