竜ほど蛇足な生き物はない 2
竜のウロコって、いったいどういうこと?
以前ダイちゃんが隣の県の山あいにいるマタギから聞いた話を連想したが、ヒロミちゃんの口から出てくるとは想像も及ばない単語だった。
「正確には竜と思われているだろう生き物のウロコってことね」
ヒロミちゃんも竜と断言したのには戸惑いがあったのだろう、少々の修正を加えてきた。
「おー、やっぱりこの地域にもいたか、竜」
比較的のんびりした口調のタケルだったが、目はイキイキとしている。
「まだ、ダイちゃんには言わない方が良いかも知れないけれど、いつかは話してもいい日が来ると思うわ。ただ、珍獣の捜索みたいなことにはしない方がいいと思うから、そこのところはお願いね」
念押しの意味なのだろう、ヒロミちゃんは僕たちにお願いしてきた。当然異論はない。
「結論から言うと、信じられない年齢を重ねた蛇なんだろうと思えるウロコが見つかったということなんだけどね。蛇の寿命って言うのは10年程度と言われていて、飼育管理したもので30年に満たないくらいというところかしら。ウロコに年輪、というよりも大きくなるとウロコも大きくなる傾向にあって、それが私たちの常識を超えた年数を生きたんじゃないかと思われる大きさのウロコだった、ということなの」
「それってダイちゃんが話していたマタギの話とほとんど合致するってことじゃない?
大きなウロコで蛇のサイズではないレベルってことだよね」
「ガット君の言う通りよ。でも、種類はそのうち明確に言えると思うけど、昔から生息していた『主』のたぐいが生きていたことは、間違いないと思う。それが今日時点の結論よ」
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世紀の大発見のように思えるけれど、こういうのって発表したりしないんだろうか。
ヒロミちゃんもタケルも学者でもないし、ポケットの中から見つかったとかいうのも大っぴらにしたくないとかあるんだろう、発表という言葉は出てこなかった。
「でもさ、なんで長生きできたんだろ。蛇自体の時間の流れが成長に影響するとは思いにくいんだけどさ」
タケルの素朴な疑問だったが、全くその通りだ。通常の寿命であればそれなりの大きさで寿命を迎えるだろう。
「ここは予測の範囲を超えないんだけど、生きていくのに最適な時期だけをポケットの外側で暮らしていたんじゃないかと思うわ。大型化というより肥大化に最適な時間だけを外界で過ごして、冬のような時期を2つ目のポケットで過ごしたとか、可能性はあるわね」
ヒロミちゃんの推論としては、生きていくのにダメージを受けにくい時間帯だけ餌を食べに出てくるということか。そして通常の寿命で死ぬことなく生きながらえた、と。
「その地域には『主』の存在というか伝説はあったのかな、それだけ大きければ人間との遭遇もあり得るわけだよね」
「実は、この地域というよりも津軽地方には大蛇の昔話があるのよ。むしろ北東北にまたがる伝説の方が有名なの。そういう点ではダイちゃんが聞いてきたマタギの話の方が伝説の中心地に近いとも言えるわね。北国に伝わる大蛇の伝説の近くには湖などの近くに現れるという傾向はあるみたい」
「ひょっとしてダイちゃんのネタって結構有名だったってこと?」
「伝説としてはね。ただ、マタギという特殊な職業とはいえ、現代に生きている人の言葉として大蛇とか龍を見たというのが貴重なことも事実よ」
そこにタケルがのんびりした口調で聞いてくる。
「で、そのウロコって何かにくっていてたの?杖とか、布切れとかくらいじゃない?くっついてそうなのって」
「想像の通りよ。布の中に数枚のウロコ…というより脱皮の欠片の状態のものが見つかったの。だから、布の持ち主が持ち込んだ可能性もあるってことね。布の鑑定はまだだけど、相当古い可能性もあるし…時代によっては大蛇がまだ生きている可能性もあるのよ」
少し興奮気味のヒロミちゃんにタケルはのんびりと「おー」と反応していた。
もう少し驚くとか、喜ぶとかしろよ。そう僕は思った。
「もし生きているとしたら、捜索みたいのはするのかな?機構とかが人を出してくるとか」
「機構が動く可能性は低いわね。年代が特定されても、昔からポケットが存在した、以上のことはわからないから。それよりは、ポケットの中に人工物があったことと修験者のような人がポケットに入れたかもしれないことの方が興味深いと思うんじゃないかしら」
ヒロミちゃんの予想だと、機構は人間の能力には興味があるが、例え竜が生きていても興味を示さないだろうという、なんとも詰まらないというか中二スピリットを持たない組織のようだった。
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