大災害と能力発動のこと 2
地震と津波の話です、不快な方は読み飛ばして大丈夫です。
「あれ、話してなかったっけ?」
以外そうな顔をして、タケルはビールに口を付けた。
「そうなんだよ。今さらって感じもするんだけどね。
もし一度聞いていて、忘れちゃっていたらゴメンなんだけどさ」
「いや、俺もいつから使えるようになったかなんてクッキリは覚えてないしさ」
「だいたいで良いよ。チルドレンだって能力の発現まで1年近くかかった子もいるって聞くしね」
「うん。まさにその通りなんだよ」
…そしてタケルは、空中を見るようにして、なにかを拾い出そうとするようにポツリ、ポツリと話始めてくれた。
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俺が海の近くで地震を体験したのは大災害よりも30年くらい前の6月だったかな。
その頃は海の近くの町に住んでいて、その日は幼稚園の遠足だったんだ。
砂浜の公園だったよ。今でも憶えているんだけど、お弁当のほかに替えのパンツ持たされてて、ビニール袋に入ってた。なんでそういうことばかり憶えてるんだろうね。
ちょっと暑いねーって、先生が言ってた。
子供って、すぐ先生の影響を受けるヤツもいて「あつーい」とか「あついね」とか、口々に言い始めたんだよ。
俺もその話の輪に入りたくてウズウズしててさ、でもドキドキして話せなくて。
…あつーいって言うタイミングを狙ってたら、グラグラって揺れたの。うん、揺れた。
子供だから、なんだろう?くらいにしか思わなかったんだけど、先生が急にまじめな顔をしてさ。
大きなじしんだよー、って言うんだよね。ジシン?って言葉も知らないからポカンとしてるわけ、子供は。女の子は怖がっていた子もいたかもな。まわりの電柱とかユラユラしてたかも知れないし。でもさ、男の子はアトラクションみたいに思ってるのもいて、
「せんせー。ジシン!もう1回やりたい、ジシン!」
なんて言っていたのもいたよ。
俺はというと、女の子よりも怖がっていたのかも知れない。
普段から先生のそばにくっついて、先生のエプロンを握っているタイプだから、見知らぬ事態は「怖いこと」というフラグみたいのが立つんだろう。
泣きはしなかったけど先生にしがみついたから、先生も俺をさっさと抱え上げてくれてて、俺は怖くて顔を先生の肩あたりにしっかりくっつけてさ。それが地震の記憶なんだよね。
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先生たちにしたら大ごとだよな。大きな地震の後には津波が来るかも知れないから、集まれーって大きな声出してさ。
幸い子供たちは先生たちの近くにいたのか、すぐ集まったみたい。俺は先生の肩に顔を突っ伏してたからわからんけど。で、砂浜から近くの小高いところに歩いて行ったわけ。
通園用のバスで来てたはずなんだけど、近くにバスは無かったと思う。
みんながとりあえず公園の小高い所まで着いたら、俺も先生から降ろしてもらったんだよ。
まだちょっと怖かったんだけど、先生が大丈夫、大丈夫って言って隣の子と手をつながせた。
子供たち全員が手をつないでたと思う、ひとりでも逃げたら困るし、きっとそうしたんだろう。
公園って海岸の浜辺と、バス通りに挟まれてたんだよ。
通りの向こうの大人たちが、海の方を見るためなんだろうね、バラバラに出てきて。二階の窓から海の方を見てたお婆ちゃんもいたね、
男の大人は浜辺の方まで歩いて来てさ、子供たちを見かけて4~5人のおじさん達が「こっちに逃げておいでー」って大きな声で言ってた。
大人の会話って記憶に残らないのかな、気が付いたら海の家みたいなお店に入ってた。
浮き輪とか売ってて、先生が「さわっちゃだめだよ」って何回も言ってた。
ほんと、どうでも良いことは憶えてるもんだよね。
海の家みたいな店のつくり、後からもう一度行ったら道路が店の正面とすると、その裏の方につながっていて、また一段高いところに抜けられるんだよ。それで店の人が子供たちを誘導してくれたんだろうね。
しばらくしたら「津波だ、津波だ」って声がして、地震も知らないからツナミなんて知らないわけよ。さっきはしゃいでたヤツは「せんせー、ジシンまだ?」みたいなこと言ってて。
先生はそいつの手を引っ張って、全員が裏手の道に登っていったの。
で、先生が海の方を見て「ひゃー」みたいな声を出したもんだから、俺も海の方を見たんだよね。
初めて見た津波は怖かったよ。
…タケルはそう言って、またビールに口を付けた。
ご覧いただきありがとうございます。
タケルの能力発動のきっかけの部分ですが、震災を思い出して不快な思いをされたら申し訳ありません。