器用貧乏魔術士の魔術教室はっじまるよ〜
どこに需要あるのかわからないけど更新!
「さて、まずルシア、お前は魔法魔法とうるせぇが、この世に魔法が使える奴なんてのは存在しない」
ソードの講釈は意外な言葉から始まった。
「ソード使ってるジャン」
ルシアの言葉にソードは頭を抱えたくなる衝動を何とか抑え込み
「……“魔法”という力は『神がその身を犠牲にしてこの世界を創造したときに一度だけ使われた力』のことを指す、対して俺が使っていたのは“魔術”これは『精神の力で法の一部に介入し、扱う術』に過ぎない」
「…………?」×2
鼻水たらしたバカ面でソードを見つめる一人と一匹にソードはため息をつき
「要は、魔法は神様しか使えないということだ」
「な~んだ、そういうことなら最初からそう言えばいいジャン、ねー、シオちゃん」
「ギュパー、やめてくださいよね、オイラ小難しい話聞くと偏頭痛が起きるんですから」
「頭痛がするのは俺のほうだ……」
ソードは額に手を当てて深いため息をつき
「どうやら基礎中の基礎から教えていかねぇとダメらしいな……」
「えー、ダルイー、それよりマジュツ使わせてよ」
「遊びましょうよ、難しい話は明日すればいいじゃないですか」
シオとルシアがそれぞれに不満を口にする。
「いいから黙って聞いてろっ、分かりやすく教えてやるっつってんだっ、あとシオ、お前は黙ってろ!」
ソードはまくし立て肩で息をする。
「分かったよ……そこまで言うんなら聞いてあげようジャン」
(このガキャァ……)
ルシアの態度にソードは口の端を引きつらせるが気を取り直し
「……様々な魔術が存在しているが、今回は俺の使っている“魔石術”を例にして説明する……魔術を使うには精神の力ともう一つ媒体というものが必要となる」
「ばいたい、なにソレ?」
質問してくるルシアの目の前にソードは右手の甲を差し出す。
そこには四指のそれぞれに嵌められた宝石の指輪が輝きを放っている。
「魔石術で言うと、この宝石が媒体になる、媒体は精神の力を現実の力として変換し発動するための“つなぎ”の役割をするものだ……まぁ、要はこれがないと魔術は使えない」
「ソレって魔石って言うんだ、マジュツ使うときにに光ってるからなんか意味あるとは思ってたけど」
ルシアは魔石をまじまじと見る。
ソードは手を下ろし
「究極にして万能の力といわれている魔法に対し、魔術には様々な制約がある、媒体もその一つだし、魔術には特定のものを除いて効果を持続できる時間に限りがある、さらには固体の精神力の限界や、それ以外にも使う魔術によって様々な決まりがある」
「えー、何でもできないのぉ?」
ルシアが不満の声を上げる
「だから何でもできたら魔法だって言ってるだろ、ンな力は存在しねぇんだよ」
「ぶぅ」
ルシアが頬を膨らませる
「いくらおまえが異を唱えたところで現実は変わらねぇし、何よりも力を持つ者はその持っている力を知り、制御しなければならない、魔術士になるということはそういうことだ、わかるな?」
「むぅ……」
ルシアはまだ納得できていないようだが、首肯する
「少し話がそれたが、ここからは俺の使う魔石術を例に話を進める、先刻も言ったとおり、魔石術における媒体はこの宝石なわけだが、これの正式名称は『顕現精霊晶化体』、精霊と呼ばれる事象化した精神生命体を魔術の秘儀で結晶化させたものだ、結晶構造や見た目が自然界にある宝石と酷似していることから呼び名はそれに倣っている」
ルシアは耳慣れない言葉の羅列に目を白黒させる。
「要はこの魔石というものは精霊を原料としているという事だ、そして、これらはそれぞれ属性というものを司ってる」
「火とか水とかってあれ?」
ルシアの言葉にソードは驚きの表情を見せ
「お前も知ってることがあったんだな……」
「あたしだってソレくらい知ってるもん」
ルシアの怒る顔にソードは笑い
「わりぃわりぃ、まぁ、いまさら説明もいらねぇだろうが、この世界にある物質には地水火風の四大を基本とする属性が宿っている」
「うん」
ルシアが相槌を打つ
「魔石は形を成している宝石の種類によってそれぞれに違う属性を司る、例えば」
「ジージージー、カンカンカン、ビイイーーードスン、プピー」
突然巻き起こった騒音にルシアは耳を塞ぐ
「なに、なに?」
ルシアは混乱しつつも音源に目を向けるとそこには寝ているシオの姿があった。
ソードはシオの首根っこを掴み、手近な窓をあけてシオを放り投げ、窓を閉める
「ったく……黙らせといてもうるせぇやつだ」
ソードは言ってベッドにまた腰掛ける
「……さっきの、なに?」
「さあな、鼾じゃねえのか?」
ルシアの問いにソードはやる気のない視線とともにおざなりな答えを返す。
「……っていうか、ここ二階だよ、シオちゃん怪我してるんじゃ……?」
ルシアは窓を覗き込んで言う
「安心しろ、この程度で怪我するような生物ならとっくの前に俺が抹殺してる、一回底の見えねぇような崖から突き落としたことがあったが、ケロっとして戻ってきたしな」
「なんてことしてんのさ……っていうかこないだはこうもりさんの羽生やしてたし、シオちゃんって何者?」
「ンなこと俺が知るか」
半眼で問いかけてくるルシアにソードは答え
「とんだ邪魔が入っちまったし、何よりやる気がうせたな……今日はもう寝るぞ」
ソードは言ってベッドに寝転ぶ
「あー、ベッドはあたしが使うのっ」
「うるせぇっ、ここの金は俺が払ってんだ、権利は俺にあるっ!」
こうしてその日の夜は更けていった。