こっそり山に行ってきた、だと? 6
神様の話は主義主張、研究も歴史的アプローチもあればスピリチュアルなものもあるだろう。対立してしまうと、これぼど厄介なものもない。大昔の、普通の人間には見えない代物だから、いくらでも想像して屁理屈をこねまわせる一面もある。僕が考えているのも、その屁理屈の部類だ。
考えるのは勝手だから許して欲しいのだけど、古い神様というのは新しくやってきた民族に支配された土着の民族の神様だったり、新しい民族がやってくると同時に一緒に輸入してきた神様だったりするのではないかと、僕は考えている。
カグツチというのは古事記でも古い神様のひとつ、神様の数え方は柱だったか。
日本で最も有名な神ともいえるアマテラスよりも先に生まれている。古いというか先に生まれているという点では、神話を編纂してきた人たちの思惑を考えると、消すに消せない古代の事情があったのではないか。
たまたまタケルには興味がなかったかも知れないけれど、西の山から北の山が共通の祭事があり、鉄に関わる神が祀られ、もしくは鉄に関わる伝説があるというのは関係があってもおかしくない。そう考えてもバチはあたらないだろう。前にヒロミちゃん達が話していた、津軽はエリアとして能力に関するポイントが広がっているというのも頷ける。
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僕の体の中のジンが中二スピリットによって駆け巡ったのか体が熱くなっている。これから先はアルコールのペースを落とすべきだな。
「タケル、その場所って中世から人が住んでいたんだよね」
「そう言われてるみたいね。一時期はインチキとか言われたみたいだけど。山伏も来てるしね、きっと」
「その点では、神話の中心地から祀る神様の名前をもらってくることは可能なわけだ。西の山ともつながりも深い…西の山と、北の山だとどっちが先に人が住んでたんだろうと思ってさ」
話はポケットのことから随分と脱線した。酔っぱらいが酒と共に勝手に話しているんだからゆるしてくれ。
「それ、ヒロミちゃんも話してたことあったよ。もし西の方に先に人が住んでいてもおかしくないけど、北の方が豪族みたいのが定着したとしてもおかしくないってことらしい。発掘してみて古いものが出たら、そっちが先なんだろうね…って程度で、順番には興味なかったみたいだけど。ヒロミちゃんなら詳しいことを話してくれるかもな」
「ヒロミちゃん、早く来ないかなあ…」
と、話した途端にタケルの携帯電話にヒロミちゃんから電話がかかってきた
「ヒロミちゃん、『西の果て』で待ってるから後から寄って欲しいって」
「そうか、焼き鳥かなにかを包んでもらって持って行くって言っておいて」
「わかった…うん、うん…『ママが、手羽の揚げたやつ2人前』だってさ」
「わかった、多めに買っていくよ、と伝えてくれ」
早速、リクエストの品と定番のいくつかをマスターに注文した。
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「…話をポケットに戻すんだけど、2つ目のポケットは見つかったんだよね」
「うん。前に見つけたのよりも出入りしやすいポケットだったよ」
「どんなことを試してたの?」
「時間の流れの差、みたいなのを計測できないかってことだね」
「そんなことできるの?前みたいな機械を使うとか?」
「いやいや、それが笑っちゃうくらいに原始的なんだよ。そこはお前に是非聞いて欲しいところ!」
なにが可笑しいのか僕には伝わらなかったけど、タケルは思い出し笑いをしながら調査の方法を話してくれた。
…最初に機械のたぐいはあてにならないという前提で測定の方法を決めたんだよ。
で、ヒロミちゃんが俺と一緒にデジタルの時計、といってもパソコンの画面にでっかく表示されたタイマーなんだけど、そこに秒の部分が大きく表示されてる時計があってさ。
一緒に、1、2、3、って数える練習から始めるの。数分どころじゃなくて、初日から30分はただただ数えるの。それで体に1秒単位のリズムを憶えさせる。で、ポケットが見つかってからも1、2、3、って数えながら動けっていうのよ。ちょっと学校の授業みたいだった…ヒロミちゃん、先生だったからかな。
で、ヒロミちゃんからも見える場所とか最初のポケットの中に場所に目印になるものを置いていて、最初の目印からスタートして、ポケットの中の目印をタッチして…その時間だけは正確に合わせて動くことから始めるのよ。体育の行進みたいだよ。俺、そういうの苦手だったからさ、結構やり直しさせられた。ヒロミちゃんも真剣だから「もう一回!」みたいになってきて、ちょっとビビった。
…ここまで聞いてて、笑いのポイントがひとつもないぞ、タケル。
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