竜と会う 1
翌日、僕たちは少し遅めの集合となった。
雨具としての合羽状のものを買っておこうとヒロミちゃんとタケルが話したのだが、どうもズボンも薄手で防水できそうなものがあると良さそうだと話していて、農作業か釣り用のものを買うことになったからだ。冬用ならあるけれど、それだと暑くなってしまうことを想定しているようだ。
雨具はそれほど高いものではないが、それ以外にもゴム手袋とか買っておこうとタケルも話していたな。どうやら『気』が僕たちの体にまとわりつくことを想定して、その対策らしい。そのほかに作業用のゴーグルや軍手も買った。特段高価なものは一つもない。
そして、今日はママも運転をして車で待機してくれることになった。主に会わないのか?と聞いたら「長いのは苦手なのよ」と苦笑していたママ。山の近くの出身で小さいころに怖い思いをしたことがあるらしい。
__
昨日設置したカメラの前に着いた。カメラやケーブルも設置した時のままで、ヒロミちゃんが高速再生で確認したところ、これといって変わったことはなかったと話していた。野生動物とか映っていなかったのかな。
『気』の位置もそのままみたいで、僕たちはここで合羽を着たり装備をして、と鶏肉を取り出しやすいように袋に入れて、そしてタケルは鶏肉が乗るようなトレーを背に『気』の中に入っていく。
『気』は沢沿いに百メートル程続いてるが、横幅は数メートルのところもあった。視界が悪いことと、軽い逆風でも吹いているのかな程度の抵抗はあるけれど歩いている分には不便もなかった。念のためゴーグルとマスクはした。今思えば必要なかったかも知れないが用心出来ていることに自信を持とうとヒロミちゃんが言っていた…その通りだよな。
__
時間は少し遡る。現地へ移動する車の中でのことだ。
「ママが長めの生き物が苦手なのはわかったけど、僕よりも現地では約に立ちそうなんだけど…?」
僕がママに質問した。当然の疑問だと思う。僕だけが能力というものを持ち合わせたいないからだ。
「そうでもないのよ。タケル君やヒロミちゃんは確かに能力はあるわよね。それぞれ特徴もちがうものを持っているわ。ガット君は目に見える能力は無いけれど、私たちに親近感というか…少なくとも排除しようなんて思っていないでしょ?それはガット君の中になにかがある可能性もあるのかなって私は思っているの」
???僕の中に能力のような何か?
「初めて聞きました。タケルもそう思うのかな?」
「なに言ってるんだか。最初からそう思っているよ。ガキの頃から早く能力発現したらなあと思っていたけど、結果的に大人になっても発現しなかっただけだよ。それが良いことか悪いことか判らなかったから口に出さなかっただけ。第一、お前が色々発見したことって昨日の石だけじゃなかっただろ?」
うーん、思い出せないけど…そうだったんだろうな。
「ママやタケル君が話しているのもそうなんだけど、私とママの能力て同質なのよ。初めて見知らぬ存在と接触してコミュニケーションをとるとしたら、チャンネルの数は多い方がいいと思うというのが、あたしの考えなんだけど…ガット君が来てくれると嬉しいわ」
そうヒロミちゃんに言われて断る僕は地球上に1人もいない。行きますとも。
__
『気』の中に入ってから数十メートル、後ろを振り向いても視界は無い。空はうっすら見えるというか、明るさはしっかり通っているようだ。僕たちの位置はGPSで確認がとれているらしいが、このほかに単純な発信音を『気』の外側に設置したカメラとヒロミちゃんが送りあっているとのことだ。もし主と会ったらヒロミちゃんからの発信音を切り替える。
ただ、今回はカメラなどを持って行くのはやめておこうとタケルから言われた。会ったばかりの人間にいきなりカメラを向けられたら気分悪いだろ?と話していたが、たしかに神様にカメラ向けたり集合写真撮るって感じもしっくりこないのは確かだ。
タケルが小声で『5メートルくらい先がちょっと濃くなっている感じがする』と話してきた。
ヒロミちゃんも『ちょっとだけいそうな感じがしてきたところなのよね』と話している。僕には全然わからない、人選を誤ったかも知れないぜ、ヒロミちゃん。
そんなことを思っていたら、声がした。どこから声がしたんだろう。
上の方からしたような気もするし…
「何か声が聞こえた?」
僕が二人に聞いたら、二人は立ち止まって
「聞こえたけど、声だったのか?」
「私もかすかに音が聞こえた程度よ」
と僕を見る。確かに声だった。そしてもう一度声が聞こえた。
『…来たか…』
ほら、聞こえてるじゃん!
「聞こえてるよね?『来たか』って」
二人は顔を見合わせて、それから僕を見た。首を横に振っている。
「ガット君、あなたを連れてきて良かったわ」
ヒロミちゃんが真っすぐな目で話してくる。僕、ちょっとドキドキ。
ご覧いただきありがとうございます。




