こっそり山に行ってきた、だと? 7
どこあたりが笑いのツボなのかはわからないけど、タケルはいつもより上機嫌で話を続ける。
…で、最初のポケットだけの往復で動きが性格になってきたら、はじめて2つ目のポケットに入るんだけど、入る動作の時間も一緒にしろって言われた。更にポケットの滞在時間を同じくカウントして出てくるの。例えば2つ目のポケットの中に入るで10なら10,100なら100数えて、それを何回か繰り返す。で、ヒロミちゃんはかかった時間を記録するんだよ。
10数えて出てきたときは、計測した時間はバラバラだったみたい。まあ、俺の動きだっていい加減だろうから仕方ないって言うか。ヒロミちゃんも諦めてた。次に100数えたら前よりは数値のバラつきは減るはずだってヒロミちゃんが言ってたんだよ。俺もそう思って、5回くらい?入ってから100数えて出てくるのを繰り返した。回数をこなせば動きも正確になってくるから、最初のポケットの出入りとかは前より正確になってるってヒロミちゃんも言ってたよ。
たださ、10数えたときも100数えたときも計測された時間のバラつきが、なんていうか一定になって行かないっていうか…全然バラバラだったんだよ。ヒロミちゃんもあれれ?って言ってたのがおかしくってさぁ。
…あー、タケルのツボはヒロミちゃんの『あれれ』だったのか。もういいや。
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結局、100数えたところで期待していた法則性は見つからず、250数え、500数え…と計測したけれど、かかった時間のバラつきは変わらなかったということだ。しかし、100数えたよりは500数えた方が平均すれば長い時間がかかっていたので、まるっきりバラバラという訳でもなかったらしい。
調査に時間や日数がかかったのは、タケルが帰ってくる時間が読めなかったというのが最大の要因だったとのことだ。ヒロミちゃんは外界で録画をしながら計測していたから、帰りが遅いときはコーヒーを沸かして飲んだりしていたようだ。バッテリーを交換したり、調査が夜中になっても大丈夫なようにテントとシュラフは持って行ったみたいだから風邪をひくこともなく、淡々と調査は進んだらしい。
つか、その調査って全然ワクワクしないんですけど。なんか恋愛要素でも挟んでくれよってくらい地味。
結果的にタケルは2泊9日、ヒロミちゃんは食べ物とかを買いに出かけたりして9日間過ごしたと。
しかも夜はほとんど自宅で寝てたらしい。僕的に、まったくつまらない展開だよ、それ。
ヒロミちゃんから、寒くなる前に時間を作ってもう一度ポケットの調査をするかも知れないと言われたようだ。今度はバラつきの要素を仮定して、例えば歌いながらだとか、頭になにかを思い浮かべてみたりとかのテストをするらしい。これは2つ目のポケット側よりもタケルなどの侵入者に変動の要因がないかを確認する目的のようだ。
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「そのポケットの中に、何かあった?」
僕は聞き忘れていたことを思い出して、タケルに聞いた。
「うん、あった。なんかね、折れた杖みたいなのと、布切れはあった。人は死んでなかったから安心したよ」
「記録というか、文書みたいのは見つからなかったの?」
「あった。それはヒロミちゃんが調べて、後から教えてくれることになってる」
…それが大発見というものなんじゃないか?タケルよ。ポケットの中から見つかった文書って古文書と同じじゃないか。
「あと、まだヒロミちゃんには話してないことがあって、これは『西の果て』では秘密にして欲しいんだけど…」
「ちょ、ちょっと待って。今日は僕も酔っているから、話さない方がいいんじゃないかな?」
「…そうか?ガットが一番興味がありそうな話だったんだけどな」
「うーん、興味はいつでもあるけど、その他の話題だけでも僕にはすごいことばかりだよ。
とにかく『西の果て』で僕が間違って話さないためにも、今は黙っていてくれないか」
「そうか、わかった」
タケルは残りのジンを飲み干して、携帯電話を見直した。
さっきヒロミちゃんから電話が来て約15分、お土産の焼き鳥も焼きあがったところだ。
僕らは会計を済ませて「西の果て」に向かうのだった。
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