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大災害と能力発動のこと 3

最初の体験は、

「その時になにか変わったのかい?」

僕もビールを口にしてからタケルに聞いた。

__


 その時にはなにも起きなかったかも知れないんだけど、体験した感覚っていうのかな、いろいろ出来るようになる感覚と近かったのは憶えてるんだよね。


それが津波の時に感じたものに近かったんだなーって、後から思うんだけどさ。


 皆で津波が来ている浜辺の方をみたら、なんか赤いものが落ちてるの。リボンみたいな。

名前は忘れちゃったけど幼稚園の女の子のリボンだなって。


その子の頭を見たら、片方だけ落ちてたんだよ。女の子も先生も無いねー、ないねーって言ってて。

俺は教えるのが恥ずかしかったから言えなかったんだけど、ジシンもう1回!って言ってたやつが「せんせー、あれ〇〇〇ちゃんのリボンだよ!」とか言い出して。


 先生も、津波が来てるから取りに行けなくて「ごめんね、ごめんね」って言ってたよ。

女の子はシクシク泣くんだよね、大人しい子だったから俺も可哀そうに思えてきてさ。


で、津波がリボンをさらって行くのよ。みんな「あー」しか言えないの。

 俺はリボンに「戻ってきて!」って思っていて、ちょっと声に出しちゃったんだよね。

そしたら他の子も「戻ってきて~!」とか言い始めて、波ってリボンを沖の方に連れて行ったと思えば戻してくるんだよ。で、戻ってくるときに俺が思ってたのは「いいぞ、そのまま戻ってこい!」で、沖の方に流されると「あー、でも戻ってきて!」ってなってたのね。


 その時さ、戻ってくるときに皆がリボンに「がんばれー」とか言っていて、俺だけ「がんばっても帰ってこないよね」とか、冷めてたんだけど、戻ってこいとは思ってたんだよね。


そしたら、なんの拍子かススーッてリボンがこっちに来たときがあって、ほんとにススーッて。

その時に俺が「来い、来い!」とは思っていたんだけど遠くに手を伸ばしている気持になっててさ。


…その感覚が今でも残っていて忘れていない。

能力に関係しているかわからないけど強烈な記憶って大切なのかもな。


結局リボンは波に吞まれちゃって女の子はその日泣いてたけど、次の日に青か黄色の…赤じゃないリボンで幼稚園に来たのだけ記憶にあるよ。

不思議なもんで、その子の顔はぼんやりとしか思い出せないや。もしすれ違ってても気付かないんだろうな、お互い…きっと。


「なにか、その子のことで思い出せることとかあるのかな」


「髪の毛の色が少し明るくて、柔らかい感じがしたな。ちょっと天然パーマっての?前髪はクルクルしてた。アニメのキャラクターみたいだった。幼稚園の中にある同じオモチャが好きだったから順番に遊んでた」


それだけ思い出せたら顔でも思い出せそうな気がするんだけど、タケルって同窓生の名前もすぐ忘れるしな。そんなところもタケルらしいか。

__


タケルはグラスのビールを半分くらいまで飲んだところで話を続ける。


…幼稚園の頃の津波のことが能力に関係していると思ったのは随分と後のことだったな。

俺は卒園式で明日から先生に会えなくなるのが悲しくて泣いてたって、いまでもお袋にからかわれるよ。


 それから俺が小学校入学のタイミングで、この町に引っ越してきたんだよね。

親父が商売で独立して、仕事でコネがある町ってことでやってきたんだって。その頃はこの町も景気が良くて、色んな店がオープンしてて賑やかな感じがしてたの憶えてるよ。


 クラスはお前と一緒だったよね、一年の時。俺は友達なんて全くいないし、お前が話しかけるまで教室でも下向いてた。


 引っ越して入学までは近所っても友達いなくて、ミニカーで遊んでたのね。

ある日ミニカー持って歩いてたら、転びかけてミニカーだけ前に飛んで行ったのね、車道に。


あー!って思うじゃん、僕のミニカーひかれる!って、ちょっと言葉がおかしいんだけど。

で、車が来てさ。その時「戻ってこい!」って思ったのよ。そしたらさ、少し動いたんだよね。

ミニカーは車が止まってくれたから無事だった。


運転してたおじさんがミニカーを拾ってくれて、

「飛び出ししないで、偉かったな」

ってほめてくれた。

けど、俺はミニカーが戻ってきたことでドキドキが止まらなくなってた。多分、それが最初だな。


タケルは出されていたナッツを口に放り込んだ。

ご覧いただきありがとうございます。

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