竜ほど蛇足な生き物はない 3
「では、行きますか…」
タケルがボソッと呟いた。
「え、今店に着いたばかりじゃないか。」
僕はビールのグラスに口を付けたばかりだ。
「あー、違う違う。この店を出るって言う意味じゃなくてさ。
竜を探しに行こうってこと。俺は能力の実験でヒロミちゃんの付き合ったけど、竜というか『主』に会いたいとは思ってたからな…で、ガットは会いに行くか?竜に」
聞くまでもないことを聞くやつだ。もちろん行く、こんな時のために有給をため込んでいるのだ…は言いすぎだけど、工場の事務方には月の中で忙しいときとそうでないときがある。今は休みを取りやすいのだ。来週いっぱいくらいならいつでも有給を取れるだろう。
加えて言うなら、事務方が率先して有給を消化しないと技術畑の人間が休んでくれない。北国の人間というのは、ちょっと真面目過ぎるのか休みを取らないで成果を出したがる傾向にあるみたいだ。
しかも僕にとってはヌシではなくドラゴンなのだから、一生のうちに、しかもこんな近場で伝説を見られるチャンスを逃す理由はない。
「ヒロミちゃんは行く?電波が届きにくい場所にあると思うから、行くなら一緒がいいと思うけど」
田舎の山間部で通信状況の良好さを求める訳にも行かないだろうから、見つけたら呼び出し…というのは無理らしい。
「行くわよ!…というか、確認が必要かという発想が出た時点であたしのロマンを疑っているのかしら?」
ヒロミちゃんも中二スピリットを持ち合わせているのが、やはり嬉しい僕だった。
「しばらくはお弁当係ね…成果を楽しみにしているわよぉ」
と、ママも嬉しそうだ。
ママは行かないのか?と思ったがどうやらクネクネする生き物とヌメヌメした生き物だけは苦手らしい。
能力者にして天敵がナメクジの類という…
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ところで、ママの能力の話をしていなかった。
ヒロミちゃんの能力は自分を高いところまでジャンプさせることが出来るように、生き物を加速させる能力だったが、ママも生き物を加速させられるろいうことだった。
といっても、大きなものを動かせることもなくて、大きめの果物を動かせる程度だったらしい。
もともとこの町に住んではいたが、ママのお母さんの実家は裏山があるような近郊で、そこは水田の他にもリンゴ畑が連なるような緩やかな坂が沢山あったそうだ。農薬散布の直後は遊びに行けないけれど、リンゴ畑は大人の目が届く遊び場としては最高に楽しいらしい。タンポポで花飾りを作ったり、モンシロチョウやテントウムシを見つけては追いかけるような子供、少女だったそうだ。
畑は十分な広さで、リンゴ以外にもカキや梨も植えていたそうだが、子供の背丈ではなかなか手が届かない高さに果実は実る。落ちている果実はおいしくないとか大人から言われていたそうで、大人に採ってもらうのを待っているのだが、食べたいときに食べたくなるのが子供、目の前には色鮮やかな果物があるのだから手にしたくなるのは当たり前だ。
ママの目の前にはカキがたわわに実っていたが、小さな子供には手を伸ばしても届かない。大人は農作業で忙しい。休憩時間になれば1つでも2つでも採ってくれるのはわかっているのだけれど、自分でなんとかしたいと思った少女。リンゴの収穫のことを思い出していた。
リンゴというのは収穫のときに軸と呼ばれる部分が残っていないと商品になりにくいそうだ。理由はよくわからない。食べる訳でもない軸が見た目で重要なのか?
価格に影響する理由はわからないけれど、そのため、リンゴをひねる様にして収穫していくのをお婆さんに教えてもらったことがある。
そのときの少女が思って念じた言葉は「落ちろ」ではなく「回れ」だったそうで、風が吹いてブラブラしそうな実よりも狙いを定めた、大きくて色づきのいいひとつに集中した。回れ!と。
すると、少しだけカキがひねられた…ように見えた。秋ごろの畑は、いつでも風くらい吹いているので葉が揺れることはあるけれど、強めの風でもなければ丸い果実が揺れたりするようなことはないそうだ。
ひねられたカキが戻ろうとして揺れたときは、少しの驚きと「いける!」というワクワクで心が高ぶった。
同じカキをひねる、戻る。カキはクルクル回る。大人は静かに遊んでいる子供に気を回すことはない。
そのうち、カキが落ちてきた。今思えばカキの取り方としては効率的ではないのだけれど、クルクル回すことで果実を収穫できたことは大きな成長へのイニシエーションだったそうだ。
「あれが、あたしの魔法少女デビューだったのよね…」
と、照れずに言うママ。そして、その弟子であるヒロミちゃんの宝物がプラスチック製のピンク色のステッキだということは、後から知った。
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某有名RPGに夢中でペースを落としています。




