バイトやらないか? 1
僕のバイト…というか
僕とタケルは僕が中学に入るまで同じ町内に住んでいた。
中学になって僕の父親が家を建てたので別の町内に引っ越した。
それまでずっと一緒に遊んでいたけれど、中学に入れば部活動に入ったりして下校時間も違ったりする。
他の小学校から上がってきたのと友達になったりして、なんとなく疎遠になる奴も増えるのだ。
タケルは部活はなんだったかな、僕は運動が苦手だったのもあって美術部に入った。
タケルと僕が再度しょっちゅう会うようになったのは、中学3年になってからだった。地元の普通高校で、ちゃんと勉強すれば田舎の国立大学くらいなら進学出来そうなところが1校あった。
僕もタケルも合格ラインだったものの確実というレベルじゃなかったという理由で進学塾に通い始めたのがきっかけだった。
週に2回、その塾で同じくらいの成績でスタートして、同じくらい勉強して、同じくらいの順位にアップした。帰りには田舎町に出来たばかりのコンビニで買い食いして途中まで一緒に帰った。
そして僕たちは同じ高校に合格し、部活動は僕の誘いもあってタケルも美術部に入った。顧問の先生も美術の先生じゃなかったし、みんな熱心というわけでもなかったから気楽な部活動で3年過ごした。
一度タケルに、なんでこの高校に進学しようとしたのか聞いたら「歩いて通えるから」というものだった。僕も似たようなもので、バスや列車(電車じゃない)に遅刻しないという自信がなかったからだ。高校2年までは特にどこの大学を目指すということも考えてなかった。ダメなら地元の国立大学に進学すればいいだろう…くらいの成績は確保していたし。
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9月も半ばになると夜は涼しい。僕がタケルと待ち合わせたのは焼き鳥屋だった。看板は店の前に大きく1文字「串」と書いている。店の名前は違うのだけど、看板のインパクトから僕たちは「串」と呼んでいる。
今夜は日本酒や焼き鳥の気分だったので、僕がタケルを誘った。待ち合わせは夜8時、僕は時間よりちょっと早めに、タケルは少し遅れるといった通り30分ほど遅れてやって来た。
タケルも僕も酒が絡む待ち合わせ時刻には真面目なのだ。この店はテーブル席もあるがタケルと飲むときはカウンターで飲んでいることが多い。カウンター席はL字になっていて、全部で7席くらい。カウンターが埋まることはあまりなくて、その前にテーブル席が埋まる。
僕は先に日本酒で焼き鳥を食べていた。この店は手羽先が旨い。手羽先に味加減とかがあるとは思えないが焼き加減が良いんだと思っている。なので僕はいつも手羽先を注文する。タケルは野菜を豚バラで巻いた奴が好きだったな。まずは日本酒で乾杯だ。
テレビから「夏休みも終わって半月が過ぎます…」とアナウンサーの声が聞こえてきた。僕の頭にタケルが誘ってきたアルバイトのことが蘇った。
「タケル、高校のとき僕を誘ったよね、『バイトやらないか?』って」
「おー、やったやった。思い出したよ、懐かしいねー」
「あれ、今でも不思議なんだけどさ」
「そう?思ったより稼いだ以外は不思議なこともないぜ」
そう言って、タケルは熱々の焼き鳥を口にした。
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高校3年の夏だった。部活といっても走るわけでもないし、エアコンもない教室でタケルが僕に声をかけてきた「バイトしない?」
小遣いに困っていたわけでもないし、それなりに受験勉強もしていたのでアルバイトには興味がなかったけど、タケルが声をかけて来たのには気持ちが動いた。タケルの実家はこの町で商売をしているけどアルバイトが必要な感じの職種じゃないし、少なくともタケルが手伝えば済むだろう。
「バイトってどこに行くの?」
「パチンコ屋」
「玉持つのとか重くない?俺たち体力ないし」
「いや、客として行くんだよ」
「どういうこと?パチンコって勝つかもしれないけど負けもするじゃないか」
「元手は俺が出すから、とりあえず1日付き合って欲しいんだけど、だめ?」
…パチンコ屋って、子供のころに親父に連れられて行ったことあるけどそれっきりだし。そもそも高校生がバレないか心配だ。でも、興味だけはある。
「どこでやるの?」
「隣の市の駅前の大きな店。そこならここらへんの大人はいないしさ。休みにスケッチ旅行とか言っておいて出かけよう」
今考えると雑なプランなのだけど、僕たちには「走って逃げる」という手段があると信じていたから軽い気持ちでOKした。
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バイトではなかったみたい




