竜ほど蛇足な生き物はない 6
コースは計画されているが、無理はしない。そのかわり確率が高い順に確認していくことになった。
コースの選定はヒロミちゃんだ。
僕たちは山登りの経験があるわけでもないし、体力に自信がある若者でもないから慎重に山を歩いていてちょうどいいくらいだ。
真冬の山に挑戦したいわけでもないし、雪解け時期の山登りで絶景を拝みたいわけでもない。
他人に迷惑をかけて救助してもらうようなことはしたくないし、見つかったら困るようなことでもある。だって竜を探してますって言ったって、ね。
能力があるといってもクマに勝てる訳もなく、多分サルの集団にも勝てないだろう。
登山ナイフは腰に、クマよけの鈴も付けて歩く姿はキノコ採りの格好だ。
実はヒロミちゃんの組織は地権者がいたらトラブルにならないように、キノコの分布を調査する名目で一帯の
地域への入山は許可を取り付けていた。マツタケなんかは生えていないそうで、乱獲でもしなければ問題ないとのことだった。
僕たちはそういう調査をしそうな格好をしているわけだ。で、僕とタケルは現地で雇ったバイトという設定。万が一ヒロミちゃんが疑われても、方言も話せるし小学校で同級生だった事実もあるから、多少のことは調べても事実しか出てこない。用意周到なのは、日本の組織っていう感じだな。
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「そろそろポケットね」
ヒロミちゃんが地図…といっても、デジタル機器の画面を見ながら教えてくれる。
GPSと地図情報がトレースされるみたいだが、車のナビみたいなものなのだろう。
地図情報が道路じゃないところでも見られるのはよくわからないし、僕たちがいる場所は携帯電話の電波が届いていないからな。地図情報とのトレースにはお金をかけているのかも知れない。
言われてみると、山道から入り込んで岩肌のようなものが目立つ。
岩肌が目立つ場所にキノコが生えているかは甚だ疑問だけれど、僕たちの最初の目的地はポケットだ。
そのポケットが近いというだけで僕はドキドキしている。タケルから聞いてはいるけれど、人間が入れる大きさのポケットを目の前にするのは初めてだからだ。
「タケル、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なにー?難しいことー?」
「いや、ポケットの中に入り込んで欲しいんだよ」
「あー、いいよー」
タケルの間延びした口調は珍しいことじゃないけど、リラックスしてるな、君。
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タケル達が話していた通り、ポケット(は僕には見えないけれど)の傍にあるという洞窟のようなものが見えた。確かに人間ひとりが入り込んで雨風をしのぐには丁度よさそうな大きさだ。人工的かというと、ちょっと僕にはわからない。ただ、人間が入り込みやすい場所にあるんだから多少の人間の手が入っていても不思議ではないという感想だな。
「ここで昼寝とかしてたのかなー」
と、タケルは相変わらずのんびりした口調だ。昼寝もするかもしれないけど、もう少しだけ大きな目的があったかも知れないぞ、タケル。
「タケル、さっきのお願いなんだけどさ」
「あー、そうだったな。忘れる前にやっとくか」
…だよね、忘れるかも知れないよね。君は。
タケルはすぐポケットがあるらしい場所に歩いていき、そのまま押し入れにでも入るような感じでモソモソと状態から消えていった。
「あ、消えた…ポケットに入ったのか」
ポケットに介入するタケルはたくさん見ていたけれど、それは小さな空間にモノを隠す程度のことだったから人が消えるような事態は、改めて見ると新鮮だ。まさにイリュージョン。
すぐにタケルは出てきたけど、公園にある遊具のトンネルを子供がくぐって出てきただけのような感覚だよな。自分が消えて見えるという感覚ではとらえていないみたいだ。
「ポケットの中はどうだった?なにか変化あった」
とタケルに聞くヒロミちゃん。竜の痕跡を丁寧に探す第一歩というところか。
「ううん、とくに何もなかった。待たせるとアレだから2つ目のポケットにも潜ってないしね」
タケルも前回の調査では1つ目のポケットの中から持ち出せるものは全部持ち出したらしい。
それこそゴミやチリもで吸着するように、サンプルを集めたみたいだ。まるで警察の鑑識だな。
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「じゃあ、念のためにポケットの下あたりから開始するわよ。なにか落ちていないかを探しましょう」
ポケットの中心点から半径3メートルくらいの円を描いて、ヒロミちゃんと一緒になにかを探す。
なにかと言っても何を探したものかわからないな。コンタクトレンズとかイメージしやすいモノなら良いんだけど。
「センセー、これ何かな?」
タケルがさっそく小さな白いものを見つけた。牙か?竜の牙?
「それは石です。タケル君」
完全に小学生の遠足状態。オッサンの僕と同い年なんだけどね、君たち。
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