竜ほど蛇足な生き物はない 7
数十分ほどポケット周辺を探ったけれど、これというものは見つからなかった。
大きな蛇なら移動した痕跡とかもあるかも知れないと思ったが、ひとたび雨が降ればそんなものもすぐに消えてしまうのだろう。
続いてのポイントは、最短距離の水辺、それから人里から対面側にある沢、岩肌のある斜面と森、森も落葉樹、針葉樹があれば落葉樹を優先して探してみることになっている。
まずは水辺に行ってみた。溜め池らしいが、元々の地形を利用していないはずもないような場所なので、昔はこれより規模の小さな沼だったのかも知れない。ダイちゃんが聞いてきたマタギの話だと枝から水面に降りて行ったように思えたので、水辺に近い樹々もチェックを外さない。
計画では水辺を一周しようと思っていたけれど、この水辺は人里からそう離れていないことと対岸に人工物が見えたので、ここで見つけられる確率が低いと判断したヒロミちゃんは次の候補地へと向かうことにした。
タケルも「なんか、いそうにないねー」と話していたから、そういう雰囲気ってあるんだろうな。
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次の候補地は、溜め池の人里から見て反対側にある沢、溜め池の水源のひとつなのだろう。それを上流に向かって探してみることにした。
「少し行くと、滝壺があるらしいのよ。岩肌の滝って『不動の滝』とか名前が付けられそうなんだけど…」
息を弾ませながらヒロミちゃんが説明してくれる。いわゆる若者ではないので、ピョンピョンと岩を跳ねて…という感じではないけれどフィールド探索に慣れているのか、疲れは見えない。
一方で僕はというと、普段の運動不足がたたって息が上がっている。タケルはなんとも平気そうだけど、途中の休憩では「つかれたー」と必ず言ってる。疲れているように見えないのがちょっとだけシャクだ。
「滝の名前って、どんな名前なの?」
タケルが聞くと、ヒロミちゃんがニッと笑って答えた。
「『竜落とし(タツオトシ)』だって。気になる名前よね。でももっと気になるのは滝壺の名前で、古い呼び名だって聞いたけど『ヘビツボ』って言うらしいわ。感じも当てると蛇の(滝)壺ってことよね」
おお、とても期待できそうな名前。どうやらタツオトシは明治以降の名前らしい。上流の倒木が落ちて、滝壺に刺さる様に立っていたのが竜に見えたらしいけど、竜が登っているように見えなかったというのが中二スピリットを持つものとしては看過できないな。
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ヒロミちゃん、さっき「少し」って言ったよね。30分くらい歩いて、やっと滝壺が見えたよ。それも結構な登りじゃなかったかな。僕は調査前の休憩を提案し、タケルも同意したので10分ほどの休憩となった。
目の前には滝壺、これが『ヘビツボ』か滝は2段くらいになって全部で5メートルほどの段差か。そんなので滝壺って出来るものなのだろうか?まあ、水が落ちて行って侵食すれば滝壺って出来るのかも知れないな。魚は…小さいのがいるように見えたけど、よくわからないな。きっと急流だと魚も疲れるから休みやすいんだろう。
「滝壺っていえば滝壺なんだろうけど、名所って感じじゃないな」
と、滝に対して失礼なタケル。僕もわざわざここへ観光には来ないと思うけどさ。
「この上流で沢が分岐しているみたいよ。上流が二つあるみたい。」
ヒロミちゃんが狙っているのは、滝壺と上流部分だ。この岩を登るのか…ヘルメットが必要なわけだ。
と思っていたら、脇道があってスタスタと登っていくヒロミちゃんだった。スタミナあるなあ。
「ここの周辺は探さないのかな?」とつぶやく僕に、タケルが
「雰囲気的にはスッキリしすぎているというか、視界が良すぎるような気はするな。
蛇には日陰をゴソゴソしていて欲しいもんな」
と、謎の希望コメント付きで歩き始めていた。10分の休憩が終わっていたのだった。
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上の脇道は滝の上部を見下ろすかたちで続いている。
あんまり沢に近くても安全に歩けないからなんだろう。それでも沢を見下ろせる距離で歩けているから分岐の場所ははっきりと見えていた。
「さて、右から行くか左から行くか…」
と思案中のヒロミちゃんだったが、僕たちは滝の右側を登ってきたから、右から攻める方が効率的だと提案したところ、採用されて右側から探索することとなった。
少し進んだところに、倒木を並べた程度の橋のようなものがあったから、そこまで戻れば左側にも行けそうだ。
左側のお楽しみゾーンを残しながら、僕たちは上流の目的地に向かっている。
携帯電話の電波はとっくに届かないのに、衛星情報と地図の位置はおおむね一致しているようだ。
「もうすぐ沢の幅が広がるところがあるらしいから、そこを調べてみましょう」
ヒロミちゃんの言葉に、一息つけること有難さを実感する僕だった。
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