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竜ほど蛇足な生き物はない 10

タケルはヘビを元のところに返した。もしも蛇が人間に大切にされているなら、そのルールを尊重するということらしい。


「さて、あと50mほど先で沢が折れ曲がって、そこから先は狭くなるんだけど…」


ヒロミちゃんは話しながら進んでいく。僕たちもついて行く。


「あ、あそこ見てくれる?タケル君」


折れ曲がった先に、白く霧のようなものがかかっている。あれは…と思っていると


「あー、いそうだね。ちょっと待ってね」


と、枯れ枝を拾って霧のような法に向かって歩いていく。霧の近くで枝を軽く振って、そのまま戻ってきた。

枝には少しだけ白色のなにかが付いていた。ヒロミちゃんも白いなにかをちょっと触っていたが


「十分な収穫だわ。今日はここまでで帰りましょう」


と言ってリュックから何かを取り出し始めた。

…へ?ここまでなの?すぐそこにいるんじゃないのかな?竜がいるとかじゃないの?


「念のためカメラを設置していくわね。バッテリーと本体は埋めて行って、カメラが抜かれれもわかりにくくしてあるのよ。ケーブルが簡単に抜けるようになっているから、記録が残りやすい構造なのよ」


カメラのことはよくわからないけど、今日でおしまいじゃないってことだけはわかった。


「明日もここに来るのかな?」


僕の質問はちょっと間抜けな感じがしたけれど、ヒロミちゃんもタケルもニコニコしている。


「もちろんよ、その準備をこれからするのよ。

 あとは車に戻ってから話すけど、明日もよろしくね!」


ヒロミちゃん、元気だなー。

__


 車に戻るまではタケルもヒロミちゃんも口をきいていない。なにか期限が悪いのかと思えば笑顔に見えるから、そうでもないらしいし…やっぱり理解できていないのは僕だけなのかな。


「帰りはスーパーに寄るけど大きなスーパーあったわよね」


「あそこなら肉が安いんだよ。キロ単位のパックも売ってるかな」


「タケル君、わかってるわね。卵も安いといいなー」


ん?なんの話でツーカーなの?君たち。


「ねえ、僕にもわかるように教えてくれないかな。なんか取り残されているというか…」


「あー、そっか。悪かったよ。あの向こうに『(ヌシ)』がいそうなんだよ」


タケルはそう言って僕に話したことは、こうだ。


 (ヌシ)は、ほぼいると思っていい。そしてその正体はヘビだと思う。入れるポケットは1つ以上あるけど大きいものがいくつあるかはわからない。これから買いに行く肉というのは、ヌシへのお土産にする予定で、いきなり僕たちが食べられないようにするという意味もある。


「でもさ、あそこで引き返すと決めたのはもったいないような気がするんだけど、どうなの?」

という僕の質問にはヒロミちゃんが。


 運の良しあしによるけれど、あの霧のようなものはすぐになくならないと期待して一旦離脱することにしたわ。あのまま進むとちょっと危険かもしれないのと、さっき話したように肉があった方がいいと思うの。あと、地元の人に怪しまれないためにも適当なタイミングで買えることも必要なのよ。


そうだったのか。とりあえず計画的なことは理解できた。


「もうひとつ疑問なのは、あの霧みたいのは何だったの?」

二人とも知っているようだったけど、僕には理解できるものなんだろうか。

でも、なにか中二スピリットを刺激するような、そんな気配がするモノなんじゃないだろうか。


「…未知の物質?」とタケルが言えば、ヒロミちゃんも「そうよねー」と気楽に答えている。


え、そうなの?なにか知ってるような雰囲気だったじゃないか。どういうこと?


「正確にいうと、私たちも見たことがなかったモノと言えばいいかしら。名前は聞いたことがるくらいのものよ。だから、サンプルを持って行って今夜中に解析してもらうわ…ママに」


えー!そんな凄いものなの?というか、なんでタケルは知ってるんだろう。


「俺は名前も知らないよ。ちょっと危険な感じっての?予感がしたから今日は退散するつもりだったってこと。前に一度、山の奥の方で似たようなものを見かけたけど、今日のモノと同じだったかもわからないな」


そっか、危険な感じがしたのなら一時的な撤退は正解だ。でも、そのモノの名前が気になるよな。

名前ってヒロミちゃんが知っているんだっけ?


「多分だけど『気』の一種じゃないかなと思っているわ。その向こうに竜がいるとしたら、だけど。

 『気』というのは物体としての呼び名なんだけど、白くて粘り気のある液体という説もあるし、そういう分類をしておいて大きな矛盾はないと…今は思っているわ」


よくわからないけど、ヒロミちゃんの顔がちょっと赤い。


その日僕たちは鶏肉を10キロ買い込んで、明日また会うことにした。タケルは別れ際に


「竜神の絵面が悪そうなことは確定したな」


と、それでも嬉しそうに話していた。

ご覧いただきありがとうございます。

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