竜ほど蛇足な生き物はない 1
僕たちが焼き鳥屋を出てから「西の果て」に着くまでには5分もかからない。
この町の中心部はいまでこそシャッター街だけれど、行政の機能や商店街がコンパクトに構成されていたため、酒場を含めた飲食店のゾーンのようなものが隣接するようにしながら中心街を取り囲んでいる。
ママとヒロミちゃんはそれぞれ小さめのグラスでビールを飲んでいたようだ。
「やったー、いい匂い。ちょうどお腹が空いてたから尚更うれしー!」
と、ヒロミちゃんは上機嫌。
「あんた達は飲み物どうする?」
ママに聞かれて、ジンと肉を味わった僕たちだったが、まずはビールを一緒に飲むことにした。
同じように小さめのグラスが二つ並び、ビールが注がれる音とともにグラスがビールで満たされていく。
あらためてグラスを掲げて乾杯を促したのはヒロミちゃんだった。
なにかしら成果があったのだろうか、上機嫌に見える。
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「さぁて、なにから報告したものかしらね」
というヒロミちゃんの言葉を受けて、タケルは
「能力の相乗効果のところはガットに話したから、そこはザックリでいいかも」
と言うんだけど、それは僕が理解できていないだけの話だから。
ヒロミちゃんの説明ならもっと理解できるかもしれないのにさ。
「そうよね、あれって結構感覚的なことばかりで言葉になりにくいのよね。じゃあ今回は相乗効果らしきものはあった、でおしまいね」
ヒロミちゃんでも説明が難しいって言うなら諦めよう。ママも頷いている。
「じゃあ、ポケット…タケル君たちの言葉でいうところのポケットね。これについてはいくつかの発見があったわ」
とヒロミちゃん。顔がうっすら紅潮して見えるのはビールのせいだけじゃないみたいだ。
タケルも見つけたものは見たものの、どういう代物かまではわからないみたいなので黙って聴く姿勢だ。
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ヒロミちゃんが話してくれた内容は、おおむね次のようなものだった。
まず、ポケットが見つかったのは山の中だったけれど岩肌の近くだったこと。
場所は正確なことは言えないけれど、小さな洞窟状のスペースがあったから探せば探せるらしい。
ヒロミちゃんにポケットを見つける能力は無いけれど、タケルが片腕をポケットに入れたときには腕が消えたように見えたから驚いたそうだ。タケルのことは機構に報告するつもりはないけれど、カメラに収めているとのことだ。
次に、タケルに体感レベルでリズムを取りながらカウントすることを教えた。
念のためストップウォッチのような機能もタケルに持たせてみたものの、1つ目のポケットでもズレは生じないことはチルドレンが参加した実験でもわかっているらしく、問題の2つ目のポケットではタケルが自身でカウントているものと大差なかったことがわかった。しかし、機械が未知の空間の中でどれだけ正確に機能するかはわからないし、タケルも話していた時間のズレ方にバラつきが生じることについては全く予想が付かないレベルらしい。
タケルが100カウントして出てくるタイミング…と略して話していたけれど、実際はもう少し手間をかけてポケットの間を行き来していたとのことだ。
まず、通常の空間で30数える。それから30数えながら1つ目のポケットに入りきる。更に1つ目のポケット内で30数えて2つ目のポケットに移動するときも30数えて移動する。
いくつかの組み合わせを移動のパターンごとにを数回繰り返して、出てくるまでの時間を計測した。
タケルが途中で飽きたら休憩、コーヒーを飲んだりコンビニで買ってきたサンドイッチを食べたりして過ごしたが、時間の計測自体は単調でつまらないと言えばつまらない作業だったらしく、休憩の回数は多かったそうだ。
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「で、何回か同じパターンの測定をしてると、2つ目のポケットに入るときだけ時間がバラつくものだから、あれれってなるのよ」
ヒロミちゃんがそう言うと、タケルがクスクス笑った。やっぱりタケルの笑いは『あれれ』がツボだったようだ。
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僕は先程タケルから聞いた話について追加で質問してみた。
「ねえ、ヒロミちゃん。ポケットからは何か見つかったの?」
ヒロミちゃんは少し戸惑ったような表情を見せたけれど、こう答えた。
「まだわからないことも多いんだけど、竜のウロコが見つかったのかも知れないわ」
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