竜と会う 3
アイヌとは…人間のことだ。
クマをクマと呼び、ヒトをヒトと呼ぶ。アイヌとヒトは同じ意味を成しているといっていいだろう。
現代の日本ではアイヌは北海道のものと思う人も多いだろうが、古来日本の北側では民族的にはアイヌが隆盛を誇っていた時代があるし、北海道のアイヌ同様に東北アイヌ、樺太アイヌなどと分類されることもある。北米は海流でつながっているが、そこに住むイヌイットも発音が似ている。更に言うとグリーンランドにもイヌイットは住んでいて、モンゴロイドであるという共通点がある。僕の知識が全てでないのは言うまでもないけれど、この国の北の方にアイヌは存在していたし、今も存在していることは間違いない。
余談だが、感じでは蛮族のことを方角で使い分けることがある。
夷は東方を、蛮は南を、戎は西を、狄は北を表し、日本語ではそれぞれ「えびす」とも読むらしいけれど「蝦夷」を「えみし」と読むことがあるのもこれらの共通点なのかも知れない。江戸時代の地図にも狄村と書かれた土地があるから、主が話しているのは当たり前のことと言えば、当たり前のことなのだ。
それはさておき…
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「今もあなたに会いに来る人はいますか」
『…たまに…かの…ムラの者が来ることはある…』
「ムラの人はあなたをカミと呼ぶのでしょうか」
『…呼んでおる…話が出来なくなって久しいがな…』
「ムラの者の他に、誰か来ることはありますか」
『…だいぶ前にはおったな…似たような恰好で…お前たちが似ているように…』
恰好というのは服装のことらしい。僕たちのわかりやすい共通点は服装だからという想像だけれど。
「その者たちは、話ができたのでしょうか」
『…するものもおったが…しないものもおった…話す内容は大したことではないらしい…』
「あなたのことを私たちはヘビと呼んでいます。
またはリュウやタツと呼ぶ者もいるかも知れません。
そのように呼ばれたことはありますか」
『…リュウ…タツ…ヘビ…好きに呼んでいたな…我は我…ここに住む我だ…』
「リュウやヘビとの違いはわかりますか」
『…変わらない…長く生きて…大きくなっただけのことだ…大きくなると命も大きくなる…』
ん?命が大きくなるというのはどういうことなんだろう。僕も聞いてみることにする。
「命が大きくなるとはどういうことなのでしょう」
『…水があるとするな…雨が降れば水は溜まる…そして渇く…小さな命はそういう終わり方をするものだ。大きな命は水のように流れる…ときに回る…渦とお前たちが言っているものだ…大きい命には渦が生まれるものだ。渦が出来ると命の始まりと終わりの間の時の間でできることが増えるのだ』
「それは…いま話しているようなことでしょうか」
『…それもそのひとつだ…それぞれにできることが異なる…それをお前たちはカミと呼ぶのだろう…』
ああ、なんとなくわかってきた。命は本質的に変わりはないけれど、量が増えるというのは入れ物としての体が大きくなることが前提のようだ。そして、僕らなら成長に連れてできることが増えるのと同じようなことなのかも知れない。できることが異なるというのはどういうことなんだろう。
「できることが異なるというのはどういうことなんでしょうか」
『…お前たちは我と話せるが…話せぬ者も増えた…その代わりにお前たちは多くの者と話すであろう…』
「その通りです。言葉を使って多くの者と話して、残してきました」
『…それもできることのひとつだ…そして我と話すことができない…それを選んだのだろうな…』
「なぜそうなったのでしょうか」
『…アイヌ…ヒトは弱い…生まれてすぐ動けぬ生き物は弱い…そのために集まって生きるのがお前たちだ』
「そのとおりです。私たちは弱いですが、他の生き物を支配できたのはなぜですか」
『…お前たちが…我と話すことをやめてお前たちだけで話すと決めたからだろうな…
命の大きなものには渦が生まれ…出来ることをふやす…お前たちは小さきものが集まり…ムラをつくり…ムラの命を大きくした…そして大きなムラによって渦を作ったのだ…』
僕の理解は間違っているのかも知れないが、人間が個々の能力の限界を知ってか知らずか、人間が社会を作ることで能力を発展させたと言っているように思った。命の仮想集合体で能力を作ったという言い方になるのだろうか。
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「私たちが話せているのは何故なのでしょう」
『…知らぬ…知らぬが…幼いうちに話せるものは大きくなっても話せるようだな…』
これは…!能力の発現と関係がありそうだ。僕は能力って無いのだけれど、見えない何かがあったのか?
いや…話せる事実だけを肯定しておくべきだ。僕が今できないことがこれからできるようになるとは思わない。欲を出しても仕方ないと主が言っている、そのままのことだ。
「あなたの他に、私たちが話せるものはいますか」
『…いる…だいぶ前に会った…生きていれば話せる…』
「それはどこにいるのでしょうか」
『…その者たちは…ここに立ち寄ってから去ったので知らぬ…』
「私たちはその者たちをなんと呼んでいましたか」
『…なんと呼んでいたか…オニ…かの…』
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