こっそり山に行ってきた、だと? 3
「ポケットも見つかったのかい?」
タケルが2杯目を作っている間に、僕は質問してみた。
「まあな。順番に話していくんだけど、今まで話してたような場所ってのは日本中にあるんだって。津軽だけが特別ってことじゃないんだ。けど人が住みやすい場所とは言い難いからさ、それでも昔の人が山に住んでいた理由にはいろいろあったんだろうな、くらいは前提として覚えておいてくれたらいいかも」
「農耕が進んでも山に住む理由か。考えたことなかったな」
2杯目のグラスを僕の前に置いてくれたタケルが話を続けてくれる。
…今回の目的はポケットを探すこと、それも俺が入れるくらいの2つ目のポケットがあればベスト。
前に見つけたポケットは割と人が住んでいるところに近かったから、目立たないところに俺が入っていける大きさのポケットがないかを探すことだった。
2番目は『能力の相乗効果を出しやすい場所があるのか』を確認することなんだ。
先に能力の相乗効果のことを話すと、能力ってのはどういう理屈かわからないけど同じ能力を使う人間が同時に作用させるとそれぞれの力を足したのよりも大きな力が出るっていうケースが確認されてるんだって。
実際のところは計測する機械があるわけでもないし、仮に測定できても精度が悪いってんで、まあそういうことがあるんでしょうね、くらいのレベルでしか知られていないんだって。
で、まずは実験室レベル。平地でポケットが少なそうなところで俺とヒロミちゃんが、それぞれ得意なものを動かしてみる。俺は金属で、ヒロミちゃんは生き物。ふつうは得意な分野…金属なら金属を動かすのが得意なチルドレンを2人以上で実験しているみたい。
別の得意分野で実験するケースは少ないらしいけど、ほら、俺が幼稚園のときに津波が来て、リボンに向かって動けって念じてた話、憶えてるだろ?あれについての実験みたい。リボンって金属でもないし、その時に能力に目覚めた子供が俺やヒロミちゃん以外にいたのかな…その確認なんだって。
生き物はカメだった。なんでカメかってのはよくわからないけど、俺が思うに体重が測りやすくてあまり変わらないしチョコチョコ動かなくて鳴かなくて…とかじゃないかな。色んなサイズがあるから重量のクラスも選べるし、持ち運びに便利ってのもありそうだったよ。あとは浦島太郎の話とかに夢を抱いている学者とかいそうだよな。
金属は重さの決まった何種類かの重りがあって、これもチルドレンの実験から動かしやすい金属と動かしにくい金属ってのがわかってきているみたいだった。色とかで区別がつかないように、見た目を加工してた。
それが入った箱をブランコみたいなのに乗せて揺らしていくの。揺れの幅とかスピードっての?どこで加速されたかを計測するんだって。高そうだったから俺は触らなかったよ。まあ実験中は触っちゃダメなんだろうけどね。
金属と生き物の比較結果は、そのときは金属が強めに相乗効果が出たってヒロミちゃんは言ってたよ。ということは、ヒロミちゃんも金属を動かせる可能性があるってことで喜んでたな。
その後にポケットの近くで実験したんだけど、その時はおれも生き物に作用出来るようになってて、相乗効果的には金属と同じくらいの結果が出たらしい。つーことは俺もポケットの近くなら生き物を動かせるかもってことで、これが最初の面白かったことだな。
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僕は小学生のころから理科の実験とかも苦手だったけど、中二スピリットは膨らむ内容だった。
ポケットそのものが能力の相乗効果に関係しているとして、それがポケットからの距離なのか、それともポケットのサイズに関係しているかはこれからチルドレンの協力を得ながらデータを取る計画を作成するらしい。
ちょうど揚げ物が出来上がった。ゆっくり話を聞くことにして、僕とタケルは好物の揚げ物にそれぞれ手を伸ばしたのだった。
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