帰ってきた器用貧乏男と愉快な仲間たち
お二方くらいからリクエストが来たからとりあえず続けて見ました。
まぁ、ふざけた作品ですがよろしくお願いします。
「え~、もっとマシな所にしようよー」
ルシアが不満の声をあげる。
「お金あるんですから表通りの宿にしましょうよ」
「却下だ」
ソードはルシアとシオの主張を一言で切り捨てる。
日の暮れかけた人通りのない裏通り、そこかしこにゴミや木箱が散乱し、野良猫が通りの中央を我が物顔で歩いている。
ソードたち三人の視線の先には一軒の建物がある、二階建てで作り自体は立派なものだが、かなり古い外装にはまったく手入れされた形跡はなく、入り口の横手にかかった板には何とか判別できる文字で“BER・INN”と、書かれている。
よくある一階は酒場、二回は宿屋という形式の店だ。
「なんか、ルシアさんが落ちてきた納屋よりひどいですよ、これ」
「傾いてるよね、あからさまに……」
シオとルシアが素直な感想を言う
「気にするな、俺は二,三度泊ったが、床が抜けたのは……」
ソードは指を折って数え
「まぁ、九回ほどだし、傾いてるのも多少気になる程度だ」
「泊った数より床抜けた数が多いんですか!?」
「やっぱ傾いてるジャン!」
「まぁ、そういうなって、これも長い人生のうちの苦笑せざるを得ないエピソードってことで」
ソードはじたばたと暴れる二人を脇に抱え、店内へと足を踏み入れる
「おーい、マスター、泊りに」
バキャアッ
そして、ソードにとって記念すべき十回目の床の抜ける音が裏通りに響いた。
「また床ぶっ壊しやがったなソード!」
「うるせぇっ、いい加減ボロすぎんだこの宿はっ!」
宿の中からソードと野太い声の口論がされる中、そこらへんに転がっている木箱の一つが動き、中から一人の男が現れる。
「フッ、この町一番の安宿を張っといて正解だったみてぇだべな、われながらオラの頭の冴えには恐ろしいもんがあるべや」
恐ろしいものを感じる程に訛った言葉を堂々と男は放ち、牛乳瓶の底を思わせる眼鏡の位置を中指で直した。
「明日こそオメェの最後だべやソード、何つったって今度の作品は今までで最高の出来だべからなぁ、ハァーッハッハッハッァー」
男は哄笑を上げるが、男の言葉に耳を傾けるものはなく、宿の中では四つの声が飛び交っている。
にゃぁーーーーーーーーーーーーーー
猫が男を見て妙に長く鳴く
路地を冷ややかな風が行過ぎた。
「……さて、帰って明日の準備でもするべや……にしても体があっちこっち痛てぇべな、箱のなかに三日もいるもんでねぇべ……」
男はぶつくさと呟き、どこか寂しげに裏通りを去っていった。