竜ほど蛇足な生き物はない 9
ヒロミちゃんが話した通り、右側の沢は隠れ沢だったようだ。
栗の木やアケビのような蔓も見えていたし、なにやら綺麗に整っているように見える。
農業用のビニールハウスのような安全さはないけれど、木の実をとる分には危なくないような気もする。
この沢に来る途中は大人の僕でもヒイヒイ言うような上り下りがあったけれど、ヒロミちゃんは平気だったので慣れた人間なら問題ないレベルなのだろう。
「という訳で、左の沢を目指しましょう」
元気いっぱいのヒロミちゃんに引っ張られるようにして僕たちもついていく。
旅行ツアーならヒロミちゃんはバスガイドの役目だな。
さっき見つけた倒木を並べたような橋まで戻るのが安全らしく、僕たちは沢に沿った道を戻る。
素人の僕は、どうせならひと山超えてしまえば早いんじゃないか?と思うのだけど、せっかく安全なルートがあるならばそちらを選択した方が良いらしい。そのために昔の人は苦労して道を作ったのだから、ということだった。
__
沢の左側はいくら進んでも岩場が続いていて、歩きにくい。
歩きにくいけれど、岩が多いからポケットが見つかりやすいということだ。
タケルもそこあたりが気になるのか、いつもよりキョロキョロしている。
「タケル、ポケットは見つかったりするものなのかい?」
なんとなしに聞いてみる僕に、タケルが答える。
「うん、あちこちにある。大きくはないんだけどさ、数が多いんだよ」
「タケル君、それって珍しいことなの?」
ヒロミちゃんも興味があるみたいだ。
「そうなんだよ。ポケットがる場所も、ちょっと高い…俺たちのいる街に比べて50センチくらいかな。
川が削れてそうなったのかも知れないけど…それにしても多いな。
ちょっと休憩してくれる?見ておきたいポケットもあるからさ」
そう言ってタケルはゴツゴツした岩の近くまで歩いて行き、胸の高さあたりで腕を消した。
腕を消したというよりはポケットに腕を突っ込んだのだけど、確かに普段よりも高い位置にあるようだ。
そして、腕が入るような大きさのポケットは僕もほとんど知らないはずだ。
「お、おぉ!おろろ!」
とタケルが奇妙な声を出したけれど慌てている風でもない。なにかが中にあるようだ。
タケルが腕を引き出すようにして腕が見えてくる。続いてズルズルと出てきたのは…蛇だった。
長さは40センチほどで、大きいのか小さいのかもわからない。
タケルはヘビをこちらに連れてきた。ちょっと怖かったけど、僕らから3メートルほど離れたところで立ち止まる。
「岩から1メートル弱離れたポケットにいたんだけど…高さも1メートル以上あっただろ?」
…??? 僕にはタケルが言いたいことが理解できなかった。ヒロミちゃんは理解できたようで、ニコニコしている。
「つまり、この蛇も『竜』ってことよね」
…へ?どういうこと?
「そういうこと。蛇のサイズから言えば、岩壁からも地面からもポケットに入れないだろ。
で、ポケットの中に小さな蛇がいた、ということは『2つ目のポケット』が中にあるんだろうな。
または俺たちが知らない方法でポケットが連結している可能性もある。
けど、今のところ連結したポケットは見たことがないからなぁ」
タケルの言うことをおさらいすると、この竜にしては小さな蛇はポケットが地面に近かった大昔にポケットに干渉した。そして、2つ目のポケットに入って長い時間を過ごしているうちに地面が侵食した。ポケットの外に出ないままに時間が経過したから、蛇のサイズは小さいままだ、と。
「そんなに話がうまく進むってのはおかしくないかい?
偶然チョイスしたポケットから蛇が出て来たにしろ、話が飛躍しすぎている気がするんだけど」
タケルもヒロミちゃんもニヤニヤしている。僕だけ取り残されているのかな。
「ガット君、正解です。多分ね。
私も今のタケル君の話はこじつけが大きいというか無理な論法な気がするわ。
では、なんで蛇が出て来たか…よね」
__
ヒロミちゃんの推論はこうだ。
ひとつ目。この蛇は2つ目のポケットの有無にかかわらず、別のものによって『しまわれた』蛇の可能性がある。
ふたつ目。蛇がしまわれるとしたら可能性は絞られる。廃棄物や嫌われた存在として放置される。または大切なものか食料として保管される。
みっつ目。タケルの胸の高さで介入できる生物は、クマかヒトくらいしか考えられない。
「これらから考える私の予想だけど、この近所には能力者がいます。そして、蛇は神社のご神体みたいな扱いで、見つかったら保管されているんじゃないか…と思う」
やっぱりヘビ関連の地名は順当だったということか?
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