バイトやらないか? 2
イカサマ、ばれないの?
隣の市へはバスで出かけた。列車でも良かったのだけど、バスの方が人目にさらされないとか、そういうビビりの心理が働いていたからだ。列車なら50分、バスなら80分。列車にしておけば良かった。
パチンコ屋に着いた。タケルと僕は最初は並んで玉を打つ。ハンドルを回せば玉は出てくるから、どこあたりを狙えばいいか、タケルが僕に教えてくれた。
僕は肩の力が抜けないまま玉を打っている。どんどん玉が無くなっていくのが不安だった。
タケルはときどき僕の台を見ては自分の台でも玉を打つ。
店員はやる気がないのか滅多に歩いてこない。僕らがやっている機種というのはルーレット数字が揃うと一定の出玉が確確保できて、その数字をそろえるためには玉を入賞穴というところに入れなければならない。あ、僕の背後で数字が揃ったような音がした。店員が近づいてきて、プラスチックの箱を客に渡してカウンターに帰っていった。そういうシステムなんだな。
タケルもそれを確認したかったらしい。僕に小さな声で「そろそろ始めるか…」と言った。
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なにが始まるのか全然わからなかったが、僕の打った球が入賞して数字のルーレットが回り続けた。
回り続けるというのが異常なのかわからないけれど、他の客は大当たりさえしなければ興味はないみたいで、それぞれ自分の台しか見ていない。タケルの台もルーレットが回り続けている。
そのうちタケルの台が大当たりしたみたいで、派手な音がした。周りの客がタケルをの方に視線を送るがすぐに自分の台に視線を戻す。店員がやって来てプラスチックの箱を置いていく。溜まっていく玉を箱に移すタケル。こっそりタケルの玉を僕の方に回してくれている、これって禁止じゃないの?でも店員も来てないし、なにもわからない僕はドキドキして玉を打っていた。
さほど時間差もなく僕にも大当たりが来た。店員が箱を持ってやってきた。タケルは大当たりが続く、連チャンという当たり方をしたらしく、パチンコ玉でいっぱいの箱が更に増えていく。
僕は他の客に目を付けられないか心配だったが、他の台でもっと大当たりしているため、僕たちが目立って注目されることはない。大きめの店を選択したのはその点で正解だったんだな。
ただ、隣の台同士で当たっているところはなかったからか、店員も僕たちの後ろを通る回数が増えた気がする。
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夕方になって僕たちはパチンコ屋の景品交換所というところにいって換金をしたのだけど、僕たち高校生が夏休み中バイトしてもらえるくらいのお金を手にした。 帰りは列車に乗った。出発前に駅前の喫茶店でタケルからナポリタンをおごってもらった。
「金は俺たちの駅についてから渡すよ」
と、タケルが話す。まだこの町ではパチンコの話をするなってことだろう。
僕はナポリタンを食べながら、いくつかの疑問を抱えていた。
なぜ勝てたのか、元手はどうしたのか、タケルはパチンコ屋に入り浸っているのか…高校生の疑問ってこんなもんだ。タケルは僕の疑問くらい想像がついたのだろう。この店では一言だけ。
「帰ってから話すから」
僕たちの町についた。行きつけというわけじゃないけどデパートの裏通りにある喫茶店に入る。
僕はコーヒーの味はよくわからないけれど、味には定評があるみたいでいつでも客がいるようだ。
「まあ、順番に話すよ」
タケルは砂糖をシュガースプーンで1杯、コーヒーに入れながら口を開いた。
…今日行った店は初めてで、この町の店じゃなくて駅前あたりだったらどこでも良かったんだ。かといって客数が少ないのはまずい。
で、元手の金はこの町のパチンコで稼いだ。この町で目立つのは嫌だから、ちょっとだけ稼いで元手を作ったってことだ。
なんで勝てたか?だよな。それはパチンコってのは確率の商売らしくて、当たりを引くまで打ち続ければ当たるというものらしい。だから1人よりは2人で出かけた方が当たる確率は2倍ってことだよ。それでも外れることもあるだろうけどさ。
ただ、俺が当たり始めた頃にお前のも当たり始めたのには理由があって、入賞ってあるじゃん。あそこに多めに玉が入るようにしたんだ。お前も知っているやり方で玉を動かして入りやすくした。
2人で行ったのにはもうひとつわけがあって、1人が当たっていてももう1人が外れているうちは不自然じゃないからね。俺もどっちかが当たっている台の方は見ていなくても良いから、もう1人は欲しかったんだよ。
…淡々と話しているけど、それってイカサマじゃない?
そう思って飲むコーヒーの味は少し苦かった。
ご覧いただきありがとうございます。
まあ、バレなかったんでしょうね。




