竜と会う 4
オニ…鬼はヒトではなかったのか。
僕はイヌイットやアイヌのようにオニも同じものだと考えていたことがある。
単純に発音が似ていたからだけれど、主に言われてしまっては反論も出来ないな。
それでも疑問は残る。
「オニとヒトとの違いはなんですか」
『…オニは命が大きい…渦を自分で作れる…お前たちも渦を作れるようだな…鬼の渦は大きい…』
渦と言っているのは能力のことか。能力が使えるだけで鬼という訳ではないということなのだろう。
「ヒトではないのでしょうか」
『…命のかたちが違うのだ…ヒトばかりがオニでもない…オニは姿ではない』
主は生き物としての違いとは言っていないのか…人が化けるように他の生き物もオニに化ける…のか?
「もうひとつ伺います。スイコやカッパというものは聞いたことがありますか?水のそばに住むものです」
『…多分…ある…このところ見ておらぬ…あれはあまり話さぬな…お前たちの言葉を話すのは…小さな者どうしではないかの…』
「それはオニとは違うものでしょうか」
『…似ているが…違う…お前たちとオニも似ているが…違うな…』
河童もいるのか。僕たちが会えなくても主が話していることを信じよう。
まずは目の前にいる主のことを聞きたい。
「ここにはいつ頃までいらっしゃいますか?」
『…あとしばらくおる…場所は移すがな…今日は飯がある…明日もここにいよう…』
「明日もここに来てもよろしいでしょうか」
『…構わぬ…騒がしいのは好まぬゆえ…増やすな…』
頭数を増やさなければ大丈夫ってことか。ありがたい。
「わかりました、明日も伺います。ご希望の食べ物などはありますか」
『…いらぬ…肉もこれで足りる…静かに来るがいい…夜が来るぞ…』
…え?そんなに時間が経ったのか?朝に出かけて昼前だろ…と空を見上げた。
タケルが僕たちに聞こえるように話してきた。
「思ったより時間が早く過ぎるんだろう。ポケットに似た効果があるのかもな」
『…お前は時の過ぎ方を心得ているのか…ヒトにしては珍しいの…』
時間が過ぎているのは本当らしい。ここでヒロミちゃんが質問を始めた。
「あの、この白いものは『気』なのでしょうか」
『…名は知らぬ…我のそばに常にあるものだ…これも命だ…』
え、この白いのって生きてるの?
「持って帰ることはできますか?」
『…構わぬ…我から離れると消えるがの…命を扱う渦の中でのみ生きる…』
「はい!やってみます」
ヒロミちゃんは胸ポケットから透明で小さなボトル上のものを取り出して『気』を中に押し込んだ。
『…渦を使ってみよ…』
「はい、こんな感じでしょうか」
ヒロミちゃんの能力でなのか、ボトルの中身が動いているように見える。
『…生きているの…渦は小さくても構わぬ…すぐには消えぬと思うが…忘れぬようにの…』
「ありがとうございます」
こういうやり取りをして、僕たちは明日の再会を約束して主の前を去った。
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今日の情報は多すぎだ。
竜の存在をこの目にした。
『気』の中だと時間が過ぎるのが早い。
オニもいるらしいし、河童も存在する。
昔はアイヌと主は話ができたというし…
そういうあれこれを帰りがてらの車の中でママに伝えながら一度『西の果て』に集まることにした。
ヒロミちゃんは『気』の入ったボトルを眺めながら上機嫌だ。
名前とか付けそうだよな…僕の予想は「キーちゃん」だな。
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