こっそり山に行ってきた、だと? 4
焼き鳥屋のテレビではスポーツニュースが流れていた。海外に渡った日本人プレイヤーが記録を出したとか。スーパースターの活躍を報じるキャスターの声も明るく聞こえる。
「こんな人たちの中にも能力を使っている人もいるのかな…」
僕はなんの気なしに呟いた。タケルは合わせるかのように
「能力があってもイカサマとバレる使い方はしねえだろ」
と呟いた。特に科学的な測定が当たり前の時代に、あり得ない変化球を駆使したらすぐ疑われる、と。
実はいつも話している挨拶のようなもので、スーパースターの活躍をみると口癖のように呟いている僕だった。ゲームの勝率や連続出場なんかよりも魔球や必殺技を期待するオタクならではの戯れ言だ。
「タケルは魔球みたいなもの、やろうとしなかったの?」
「うん、ミニカーだけ。みんなにバレるのはなんか違うと思ってたから」
そうなのだ。タケルはバレないように過ごしていたんだ。
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「あのさ、能力が伸びる人間ってコンプレックスが大きいとか言ってたよね、以前。タケルはどんなコンプレックスがあったの?」
「まず背が小さいことかな。同じ小学1年生なら俺もヒロミちゃんも早生まれだから比較的小さいのは仕方ないけど、子供のときって同じクラスで体力的に劣ったらやっぱり負けたような気分になるしさ。さらに2年生になったときに、俺より大きな1年生が入学してくるとさ…コンプレックスなんて単語も知らなくてもね…後から思えばこういう感情だったのかなって。そんな気持ちになったよ」
「でもさ、ミニカーとはいえ能力があったのを友達に自慢しようとは思わなかった?」
「思ったけど、周りの反応が薄かったから諦めた。ミニカーを操るのが上手い子供って地味だろ。
英語が話せても挨拶や日常会話が話せる子供がいるとして、田舎町でどれだけ役に立つか疑問だろ?
そのうち、能力って他人に見せちゃいけないらしいのもわかってくるしさ。
俺が能力を他人に見せなくなったのは結構遅くて、ヒロミちゃんが自分の能力…その時は能力かどうかわからなかったけど俺と似たような特技を秘密にしているって聞いてからだ。ヒロミちゃんが秘密にしているなら俺も秘密にしようってくらいの気持ちだったけど」
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ジンで酔いが早まったのか、いつもよりは饒舌なタケルだ。
「お前と一緒に実験したことあったよな。学校の図書館だったか市立図書館だったか、ヒーローものの本の棚にあった『超能力入門』…ほぼできなかったもんな。
あと必殺ビームとかなんとかドリルとか。あそこで5~6種類でも出来たらクラスの人気者、くらいに思ってただろうけど。2つやそこらじゃ意味ないと思って秘密にしたんだよ。結果的に秘密にして良かったよ」
その通りだ。ひょっとしたら世間が騒いで、偽モノ扱いされていたらタケルは傷ついて引きこもっていたと思う。タケルは傷つくとすぐに下を向いていたから、その傷つきやすさはクラスの全員が感じていたと思う。それもコンプレックスに影響したかは知らないけれど、余計な悪口をタケルに言う奴はいなかった。今思えば平和なクラスだったのかも知れない。
「僕たちのクラスって、競争意識が少なかったかもね」
「たしかにギスギスした空気はなかったよな。話し合いで解決しようってのが多かったな。そのおかげで変な追及というか吊し上げもなかったんだろう。俺みたいに背の小さかったやつもビクビクしないで済んだ…ありがたかったよ」
いじめられっ子ということではなかったけれど、守らなきゃいけないタイプの男子、それがタケルだった。今となってはそんな面影はないのだから不思議なものだ。
あの頃は女子が『タケル君、タケル君』と話しかけていたよな。成人してからも僕とタケルが街で二人歩いていると同級生の女子から声をかけられていたけど、タケルだけが声を掛けられていたよな、それも人柄なのか?母性本能という単語が頭をよぎる。
「今急に思い出したんだけど、修学旅行でタケルの両側に女子が付いていたじゃない?あれってなんでなの?」
「…あれね。先生が二人に『タケル君の両側にいて、フラフラ歩いていなくなるのを抑えて』って言ってたんだって。俺ってそんなに落ち着かないガキだったんだろうな。その二人って俺たちが中学校に入ってからも時々『タケル、ちゃんとしてる?』って声掛けてきた。お前ら俺のお袋かよ…って思ってたら、お袋からも頼まれてたみたい」
…君はちょっとだけ手のかかる子供だったんだね、タケル。
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