こっそり山に行ってきた、だと? 2
「それはヒロミちゃんの仕事とかに支障ないこと?」
ヒロミちゃんの仕事はチルドレンと呼ばれる、大災害ときに各地で確認された通常とは異なる能力を持った子供たちの教官と、関連して能力の発動に関わる諸々についての調査官だという。
僕たちに詳細は教えてもらえていないけれど、上司の了解を得て僕たちが知っている情報を共有することで、能力のない僕でもある程度の情報を知ることが出来ている。
小学3年生のときに僕やタケルのクラスに転校してきた美少女で、その可愛らしさは大人になっても健在だ。
「そこは大丈夫。どちらかというとヒロミちゃんの仮説を証明するような実験に俺が付き合っているようなもんだから。
俺で仮説の実験をして、確信が持てたら改めてチルドレンの参加でいちから検証すると言ってた。
俺が出来ることなんて限られてるだろうし、なにより今回は面白そうだったからさ。」
僕とタケルはジンのソーダ割りを口に含んで焼き鳥が出来るのを待つ。お通しの枝豆はしばし我慢だ。酒もつまみもひと口目こそが大切だ…いや、そんなにこだわってはいない。そんな気分な日というだけだ。
少ししたら、僕が来る前にタケルが注文しておいた焼き鳥が目の前に並んだので二人とも串を手にもって食べ始める。串から外して食べるのは焼き鳥の魅力が減るような気がするのは僕がオッサンの証拠なのかもしれないけれど、串で焼いたものを串で食べられる魅力はタケルも共感してくれる。
「ところで、ヒロミちゃんは来るの?」
「今日は遅れてくるとか言ってたよ。ママに簡単な報告をするって言ってた」
ママというのは僕たちが「西の果て」と訳しているスナックのママのことで、ヒロミちゃんの上司で支部長でもある。まるでスパイが出てきそうだけれど、そこまで怖ろしい組織ではないと聞いている。
能力というあいまいな存在について懐疑的な人間…既知の科学だけを信じる人がいて、彼らの手前もあって調査の予算などを取りにくいからという理由で機密費のようなもので活動しているのは想像に難くない。
「で、わかったことって言ってたっけ?」
「うん。俺とヒロミちゃんで出来ることも限られていたけど、小学生の実験みたいなもので…」
アツアツの焼き鳥にちょっと苦戦していたタケルは、ジンソーダ割りをひと口飲んでから話し始めた。
…今回は、この町から北の方にある山に向かったのよ。もともと龍脈ってこの町というよりは西側の山から北側に伸びていて、その延長上にある山もまた霊場だったりするからさ。
西側の山には毎年旧暦の8月1日に山に登るイベントがあるんだけど、北にある山でも同じ日にイベントがあって、昔はこの町あたりは北の山のイベントに参加していたんだって。
イベントっていうのは収穫祭みたいなものらしい。八月一日って書いて「ほづみ」って読む苗字もあるんだってさ。 これ、全部ヒロミちゃんからの受け売りね。
なんでこのタイミングかって言うと、そのイベントの後に人出が落ち着いてから出かける計画だったんだそうだ。まあ真冬は寒いし、そんな季節に出向いたら怪しまれるしな。
それと、山頂から北西の方向に神社があって、反対方向の南東には山岳信仰ってのかなそういう神社と昔のお城の跡があるんだって。お城っていっても桜で有名なお城とかじゃなくてさ、山城っていうのかなお屋敷みたいのがあったみたい。これがほぼ一直線だっていうのでヒロミちゃんたちも目を付けていたみたい。
昔から人がいて、山伏が修行していた可能性があって、霊場のような信仰の対象があるのは調査対象としては狙い目のひとつらしい。チルドレンの調査は太平洋側がメインだから、こっちには手が回らないのも実情みたいだけどな。
俺も大災害の前に一度、津軽で観音様を祀っているところが数十箇所あるから3日ほどかけて見て回ったことがあるんだ。雰囲気的には大きめのポケットがありそうなところも多かったんだよね。大きめのポケットがありそうだなと思えたところは、前から話していた通りなんだけど大体は山のそばだった。
で、ヒロミちゃんが目を付けた場所も共通点があったから、話が来たときに興味があって同行したってわけ。この季節、仕事もヒマだからってのもある。お前は勤務があるから、後から話そうってことにしたんだよ。
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…ちょうどタケルと僕のグラスが空になった。タケルが二人のグラスに氷を足してジンを注ぎ、ゆっくりソーダを注いでいく。僕は人気の揚げ物を注文した。
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