大災害と能力発動のこと 4
タケルはミニカーとともに能力を伸ばします
タケルは、昔のことを淡々と、ただ淡々と、ちょっとずつ思い出しながら話している。
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…戻ってきてくれたと思ったんだよ。ミニカーが自分の意志でさ。
お気に入りのミニカーだったからさ、壊れたらショックだったろうな。
俺、ペットとか飼ったことないけど、ミニカーは大切な友達くらいに思ってたかも。
一緒に寝てたもん。で、ちょっとだけコロコロって戻ってきたときに戸惑ったけどうれしかった。
「その後もミニカーは動いたの?」
…たまにスピードが出たりちょっと曲がったりはした。
お気に入りで、ずっと持っていたからクセみたいのはわかってたんだよ。
本とかで坂を使って走らせるじゃん?そのときに「止まれ!」って思うと最初は減速してさ。
おおーとか思って父親に「ミニカーを動かせる」みたいなこと話したんだけど、信じてもらえなかったな。
俺も遊びの範囲のことだし、父親にも引っ込み思案な子供だったからさ、それ以上話さなかった。
小学校に入っても一人で遊んでてさ、ある時にミニカーをピタッと止めて、また走らせるとこまで出来た。…それ、お前に見せたんだよ、けどお前もリモコンか手品みたいなもんだと思ってたと思う。
大人も脇から見てたらそうしか思わないだろうな。
「え、僕も?記憶にないな」
「そんなもんだよ。チルドレンみたいな存在がたくさん生まれてもないしさ」
「あと、気になったんだけど。最初の時にミニカーってどれくらい離れてたんだい?」
「うーん、3メートルくらいかな。そんなもんだった」
「そこだよ、最初から3メートル。多くのチルドレンって能力が使える距離が1メートル未満だっていうじゃない」
「そこは俺にはよくわからない。ただ、チルドレンの中には俺よりずっと重いものを動かせるから、得意分野みたいなものじゃないか?」
そうなのだ。チルドレンの念動力のほとんどが小さなネジを2~3秒間、10センチほど浮かせておしまいだ。そして、例外こそあるが念動力を出せる距離が1メートル程度だ。
ちなみに、動かせる重量の方が差が出ているのが現状で能力の階級分けは、グラム級、10グラム級、100グラム級、キログラム級という風に行われている。
タケルの場合は10グラム級といったところだ。100グラムを超えるものは動かせないと話していた。
タケルが規格外なのは、その距離が1mをはるかに超えているところだ。この距離についてはタケルの能力は規格外といえる。
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タケルは続けた。
…で、子供って好き勝手にチャレンジするから。
ミニカーだけ部屋の角から角の距離、4メートルくらい離して遊んでたの。
母親は『またお父さんが知らないうちに高いおもちゃ買い与えた』と思ってたのかな。
静かに遊んでる分には文句も言わないしね。
で、ミニカーで俺はいろんな芸当を覚えていって楽しかったな。
「距離が伸びたのはその後なの?」
「俺って、ビビりというか外に出て遊ぶのも怖かったんだよ。お前たちと遊ぶのも、後ろから付いて行くだけで精一杯だったよ。
でも2年生になれば公園くらいはひとりで遊べるしね。ひとりで遊ぶ子供って、誰も見てくれないもんだからミニカーとか拾ったパチンコ玉とかで遊んでた。
ほかにお前たちと遊んでたから、練習ってほどじゃなかったけどね。」
「そっか。ビー玉とかも使ってた?」
「なんかガラスは動かしにくいんだよ。鉄みたいのが動かしやすいみたいだ。それは今も変わらない。
たくさん実験したわけでもないから、動かしにくいものがある…くらいしかわからないよ」
「もし剣があるとするじゃない?飛ばせたりしないの?練習しなかった?」
僕の中二スピリットに火がつく。
「俺は、チルドレンのランキングで言うと10グラム級だぜ。手裏剣もナイフも飛ばせないよ。
仮にカッターナイフの刃だけ飛ばせ、って言われてもすごいスピードは出そうにないな」
今夜の中二スピリットの寿命は30秒でついえた。
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「じゃあ、次はポケットの話教えてよ」
「ポケットは、うまく言葉にできないんだけどなー」
くじけない僕に、タケルは少しだけ困った顔をしながら思い出し始めてくれた。
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